第99話:VS. 【預言天使】ジブリール 〜Ave Maria〜
「ジブリール! いるなら出て来い、ジブリール!!」
「起動、起動、起動――――対艦戦闘用人型戦闘兵器【機械天使】……タイプ“β'”【預言天使】、起動開始。誰……弊機を呼ぶのは?」
逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】、迷宮区画最深部――――【天ノ岩戸】。夜明けとともに起こった『時間の逆行』で修復された巨大な門の前で俺はジブリールの名を叫ぶ。
そして現れるは水色とピンク色の髪が印象的な機械天使・ジブリール。
「ジブリール、俺と昨日会った事を覚えているか?」
「対象の個人情報を検索……ラムダ=エンシェント……。対象の問い掛けへの返答――――否定。弊機とあなたは此処では初対面です」
「やっぱり……こいつも『巻き戻し』の対象か……!」
「巻き戻し……? 検索――――ラストアーク博士作製の【クロノギア】による『時間逆行』と推測……」
感情無く淡々と喋るジブリール。昨日、目撃したどこか間の抜けた調子で喋ってくれればと考えたが、どうもそうはいかないらしい。
門の前でふわふわと浮かぶ天使はバイザーから覗く朱い“一つ目”を光らせて俺を凝視している。
「それで……弊機に何用でしょうか? これから日課の壁殴りをしたいのですが……」
「日課で壁を殴るな……まぁいいや、その【天ノ岩戸】の先にある旗艦『アマテラス』に入りたい――――通してくれないか?」
「アマテラスへ……? 理由を……」
幸い、ジブリールにはまだ交戦の意思は無い。今のうちに何とか話を進めないと。
「俺の大切な人……『Nobody Oblivion Ar_Hymmnosis』――――ノアが命の危機に晒されている……! 彼女を救うために『旗艦』の設備を使わせて欲しい……お願いします……!」
「ノア様……! なぜ、あなたが『最高機密』である彼女の事を……?」
ノアの名を出した瞬間に態度が軟化したジブリール――――ノアの事を『ノア様』と言っているし、これなら上手く説得出来そうだ。
ノアを連れた姉さんやオリビアたちが到着するまでの間に、門を守るジブリールを何らかの方法で排除する。それが、ひとり先行して【天ノ岩戸】まで来た俺の使命。
「頼む、ジブリール! 力を貸してくれないか……?」
「対象の要求――――受諾不可! 荷電粒子砲【ソドム】【ゴモラ】――――攻撃準備……!」
「ジブリール……!! 駄目か……」
「ノア様が弊機が保護します……! あなたは……速やかにノア様から手を引きなさい」
だが、交渉は決裂――――ジブリールは両手の銃器をこちらに向けて俺を威圧する。
排除するでも、引き返せでも無く――――ノアから手を引けと。
「それは……出来ない! 俺は彼女の『騎士』だ! 何があっても……ノアの手は放さない!!」
「分かりました――――では、死になさい! 荷電粒子砲――――発射!!」
「来い、【光の翼】……【対式連装衝撃波干渉砲】!! なら、力ずくで押し通らせて貰うぞ……ジブリール!!」
ノアを手放すなど、あり得ない。
なら、暴力をもって決着を。
ジブリールの撃ち出した白い砲撃を飛翔して躱し、俺は両手に可変銃を構える。
相手は砲撃に特化した機械天使――――何とか近接戦闘に持ち込みたいが、相手がいま手にしている武装以外に何を所持しているか見極める必要がある……まずは牽制を。
「速射――――“突風雨”!!」
「対象、【ヴァリアブル・トリガー】の装備を確認。【ルミナス・フェザー】――――発射!」
神殿の中で激しい爆発が連続して巻き起こり、ジブリールは俺の連続射撃攻撃を冷静に見極めて、翼からの光弾の弾幕で打ち消していく。
一切の感情の機微すら感じられない機械的な行動。
こんな恐ろしい【機械天使】が徒党を組んで戦争をしていたと言うのだから、ノアの古代文明は末恐ろしい。
「へぇー……ただのイキった子どもかと思ったけど、意外に冷静ですね。弊機がどんな武装を使うかつぶさに観察している……その視線、すごく厭らしいわ……!」
「生憎と、お前の同僚のアズラエルに苦戦させられたからな……悪いが、これも戦いだと思え……!!」
「アズラエル……! なるほど……いつの間にか居なくなったと思ったら……あなたに倒されたのね、あのヤンデレ天使……!」
「…………やっぱ『あの性格』もとからだったんだ……」
「うふふ……面白い、なら……あなたはさぞ倒しがいのある相手でしょうね!!」
撃ち出される白い閃光、荷電粒子砲【ソドム】【ゴモラ】――――ジブリールが装備する協力な射撃武装。
物体に電気を帯びさせ発生させた“荷電粒子”を加速させて撃ち出す超兵器――――ノアが『私が小型化に成功しました☆』と豪語した超威力の兵器だ。
当たれば『原子崩壊』とか言う小難しい現象が発生して一瞬で消滅する恐ろしい一撃必殺の武器……ちょっと欲しいな。
「【行動予測】――――回避!!」
「七式観測眼――――ノア様が造った“眼”ね……! 良いでしょう……なら、もっともーっとあなたに荷電粒子をプレゼント♪ あははははは!!」
「くそ……! アズラエルと言い、なんで【機械天使】どもはこうも頭のネジがぶっ飛んでるんだ!?」
「だって……設計時に頭のネジがちょっと余ったもん!! 弊機を造った博士が『なんか余った……?』って言ってたから間違いないわ!!」
「ほんとネジがぶっ飛んでた!?」
高笑いをしながら両手の荷電粒子砲を連続で撃ち出すジブリール。加えて翼からの光弾の弾幕……近付く隙が無い。
撃ち合いをしてもただいたずらに時間を浪費するだけだ…………まずは動きを封じる。
「固有スキル発動――――【煌めきの魂剣】!! 囲め……“蒼筵撃墜”!!」
「周囲に複数の高エネルギー反応を感知――――“量子障壁”展開!!」
ジブリールの周囲を囲むように配置した大量の“魂剣”による包囲攻撃。それに対してジブリールは自身の周りには朱い光量子による障壁を張って対抗する。
もちろん、この攻撃は相手の防御を誘うための“囮”だ――――障壁を張ったジブリールの猛攻が止んだ……今が好機だ。
「可変銃、形態変化――――対艦砲撃形態!!」
「しまっ――――ッ!?」
「――――発射!!」
「“量子障壁”――――出力最大!!」
両手の可変銃を連結しての高火力砲。これならジブリールの荷電粒子砲にも引けを取らない筈だ。
俺の放った砲撃に障壁を強く張って対抗するジブリール――――その隙を突いて、俺は手に【流星剣】を装備して突撃を開始する。
チャンスは一瞬……ジブリールが俺の砲撃を耐えきった瞬間だ。
「〜〜〜〜〜〜アァッ!! 対象の攻撃……防御に成功……“量子障壁”……損壊率95%……!」
「そこまで壊れてくれれば十分だな……」
「接近――――くっ、“受胎告知”!!」
ジブリールの目の前に接近して流星剣を振りかぶる俺と、荷電粒子砲から手を放して胸に輝く動力炉に手を当てる天使――――
「来なさい……斬砲撃武装【アヴェ・マリア】!!」
「――――杖ッ!?」
――――その戦いは、さらなる領域へと突入していく。
俺の斬撃を防いだのは一本の白い『杖』――――先端に朱い宝石をあしらった砲撃機構を、下部に斬撃用の刃物をあしらったジブリールのもう一つの武装。
それを扱うはジブリールのもう一つの姿――――先程までの水色の配色が多かった髪は鮮やかなピンク色を多く配しはじめ、“一つ目”が印象的だったバイザーは眼の可動域全面に碧い光が灯るように変化している。
「これが、ノアの言っていたジブリールのもう一つの形態……!!」
「白兵戦用人型戦闘兵器【機械天使】……タイプ“β”【神の左方】――――起動開始!! さぁ、ここからが第二回戦です――――ラムダ=エンシェント!!」
「上等だ……!! ジブ……ガブ……?? ジブリエル!!」
「名前混ざった!?」
相対するはジブリールのもう一つの姿――――ガブリエル。杖型の武装【天使祝詞】を操る機械天使。
旗艦『アマテラス』を守り続ける孤独な天使。
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