第955話:乱戦の法廷
「キルマリアちゃん、援護をお願い」
「オッケー! わたしに任せなさい」
――――カプリコーンⅩⅡによって召喚されたのは山羊の魔人バフォメット。倒された聖堂騎士の肉体を乗っ取った悪魔たちは奇声をあげながらウィルとキルマリアへと飛び掛かっていく。
「弾丸精製……狙い撃つ!!」
「血の散弾、爆ぜろ――――“血ノ飛沫”!!」
ウィルが狙撃銃から放った弾丸がバフォメットの脳天を撃ち抜き、キルマリアが両手を交差するように振って指から放った血の散弾がバフォメットを蜂の巣にして、次々と悪魔たちは返り討ちにされていく。
「倒したら元の人間に戻んのね!」
ウィルたちに倒されたバフォメットたちは黒い霧になって霧散し、憑依されていた聖堂騎士へと姿が戻っていた。
それを見てキルマリアは『バフォメットを倒せば憑依が解除される』と考えた。しかし、ウィルの表情は固く、相倒するカプリコーンⅩⅡは不敵な笑みを浮かべていた。
「残念だけどキルマリアちゃん……」
「バフォメットちゃんはあたしが居る限り何度でも復活するわ♡ さぁ、バフォメットちゃん、まだまだ働きなさい!」
「げっ……また聖堂騎士がバフォメットに!?」
バフォメットは倒しても復活する。カプリコーンⅩⅡが憑依が解除された聖堂騎士を鞭打った瞬間、黒い霧が再び聖堂騎士を覆い、瞬く間にバフォメットへと変化して起き上がった。
「グォォオオオオオオオッ!!」
「ええい、先にあのカマ野郎を倒さなきゃならないっての!? ちょっとウィル、さっさとあいつを撃ち抜きなさいよ!!」
「おじさん狙撃手だし……乱れ撃ちは苦手で……」
バフォメットたちはウィルたちを取り囲んで襲い掛かる。ウィルは狙撃銃から弾丸を放つか狙撃銃を振り回して、キルマリアは魔力を纏わせた薙ぎ払いで応戦していた。
しかし、倒した側からバフォメットたちは復活していく。攻撃を受けて憑依が解除された聖堂騎士が床に倒れる前に、カプリコーンⅩⅡの術式が聖堂騎士をバフォメットに再変身させる。
「苦戦してるわねぇ、サジタリウスちゃん。まっ、弓兵……今は狙撃銃かしら? 狙撃に特化したあなたは集団戦は苦手よね。そして……アッハ♡」
「――――ッ! キルマリア!!」
「――――ッ!? きゃあ!?」
「もちろん……あたしも攻撃に参加するわよぉ♡ うふふ……レディ・キルマリアを狙ったあたしの鞭、撃って弾くなんて流石ね、サジタリウスちゃん。あたし感動しちゃったわぁ♡」
ウィルたちを攻め立てるのはバフォメットや顕在の聖堂騎士たちだけではない。軍勢を指揮するカプリコーンⅩⅡ自身も鞭を振って攻撃の加わっていた。
キルマリアに向けてカプリコーンⅩⅡが鞭を振るい、それに対してウィルは射撃で応戦。キルマリアの目前で鞭の先端と弾丸が衝突し、激しい衝撃がキルマリアを仰け反らせた。
「あ、ありがとう……ウィル」
「どういたしまして」
「ふぅ~ん、咄嗟になったらレディ・キルマリアを呼び捨てにするのね、サジタリウスちゃん。いつからそんなに仲良くなったのかしら♡」
「教える義理はないよ、カプリコーンさん」
「失踪してからの二十年、どこで何をしていたかは知らないけど……少しは“男”の顔になったようね、サジタリウスちゃん。うふふ……その気概を大聖堂で見せていたら、リブラちゃんもあなたになびいたのにねぇ」
「さぁ、どうでしょうね……」
「ハッ、よぉく聞きなさい、カマ野郎! ウィルはわたしの虜になってんの! こいつはもうあんたの玩具でもなんでもない……わたしの眷属よ!! わたしの方が“女”として魅力的なのよ……バーカ、アーホ、ザーコ!」
「眷属になった覚えはおじさんないけど……」
「そう……嫉妬しちゃうわねぇ。じゃ、あなたを滅して、サジタリウスちゃんは強引に奪わせて貰うわね、レディ・キルマリア。バフォメットちゃん、キルマリアを優先で狙いなさい!」
カプリコーンⅩⅡは鞭を振るいながら、巧みにバフォメットを使役してウィルたちを追い詰めていく。
ウィルとキルマリアは連続して放たれる鞭を防ぎつつ、攻撃をばら撒いてバフォメットたちをなんとか退けつついた。
だが、そんな二人を襲い影がもう一人――――
「キルマリア様、後ろにご注意を!」
「キルマリア……おれが殺す!!」
――――キルマリアの背後に迫っていた。
ジブリールに注意を促されて背後を確認したキルマリアが目撃したのは、戦斧を振りかざした仮面の少女。血を飲んで竜人ヘと変身したアクエリアスⅠの姿だった。
ジブリールに吹き飛ばされたアクエリアスⅠは体勢を立て直す際にアンプルに入った血を飲んで変身し、ジブリールの意表を突くようにキルマリアへと襲い掛かっていた。
「なっ……このタイミングで!?」
「あなたの相手は……この弊機のはず」
カプリコーンⅠがキルマリアに向けて戦斧を振り下ろした瞬間、上空から急降下したジブリールがキルマリアたちの間に割り込んで杖を振り上げて戦斧を防いだ。
「――――チィ!!」
「この……あっちいけ!」
ジブリールに守られたキルマリアはくるりと身を翻して回し蹴りを放ち、ジブリールが受け止めた戦斧を蹴り飛ばしてアクエリアスⅠを吹き飛ばした。
「ジブリールちゃん、援護射撃をお願い!」
「承知しました……“ルミナス・フェザー”!」
その直後、ウィルはジブリールに援護射撃を要請、ウィルの意図を組んだジブリールは数メートル飛び上がるとバフォメットたち目掛けて翼からの光弾による掃射を行なった。
「あら、いけない天使ちゃんね……」
「させるか――――“血ノ雷撃”!!」
「……っと! 無粋ね、レディ・キルマリア」
バフォメットを頭上から斉射するジブリールに対して、カプリコーンⅩⅡは鞭を撓らせて迎撃を試みた。しかし、キルマリアは咄嗟に指先から電撃を放って援護射撃を行ないジブリールを庇う。
カプリコーンⅩⅡはキルマリアが放った電撃を魔法の盾で防ぎ、キルマリアに対して少しだけ敵意の籠もった表情を見せる。
「キルマリアちゃんには手出しさせないよ!」
「――――ッ! サジタリウス……テメェ!」
同時に、ウィルはアクエリアスⅠに向けて銃弾を一発発射、弾丸を肩に受けたアクエリアスⅠは大きく仰け反り、ウィルを仮面越しに睨みつけた。
「このままじゃ、あのジブリールって子にあたしのバフォメットちゃんを逐一潰されそうね。アクエリアスちゃん、さっさとサジタリウスちゃんとレディ・キルマリアを大人しくさせるわよ」
「ギヒヒ……おれぁキルマリアを殺るぜェェ!」
「おおっと……キルマリアちゃん、どうやら選手交代のようだ。乱戦らしくなってきたね……アクエリアスさんに狩られないように気を付けなよ」
「言われなくての大丈夫だっての!」
「山羊型の召喚獣は弊機が抑えます。ウィル様とキルマリア様はなんとかこの場を凌いでください」
ジブリールがバフォメットと聖堂騎士を抑えた事で、戦況は互角になった。しかし、ウィルとキルマリアは光導騎士のツートップに狙われる事になってしまった。
そして、カプリコーンⅩⅡが大きく鞭を振りかざすと同時に、アクエリアスⅠが竜の翼を大きく羽ばたかせて二人に突撃してきたのだった。




