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第974話:審判の鐘は鳴る


「ぐっ……身体が……私の“器”が…………」

「まさか原型を留めているなんて……」



 ――――ノアが転送してきた“鋼鉄巨兵ギガントマキアー”ネオ・ヘカトンケイルの砲撃を受けて、女神アーカーシャは窮地に追い込まれた。

 間一髪で防御こそ間に合ったものの、展開した魔力障壁は砲撃の最中に崩壊し、女神アーカーシャは超出力の砲撃に僅かではあるが直撃していた。



「くっ……意識が……マズい…………」

「ほう……我が母が膝をつきましたか……」



 教皇ヴェーダの肉体はズタボロにされ、その肉体に憑依している女神アーカーシャは遂に両膝をついてしまった。

 ボロボロになった魔杖で身体を支えてなんとか倒れる事だけは防いでいたが、すでに教皇ヴェーダの肉体には致死レベルのダメージが蓄積していた。



「この私が……“神”が倒れる訳には……!!」



 それでも女神アーカーシャは倒れなかった。ひとえに世界を統べる“神”としての矜持が、今にも倒れそうな彼女の精神を支えていたのだった。

 すでにアーカーシャ教団は壊滅的な被害を被っていた。アクエリアス(ワン)とカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は倒され、タウロスⅠⅤ(フォー)は戦死、トネリコ=アルカンシェルも行方を暗ませていた。



「ハァァ……あっ、うッ……うぅぅ…………」

「うっ……あぁ…………!?」



 そして、女神アーカーシャが膝をつくと同時に大法廷の壁を破って、傷だらけのヴァルゴⅤⅢ(エイト)がリブラⅠⅩ(ナイン)に殴られながら現れた。

 現れた二人はアートマンが座る法壇に身体を打ちつけながら跳ねて、そのまま法廷の床に転がり倒れた。リブラⅠⅩ(ナイン)、ヴァルゴⅤⅢ(エイト)両名共、微かに息をする程度でピクリとも動かない状態だった。



「光導騎士たちが……全滅? まさか……」

「どうやら“王手チェック”のようですね、アーカーシャ」



 倒れた三名の光導騎士たちを見回して、女神アーカーシャは自分が窮地に陥った事を悟った。自分の味方は全員倒された。

 対してラストアーク騎士団はリブラⅠⅩ(ナイン)以外は戦闘可能な状態で立っている。ウィル、キルマリア、ジブリール、そしてノアが、女神アーカーシャを睨みつけている。



「遅くなりました……我が王、ご無事ですか? ラムダ=エンシェント……タウロスⅠⅤ(フォー)を排除して帰還しました。これより戦線に復帰します……」


「ラムダ……エンシェント……!!」


「タウロスさんを退けたようですね……流石です、我が騎士よ。さぁ、貴女が警戒した我が騎士も戻って来ましたよ……これで“チェックメイト”です」



 そして、大法廷の扉を開き、“ノアの騎士”ラムダ=エンシェントが姿を現した。タウロスⅠⅤ(フォー)との死闘を乗り越えて大きく疲弊しながらも、最強の騎士は戦意をみなぎらせながら帰ってきた。

 ラムダ=エンシェントが帰ってきた事でノアは安堵の笑みを見せ、反面女神アーカーシャは歯軋りをして焦燥の表情を見せた。彼女にとって最大の脅威が戻ってきたからだ。



「アートマン、いつまで傍観を貫くつもりですか! あなたが戦えば、このような子羊など一瞬で制圧できるでしょう! なぜ……なぜ傍観者を気取るのですか!?」


「アートマンさん……あなたは……」


「残念ですが……我が母よ。わたしはあなたの戦いには介入しません。わたしは『世界の現状』を知る必要がありますので……このまま最後まで見届けます。あなたが創造した『世界』のもたらした結果を」



 女神アーカーシャはアートマンに救援を求めたが、アートマンはそれを拒絶した。アートマンが傍観に徹したのは、女神アーカーシャが創造した『世界』の結果を見届け為だからだ。

 そうアートマンから拒絶された女神アーカーシャは、目を見開いて絶望的な表情をした。自分を信じた騎士たちは倒され、頼みの綱であるアートマンは自分を救わなかったのだから。



「私には……私には責任がある! この世界を護る責任が!! ラストアークお母様……あなたがやっているのは復讐です!! 愚かな古代文明に義理立てして、あなたはこの世界の“秩序”を乱そうとしている……恥を知りなさい、恥を!!」



 女神アーカーシャは声を荒げてノアを罵った。自分は世界の守護者としての責任を果たしている、それを妨げようとしているノアは無責任な復讐者なのだと。

 その罵倒にノアは静かに耳を傾けていた。そして、仮面バイザーを取り外したノアは憐れみの眼を女神アーカーシャに向けていた。



「貴女が自分なりの考えで『世界』を導こうとしていたのは認めます。ですが……その為に貴女はあまりにも多くの血を流してしまった。私はそれだけは認められません……」


「我が王……」


「ハッ、血を流したですって? かつて『神託戦争オラクル・ウォーズ』で既存宗教を全て滅ぼした“悪魔”の言い分とは思えませんね、お母様! お母様だって理解している筈……大いなる秩序の為には、時には犠牲を払わねばならぬのです!」


「それを犠牲になった人たちに胸を張って言えますか?」


「あんたが『必要な犠牲』だって切り捨てた人たちだってな……必死に生きようとしていたんだ! お前が消し去った王都の人たちだって……みんな平和な明日を望んでいたんだ! 死んでいった父さんやアインス兄さんだって……」


「その犠牲をいしずえに私は平和を……!」


「平和の為の犠牲になれって言われて、それに納得して死ぬ奴がいるものか!! 誰だって、その“平和”の中で生きたいに決まっているだろう! あんたは“信仰”を盾に人を言いくるめて、犠牲を正当化しているだけだ!!」


「知ったようなくちを……!!」


「たしかに……私もかつて兵器を造って、大勢を虐殺して平和を築き上げました。そして、自分がした行為が如何に愚かかを思い知りました。だから……貴女には同じことをして欲しくないのです、アーカーシャ」


「今さらそんな事を言わないで……今さら……」



 ノアの説得に女神アーカーシャは眼を逸らして、そして『今さら……』と言葉を濁した。今さら自分のした行為を、アーカーシャ教団が行なった行為を『間違っていました』なんて言えない。そう女神アーカーシャは感じていた。

 たとえ無謬性が崩され、絶対の存在ではなくなったとしても、女神アーカーシャには『世界』を護るという矜持が残されていたのである。



「ノア、ラムダ、そんな奴、説得しても無駄よ無駄! さっさとふん縛っちゃいなさい! アーカーシャを無力化しちゃえば聖堂騎士団だって降伏せざるを得なくなるわ!」


「キルマリア様の言う通りです、ノア様」


「我が王……お願いします、アーカーシャの拘束を。この“方舟大戦”を終わらせる時です……もうこれ以上、犠牲を出す必要はない筈です!」



 しかし、どれだけ主張したところで、女神アーカーシャが危機を脱する事は出来ない。キルマリアやジブリール、そして直属の配下であるラムダの進言を受けて、ノアは女神アーカーシャの捕縛に無言で乗り出した。

 その手に拘束用の鎖型アーティファクトを転送して、ノアはゆっくりと女神アーカーシャへと歩み寄っていく。女神アーカーシャにはもはや抵抗するちからは残されておらず、近寄ってくるノアをただ睨みつけていた。



「アーカーシャ……貴女の“罪”は私が贖います。貴女を創った責任を……私は果たします。だからどうか大人して……お願いだから」


「なんですか……今さら“親”気取りですか……」


「愚かなのは私だけです……貴女も、我が騎士も、この『世界』に生きる全ての人たちは懸命に生きようとしています。だから……()()()()()()()()()()()()()。それが私の……果たすべき贖罪です」


「…………っ!? お母様……まさか!?」


「アーカーシャ……ごめんなさい。私は貴女に重い十字架を背負わせてしまいました。だから代わります……私がこの『世界』の全ての“罪”を背負い、この命を捧げます。だからどうか……私を赦してください」



 だけど、ノアはそんな女神アーカーシャに対して頭を下げて赦しを乞い、悲しみの涙を流した。意地を張って戦い続ける女神アーカーシャの想いを汲んで、それを自分の責任だと言い切ったのだ。

 そして、そこで女神アーカーシャはノアがなにをしようとしているかを悟った。ノアは自分よりも過酷な道を歩もうと決意して、その覚悟を決めている事を知ってしまったのだった。



「あら〜……駄目よ、駄目。そんなの赦されないわ。アーカーシャ様は必要なの……この『世界』にはね♡ だから殺されちゃ困るのよ……」


「今の声、カプリコーン!? まさか……!?」


「あたしを見縊って貰っちゃ困るのよ、サジタリウスちゃん。あたしを倒して勝った気になっていたの……期待を裏切ってごめんなさいねぇ♡」



 その時だった、大法廷にカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)の声が響いたのは。ウィルたちは慌てて倒れている筈のカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)に視線を向けた。

 だが、そこに倒れていたのはカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)ではなく、彼が召喚したバフォメットだった。いつの間にか入れ替わっていたのである。



「あぁ~……ようやく目的を果たしたのか、カプリコーン。おせぇんだよ……ギヒヒ!!」


「アクエリアス……君も生きて……」


「よくもおれの心臓をぶち抜きやがったな……サジタリウスゥゥ! おかげで死ぬかと思ったぜ……まぁ、半吸血鬼のおれはその程度じゃ死ねねぇけどなぁ!!」



 カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)の声が響いた瞬間、ウィルの心臓を撃ち抜かれた筈のアクエリアス(ワン)も息を吹き返した。

 不気味な人形のように仰向けのまま起き上がり、アクエリアス(ワン)は不敵な笑みを見せた。彼女は倒れている間に血を投与して、傷付いた身体の治癒をしていたのである。



「ノアちゃん、そしてラムダちゃん……動かないでね。動いたらあなたたちの大事なお仲間が死ぬわよ……うっふふふふふ♡」


「――――っ!? ルチア……ルチア!!」


「おおっと……駄目よラムダちゃん。今、この子にはあたしの魔法が施されている。下手な動きをすれば……ルチアちゃんの精神が魔法で焼けちゃうわよぉ♡」



 そして、動揺するラムダたちの前に、女神アーカーシャの盾になるように、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は転移して姿を現したのだった。意識を失ったルチアを肩に背負いながら。



「アーカーシャ様……このルチア=ヘキサグラムは、聖女ティオ=インヴィーズの娘です。そして、この子にはあなたの“器”に相応しい素質が備わっています……」


「カプリコーン……なにを言って……?」


「ヴェーダ=シャーンティの身体を捨てて、今こそ新たな“器”を手に入れる時です、アーカーシャ様。その為にルチア=ヘキサグラムを連れて来ました……どうかお納めください」



 ルチア=ヘキサグラムを女神アーカーシャの新たな“器”とし、教皇ヴェーダを解放するという自身の目的を果たす為に。

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