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第101話:地球連邦軍旗艦『アマテラス』


「なに……これ……!? これが……古代文明のふね!? 僕たちの世界の船とは比べ物にならないよ……!!」

「あわわ……す、凄いですー! 何もかもが機械で出来ていますー!」

「これが……女神アーカーシャ様が創られた時代の……技術力……!」

「まさか……わ、わたくしの想像を遥かに超えていますわ……!?」

「うふふ……もっと驚きなさい! もっと感激しなさい! この旗艦『アマテラス』は古代文明の叡智を……ゲホッゲホッ!! 死にそう……」

「なら喋らずに大人しく棺で寝ておけ……っていうか、オリビアたちも手伝え!! なんでジブリールを倒した俺がそのままノアを運んでいるんだ!!」

「…………『ノアは俺の女だ〜〜〜〜ッ!!』……ラムダ様の浮気者……! わたしと言う女がありながら……うぅうう、イチャイチャする時間の取り分が減ってしまいますぅ……(泣)」

「オリビアさん、喜んで運ばさせて頂きます!!」

「取り分の心配だけで良いんだ…………っていうかラムダさん……もしかして、女房の尻に敷かれるタイプの人……?」



 ――――古代文明の遺構、地球連邦軍旗艦【アマテラス】内部。


 そこはまさに『異世界』とも言える場所だった。



「全長1500メートル、最大搭乗人数8000人の怪物戦艦……日出ずる国『日本ジャッパーン』の最高神【天照(アマテラス)大御神(おおみかみ)】の名を不遜ふそんにも冠した巨大戦艦……」

「国名の発音だいぶふざけたな……」

「通称は“移動要塞”――――兵器の運搬は元より、多くの研究施設や政府機関を内在した小さな都市……! 古代文明の『悪意』の巣窟……!」



 非常用と思われる朱い照明で照らされた小さな通路を歩く俺たちの脇、ガラス張りの窓の外の格納庫に見えるは――――戦闘機、爆撃機、巨大人型兵器、ミサイル、無人偵察機、核兵器……俺たちの世界ではまず作られはしないであろう()()()()()()()兵器アーティファクト』の数々だった。


 街を壊し、人を殺し、世界を滅ぼすだけの兵器――――俺が手にしたアーティファクトの同じ。古代文明の人間がただ『殺す』為だけに作った武器がそこに並んでいる。



「古代文明の戦争は人々の殺し合いを経て、無人機ドローンで『いかに効率良く大量虐殺を行えるか』に以降シフトしていきました――――その極地こそが【機械天使ティタノマキナ】……!!」

「なっ……壁一面に……【機械天使ティタノマキナ】が飾られている……!?」

「あぁ……あぁああ……いや、いや、いやぁ……!!」

「レ、レティシア様、お気を確かに……!」

「過呼吸が酷い……! 少し休ませてあげないと……!」

「分かっているよ、リリィ! 僕が介抱するから案内お願い!」



 そして、おぞましい兵器の奥に鎮座するのは無数の【機械天使ティタノマキナ】――――俺ですら一機仕留めるのに全力を出さざるを得ない人型のアーティファクトが百をゆうに超える数で配備されている光景だった。


 それは、【享楽の都(アモーレム)】で天使に殺されかけたレティシアにとっては地獄のような光景。見ただけで恐怖におののき、過呼吸で動けなくなる程の心的外傷ストレス…………直視することすら出来ない程の存在が、まるで使い捨ての『道具』のように敷き詰められた場所。



「いや……いや……殺される……殺される……!! 助けて……ラムダ卿……!」

「レティシア……大丈夫、何かあっても俺が護るから……怯えないで……」

「ラムダさん……もし、あそこの【機械天使ティタノマキナ】が一斉に攻撃してきたら……どうなる?」

「アリア……正直に言うよ、俺でも勝てない。逃げるか、いさぎよく全滅するしかないよ」

「そう……ははは…………通りで女神アーカーシャ様に封印された訳だ――――危険すぎる……!」



 そんな場所で、俺たちは沈黙した天使たちが目覚めないことを祈りながら進むしかなかった。



「艦内の中を移動する為だけの輸送列車トラムとはまた贅沢な……!」

「これが無いと移動が辛くて……。不安定要素のある量子移動を多用させる訳にもいきませんし……」



 しばらくして――――旗艦【アマテラス】、移動用トラム内部。窓から映る沈黙した戦艦の残滓をその目に刻みながら、俺たちは目的地である『研究区画』へと向かっていた。


 狭い車内の中は沈黙――――ゾンビ化の症状で苦しむノア、【機械天使ティタノマキナ】に怯えて縮こまるレティシア、残りの面々は窓から見える数々の『悪意』に眼を通す。



「ラムダ……その、私……怖い……」

「姉さん……」

「ここには人間の『悪意』が染み付いている…………寒気が止まらない……! あなたの身体に……この時代の遺物アーティファクトが組み込まれているなんて……私のせいで……」

「それは違うよ……それに、ここにある『悪意』はあくまで兵器だけさ……きっと、平和の為に使われた技術もある筈さ……ね?」

「ラムダ…………うん、そうだね。ごめんなさい……お姉ちゃん、ちょっと弱気になっちゃった♪」



 分かっている――――俺だってこんな所、居たくもない。


 けれど、この【アマテラス】にはアウラを救う手がかりとノアの『秘密』が眠っている……それだけは手に入れないと。



「え〜っと……第11区画……11区画……あった!」

「そこが……私が造られた研究所です……ゲホッゲホッ!」

「ノア様、口から血が……!」

「大丈夫……まだ、死なない……! ラムダさんの為にも……まだ、死ねない……!!」



 そしてトラムは目的地である『研究区画』へと到着し、俺たちはノアに案内されてある研究室へと辿り着けた。



「なにこの部屋……変な筒状の容器でいっぱいだ……!?」

「ここは……培養室ばいようしつ、細胞から生体を養殖する為の部屋…………私の造られた場所……」

「ここが……ノアの……!?」



 そこは溶液に満たされた筒状の容器が無数に並べられた不気味な場所。


 無造作に散らばったカルテ、滅菌庫に入れられたまま放置されたメスやピンセット、小さな試験管に入れられた優秀な男女の精子と卵子、幾つかの容器に忘れ去られたように浮かぶ何かの肉塊…………おおよそ、『まともな場所』じゃないのは容易に想像がつくような実験室。


 ノアは言う――――此処こそが、自分の造られた場所だと。



御主人様ダーリン……顔が真っ青……大丈夫?」

「平気だ……とにかく、此処を調べて回ろう……! みんなのゾンビ化の進行を止める材料がある筈だ!」

「ラムダさん……私をあの人工子宮シリンダーに入れてください……! あれは“再生治療”を兼ねた医療機械メディカル・マシン……あれで動ける程度までは治療が出来るはずです……」



 そこから先は研究室をくまなく漁る作業。



「まずはノアさんの服を全部脱がしてひん剥いて!!」

「ラムダさん……見ないでぇ〜(泣)」

脚立きゃたつシリンダーの上まで運搬して!!」

さらしものにするのやめてぇ〜(泣)」

「そのまま頭からドボーンッ!!」

「逆、逆ッ!! ミリアちゃん、向きが逆ーーッ!!」

「ノア様があられもない姿で容器の中で漂ってる……」

「オリビアさん、電源押して!」

「はぁ~い♡ スイッチ……オン♡」

「ギャーーッ!? ノア様がシリンダーの中で高速回転していますーーッ!?」

「違う違うーーッ!? これは“洗濯モード”ですオリビアさぁああああああん!!」

「あはははは! 真っ裸のノアさんがくるくる回ってる〜♪」

「ラムダさぁああああん、助けてぇええええええ!!」

「死にかけの人間で遊ぶなよ……」



 ノアをシリンダーの中に入れてキャッキャウフフしている【ベルヴェルク】の女性陣を尻目に、俺とツヴァイ姉さんは研究室に残されたパソコン(っていう機械らしい)を起動させて、複数の立体映像を目の前にディスプレイする。



「仲良いのね……ラムダのパーティー……」

「ははは……はぁ……」

「乾いた笑いからため息ついた……っと、ところで……その変な機械、使い方分かるの?」

「【直感】スキルで、なんとなく……え~っと、画面に指を当ててスライドさせてページを切り替えて……人差し指で……クリック……っと!」

「私たちが女神アーカーシャ様から授かる基本スキルの【二次元の閲覧者(オープン・ステータス)】と基本骨子は同じなのね……」

「多分ね……え~っとどれどれ……『相対性理論』……『光量子こうりょうし縮退論(しゅくたいろん)』……『よく分かるネコ語』……なにこれ?」



 小さな研究室に置かれた端末から出てきたのは膨大な数の資料――――その殆どが、俺には到底理解できないような複雑怪奇なものばかり。


 故に、ノアが回復するまでは目的の物を手に入れるのはほぼ不可能だろう。



「何を探しているの、ラムダ? 私には何が書いてあるかすら分からないのだけど……」

「…………『プロジェクト【アリア】』……『プロジェクト【ホープ】』……『プロジェクト【トネリコ】』……『プロジェクト【ノア】』……あった、これだ……!」

「プロジェクト……ノア…………まさか!?」



 俺の捜し物はとあるファイル――――『プロジェクト【ノア】』と明記されたアーカイブ。


 ノアの記録。


 俺は知りたい……知らなくてはならない。俺が恋した、愛した少女の『真実』を。



「データ……解析……」

《――――起きなさい、ノア》



 恐る恐るノアのデータを開く――――そして、表示されたのはいくつかの論文と、何枚もの写真と、無数の動画。


 ノアと呼ばれた少女の『秘密』だった。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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