第956話:狩られる者たちの逆襲
「ギヒヒ、ギハハハハハ!!」
「うふふ……さぁ、いくわよぉ!!」
――――ジブリールから撃ち出された光弾が降りそそぐ中、アクエリアスⅠとカプリコーンⅩⅡはウィルたちに向けて攻撃を仕掛けた。
竜人に変身したアクエリアスⅠはキルマリア目掛けて、カプリコーンⅩⅡはウィルに向かって鞭を振るう。それを二人は冷静に、そして集中して見極めていた。
「弾丸装填……狙い撃つ!」
「――――おっと、やるわね」
音速を超える速度で迫る鞭を、ウィルは正確に狙撃して弾き飛ばした。優れた視力、そして狙撃の技術を持つウィルのなせる芸当である故に、カプリコーンⅩⅡは感嘆の声をあげた。
「死ね……キルマリアァァ!!」
「はっ……純血の吸血鬼を舐めないで!!」
そして、キルマリアはアクエリアス《ワン》が振り下ろした戦斧による一撃を、血を纏わせて放った両手を振り抜いて放った爪による斬撃で防いでいた。
「キルマリアちゃんから離れろ、アクエリアス!」
「――――チィ! サジタリウスの分際で」
ウィルはすかさずアクエリアスⅠに向かって銃弾は発射、アクエリアスⅠは咄嗟に血の盾で頭部を狙った弾丸を防いで大きく跳躍した。
「この竜の力で押し潰してやる!」
そのままアクエリアスⅠは空中で羽ばたき、血の摂取で得た竜人の翼を素早く羽ばたかせて始める。
翼には風を帯びた魔力が集束し始める。その風をウィルたちに向かって叩き付ける事で動きを封じようと考えていた。
「腕部換――――“シューティング・バスター”」
「――――うっ!? 邪魔すんな!」
しかし、アクエリアスⅠの動きを察知したジブリールによる妨害が入った。ジブリールは両腕の装甲を変形させて、両手を砲撃機構に換装すると、アクエリアスⅠに向かって無数の光弾を拡散させながら発射した。
ジブリールから撃ち出された弾幕を見たアクエリアスⅠは攻撃を中断、戦斧を振り回して光弾を防ぐことに専念する羽目になってしまった。
「カプリコーン!」
「分かってるわよ……バフォメットちゃん!」
だが、アクエリアスⅠへの妨害にジブリール動いた事で、バフォメットたちへの攻撃の手は緩んでしまった。
その隙を突いたカプリコーンⅩⅡは使い魔であるバフォメットに突撃を命令、バフォメットたちは掌に魔力を集束させ、ウィルたちに向かって魔力による光弾を一斉に放ち始めた。
「キルマリアちゃん、仕掛けるよ!」
「分かったわ、おぉぉ――――“血ノ群像撃”!!」
ウィルは光弾を狙撃銃による最大限の速射で撃ち落としていく。
そして、ウィルの指示を受けたキルマリアは術技を行使、無数の蝙蝠に分裂変身して大法廷内を覆うように飛び交い始めた。
「なんだこれ、鬱陶しい……!?」
「吸血鬼らしい姑息な技ね!」
無数の蝙蝠は縦横無尽に飛び回り、アクエリアスⅠたちを撹乱する。視界を遮られ、動きを封じられたアクエリアスⅠたちは苛立ちの声をあげた。
「アクエリアスちゃん、分裂したとは言えキルマリアはキルマリアよ! 分裂した蝙蝠を叩き潰せば、その分キルマリアはダメージを負うわ!」
「それもそうか……なら潰す!!」
「あっ、待ちなさい……ぐえっ!? ちょっとウィル、わたしが身体張ってんだから、あんたも動きなさいよ!! わたしの分体である蝙蝠が潰されてんのよ……あっまた、んぎゃ!?」
「あっ、すいません……誤射っちゃいました」
「ジブリール、あんたなんてことしてくれんのよ! この子はわたしよ、高貴なるレディ・キルマリア様が変身した蝙蝠なのよ! もっとよく狙って攻撃を撃ちなさい!」
キルマリアが変身した蝙蝠は全て、キルマリアの分身体である。故に蝙蝠を潰されるごとにキルマリアはダメージを負っていく。
それを把握したアクエリアスⅠとカプリコーンⅩⅡは闇雲に攻撃を繰り出し、分散した蝙蝠を一気に刈り取り始めた。
「聖なる光よ、悪を浄化せよ! 上級光魔法“ホーリー・レイ”!!」
カプリコーンⅩⅡは詠唱を唱え、指先を“魔杖”に見立てて魔法を行使、大法廷の頭上に展開した魔法陣から光の雨を降らせ始めた。
キルマリアの蝙蝠が光に撃ち抜かれて消滅していき、同時にダメージを負ったキルマリアの悲鳴が響き渡る。
「カプリコーン!!」
「ふん、あたしに狙撃は効かないわよ!」
ウィルは急いでカプリコーンⅩⅡに対して狙撃を敢行したが、カプリコーンⅩⅡは素早く鞭を振るいウィルが撃ち出した弾丸を全て撃ち落としていた。
だが、攻撃を防がれたにも関わらず、ウィルは表情一つ変えなかった。そのポーカーフェイスに違和感を覚えたカプリコーンⅩⅡは僅かに周囲に意識を向ける。
そして、カプリコーンⅩⅡが警戒したとおり、彼の背後に蝙蝠の群れが集結し――――
「あんたの血……いただくわ!!」
「――――レディ・キルマリア!?」
――――カプリコーンⅩⅡの背後に、大きく口を開けて鋭い犬歯を光らせたキルマリアが姿を現した。
そう、キルマリアは無数の蝙蝠に分裂してカプリコーンⅩⅡたちを撹乱し、隙を突いて背後から奇襲しようとしていたのだった。
背後を取ったキルマリアはカプリコーンⅩⅡの首元目掛けて噛み付こうとする。吸血が決まればキルマリアは大きなアドバンテージを取れるからだ。
「そう簡単に血は吸わせない……わよッ!!」
「えっ、肘打ち……んぐえっ!!?」
しかし、ウィルの反応からキルマリアの奇襲を読み取ったカプリコーンⅩⅡはキルマリアの出現と同時に背後に向かって肘打ちを決め、キルマリアの左頰にカプリコーンⅩⅡの肘が思いっきりめり込んだ。
「乙女の血を吸うなんて……無粋ね!!」
「あんた男でしょ……んぎょえっ!?」
そして、肘打ちを喰らって仰け反ったキルマリアに向かって、カプリコーンⅩⅡは素早く身を翻しながらハイキックを見舞い、今度は右頬に蹴りを喰らったキルマリアはそのまま蹴り飛ばされた。
「今だ……狙撃!!」
「しまっ、陽動……ぐっ!?」
しかし、キルマリアが返り討ちに遭うのはウィルの想定の範囲内だった。キルマリアが蹴飛ばされると同時にウィルは狙撃銃の引き金を引き弾丸を発射。
狙撃に気がついたカプリコーンⅩⅡは身を捩って回避を試みたが、弾丸は彼の左肩を撃ち抜き、カプリコーンⅩⅡの左肩は引きちぎれるように切断されたのだった。
「チィ……油断しやがって、あの馬鹿が!」
狙撃されて吹き飛ばされたカプリコーンⅩⅡを見て、アクエリアスⅠは報復を考えた。懐から他種族の血の入ったアンプルを取り出して自己強化を図ろうとしたのだ。
「アレ……アンプルが無ぇ?」
しかし、アクエリアスⅠが懐を弄っても、血の入ったアンプルは無かった。
開戦時、彼女は十数本の血液アンプルを所持していた。使用したのはその内の二本だけ。なのに、すでにアンプルが手元から消えていたのだ。
「キキキ……!!」
「あっ、テメェクソ蝙蝠! おれのアンプルを」
そして、その原因をアクエリアスⅠはすぐに特定できた。キルマリアの分身体である蝙蝠たちが彼女の懐に忍び込み、隠していたアンプルを盗み取っていたのだ。
蝙蝠たちはアクエリアスⅠにアンプル見せびらかすと、そのままアンプルを開栓して血を飲み干してしまった。
「あっ、テメェ……よくも! うっ……!?」
その瞬間、カプリコーンⅩⅡに蹴り飛ばされたキルマリアから恐ろしい魔力が迸ったのをアクエリアスⅠは感じ取った。
そう、彼女は理解したのだ、自身が自己強化に血を用いているのは、吸血鬼の呪いはあってこそだと。ならば、その吸血鬼の純血種であるキルマリアも同じことができるのだと。
「よくもわたしの顔面に二発もブチ込んでくれたわね、光導騎士! この世界一の美貌を持つレディ・キルマリア様に傷を付けたこと……後悔させてあげるわ!!」
「最初からおれのアンプルを狙って……!!」
「くっそ不味い血の提供ありがとう。おけげ様で……肩こりが治ったわ。じゃあお礼に……あんた等のその腐った性根を叩き直してあげるわ! このレディ・キルマリア様がねぇ!!」
「性根が腐っているのはキルマリア様では?」
「うるさいわよジブリール!!」
「なんにせよ……上手くいったみたいだね。さぁ、ここからが反撃だよ! おじさんたちもただやられるだけの雑魚じゃないってとこ……たっぷりと見せてあげようじゃないか!」
血を吸ったキルマリアは体力を回復させて元気よく立ち上がった。こうして、カプリコーンⅩⅡに大ダメージを与え、アクエリアスⅠから自己強化のアイテムを奪い、ウィルたちは形勢逆転する事に成功したのだった。




