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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第1011話:VS.【真我】アートマン③/我らは不完全、故に歩き続ける


『いいですか、我が騎士よ。私の術式スキル付与エンチャント】を少しだけ改造し、貴方に術式スキルを一時的にですが付与できるようにしました。これでアートマンさんに対抗します』


『どうやって対抗を、我が王?』


『アートマンが有する無数の加護……それら一つひとつを私が解析し、その効果を打ち消せる術式スキルを貴方に付与します。そうすれば……』


『擬似的にアートマンの加護を無効にできる!』


『その通りです……しかし楽観視はできません、リスクは有ります。私が貴方に付与する術式スキルは言うなれば“装備品”……古代文明風に言えばデバイスにインストールする“アプリ”です。積めば積むほどに貴方に負荷が掛かる』


『付与できる術式には限界があると言う事ですか?』


『ラムダ=エンシェントの気力……それが限界です。もし、アートマンさんと戦うことになれば……その時は貴方が私の付与に耐えられる間に決着を着ける必要があります。……くれぐれもそれを肝に銘じておいてください、我が騎士よ』


『イエス、ユア・マジェスティ!』



 ――――アートマンを突破する為にノアは俺に【付与エンチャント】を作用できるようにした。これによって俺たちはアートマンの有する無数の【加護】を()()()()()()()()()()()()()()()()という形で突破する事にした。

 アートマンが発動させた、或いは常時発動させている【加護】をノアが超高速演算で解析し、そして解析した【加護】を打ち消す術式を俺に付与する……それが二人で立てた作戦だった。



「これが“血”、そして“痛み”……ですか」

「どうした……始めて殴られてビビったか?」



 ノアの作戦は見事成功し、アートマンの顔面に鉄拳が炸裂して無敵だと思われた“神”に始めてダメージを負わす事に成功した。アートマンはくちから流れた血を見て眼を丸くしている。


 しかし、浮かれてはいられない。

 この戦術には致命的な“限界”が存在する。


 それは術式を付与すれば付与する程に、俺の身体と精神に負荷が掛かっていくという事だ。すでに幾つか術式が付与されて、俺は脳みそを鷲掴みにされるような頭痛を感じていた。身体が耐えられなくなる前に決着を着けねばならない。



「いえ、単に感心しているだけです。まさか……ノア=ラストアークさんと手を合わせる事でわたしに対抗するとは……驚きましたよ、ラムダ=エンシェントさん」


「ちッ、あんま堪えてねぇな……」


「認めましょう……あなた達はその宣言通り、手を取り合う事でわたしに“牙”を届かせた。しかし、それは()()()()()()()()()()……あなた達の感情が織りなす不安定な揺らぎがわたしを一時的に凌いだだけです」


「へっ、負け惜しみか?」


「わたしの【加護】に対抗できたとしても……わたし達の間の実力の差はまだ歴然です。それに……付与できる術式スキルには限界がありますね? わたしを倒すまで……あなたの身体と精神は果たして保つでしょうか?」



 しかし、アートマンはいまだに冷静を欠いてはいなかった。くちから流れた血を親指で拭いながら、アートマンは俺たちの戦術の弱点を精確に言い当てながら微笑みを取り戻した。

 そして、右手を貫手ぬきてにして姿勢を正すと、アートマンは静かに“闘気”を纏い始めた。同時に、アートマンの足下の水面に僅かな波紋が発生し、爽やかな風が一陣吹いた。



 その風が俺を突き抜けた瞬間、アートマンは風のように消え――――


「【神速の加護】……ふんッ!!」

「疾……ッ!? ぐっ、あぁ……ッ!?」


 ――――同時に俺の腹部にアートマンの拳がめり込んだ。



 まったく反応できない速度で距離を詰めてきたアートマンによる渾身のボディーブローが炸裂し、腹部を覆っていた装甲アーマーが壊れて鉄拳が直撃した。

 高速で飛んできた岩石に命中したような耐え難い痛みが全身に走り、同時に俺の口部からは内出血した血液が溢れ出した。



「ノア=ラストアークさんの分析は素晴しい、僅かコンマ数秒でわたしの【加護】を分析して、最適な対抗策をあなたに付与している……」


「術式付与……【超反応の加護】……!」


「ならば……わたしはあなた達の“愛”という不安定な揺らぎすらも調伏してみせましょう。あなた達の結束を凌駕して……わたしは“神”の完全さを証明する」



 アートマンが発動させた【神速の加護】を解析し、ノアは俺に対抗する為の術式を付与した。同時に頭痛が少しだけ増し、脳が締め付けられる不快感が俺に襲いかかる。



「この……ならやってみな! オラァッ!!」

「ぐっ……!? まだまだ、この程度……!」



 襲い掛かってくる激痛を歯を食いしばって耐えながら、反撃とばかりに俺はアートマンの顔面を思いっ切りぶん殴った。

 顔を殴られたアートマンはくちから血を流して仰け反るも、すぐに体勢を立て直して俺の顔面に反撃の鉄拳を放ってきた。そこからは殴り合いの応酬である。



「「――――ッ!!」」



 血を吐き出しながら、何度も何度もお互いに殴り合う。アートマンが【加護】を発動する度にノアが俺に術式を付与していく。

 一発殴る度、一発殴られる度に身体が重くなっていく。どれぐらい耐えられるだろうか、限界を迎える前にアートマンを倒せるだろうか、そんな不安を感じながら俺はアートマンと殴り合いを続けた。



「人間の本質が“不完全”であると豪語するのなら……あなたは自分が不完全である事を許容するのですか? それは自己の改善を放棄するという事ですか?」


「いいや、違うさ……不完全である事に甘えちゃいない。俺は今の自分には満足していない……もっと高みを目指して、いつか完璧になれるように歩き続けつもりさ!」


「ですが、人間は完璧にはなれないのでしょう?」


「そうだ、完璧にはなれない……()()()()()()()()()()()。自分を不完全だと認め、完璧を目指して努力を続ける……そうやって()()()()()()()()()()()()()()()()()!! その歩みこそが……俺たちが『人間』である証だ!!」


「それでは遅い、歩いてでは間に合わない」


「それで良いんだ……間に合わなくたって。焦って結果を得ようとしてもきっと失敗するし、そうやって結果をすぐ得ようとするのが『人類神化計画』なんだろ?」


「そうです、人類の不完全さは超克せねば……」


「違う……不完全で、それでも歩き続けて、足りない者を手を取り合って補おうとするからこそ、俺の拳はあんたに届いたんだ! あんたは焦りすぎなんだよ、アートマン!!」



 殴り合い、血を流し合いながら、俺とアートマンは言葉も交わしていく。どちらが正しいのか、どちらの主張がより人間らしいのかを決める為に。

 アートマンの拳が何度も炸裂して激痛が走り、俺が喰らわせた拳にアートマンは苦悶に満ちた表情をしている。それでも俺もアートマンも殴り合いを、語り合いを止めようとはしなかった。



「俺たちは不完全なままあんたを超えていく!」

「わたしは完璧なままあなた達の“神”になる!」



 お互いの譲らぬ信念を貫き通す為に、愛すべき『人間』の価値を示す為に。

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