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第958話:眷属


「うっそ、吸血鬼ヴァンパイアの眷属になる気なの!?」

「テメェ正気か、サジタリウス!?」



 ――――アクエリアス(ワン)とカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)が驚愕する目の前で、吸血鬼の契約は交わされる。

 キルマリアはウィルの首筋に噛みつき血を啜り、血を啜られるウィルの絶叫が大法廷に響き渡る。



「ほう……自らの矜持を示すために、人間を辞めて魔族の眷属に堕ちる事も辞さないのですか。ウィル=サジタリウスさん、あなたはお持ちのようですね……“人間”として在るよりも大切なものが……」


「ぐっ、うぅ……あぁぁ!」


「ウィル=サジタリウス、あなたはキルマリア=ルージュさんの眷属になる事で“信仰”を見出そうとしている……それは、“神”への信仰を失ったあなたが、別の何かを信仰しだした証。ノア=ラストアークさんの言う通り……真に必要なのは“信仰”だと言うのでしょうか?」



 アートマンはウィルの覚悟をただ見つめていた。血を吸われ、代わりにキルマリアの血を体内に混入されたウィルの身体には異変が起こっていた。

 ウィルの眼は紅く染まり、血管は飛び出しそうなほどに浮き出て、腹部にできた傷がみるみる内に再生していく。



「マズいわ……すでに変異が起きている!」

「チィ……サジタリウスのバカ野郎が……!!」



 吸血鬼ヴァンパイアの隷属、それは契約を交わした人間が吸血鬼ヴァンパイアに永遠の忠誠を誓わされる術式である。

 吸血鬼ヴァンパイアの権能の一部を得る代わりに、あるじへの絶対遵守を強制される。それがウィルが臨んだ血の契約である。



「アクエリアスちゃん、契約が終わる前に……」

「潰すに決まってんだろ! 死ねキルマリア!」



 変化していくウィルに嫌な予感を感じたアクエリアス(ワン)は戦斧を振り上げてキルマリアへと襲い掛かる。彼女さえ殺せば、契約を白紙にできると知っているからだ。

 一歩、大きく踏み込んでアクエリアス(ワン)はキルマリアの頭蓋に向かって戦斧を振り下ろした。だが、キルマリアは一切振り向くことはせず、ただウィルの血を吸い続けていた。



 だが、振り下ろされた戦斧はキルマリアに届くことはなかった――――


「…………させないよ、アクエリアス……」

「――――んな!? おれの戦斧が片手で!?」


 ――――差し出された男の左手が戦斧を軽々と受け止めていたのだから。



 アクエリアス(ワン)の戦斧を受け止めたのはウィルで、その手は真っ赤な鮮血の鎧で覆われていた。がっしりと掴まれた戦斧はビクともせず、アクエリアス(ワン)は身動きが取れずにいた。

 そして、アクエリアス(ワン)の目の前で、キルマリアを抱いたままウィルがゆっくりと立ち上がる。凄まじい握力で戦斧の刃にヒビを入れながら、紅く染まった瞳を光らせて。



「テメェ……この裏切り者がぁぁ……!!」

「それは悪かったね。謝るよ……」



 キルマリアの眷属になった事で、ウィルは復活を果たしていた。カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)に付けられた傷はすでに癒え、破裂した臓器の修復も完了している。

 加えて、ウィルの首筋、キルマリアに噛まれた箇所には薔薇バラを模した紅い“紋章エンブレム”が刻まれていた。それこそがキルマリアの眷属になった証となる術式である。



「僕が信仰するのは……もう“神”じゃないんだ」

「テメェ、そんな戯言が許され……ぐおぁッ!?」



 キルマリアの眷属に堕ちた事をアクエリアス(ワン)は罵った。ウィルはそれに対して悪かったと詫びつつも右手の狙撃銃を取り出し、真紅に染まった血の弾丸を撃ち出してアクエリアス(ワン)の胸部を撃ち抜いた。

 弾丸は寸分のズレもなくアクエリアス(ワン)の心臓を撃ち抜いた。急所を撃たれたアクエリアス(ワン)は戦斧から手を離しながら吹き飛ばされ、そのまま大法廷の床に倒れて転がった。



「あっ……ぐぅぅ……!?」

「アクエリアスちゃん!?」


「カプリコーンさん、あなたがアーカーシャ様に救いを見出したように、僕はキルマリアちゃんに救いを見出した。だから……もう僕に“神”は必要ないんだ」


「それ……本気で言ってるの、サジタリウス?」


「キルマリアちゃんと一緒にいると……退屈しなくてね。それに……ほっとけないんだ。異常に自意識過剰で、過剰に高慢ちきで、誰も居ない古城でひとり女王様をしているキルマリアちゃんを……」


「もしかしてわたし、貶されているのでは?」


「だから……僕はキルマリアちゃんの側に居たいと思うんだ。キルマリアちゃんが必要だと言うのなら、僕は側に居る。神への“信仰”よりも大切なものを……僕は見つけてしまったんだ」


「それが……あなたの答えね、サジタリウス」



 もはや、ウィルは格下の相手ではない。そう感じたカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)はウィルを睨みつけた。キルマリアの眷属になった事でウィルは負傷前よりも強くなっていると確信したからだ。



「バフォメットちゃんたち、遠慮は要らないわ……サジタリウスたちから始末なさい。機械天使ティタノマキナはあたしが抑えるわ」


「フシュルルルルル……!!」


「ジブリールちゃん、カプリコーンさんを抑えておいて。僕たちでバフォメットたちを無力化するよ。そっちは任せた……」


「承知しました、ウィル様……」


「はっ、不死身の怪物であるバフォメットちゃんを倒せると思ってるのかしらーーッ!! ならやってみなさい……バフォメットちゃん、あたしが命じるわ! “神”の敵を倒しなさい!!」



 カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)はウィルたちの撃破を命じ、命令を受けたバフォメットたちは一斉にウィルたちに飛びかかった。

 それに対して、ウィルは右手に握った狙撃銃を構える。三十匹のバフォメットに対して、たった一丁の狙撃銃を。



「キルマリアちゃん……弾丸をお願いできる?」

「それぐらいお安い御用よ……しっかり決めなさい」



 ウィルの願いを聞き入れたキルマリアは狙撃銃に手を添えて、自身の血を弾丸代わりにして狙撃銃に装填する。

 ウィルは両眼を紅く光らせ瞬間、彼の目の前には何十個にも及ぶ極小の照準のような紅い魔法陣が出現した。その魔法陣をバフォメットたちに向けて、ウィルは静かに狙撃銃の引き金に指を掛ける。



 そして、ウィルが引き金を引いた瞬間――――


「薔薇のいばらよ、敵を拘束せよ!」

「撃ち抜け――――“血薔薇ノ魔弾ブラッドローズ・バレット”!!」


 ――――銃口と魔法陣から放たれた紅い弾丸がバフォメットたちを撃ち貫いた。



 魔法陣からは狙撃銃から撃ち出されたのと同等の魔弾が放たれ、狙撃銃の射線上にいないバフォメットたちを撃ち抜いた。

 そして、着弾と同時にバフォメットたちの銃創じゅうそうからはあるものが出現した。それは血を滴らせた紅い薔薇、キルマリアが好んで術式に組み込む“血の薔薇”である。



「なっ……なによ、これ……!?」


「植え付けた相手の血を吸い成長する魔界マカイの薔薇よ。これを植えられた相手は干からびるまで血を吸われる……いばらで拘束して相手を動けなくしてね……」


「そ、それをサジタリウスが使ったっての……」



 “血の薔薇”はいばらでバフォメットたちを拘束して動けなくし、一方的に血を吸い始めた。血を吸われたバフォメットたちは数秒で干からび、倒れるたびに再生し、また血を吸われるループに陥ってしまった。



「ぐっ……不覚。このあたしが……こんな……」



 そして、その“血の薔薇”はカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)をも蝕んでいた。ウィルが狙撃銃から放った弾丸はカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)を撃ち抜いていたのだ。

 いばらで抵抗できないように拘束され、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は“血の薔薇”にどんどんと血を抜き取られていく。



「う、うふふっ……どうやら、光導騎士の立場に胡座を掻いていたようね、あたしたち。サジタリウスちゃん、認めるわ……あなたは別の道に行って、あたしたちよりも強くなったようね」


「そうだと願っています……」


「けど、覚えておきなさい……あたしたちは間違えていないわ。そして、あたしたちはまだ負けを認めていない……“神”への信仰は負けないわ。うふふ、うふふふふふ!」


「カプリコーンさん……」


「今ごろ……あたしのバフォメットちゃんが“器”を迎えに行っているわ。ヴェーダちゃんに代わる、新しいアーカーシャ様の“器”を。それさえ手に入れば、あたしの“信仰”は守られるわ……うふふ、あっはははははは!! うぐっ……!?」



 それでも、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は最後まで虚勢を張りつつ、意味深な発言をウィルたちに残した。

 そして、“血の薔薇”に血を抜き取られたカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は最後に高笑いをして、バフォメットの姿のままその場に倒れたのだった。

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