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第104話:希望の光


「おー! ラムダお兄ちゃん、こんな時間に何しているのだ!?」

「夜明けを見に来たんだよ、アウラ」

「おーっ/// あたしとお揃いなのだ/// 運命を感じちゃうのだ///」



 逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】の外、小さな小さな丘の上――――アウラが『夜明け』を観るためのお気に入りの場所。


 小さな巫女の少女は今日もまた、()()()()()()()『夜明け』を心待ちに朝日がよく見える場所で跳ねていた。



「お兄ちゃん……浮かない顔をしているのだ……? 何かあったのか?」

「アウラ…………俺はね、『明日』が怖いんだ……」

「明日が……怖い……?」



 さっきまでのオリビアとの出来事で、俺は自身の中にくすぶる“恐怖”を自覚してしまった。


 怖いんだ――――また、アウラとの“絆”が失われる事も、俺は恐れていた。


 だから、明日が怖い。



「あたしに話せる悩みか?」

「多分……」

「なら、その悩み……この“時紡ぎの巫女”アウラ=アウリオンが聞いてやるのだ!」



 そんな俺の悩みを聞くと胸を張って笑って見せるアウラ。あぁ、どうしよう……俺は、きっと君も愛おしく想ってしまうのだろう。


 それでも、俺は君を救いたい……だから、俺を救ってほしい。


 ふたりで夜明け前の星を眺めながら、俺はアウラに自身の中に巣食った『恐怖』を語った。


 自身の根底に根付いた『喪失への恐怖』、その恐怖からくる『執着心と独占欲』、そしてその欲望から派生した『女性への好意』の全てを。



「ただの女好きのクズなのだ……」

「うぐッ!? バッサリ斬られた……!」



 アウラの率直な評価は『ラムダ=エンシェントは女好きのクズ』――――まぁ、そうなるよな。



「それで、嫌われるのが怖くて、居なくなるのが怖くて、明日になるのが怖いのか?」

「あぁ、そうだよ…………俺は、怖いんだ……」

「はぁ~、呆れたのだ……! そんなの、簡単に解決できる悩みなのだ!」

「…………えっ!?」



 けれど、アウラは俺を『ただのクズ』だと斬り捨てる事はしなかった。迷える子羊を導く聖女のようにエルフの巫女は言葉を紡ぎ続ける。


 まだ、あって間もない俺を導くために。



「死なせたくないならずっと護れば良いのだ! 嫌われたくないならずっと好きだと思ってもらうようにすれば良いのだ!」

「そんな簡単に……」

「難しいことなのだ! でも、やるのだ! そうじゃなきゃ……あなたは何も護れないよ?」

「アウラ……」

「覚悟を決めるのだ! 惚れた女を全員、物にしたいなら、それ相応の“誠意”を見せるのだ! それが出来ないなら、お兄ちゃんを愛してくれる人は……いつか全員居なくなるだけなのだ……!」



 誠意を見せろ……それがアウラの答え。

 

 でも、誠意とは何だろうか?


 裕福な資産を持って養う事か、子宝に恵まれて暖かな家庭を築く事か、ただ女性を愛してあげれば良い事か……何が正解か分からない。



「人の『幸せ』なんて、その人それぞれによって違うのだ……! だから、お兄ちゃんは惚れた女のそれぞれが思い描く別々の『幸せ』の形を……叶えなくちゃいけないのだ!」

「うぅ……難しい……」

「当たり前なのだ! それが出来ないならお兄ちゃんは『ただのクズ』、それが出来たらお兄ちゃんは……きっと『素敵な男』になれるのだ……!」



 ノアは俺に『所有される』事を望み、オリビアは俺に『愛してもらう』事を望んだ。


 ミリアリアにも、コレットにも、リリィにも、レティシアにも……きっと、望む『幸せ』があるのだろう。



「みんなを自分の女にしたいなら……精々、みんなを『幸せ』にするのだな!」

「そっか……」

「にゅふふふ! あたしってば迷える子羊を救ってしまったのだ! いや~、出来るエルフは辛いのだ〜♪」



 だから、俺はみんなを『幸せ』にしたい……我儘わがままを突き通すのなら、俺には『義務』がある。


 みんなに笑っていて欲しい。


 それが、ラムダ=エンシェントの切なる願い。



「ありがとう、アウラ……俺、決心が付いた! みんなを死ぬ気で護って、みんなを最高に『幸せ』にして、全員が俺から離れられないようにしてみせる! 俺が『一番』だって言わせてやる!」

「その意気なのだ! これは大物おおものの予感がするのだ……!!」



 きっとはたから見れば俺は『女誑しのクズ男』だろう。けれど、そんな俺を慕ってくれたノアたちを、俺は『幸せ』にしてみせる。



「だから……お兄ちゃんに、あたしの『悩み』を聴いてほしいのだ……!」



 だから――――俺は君を救いたい。


 アウラ……【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】の『今日』に縛り付けられたエルフの少女よ。


 今度は俺が、君を救う番だ。



「あたしね……ずっと『夜明け』を見ていない気がするの……! なんでだか分からない、記憶では()()()()()()()()()()()()()……ずっと、あたしは『明日』に行けていないような気がするの……!!」

「アウラ……」

「怖いの……きっとあたしは……何か大切な事を忘れている……! 怖い……怖い……怖い……! お兄ちゃんに会ってから……あたし、ずっと怖いの……!!」

『どんなに時間を巻き戻しても……いや、時間の巻き戻しをするからこそ、アウラ様の“魂”は摩耗まもうしていく……! きっと、彼女の“魂”はもうすぐ限界を迎えて壊れてしまう……!』



 目に大粒の涙を溜めながら、言い知れぬ“恐怖”に怯えるアウラ――――何千年もの間、この【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】で祈りを捧げ続けて来たエルフの少女の限界。


 もう幾ばくかの『夜明け』を迎えれば、きっとアウラの“魂”は擦り切れてしまうだろう。そうすれば、女神アーカーシャは新しい“巫女いけにえ”を連れて来てこの神殿の『楔』にするだろう。


 許せない――――そんな悲劇は、俺が終わらせる。



「アウラ、君は悩める俺を導いてくれた――――今度は、俺がアウラを救う! 必ず、アウラに本物の『夜明け』を見せて、『明日』へと連れて行く!!」

「お兄ちゃん……お願い、あたしを……助けて……!!」

「必ず……!!」



 涙を流してエルフの巫女は俺の胸元に縋り付き、小さな身体を懸命に伸ばして俺の唇にその小さな唇を重ねる。


 わらべのような果実みたいな唇が吸い付くように俺の唇を捕えて放さない。救いを求めるように、俺の『心』に【アウラ=アウリオン】の存在を刻みつけていく。


 アウラを救おうと尽力し、力尽き、諦めた全ての人々よ――――あなた達の無念、俺が必ず晴らしてみせる。



『夜が……明ける……!!』

「――――かはっ……!!」

「アウラ……ゲフッ!!」

「痛い……! お、お兄ちゃん……なんで……逃げないの……?」

「ゲホッ……逃げない、アウラを放したくない……!!」



 そして、幾度目の夜明けを前に、いつものようにアウラの身体を“光”が貫く。


 女神アーカーシャの言った【光の化身】と呼ばれる怪物の仕業だろう。アウラの心臓を貫いて、俺の腹部を貫通した“光”が……愛しいエルフの少女の終わりを()()無慈悲に告げる。



「あぁ……お兄ちゃん……好き……好き……大好き……!」



 それでも、アウラは笑い続ける。間近に“死”が迫っても構わずに俺に笑いかけ続けている。



「一目惚れ……しちゃったのだ……! 約束だよ……あたしを……『明日』に……連れて……行っ……―――――」

「約束……連れて行くよ……『明日』に……!!」

『【巫女】アウラ=アウリオンの死亡を確認――――【時の歯車(クロノギア)“古”(エンシェント)】、起動開始します』



 かくして、俺の目の前でアウラは『何千回目の死』を遂げて、アーティファクト【時の歯車(クロノギア)】はまたアウラを『今日』へと送り返す。


 無数の歯車と白き光に包まれて、アウラが俺の前から消えていく。


 アウラ……君は俺に『一目惚れ』をしたんだね。なら、俺もアウラを愛そう――――この神殿を抜け出して、一緒に冒険をしよう。


 君に……『幸せ』を贈ろう。



「ラムダ様! ラムダ様ーーッ!!」



 事態に気付いたオリビアが腹部を貫かれた俺の治療をしてくれたのはそれから数分後――――すっかり夜が明けた、暖かな日差しの中での出来事だった。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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