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第102話:Nobody Oblivion Ar_Hymmnosis


「なっ…………!?」

「なんだよ……これ……!?」



 俺も姉さんも声を失う。


 小さな研究室に残された『ノア』の記録に記されていたのは――――余りにも残酷な真実だった。



《実験ファイル・ナンバー11(イレブン)……精子提供者……光量子力学の第一人者【アイザック=アインシュタイナー】、卵子提供者……虚数情報記憶帯アカシック・レコード解析の母【ルミナス=カレイドスコープ】。両者の冷凍保存された精子と卵子の人工授精と高度な遺伝子改造による『人工生命体』の製造実験…………既に原子崩壊を起こし機能不全となった『なり損ない』の数……実に108……流石にここまで『ゴミ』が出れば、大統領もお怒りだろう……! まったく、気が滅入るよ……》



《余剰リソースで造りあげた『アリア』の精度は及第点――――当面はあの『人形マキナ』に雑務をさせるとしよう……》



《ふむ……ある程度、人型にはなってきたな。アリア、その『ゴミ』は棄ててきなさい……》



《駄目です、博士……『コード:D.X.M.』、状態まったく安定しません……!》

《脳が形成された時点でDNAに調整を入れ状態を安定させなさい…………寿命が大きく削れても構わん、とにかく一度でも完成させるのだ!》



「この画面に映っている胎児みたいなのって……全部……」

「ノアの…………なり損ない……だと……!!」



 映像に映し出したのは、俺たちがいる実験室で行われていた『人体精錬じんたいせいれん』の様子。大勢の科学者たちによる『ヒトの形をした“人智を超えた存在”である人形マキナ』を創ろうというこころみの記録。


 吐き気がした…………ノアは、こんな実験の果てに生み出されたのかと。


 男女の愛のいとなみも無く、子孫繁栄の名分も無く――――ただただ、人間たちが『優秀な頭脳を持った人間の“道具”を造ろう』とした結果、生まれただけの存在。


 それが『ノア』であると……俺は思い知らされた。



《私は――――『ノア』。人間に奉仕するだけの道具……》

「ノアちゃん……」

《どうか私を……有意義に使い、そして捨ててください》

《言われなくてもそのつもりだ……精々、死ぬまで我々の為に働き給え……ノアよ》

「………………ッ!」



 そして、画面に映し出されたのは、白い検査着を身に纏い、虚ろな瞳で何処かを眺める銀髪の少女の映像――――俺と出会う前の『ノア』の姿。



《人間を殺す兵器――――【機械天使ティタノマキナ】……ご要望通り、試作機プロトタイプを開発しました……》

《ご苦労……早速、実戦配備させろ……! 戦果をあげて連邦政府に我々の優秀さを知らしめてやれ……!》



《やめて! 放して! いや……きたない手で私に触るなッ!! いや……嫌だ……まだ捨てないで……私、まだ人間に奉仕出来る……嫌……まだ私は『ゴミ』じゃない……!》

《アリア……あなたはもう不要……さようなら》

《ノア……! ノア……!! ノアッ!! 私を……私を捨てた貴女を……私は許さない……絶対に許さないからぁああああああ!!》

《手向けにこの彼岸花を……あなたに贈るわ……おやすみなさい、アリア……投棄開始……》

《いや……いや、いやぁああああああ!!》



《おめでとう、ノア……! お前が小型化した荷電粒子砲のお陰でまた我々は大きな戦果を上げたよ…………1万人、君は人を殺し、世界をその分『平和』に導いたのだ!》

《はい……ありがとうございます、博士。次は――――何を造って、人を殺せばいいですか?》



《寂しい……寒い……私は……何の為に……生きている……?》

《人形風情が『人間』に憧れるな! 部をわきまえなさい。教授、ノアに蓄積した不純な記録メモリーの消去を!》

《誰か……私の……手を……握って……》



《では、ノアはこのまま【セクター:Λ(ラムダ)】で隔離ですか……?》

《あぁ……いよいよ、『例の計画』を実行するようだ……! ふふふ……遂に『人間神話ヒュムノシス』が実現する時だ! この“神なき世界”に……人の手で創られた【機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ】が誕生する!!》



《人間の手は……温かい……人間の愛は……温かい…………でも、私には……愛してくれる人は……いない…………だから、私には……『愛』は、分からない…………》

《君を愛する者などこの世界には存在しない……くだらない『夢』を観るのはやめるのだな……ノアよ……! では……この孤独な部屋で永久とこしえに神話を紡ぐといい……さよならだ、人形マキナよ……》

《誰か……私を……愛して……》



《駄目だ……『アマテラス』が地球に墜落する……! 【アズラエル】と【ジブリール】、【ルシファー】の3機だけでは()()()の暴走を抑えきれん! 聴こえているか、ノア! お前のいる【コロニー:Λ(ラムダ)】から至急【黙示録の天使(アルマゲドン)】を救援で送りなさい……ノア、通信が聴こえていないのか……ノア!》

《博士――――連邦政府は旗艦『アマテラス』の廃棄を決定しました》

《馬鹿な……我々を見捨てるのか……!! この旗艦には【光の化身】が眠っているのだぞ!》

《だからです――――“終末装置アル・フィーネ”【光の化身】は旗艦『アマテラス』を墓標にして封印します。さよなら、ベンタブラック博士……“太陽アマテラス”と共に沈んで下さい……》

《ノア……ノアァアアアアアアア!!》

《さようなら……アズラエル、ジブリール、ルシファー……私の……天使たち……!》



 虚ろな瞳の少女が壊されていく……記録。



「酷い……まるで、道具みたいに……!!」

「ノア……どうして、君は……俺の前で笑えるんだ……? 俺なんかより……よっぽどつらいじゃないか……!」



 俺と旅をするノアはいつも笑顔を絶やさなかった。けれど、俺と出会う前のノアの境遇は……余りにも酷い。


 女神アーカーシャから【ゴミ漁り(スカベンジャー)】の職業クラスと【ゴミ拾い】のスキルを与えられただけで深く絶望しただけの俺よりもずっと。


 壊れかけた人形マキナ――――ノアの心に刻まれた“傷”の一端。それが、目の前で淡々と流れていた。


 その手で人を殺す兵器を造らされ、何も与えられず、ただ孤独に生きた少女の記録。



「それが『私』だよ……ラムダさん……」

「ノア……!」



 画面から『現実』に戻されたのは、ノアの声が聴こえてから。


 ふと、後ろを振り返ると、そこには裸のまま立ち尽くして俺を睨み付けるノアの姿があった――――薬液で濡れた頬に涙を垂らしながら。


 医療装置メディカル・マシンでの治療を終えて綺麗に戻った手脚……けれど、その心は壊れたままで。



「幻滅したでしょ? 私はね……『人間』じゃないの……えぇ、メメントの言う通りよ――――人形……人形……人形、人形、人形、人形!! 人間たちがその技術力を誇示こじしたいが為に造ったただの“人形おもちゃ”なの!!」

「俺は、そんな風には思っていない……」

「ラムダさんが思ってなくても……私は嫌でも自覚させられるの……! 私は『人間』じゃないんだって……ただ人間に似た姿をしただけの『人形』なんだって……!」



 ノアは狂ったように大声を上げて内に秘めた『怒り』の感情を吐露とろする。


 けれど、その感情は俺へと向けた怒りではなく――――自己嫌悪。ノアは、自分自身を嫌っていた。



「あはは……あはははは……あはははははは! 私としたことが迂闊うかつだったわ……まだ、私の『記録ファイル』が此処ここに残っていたなんて……!」

「お、落ち着いて……ノアちゃん……」

「知られたくなかった……ラムダさんだけには……知られたくなかった……!! 私の『秘密』……知られたくなかった……嫌われる……嫌われたくないよぉ……!!」



 ボロボロと涙を流しながらその場に崩れ落ちる少女。


 誰にだって隠したい『秘密』ぐらいある…………それを、俺は()()()()で暴いてしまった。


 ノアを傷付けると分かっていながら。



「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……嘘をついてごめんなさい!! 捨てないで……私を捨てないで……!」

「ノア……」

「ラムダさんだけが私の拠り所なの……! あなたにすがるしか……私は生きていけない……! お願い……私を捨てないで……!!」



 ノアは椅子に座っていた俺の裾を掴んで懇願こんがんする――――捨てないでと。


 自分の『秘密』を知った俺が、ノアを嫌うんじゃないかと怯えている。



「なんでもします……! あなたがよろこぶ事なら何でもします……!! だから……私を嫌いにならないで……!!」



 でも、それは違う。



「知りたかったんだ、ノアの事を全部……!」

「知られたら……きっと、ラムダさんは私を嫌いになっちゃう……!」

「ならないよ……もっと好きになった」

「ラムダさん…………えっ……好き……?? 好き……///」

「いま御主人様ダーリン、しれっと告白こくらなかった……!?」

「えぇぇぇ……ラムダ様……わたしの目の前で堂々と浮気宣言しだした……??」

「ラムダ様、色男プレイボーイすぎる……!?」



 俺は、俺の知らない『ノア』を知りたかった。


 その笑顔も、その涙も、その思い出も、全部――――俺だけがでる為に。


 俺だけがノアの全てを愛したい。



「言っただろ、俺はノアを独占したい……! だから、ノアの過去も、“心の傷”も、隠したい『秘密』も、その身体も心も、全部俺のものだ!!」

「…………/// いや……あの……は、恥ずかしい///」

「あわわ……ラムダが……私の弟が……急に大人の男にぃ……」

「ツヴァイ様がショックのあまり倒れたです……」

「ひぇ~……僕もラムダさんにあんな刺激的なこと言われたいなぁ〜/// あぁ……だめだ他人事ひとごとなのにドキドキしてきた……やっぱり、僕……“女”なんだ///」

「あぁ……聴いてただけのアリアが“おんな”を自覚させられている……!? 御主人様ダーリン……凄まじい……///」

「じ、情熱的過ぎますわ/// わたくし、もしかしてとんでもない豪傑ごうけつに……惚れたのかしら///」

「だからノア! 俺にノアの全てを捧げろ! お前の全てを――――俺が愛してやる!」

「〜〜〜〜〜〜ッ///」

「あぁ……観ていますか、シータお義母かあ様…………ラムダ様は……多分……ヤリチンですぅ……///」

「あぁ……コレットはもうお手上げですぅ……(泣)」

「あぁ……そのうち、うちたち全員……竿姉妹にされそう♡」



 涙を流し顔を真っ赤に染めたノアを力強く抱き締める。


 たとえ、ノアの手がどんなに血で染まっていようとも、その心にどんな闇を抱えていようとも、俺は君を放さない、逃さない、決して見捨てたりしない。


 君の全てを、俺は愛そう。



「俺はノアの手を放さない。だから……俺と一緒に地獄の果てまでついて来てくれ……!」

「は……はいぃぃぃ♡ よ、喜んでぇ……♡ どこまでもあなたに尽くしますぅぅぅ♡♡♡」

「あぁ……ノアさんが…………完全に墜ちた……」

御主人様ダーリンに抱擁されたノアが見たこともないような“メス”の顔してる……」

「絶対にふたりの仲に亀裂が入る感じの雰囲気でしたのに……結果はノアが完全に籠絡ろうらく……ラムダ卿、まさに色好む“英雄”の器ですわ///」



 ノアの『秘密』を知って、俺の知らなかったノアを知れて……俺はますますノアが好きになった。


 俺だけに見せる表情かおも、俺だけに見せる仕草も、俺だけに許した身体も、俺だけに開いた心も――――すべてがいとおしい。



「ノア……君は、俺のものだ……!」

「はい……私は、貴方のものです……!」



 だから、俺は君の為に戦い、君の為に生きるよ……我が愛しきひとよ。



「――――へくちッ! 寒い……」

「あの、ラムダ様……そろそろノアさんに服を着させてあげてください……」

「ごめん……」

「あぁ!? ごめんと言いながらノアの背中をまさぐっているわ!? 御主人様ダーリンのすけべ!!」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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