第947話:VS.【天雷の雄牛】タウロスⅣ⑥ / 〜最後の一騎打ち〜
「くっ……この雷の矢、抜けねぇ……!」
「無駄だよ、もう君はおしまいなのさ!!」
――――雷の矢を受けて地上に落下していく俺を踏み潰そうと、“牡牛”の脚と化した巨大な稲妻の鉄鎚が落ちてくる。
鉄鎚は俺の身体に刺さった矢に誘導されている。回避は極めて困難だ。
(身体に刺さった矢が抜けない。刺さった矢が演算の邪魔をして“量子転移”もできない……どうする? このままでは踏み潰されるだけ……あの出力の雷を喰らって無事である保証はない……)
身体に刺さった矢のせいで俺は身動きを制限されていた。このまま手をこまねいていては鉄鎚をまともに喰らって倒されるだけだ。
(動くのは手脚だけ……それで逆転の糸口を見つけなければ。落下先は……大聖堂の西鐘楼の近く。タウロスめ……俺を大聖堂の結界と鉄鎚で挟み込んで潰す気だな!)
落下地点はデア・ウテルス大聖堂の西側鐘楼、タウロスⅠⅤは俺を大聖堂を守る結界と鉄鎚で押し潰すつもりなのだろう。
つまり、俺は鉄鎚の対策をしつつ、大聖堂の結界を砕く算段をしなければならない。
(あの鉄鎚を打ち消すのは……不可能じゃないがタウロスの邪魔が絶対に入る。それに時間も足りない。結界の一部に切り込みを入れて大聖堂に飛び込むか……いいや、そんな事をしても鉄鎚が割れた結界を壊して俺を追ってくるだけだ……)
思考を高速で回転させて、俺はこの状況を打破する方法を考える。大聖堂に落下するまで時間は数十秒しかない。俺はあらゆる可能性を視野に入れ、脳みそをフル回転させて思考を張り巡らせた。
(そうだ……タウロスの装着しているアーティファクトは間違いなく耐電の性質を有している。それを俺の固有スキルで修得できれば鉄鎚から繰り出される雷撃を多少は耐えられる筈だ……)
そして、俺はある可能性を思い付いた。それはタウロスⅠⅤが装着するアーティファクト『ゼウス』の性質を利用する事だ。
電撃を得意とするタウロスⅠⅤの合わせて設計されたアーティファクト、故に彼が纏う装甲には強力な電気への抵抗力を持つと考えたのだ。そして、俺の固有スキルならアーティファクト『ゼウス』の性質を修得する事が可能だと考えた。
(一か八かの賭けだが……やるっきゃない!)
この予想が当たっているかは分からない。仮に予想が当たっていたとして、その先も困難が立ちふさがっている。けれど、このまま何もしないよりはマシだ。
覚悟を決めた俺は魔剣を柄頭を掌で覆うように握りなおし、魔剣の切っ先をタウロスⅠⅤへと向ける。
そして、俺はタウロスⅠⅤ目掛けて――――
「なにをする気だ……」
「ぶっ飛べ――――“超電磁魔剣砲”!!」
「……って、魔剣を撃ち出しただと!?」
――――魔剣を超音速で撃ち出した。
“ズドン”と爆音を響かせながら撃ち出された魔剣は初速から音速を超え、タウロスⅠⅤへと迫っていく。タウロスⅠⅤも予想外の攻撃に反応が遅れたのか、回避行動を取れずにいた。
「くっ、舐めるな……“電磁障壁”!!」
しかし、流石はアーカーシャ教団が誇る光導騎士、タウロスⅠⅤは迫りくる魔剣に反応して間一髪、電磁障壁を展開しての防御に成功していた。
電磁障壁に阻まれて、魔剣がタウロスⅠⅤの目前で停止する。障壁からは激しい放電が放たれて、タウロスⅠⅤの動きが空中で静止した。
「今だ、光量子展開射出式超電磁左腕部――――射出!!」
「なっ、なにをする気だ……ラムダ=エンシェント!?」
それこそが俺の罠だと気付かずに。電磁障壁を展開している間、タウロスⅠⅤの機動力は極端に低下、その場からほとんど動けなくなってしまう。
その隙を突いて、俺は左腕を分離してあるものを目掛けて撃ち出した。当然、障壁展開中のタウロスⅠⅤは俺の左腕を止める事はできない。
「あれは……切断された僕の腕! まさか……!?」
狙うのは空中で落下しつつあった、装甲を装着した少年の切断された右腕――――タウロスⅠⅤの右腕だ。
空中から叩き落される直前、俺が魔剣で切断したタウロスⅠⅤの腕。それを俺は利用する事を考えた。
何故なら、あの腕は切り落とされた時点で――――
「僕の装甲の性質を利用する気か……!」
「固有スキル【ゴミ拾い】――――発動!!」
――――捨てられた『ゴミ』と化したのだから。
俺が女神アーカーシャから授けられた固有スキル【ゴミ拾い】は『ゴミ』を拾えば、その所有権を得た上で蓄積された術式や熟練度などを修得できる性質を持つ。
「アーティファクト『ゼウス』の構造……修得。“機神装甲”へフィードバック……耐電性質、再現!!」
「お、お前ぇぇ……!!」
「残念……腕を切り落とされたのが運の尽きだったな! これでテメェの鉄鎚は怖くねぇ! 無駄撃ちだったな……タウロス!!」
固有スキルの効果で得た耐電性質を自分の装甲へと付与していく。純白の装甲に紫電を模した紋様が施されて変化していく。
同時に、胸部に刺さった雷の矢にも痛みを感じなくなった。矢そのものこそ除去できていないが、俺の肉体も耐電性質を得たからだろう。
「くそ……僕とした事が迂闊……!!」
俺が鉄鎚を対策したのを目の当たりにして、俺に煽られて、タウロスⅠⅤは焦燥感を露わにしていた。
直接仕留めようと考えたのだろう。タウロスⅠⅤは電磁障壁を解除して俺目掛けて突撃しようとしていた。
「油断大敵……貫け、魔剣ラグナロク!!」
「なっ、まだ勢いが生きて……ぐっ、ガァァ!?」
そして、タウロスⅠⅤが電磁障壁を解除した瞬間だった、障壁に阻まれていた魔剣が勢いを取り戻してタウロスⅠⅤの胴体に突き刺さったのは。
そう、魔剣ラグナロクは電磁障壁に阻まれただけで、完全には勢いを殺していなかった。そして、タウロスⅠⅤが障壁を解除した瞬間に再び勢いよく飛んだのだ。
「あっ……ぐぅぅ……! こんな……馬鹿なぁぁ……」
魔剣に貫かれたタウロスⅠⅤは苦悶の表情を浮かべている。明らかに致命傷だ、これでタウロスⅠⅤの絶命は確定した。
だが、すぐに死ぬ訳ではない。致命傷を負いながらも、タウロスⅠⅤは“角”に電撃を溜めて俺を攻撃しようとしていた。
「さぁ、これで最後だ……俺と最後の一騎打ちをしようじゃないか、タウロス! さぁ、喰らい付け、光量子展開射出式超電磁左腕部!!」
「なっ、なにを……離せ……うわっ!?」
「こっちに来い、タウロス! そして一緒に“神”の鉄鎚とやらを味わおうじゃないか! ふっ、ふふふっ……あっははははははははッ!!」
しかし、致命傷を負ったタウロスⅠⅤの動きは鈍かった。その隙を突いて俺は切り離していた左腕を再点火して飛ばし、意識が散漫になっていたタウロスⅠⅤの首を死角から掴んだ。
俺は左腕を自分の元へと手繰り寄せ、そのままタウロスⅠⅤを目の前で拘束した。左手で彼の首を掴み、右手で魔剣を握り締めながら。
「どっちが先に死ぬか勝負だ……タウロスゥゥ!!」
「やめろ……離せ……ぐっ、あぁぁ!!?」
俺は身体を反転させてタウロスⅠⅤを地面側に向けると、そのままタウロスⅠⅤをデア・ウテルス大聖堂の結界に叩き付けた。
魔剣がタウロスⅠⅤの身体をより深く貫き、同時に貫通した魔剣が大聖堂の結界に傷を付けてヒビを入れる。これで鉄鎚を受ければ大聖堂の結界は粉々になるだろう。
「ラムダ=エンシェント……お前はァァ!!」
「悪いな……俺にだって譲れない矜持ってもんがあるんだよ。我が王を“未来”に送り届ける為に……俺はお前を殺す! さぁ、タウロス、どっちが勝つか“神”に祈りなッ!!」
「この僕が……こんな所で負けるかァァ!!」
そして、俺が魔剣を強く握り、タウロスⅠⅤが最後の放電を放った瞬間、俺の背中に“牡牛”の脚と化した鉄鎚が直撃し、激しい放電と共にデア・ウテルス大聖堂の結界は粉々に砕けて消滅したのだった。