第970話:“天墜装甲”ネフィリム
「? ……? …………!?? な、なぜ私が……創造神アーカーシャが地に這いつくばっているの??」
――――デア・ウテルス大聖堂、大法廷にて。教皇ヴェーダを依り代に現界していた女神アーカーシャは地に這いつくばっていた。
女神アーカーシャの右腕は火傷で負傷している。魔杖を手に魔法を発動しようとした瞬間、不意に飛んできたビームによって焼かれたからだ。
「まさかとは思いますが……私を舐めていた?」
理由が分からないままに地に這いつくばった女神アーカーシャを見下しながら、ノア=ラストアークの声が響いた。
女神アーカーシャは声のする方向に向かって、困惑の表情をした。彼女の視線に立っているのはノア=ラストアークだ、他の誰でもない。ただし、その左腕にはジブリールが装備しているのと同型の荷電粒子砲が装備されている。
「たしかに……私は我が騎士とは違い、戦闘に特化した存在ではありません。どちらかと言うと……と言うより完全に技術職です」
「なのに……今のは一体……!?」
「しかし、戦えない訳ではありません。そう、具体的に言えば……私は『私だって戦える、足手まといにはならないわ!』と大口叩いて同行したくせに、結局役に立たずに敵に捕まって『主人公助けて』って言って主人公のクソデカ特大デバフになるような足手まとい系ヒロインとは違うのです」
「やけに具体的ですね……」
「そう、私は戦闘もこなせるパーフェクトヒロイン! この期に及んで戦える系ヒロインに昇格です! 目指せプレイアブル、衣装バリエーションが多くて何が悪い! 我が騎士に護られなくても自衛ぐらいできるのだ!! ノーアノアノアノア!!」
ノアは困惑する女神アーカーシャに対して自信満々のドヤ顔を披露して、『自分も戦える』と豪語している。
そして、そんなノアは宣言と共に、蒼い宝石の取り付けられた手乗りサイズのデバイスを取り出し、同時にノアの全身を謎の青い光が覆いはじめだした。それを目の当たりにした女神アーカーシャはさらに困惑の表情を強めていった。
「私を誰だと思っているのですか……貴女の開発者ですよ。そんな私が我が騎士だけを当てにして法廷に臨むと思いますか? もちろん徹底的に対策します……そして造るのです」
「まさか……戦闘用アーティファクトを!」
「そう……アーティファクトとは本来、誰もが戦える力を得るための武器! それは私も例外ではあらず……見せて上げましょう! 私の意味もない衣装パージからの、無駄に豪華な変身バンク付きの変身シーンを!!」
(それを聞いて私はどう反応すれば……?)
「いきますよ〜……起動せよ、私専用アーティファクト『“天墜装甲”ネフィリム』!! 装着!!」
そして、女神アーカーシャの目の前でノアは変身を開始した。身に纏っていた艦長服は光になって消え去り、同時に蒼いデバイスがノアの胸元に装着される。
ノアの両腕には白銀に輝く細身のガントレットが、両脚には脚の三倍の太さにも及ぶ重厚な白銀のグリーグが、胸部にはデバイスを覆う装甲が、腰部両端には浮遊する小型の鳥のようなデバイスが、その背には白く輝くエネルギー状の天使の翼が装備されていく。
「最終兵器ノアちゃん……スタ〜〜ト・アップ!!」
そして、ノアの目元には機械式バイザーが装備され、露出した素肌は白いボディースーツによって覆われた。
その変身時間、僅かコンマ07秒。女神アーカーシャが瞬きした瞬間には、さっきまで艦長服を着ていた筈のノア=ラストアークはまったく別の姿に変身していたのだった。
「これぞ私がたどり着いた結論……大破したラムダさんの歴代装甲『GSアーマー』『魔王装甲アポカリプス』から採取した戦闘データを基に設計した、妊娠初期の私でも安全かつ全力で戦えるアーティファクト!!」
(妊娠初期なら大人しくした方が……)
「その名は“天墜装甲”ネフィリム!! “天空神機”ウラヌス抜きでも戦えるように設計した、私の覚悟の証明! オリビアさんにいっぱい借金して造った私の最終兵器です!!」
その装甲の名は“天墜装甲”ネフィリム――――ノア=ラストアークが生身でも戦えるように開発した戦闘用アーティファクトである。
その装甲を纏ったノアは翼の浮力を利用して空中へと浮遊していき、その両手にアーティファクトの武装を転送して装備していく。
「この“天墜装甲”には、私が独自開発したアーティファクトがこれでもかと積み込まれています。その意味が分かりますか……アーカーシャ?」
「…………ッ!」
「貴女が如何なる攻撃をしても、私はそれに対抗したアーティファクトを展開して迎え撃てばいいのです! そして、今この瞬間、貴女に向けて使用するアーティファクトと言えば……」
「…………?」
「そう……ミサイルランチャーです」
「――――うえぇ!? なんで!?」
「アーティファクト転送、武装No.Ε:ミサイルランチャー“ワルキューレ”!! さぁ、いきますよ〜……ターゲット捕捉!!」
ノアの両腕に装備されたのは、小型サイズの六連装ミサイルランチャー二門だった。それを装備したノアはバイザーで女神アーカーシャを標的として捕らえる。
同時に、ミサイルランチャーにミサイルが十二発装填された。そのあまりにも衝撃的すぎる光景を目の当たりにして、その場に居たは思わず我が目を疑ってしまった。
そして、事態に気が付いた女神アーカーシャが立ち上がり、迎撃態勢を整えるよりも疾く――――
「ミサイル……発っっ射ァァーーーーッ!!」
「――――ッ!? 正気ですかお母様!?」
――――ノアは武装の引き金を引き、ミサイルランチャーから十二発のミサイルが撃ち出されたのだった。
ミサイルは様々な軌道を描いて女神アーカーシャヘと距離を縮めていく。女神アーカーシャは慌てて手にした魔杖に魔力を決めようとした。
「うっ、間に合わない……きゃああああ!?」
だが、先手を打ったノアの攻撃への対処が間に合わずミサイルは女神アーカーシャの目の前に着弾。凄まじい爆発が十二発分発生し、女神アーカーシャは爆風に襲われてしまったのだった。