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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第1003話:VS.【大聖女】ヴェーダ=シャーンティ②/意志なき舞台装置


「…………ッ!!」

「…………っ!!」



 ――――世界が反転する、美しくも空虚な青空と水面も世界から、俺と教皇ヴェーダは雨が降りしきる汚れた世界に落下した。

 泥の臭いがする、血の臭いがする、腐敗臭がする、ゴミの臭いがする、一秒も『居たくない』と思うような劣悪な光景が目の前に広がった。



「出でよ……“巨人王のかいな”!」



 教皇ヴェーダは落下しながらも魔導書をなぞり、自身の頭上に巨大な魔方陣を展開する。そこから出現したのは拳に黄金のガントレットを装備した巨人族の腕だった。



「くっ……ウォォッ!!」



 出現した巨人族の腕は弾丸のような勢いで殴り掛かってきた。それを俺は渾身の蹴りで受け止めた。巨人族の腕は蹴りを喰らってピタリと止まり、同時に衝撃波が周囲に広がった。

 そして、蹴りの反動を利用して俺は真後ろに跳躍し、くるりと身体を反転させながら地面に着地した。足下で泥水がパシャリと跳ねる。



「…………っ」



 教皇ヴェーダも身体をくるりと回転させて、水飛沫をあげる事なく静かに着地した。そのまま姿勢を正すと魔導書に指を添えながら俺を睨みつけた。

 雨が降りしきる街で俺と教皇ヴェーダは睨み合いながら膠着状態になった。お互い次にどう攻めるかを考える時間だ。



「ここがあんたの故郷か……?」


「ええ、その通り……毒を操り、人間の血肉を貪る“蝕毒竜”と呼ばれた邪竜に支配された街。ここがわたくしの故郷です……絶望が支配し、ゴミに塗れた家畜の街」


「酷い場所だな、同情するよ……」


「ふっ……温室育ちの貴族様であるあなたに何の同情ができると言うのかしら? あなたにわたくしが過ごした『醜い世界』は理解できない……だって、あなたの人生はとても恵まれているもの」


「それは……否定しない。俺は恵まれていた……」



 ふと、周囲を見渡せば其処には“地獄”が広がっていた。街は修繕もされずにボロボロに朽ち、道端には無造作に死体が転がり、遥か遠くには街を監視する漆黒の竜のような影が羽ばたいているのが見えた。

 生きた心地のしない街だ、今まで訪れたどの場所よりも酷い。そんな場所が教皇ヴェーダの生まれ落ちた場所なのだろうか、彼女の表情は険しくなっていた。



「あなたはこんな地獄のような場所で過ごして、世界を醜いと結論付けた……なら何故、世界を少しでも良くしようと行動しなかった? 聖堂騎士団を派遣して本気を出せば、救える命もたくさんあった筈だ!」


「…………それが何か?」


「なのにあなたはアーカーシャの言いなりになって行動するだけだった。“神”が管理しやすいように世界を整えるだけ……時には破壊すらいとわなかった。なぜそんな事を……!!」



 雨が降りしきる街で“ゴミ漁り”なんて呼ばれて生きてきた教皇ヴェーダがどんな環境で暮らしたかは容易に想像がつく。彼女はきっと世界に絶望する程の“傷”を心に負っているのだろう。

 だからこそ、そんな教皇ヴェーダが万人を救おうともせず、女神アーカーシャの命令に盲目的に従って世界を『“神”の都合』に合わせて管理しているのが気になった。



「簡単な話です……わたくしは別に人類の救済など求めていないだけです。アーカーシャ様が人類の存続に地獄が必要だと仰られたので、わたくしはそれにならっただけです……」


「…………っ! 救える命もあっただろう……」


「いたずらに人命を救っても、そうなれば数を増やしすぎた人間はいずれ他者を喰い荒らします。必要な犠牲……間引きというものですよ。世界のバランスを整える為の正しい行ないです」


「なんだと……本気で言ってるのか!」


「本気ですとも……この故郷も住まう人間そう、救うに値しない。わたくしはさっさと見限りました……ここの人間は冷たい人ばかりでしたので。滅んで然るべき場所だったのです」



 教皇ヴェーダには“自分の意志”が無い。ただ女神アーカーシャの命令に従っているに過ぎなかった。その結果、どんなに犠牲が出ようとも知ったことではないと言い切って。

 これではっきりとした、彼女は徹頭徹尾『女神アーカーシャの代弁者』に過ぎないのだと。ラストアーク騎士団を粛清するのも彼女の“本意”ではないのだろう……不本意でもないだろうが。



「わたくしはアーカーシャ様の意志を伝える()()()()()()()。故にわたくしの行動にわたくしの“意志”など介在しません……全ては“神”の御心のままに」


「それで良いのか……あんたはそれで!」


「構いません、それに……どうせ世界はアートマン様を新たな“神”として祀り上げ、また新たに管理される。わたくしの役目ももうじき終わるのですよ。もうじきね……」


「俺はまだ諦めていないぞ」


「なら……あなたを道連れにするのがわたくしの最後の使命です。ラムダ=エンシェント……共にこの醜き世界に沈みましょう。わたくしがあなたを終わらせて差し上げます……!!」



 教皇ヴェーダは俺を道連れに、自分の人生にも幕を引くつもりのようだ。彼女の瞳には“諦め”の感情がずっと渦巻いている。

 教皇ヴェーダが魔杖を振り上げた瞬間、彼女の頭上に出現した魔方陣から再び魔砲が召喚された。砲身に魔力を集束させ、薄暗い周囲を照らしながら俺に狙いを定めている。



 そして、教皇ヴェーダが魔杖を振り下ろした瞬間――――


「沈みなさい……ラムダ=エンシェント!」

「――――ッ!? 背後から……くっ!?」


 ――――俺の背後にいつの間にか出現した魔方陣から、刀剣が鋭い勢いで撃ち出されてきたのだった。



 咄嗟に身体を捻って攻撃を回避した。脇腹を掠めた刀剣は“機神装甲レーカ・カーシャ”の装甲にヒビを入れながら教皇ヴェーダの手元へと飛んでいく。

 それと同時に、教皇ヴェーダの頭上に召喚されていた魔砲からも砲撃が撃ち出された。身を捩って意識が僅かに逸れた俺を打ち倒さんと、圧縮された魔力の塊が向かってくる。



「舐めんな……“量子転移クォンタム・パルサー”!」

「消えた……!? 空間転移の術技ですか……!」



 砲撃が着弾する前に、俺は身体と武器を量子に変換してその場から離脱した。そして、高速移動で砲撃を躱しつつ、教皇ヴェーダに向かって一気に距離を縮めていく。

 教皇ヴェーダは飛来した刀剣を右手で掴みつつ、周囲を警戒して見回している。俺がどこから実体化して攻撃してくるのかを探っているのだろう。



「俺はお前とは違う……正面から仕掛ける!!」

「真っ正面……舐められたものですね、わたくしも!」



 そんな教皇ヴェーダの意識の乱れを突いて、実体化した俺は彼女に正面から攻撃を仕掛けた。

 よそ見をしていた教皇ヴェーダは反応が遅れたのか、俺が振り上げた魔剣による斬撃を手にした刀剣で胸元ギリギリで防御した。ガキンッ、と鈍い音がなって、一瞬散った閃光がお互いの顔を照らす。



「剣の腕に覚えがあるのか……驚いたよ」


「ふん……古代の英雄たちの武具から剣術のスキルを修得しただけです。数千年、アーカーシャ教団の教皇を務め上げたわたくしには何千何万を超えるスキルが蓄積されているのですよ……!」


「意志なき舞台装置に使いこなせる代物じゃねぇよ!」



 次の瞬間、教皇ヴェーダは足踏みをして、地面を踏むと同時に踵に溜めた魔力を爆発させて衝撃波を発生させた。

 攻撃を察した俺はその場で跳躍し、衝撃波を回避しながら教皇ヴェーダの頭上を飛び越える。頭上を取ると同時に俺が振り下ろした魔剣を教皇ヴェーダは魔杖で弾き、同時に俺は蹴りを繰り出して魔砲を蹴り砕いた。



「「――――ッ!!」」



 着地と同時に俺は教皇ヴェーダを背後から銃撃した。しかし、教皇ヴェーダは盾の“遺物アーティファクト”を咄嗟に展開し、俺が繰り出した銃撃を難なく防御ガードしていた。



「甘いですね……“反射”」

「!? 反射盾か……うおっ!?」



 教皇ヴェーダが展開した盾は俺の銃撃を弾き返し、俺は弾かれた銃撃を魔剣で防いで防御する羽目になってしまった。

 銃撃を防いだ拍子に身体が数歩分、後退った。その隙に教皇ヴェーダは右手に槍の“遺物アーティファクト”を召喚し、その矛先に魔力を集束させて俺に狙いを定めていた。



 そして、俺が銃撃を弾くと同時に教皇ヴェーダは槍を勢いよく突き出し――――


「受けなさい――――英雄の一撃を!」

「くっ……つぅッ!? この……!」


 ――――槍を腹部に喰らった俺は勢いよくふっ飛ばされ、後方に建っていた建物に叩き付けられたのだった。

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