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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第1014話:VS.【真我】アートマン⑥/神が生まれ、人に落ちる日


「ウォォォ……アートマンッッ!!」

「さぁ、もっとあなたの可能性を観せてください!」



 ――――空中で俺とアートマンは左腕と右腕をぶつけ合って激突した。アートマンは心なしか高揚しているように見える。

 結界魔法で一時だけだが感覚が封じられていたせいか、今の俺の感覚は鋭利に研ぎ澄まされている。今ならアートマンの鼓動の音までも聴こえる。



「ふっ……!!」

「――――ッ!」



 組み合って最初に仕掛けたのはアートマンの方だった。アートマンは自由に動かせる左手に魔力を集束させ砲撃の体勢を整えた。

 そのままアートマンは左手を俺の腹部に向けている。魔力を俺の腹部に向けて撃ち出すつもりなのだろう。



「――――ハァ!!」

「この……喰らうかっての!」



 アートマンが撃ち出した魔力砲を俺は右膝を突き上げて防いだ。膝を覆う装甲アーマーで魔力砲を蹴り上げて弾いたのだ。



「――――おぉっ!」



 お互いに上体を反らして蹴り上げられた魔力砲を躱す。打ち上げられた魔力砲はそのまま上空十数メートルまで飛んでいって爆発した。

 アートマンは驚いた表情をしている、ここでも心なしか嬉しそうだ。明らかにアートマンはこの戦闘を楽しみだしている。



「よそ見してる場合じゃねぇぞ!」



 アートマンが魔力砲を躱す一瞬の隙をついて俺は反撃に打ってでた。振り上げた右脚をアートマンに向けて渾身の蹴りを放ったのだ。

 もちろん、ただの蹴りではない。踵から衝撃波が出るように装着された推進器スラスターを噴射しながらの蹴りだ。



「これは……くっ!?」



 蹴りに気が付いたアートマンは後方に下がって蹴りを躱そうとしたが、踵から噴射された衝撃波に直撃していた。

 辛うじて腕で衝撃波を防いで防御こそしていたが、衝撃波を受けたアートマンは僅かに吹き飛ばされて硬直していた。



「伸びろ……“光量子展開(アイン)射出式超電磁左腕部(シュタイナー)”!!」

「これは……義手のアーティファクトですか!」



 その隙を突いて俺は左腕をアートマンに向けて分離射出、そのままアートマンが防御の為に構えていた左腕を掴み込んだ。



「このまま湖面に叩き付けてやる!!」

「身体が引っ張られて……おぉッ!?」



 アートマンの左腕を掴んだまま、俺は真下に広がる湖面に向かって急降下を始めた。アートマンは抵抗しようとしたが、不意を突かれたせいか呆気なく引き寄せられ始めた。

 そのまま俺は翼から魔力を噴射しながら湖面に向かって加速していく。そして、湖面に着地すると同時に全力で水面に向けって叩き付けようと左腕を振り抜いた。



「その攻撃……ただでは喰らいませんよ……!」



 しかし、アートマンもただ水面に叩き付けられる事を良しとはしなかった。アートマンは落下位置を調整し、俺のすぐ間近に落ちるようにしていた。

 アートマンは頭を逆さまに向けながら、右脚に魔力を集束させて蹴りの体勢に入っていた。反撃には気が付いたが遅かった、躱す為の回避動作が間に合わない。



 そして、アートマンが落下すると同時に――――


「これでも喰らいなさい!」

「テメェ……ぐあッ!?」


 ――――俺は首を蹴られて吹き飛んだ。



 アートマンは水面に頭から落下して水飛沫をあげながら、俺はくちから血を吐き出しながら吹き飛ばされた。

 お互いに水面に身体を打ち付けながら倒れた。そして、息を荒々しく乱しながらゆっくりと起き上がる。



「ハァ……ハァ……ハァ……!」

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……!」



 アートマンはよろよろと、俺は激痛の走る首を手で抑えながら、立ち上がってお互いに相手を見つめた。

 アートマンは笑っている。息は乱れて余裕は無さそうだが、どこか楽しそうにしている。それが俺も心なしか喜ばしく思えた。



「はぁ〜〜……なかなかどうしてでしょう? あなたとこうして殴り合うのが楽しくなってきました。いけません、こんな野蛮な行為を楽しむなど……」


「そうか……楽しんでも良いじゃねぇか」


「あなたに殴られる度に……わたしの“神性”が砕けていく。代わりに今までの自分が持ち合わせていなかった何かが湧いてでてくる……その未知数の変化が堪らなく楽しいのです」



 アートマンは俺との戦いの中で変化を見せ始めていた。嬉々とした感情を表に出すようになり、俺との殴り合いという野蛮な行為に何かを見出そうとしていた。

 けれど、アートマン自身は変わりゆく自身に戸惑いも感じていた。だから感じている不安を素直にくちに出してしまったのだろう。



「わたしは興味がある……あなたに敗北したわたしが、果たして“何者”になるのかを。完璧な“神”では無くなる……ならば、わたしは何になるのでしょうか?」


「決まってんだろ……“不完全な人間”になるんだ!」


「…………っ! そうですか……それは思ってもみませんでした。わたしにも……人間になる可能性があると言うのですね? しかし、それは我が母の設計とは……」


「そもそもあんたは“現人神”なんだろ?」


「ええ、たしかに……わたしは“神”にして“人間ひと”です。その両者の完成形として設計されました。そうか……なら、神として生まれたわたしも、ただの人間に落ちていく事も道理か……」



 だから俺は答えた、アートマンは“神”から“人間”になりつつあると。その答えを聞いたアートマンは興味深そうに頷くと、期待と不安が混じり合った複雑な表情をしていた。



「あなたの言葉が真実なら……あなたはたしかに、わたしという『完璧』の先に新たな可能性を提示した事になる。だからわたしは高揚しているのですね……」


「そりゃ良かった……喧嘩した甲斐があるぜ」


「あなたとの戦いは楽しい、もっと堪能していたい……その為には、今のわたしのままでは駄目です。もっと変化しないと……不完全である事を認めれる人間にならねば……」


「なら……徹底的な挫折でも味わいな」


「あなたに敗北して……ですか? それは愉快な提案だ……実に興味深い。しかし、わたしも無抵抗で倒される趣味はない……実力で倒してみせるのですね」



 そして、俺との問答の中で何か答えを見出したのだろうか、アートマンは不敵な笑みを見せて俺に期待の眼差しを向けた。

 ボロボロになった法衣の上半身部分を破り捨て、男女の区別もつかない美しい裸体を晒しながら、くちに付着した血を指で拭ってアートマンは笑みを浮かべた。



「わたしに備わった無数の【加護】……それをノア=ラストアークさんの援護で相殺し、あなたはわたしと対等に渡り合った。しかし、それもそろそろ限界でしょう?」


「ちっ……ああ、その通りだよ……」


「あなた達の健闘を称え、その不完全さを称賛し……わたしはここに正々堂々、雌雄を決する事を宣言する。わたしの全力を込めた一撃で……あなたを倒します!」


「アートマン……お前……!」


「だからラムダ=エンシェントさん……あなたの全てを込めた一撃をわたしにぶつけなさい! お互いの全力をぶつけ合い、最後まで立っていた方の勝ちです!」



 アートマンは俺に最後の一騎打ちを提案してきた。俺がアートマンの加護を打ち消す術式をノアの付与で積みすぎて限界が近いことを見抜いていたのだろう。

 アートマンは右腕にありったけの魔力を注ぎ始めた。集束する魔力だけでその場に暴風が起きるレベルだ。その一撃を最後の必殺技にするつもりらしい。



「我が王よ……ヴェーダさんと共にお下がりを。私はアートマンの挑発に乗ります……どうなるか分かりませんので、念のために距離をとってください」


「我が騎士……分かりました。あとは任せます」


「戻って来い……“神殺しの魔剣(ラグナロク)”。そして我がかいなに融合し……神を殺すちからを我に与えよ!」



 そのアートマンの挑発に乗ることにした。俺は近くの水面に沈んでいた魔剣を念動力で手繰り寄せ、魔剣を自分の左腕に融合し始めた。

 左腕のアーティファクトが無数の液状の金属触手に変形し、魔剣を取り込んでいく。魔剣はあっという間に左腕に取り込まれ、同時に左腕は黒く禍々しい風貌に変化した。



「待たせたな、アートマン……こいつが俺の奥の手だ。これでテメェという“神”を殺す……せいぜい死ぬなよ? ちょっとばかりいてぇからな」


「わたしという“神”を殺し、その後に残るのは?」


「…………新しいアートマンだ。さぁ、構えな! お前を倒して、俺たちは人間の“可能性”を証明する!! 刮目しろ、アートマン! 不完全な人間の底力ってやつをなァ!!」



 左腕は真っ黒に変色し、至る所から金色こんじきの焔を噴き出している。その異形の左腕を見て、アートマンは心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 そして、俺が発破を掛けたと同時に、俺もアートマンも相手に向かって走り出した。その様子を教皇ヴェーダとノアが祈りながら見守っている。



「「ウォォォオオオオオオオオオッッ!!」」



 互いに笑みを浮かべながら、水面を一歩いっぽ力強く踏んで水飛沫を上げながら走っていく。僅か数メートルの距離なのに、走る時間が無限に感じられた。


 これはお互いの信念を賭けた一撃だ。

 俺が勝つか、アートマンが勝つかの。


 アートマンは俺に求めている、人間の持つ可能性を。そして、アートマン自身の新たな可能性を。それを見せる為に、俺は()()()()()()()()拳を強く握りしめた。



 そして、最後の一歩を踏みしめて、全力で最後の一撃を打ち出して――――


「「これで……終わりだァァ!!」」


 ――――腕を交差させながら、俺とアートマンはお互いの顔面を殴り合ったのだった。

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