第11話:ギルドの冒険者
――――冒険者ギルド・オトゥール支部、時刻は朝、街の住人のほぼ全員が目覚め、各々が与えられた職業に則り仕事に従事し始める時間。
ギルドの支部の受付にも、街の住人たちから寄せられる様々の『依頼』を求めて多くの冒険者たちがごった返していた。
「…………はい? 今……何の職業と仰りましたか?」
そんな人混みの中、俺とノアはギルドの冒険者としての許可証を得るべく受付カウンターで登録を行っていた。
ギルドには『神授の儀』によって得た職業、発現した固有スキル、現段階の能力数値を登録することになっている。
理由は二つ、一つは冒険者たちそれぞれの職業に適した依頼を宛てがい、不適正な依頼を誤って受注させないようにして失敗や依頼中の死亡事故が発生する確率を低下させる為に。
もう一つは、依頼の達成数やレベルによって冒険者を“E”から“SSS”までの八段階でランク付けし、それぞれのランクに適した依頼を案内する為に。
つまり、職業が戦闘に適していなければ“討伐依頼”は受注出来ないし、ランクが“E”なら仮に適合職業であっても“A”ランク相当の依頼は受注出来ない事になる。
「なんでランクだけはアルファベット表記なんでしょうか??」
「ノアは少し黙ってて。いま、なんかマズい状況だから……」
俺の後ろでコソコソ話しかけてくるノアを牽制しつつ、再度受付嬢へと視線を戻す。
俺はついさっき目の前の受付嬢に自分の職業と固有スキルを伝えた。だが、やはりと言うか何と言うか、想定していた最悪の状況に陥ろうとしていた。
「すみません……聞き慣れない職業だったものでぇ〜。で、何の、職業、でしたっけ〜?」
あぁ、煩わしい、昨日と同じだ。この受付嬢の人を小馬鹿にしたような眼。父さんといい、母さんといい、ゼクス兄さんといい、俺を知るサートゥスの住民達といい、誰も彼もが俺を奇異の目で見てくる。
「ラムダさん、私お腹が空きました!」
ノアだけは俺を保護者か親かと思っているのか、俺を頼る様な純粋な目で見てくる。でも、いまそれどころじゃねぇんだわ。
「もしもし〜もう一回、あなたの職業を教えて貰えませんか〜?」
「あぁ、分かったよ! 俺の職業は【ゴミ漁り】、固有スキルは【ゴミ拾い】――――これで満足か?」
「…………ぷっ、ぷははははは! 【ゴミ漁り】に【ゴミ拾い】……! 何ですか、その“ゴミ”みたいに地味な職業とスキルは……!?」
俺がはっきりとした声で自分の職業と固有スキルを申請した瞬間、堪えきれずに笑い出す受付嬢。
ゴミに関する、ましてやゴミを漁るような職業とスキル、見窄らしいと言えばその通りなのだろう。かく言う俺自身ですら見窄らしくて地味だと感じているのだから。
「むっ、ラムダさんの職業のどこに笑う要素があるんですか!? 【廃品回収業者】だって立派な職業でしょ? 彼らのお陰で、轟沈した戦艦から使える部品が回収出来るんですから……地味だけど立派な仕事ですよ……地味だけど!」
「やっぱ地味じゃねぇか!?」
フォローのつもりが軽いディスりになってるノアの合いの手に呆気に取られたのか、受付嬢は笑い涙を堪えながら話を続け始める。
「あ〜はいはい、ゴミ漁るのも立派な仕事ですね〜。んー、分かりました……ラムダさんでしたっけ? 一応、冒険者ギルドのEランク許可証を発行してあげます。まっ……なんの依頼が受けれるかは知りませんが……」
「あぁ、まぁ……ありがとうよ。精々善処させてもらうよ」
皮肉と共に受付嬢から差し出されたギルドの許可証を刻み込んだ魔法の光。
それに右手を翳した瞬間、光は霧散して掌に吸い込まれていき、俺のステータスに新たな項目が追加される。
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名前:ラムダ=■■■■■■
年齢:15 総合能力ランク:Lv.9999
体力:10000/10000 エナジー:10000/10000
攻撃力:10000 防御力:10000
筋力:10000 耐久:10000
知力:10000 技量:10000
敏捷:10000 運:10
冒険者ランク:E 所属ギルド:なし
職業:【ゴミ漁り:Lv.2】(成長ボーナス無し)
固有スキル:【ゴミ拾い:Lv.2】【衰弱死針:Lv.6】
保有技能:【二次元の閲覧者】【剣術:Lv.2】【射撃:Lv.10】【鷹の眼:Lv.10】【エナジー自動回復:Lv.10】【体力自動回復:Lv.10】【状態異常耐性:Lv.10】【精神異常耐性:Lv.10】【行動予測:Lv.10】【自動操縦:Lv.10】【二次元の傍観者:Lv.10】
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「? なんだこのステータス……? 変なスキルが勝手に増えてるし、999が最高値のパラメーターが変な数値出してる……いや、運低いな!?」
ふと気になったのは確認したステータスの異変。
【ゴミ拾い】の効果で聴こえた自動音声で【剣術】や【射撃】は修得したのは知っていたが他にも知らないスキルが追加されており、パラメーターも見たことない数値を叩き出していた。
「あ〜……きっとそれ、アーティファクトを取り入れたせいで表記がおかしくなっちゃってますね」
「そうなのか?」
自身の奇妙なステータスを訝しんでいると、俺の後ろから表示を覗き見したノアが口を挟んでくる。
「恐らく……私たちの時代の遺物の存在をアーカーシャは『想定していない』んじゃないでしょうか?」
「なるほど……じゃあ、この変なステータスはあんまり気にしなくて言い訳だ?」
「そうですね……気にしなくて良いと思いますよ? えぇ、えぇ、適当にネットで拾った変な数式打ち込んで、開発していたAIを何回もバグらせた私が言うんだから間違いありません!」
「威張る台詞じゃないと思うんですが……」
ふんぞり返っているノアの態度は兎も角、『女神アーカーシャはアーティファクトの存在を想定していない』と言う彼女の推測には一理ある。
気にしなくても良いならそうしよう。別にステータスがこの数値でも困ることは多分無いだろうし。そう思って俺は自分のステータスについての考察は一旦棚上げすることにした。
「さぁーて、いよいよノアちゃんの冒険者登録タイムのお時間がやってまいりましたー!」
「は、はぁ……えらくテンション高い娘ですね。では、お名前と職業、固有スキル、レベルをご提示ください」
俺が思案している後ろで、次はノアが受付嬢に自身のステータスの開示を求められる。
いや、待てよ…………ノアは古代文明の人間だから、そもそも【二次元の閲覧者】のスキルなんて持ってないんじゃ……?
「はぁ〜い! ではでは~ステータス・オープンッ!」
と、杞憂したのも束の間――――ノアは左手首にはめたブレスレットから【二次元の閲覧者】で出現するウィンドウと同じ青白い画面を出現させる。
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名前:ノア=■■■■■■【※本人申請で削除】
年齢:15 総合能力ランク:Lv.99
体力:666/100 魔力:666/0
攻撃力:か弱い乙女 防御力:柔肌
筋力:華奢 耐久:ぷにぷに
知力:超天才 技量:メッチャ器用
敏捷:普通 運:そこそこ
冒険者ランク:なし 所属ギルド:なし
職業:【聖女?:Lv.101】(全ステータスに成長ボーナス)
固有スキル:【付与:Ver.11.1】【???】
保有技能:【ハッキング:Lv.99】【回復魔法(化学):Lv.99】【完全記憶能力:Lv.99】【絶対音感:Lv.99】【言語理解(機械翻訳):Lv.99】
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「えっ、なんですかこの変なステータス??」
「表記がおかしい……絶対に何かしたな、こいつ。職業は【科学者】ってさっき言ってたじゃん……! あと、職業とスキルのレベル上限は“10”だっての……」
ノアの出した画面に表示された絶対に怪しいステータス。
後で問い詰めた際に判明したことだが、どうやらノアはアーカーシャの『神授の儀』のシステムをハッキングして、自身のステータスを改竄していたらしい。
「どうですか? 受付嬢さん、私ってすごいでしょう!」
「は……はぁ、一応、【聖女】……みたいですね? わ、分かりました……取り敢えず、Eランクの許可証を交付しますね。うーん、怪しいなぁ……怪しい……」
ステータスの改竄など前代未聞、誰一人としてそんな違法行為を見た者はいない。
その為、真相を看破する事が出来ず、困惑しながらも受付嬢はノアに許可証を交付するしか無かった。もし、こうなる事を見越してやったなら何とも抜け目の無い女である。
「ふふふ……! 【聖女】の職業なら、大体の依頼が受けれるそうですし、これでお金には困らないですわーっ♪ 後でギルドランクも【SSS】に書き換えよーっと♫」
「う~ん、なんだか嫌な予感がする」
無邪気にぴょんぴょん跳ねて喜ぶノアの隣で、俺はこれからの事に頭を抱える。果たして、俺はこれから冒険者としてやっていけるのだろうか?
「じゃあ、ラムダさん! 早速、依頼攻略に行きましょー♪ 狙いは勿論、一番報酬の高いやつですー!」
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