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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第975話:この信仰を我が神に捧ぐ


「まさか……ルチアさんを“器”にする気なの!?」

「そのまさかよぉ、ノアちゃん! あっはははは!」



 ――――ルチアを捕らえたカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)の目的は、彼女を教皇ヴェーダに代わる女神アーカーシャの“器”とする事だった。

 カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は知っている。ルチアが聖女ティオの娘で、女神アーカーシャの“器”としての適性を遺伝している事を。



「カプリコーンさん、あなたという人は……!」


「ごめんなさいねぇ、ラムダちゃん……あたしだって、ヴェーダちゃんを救いたくて必死なの。一応、裁判が終わるまでは手は出さなかった……それであなたへの義理は()()()()()()立てたつもりよ」


「ルチアは俺の大切な仲間だ! 返してください!」


「申し訳ないけど……それは無理♡ この子が現れるのを、あたしはずうぅっっと待っていたの。ヴェーダちゃんを超える逸材が……ティオちゃんの再来と言われる“器”が現れる日を!」



 ルチアの血縁を知った瞬間から、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)はルチアを女神アーカーシャに捧げる腹づもりだったのだろう。

 裁判が終わるまでは待って、俺への義理を立てて、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は計画を実行に移した。ルチアの首には逆らえないように首輪が掛けられている。



「だからと言って、俺が黙って見過ごすと……」


「ギヒヒ……なにがなんだか分からねぇが、動くんじゃねぇぞ、ラムダ=エンシェントォォ! 動いたらテメェの大事な仲間を殺すぞ……ギッヒヒヒ!!」


「――――ッ!? リブラ……!」



 俺が慌ててルチアを取り返そうとした瞬間、起き上がったアクエリアス(ワン)が俺を呼び止めた。彼女は戦斧を掲げて、倒れているリブラⅠⅩ(ナイン)を狙っている。

 カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)の意図をなんとなく察して、俺を足止めする手段を選んだのだろう。まだ意識を失っているリブラⅠⅩ(ナイン)には抵抗する余地は無かった。



「アーカーシャ様……この娘をあなたに捧げます。どうかお納めください……ヴェーダ=シャーンティはすでに十分、あなた様に尽くしました。どうか彼女をご解放くださいませ……」


「カプリコーン……それが貴方の真意ですか?」


「このルチア=ヘキサグラムなる娘……この私めが身を清めております。すでにこの娘は放蕩な“朱の魔女”に非ず……あなた様に相応しき“器”へと仕上がっています」



 白い法衣に着替えさせられたルチアは、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)によって身を清められたようだった。男たちに弄ばれた“傷”は消されたのだろう。


 俺との関係の証もおそらくは。


 女神アーカーシャはルチアの全身をほんの数秒観察して、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)の言っている事が真実かを確かめた。そして、事実だと認識したのか、女神アーカーシャは少しだけため息をついた。



「良いでしょう……その娘、たしかに私の“器”として相応しき素質を持っていますね。あなたの捧げ物、我が“器”として認めましょう……」


「……アーカーシャ!!」


「ふっ……どうやら“チェック・メイト”とはいかなかったようですね、ラストアークお母様。私への“信仰”はまだ死んではいません……人々が“信仰”を抱き続ける限り、“神”の存在は永遠に不滅なのです!」



 そして、女神アーカーシャはルチアを新たな“器”とする事を決定した。すでに教皇ヴェーダの“器”をボロボロにされた女神アーカーシャにとっては渡りに船だったのだろう。

 自身を追い詰めたノアを嘲笑いながら、女神アーカーシャは目の前に魔法陣を展開し、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)はその魔法陣にルチアを投げ込んだ。



「ぐっ……!? あ、あたし……どうなって?」

「ルチア……! しっかりしろ、ルチア!」


「ラムダ卿……ッ! あたし……ぐぅ!?」


「あら……起きたの、ルチアちゃん? うふふ……おはようさん。さぁ、すでにアーカーシャ様の“器”になる準備は整っているわよぉ♡」


「テメェ……カマホモ野郎! あたしに何を……」



 投げ捨てられた拍子に意識を取り戻したルチアは、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)と女神アーカーシャの姿を視認するや否やその場から逃げようと試みた。

 だが、すでに魔法陣はルチアを拘束して放さなかった。魔法陣は強力な結界となってルチアを阻んでいたのだ。



「ルチア=ヘキサグラム……ティオ=インヴィーズの娘。あなたに我が“器”となる名誉を与えましょう……さぁ、我が意志を受信するアーティファクトを受け取り、その心身を“神”に捧げなさい」


「なっ……何すんの!? あたしに触るな……!」


「ルチアちゃん……大人しく自分の宿命を受け入れなさい。あなたは最初からアーカーシャ様の“器”になるべく生まれてきたのよ……それがあなたの存在意義」



 女神アーカーシャは“器”となっている教皇ヴェーダの子宮から()()()()を取り出した。純白に輝く発光体、彼女の証言が正しいのなら、それが女神の意志を“器”へと降ろす受信機の役割を果たすアーティファクトなのだろう。

 それを移植されれば、今度はルチアが女神アーカーシャの“器”とされてしまう。俺は魔剣を握り女神アーカーシャに斬りかかろうとした。しかし、アクエリアス(ワン)が戦斧を微動させた事で足が止まってしまった。



(くっ……タウロスに受けたダメージのせいで上手く動けない。アクエリアスを倒しながらルチアを救うのは難しい……ウィルさんたちも手出し出来ない状況か)



 状況は最悪だった。リブラⅠⅩ(ナイン)を人質にされた以上、迂闊に動くことはできない。ウィルたちも負傷している以上、完璧な対応は難しい。



「アーカーシャ様……遅くなりました」

「リヒター=ヘキサグラム……!!」



 そして、さらに追い打ちを掛けるように、女神アーカーシャの側に審問官ヘキサグラムまでもが姿を現した。

 審問官ヘキサグラムはいつものニヤけた表情かおではなく、神妙な面持ちをしている。その右手に短剣ダガーを握り締めて、魔法陣の中で倒れているルチアを静かに見つけていた。



「リヒターちゃん……最後の仕上げよ。ルチアちゃんの精神をあなたの術式スキルで“封印”しなさい。ルチアちゃんの意志を封じ込めて、アーカーシャ様の“器”に相応しき存在へと完成させるのよ」


「なっ……まさかルチアの意志を消すつもりなのか!?」


「嘘でしょ……ふざけんな! あたしを消すって言うの!? 今まであたしを放置して、あたしが泣き叫んでも助けてくれなかったくせに……今度はあたしを良いように利用しようっての!?」


「…………」


「アーカーシャ様の“器”に意志は不要よ……特にあなたのような反抗的な子の意志はね。ホント、リヒターちゃんがいてくれて助かったわぁ♡ おかげで面倒な儀式をすっ飛ばせるもの」



 カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は審問官ヘキサグラムにルチアの精神を封印するように命じた。ルチアを物言わぬ“人形”にして、女神アーカーシャの完璧な“器”に仕立て上げようとしているのだろう。

 審問官ヘキサグラムは何も語らず、ただルチアを見つけて短剣ダガーの刃に自身の魔力を注ぎ込んだ。短剣ダガーの刃が妖しく輝き、怯えるルチアの顔を照らしている。



「それが我が“神”の望みとあらば……喜んで。私は“神”の従順な信徒であれば……我が娘を捧げる事も厭いはしません」


「リヒター=ヘキサグラム、やめろォォ!!」


「テメェ……このクソ親父! ママを見捨てて、あたしを“神”に売るっての!? それでもあたしの親なの……あんたなんか最低よ!!」



 ルチアに罵られながら、審問官ヘキサグラムはゆっくりと彼女に近付いていく。静かな殺意が彼から滲み出ている。

 自分の運命を悟ったルチアは近付いてくる父親に怯えた。涙目になって俯き、暴力に怯える子どものような仕草をした。



「助けてよ、ママ……」

「…………」



 ルチアは呟くような声で母親に助けを求めた。今はこの世に居ない聖女ティオに救いを懇願した。

 その瞬間、審問官ヘキサグラムの歩みが止まった。彼は女神アーカーシャの真横で立ち止まり、ルチアを見つめながら静かに息を整えた。



「何をしているのですか、リヒター=ヘキサグラム? はやくその子に術式を施しなさい……その為に、その子をティオ=インヴィーズとの間に設けたのではないのですか?」


「クソ親父……?」


「ああ、そう言えば……私、アーカーシャ様にお伝えしなければならない事があったのを思い出しました。ええ、ええ……実に大切な事ですので、今のうちに言っておきますね」



 審問官ヘキサグラムはいつものような笑顔を顔面に張り付けて、ルチアを見つめながら胡散臭い口調で女神アーカーシャに喋りかけた。

 その瞬間、その様子を見ていたノアとウィルが眼を見開いた。二人だけは審問官ヘキサグラムが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 そして、次の瞬間、審問官ヘキサグラムは――――


「私……実はあなたを裏切っていました……!」

「リヒター=ヘキサグラム、何を言って……うッ!?」


 ――――短剣ダガーで女神アーカーシャを刺した。



 女神アーカーシャの意識が一瞬揺らいだ隙を突いて審問官ヘキサグラムは短剣ダガーを真横に振り抜き、女神アーカーシャの胸元に短剣ダガーを突き立てた。

 その瞬間、審問官ヘキサグラムの術式スキルが発動し、女神アーカーシャは動きを封じられた。その光景を見た瞬間、その場に居た全員が驚愕の表情をした。



「なっ……何を……!? どう……して……」


「実は私……最近副業を初めましてねぇ。これはそのお仕事の一環なのですよ。ええ、封じさせていただきました……あなたの動きを」


「…………ッ!?」


「私は……()()()()()()()()()()()()()()。リヒター=ヘキサグラムと申します……以後、お見知り置きくださいね。我が敵……女神アーカーシャ」


「えっ……クソ親父が……!?」



 そして、女神アーカーシャに短剣ダガーを突きつけて、審問官ヘキサグラムは遂にその“仮面”を脱ぎ捨てた。ラストアーク騎士団特殊工作員……それが彼のもう一つの“顔”だった。


 その名前を名乗った瞬間、リヒター=ヘキサグラムは眼を見開いた。


 糸目の下に隠されていたのは、ルチアと同じ金色に輝く瞳だった。その輝く瞳でルチアを愛おしそうに見つめ、リヒター=ヘキサグラムは力強く女神アーカーシャを睨みつけた。



「あなたに私の娘は……ルチアは渡しません! この子は私に残された“希望”……我が愛しき妻、ティオ=ヘキサグラムが残した我が“信仰”なのですから……!!」


「あなたはまさか……最初から裏切って……」


「我が“神”はティオ=ヘキサグラムただ一人!! 今こそ……この信仰を我が“神”に捧ぐ時! 封印させて貰いますよ、アーカーシャ! あなたの存在を……我が娘を護る為にッ!!」



 そう、最初から彼はルチアを護る為に行動していた。ラストアーク騎士団の工作員をしながら審問官を演じ続け、ルチアを女神アーカーシャの魔の手から遠ざけを続けていたのだった。

 娘ルチアの窮地を前に彼は決起し、最大の好機をその手にした。ルチアの存在を脅かす女神アーカーシャの“核”を射程距離に捉えたのだ。



 そして、リヒター=ヘキサグラムは左袖に隠していた短剣ダガーを勢いよく振り抜いて――――


「私の娘に……手を出すなァァァ!!」


 ――――女神アーカーシャの手の上で輝いていたアーティファクトを一閃の元に貫いて破壊したのだった。



 それは、“神”によって最愛の人を奪われ続けた男の復讐。ルチア=ヘキサグラムを愛し、そして憎まれて倒される事を望んだ男の真実が明かされた瞬間だった。

 




遂にネタバレの瞬間がやって来ました。

審問官リヒター=ヘキサグラム……彼は味方です。

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