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第945話:VS.【天雷の雄牛】タウロスⅣ④ / 〜その信念を刃に乗せて〜


「ぐっ……!? あ~、身体が痺れる……」



 ――――気が付いた時、俺は民家の中で壁にめり込んでいた。外壁を突き破り、そのまま室内の壁に激突したのだろう。

 全身に駆け巡る電撃の痺れの他に、背中に猛烈な痛みが走っていた。どうやら相当な勢いで壁に叩きつけられたらしい。



「タウロスと……俺の下半身は何処にいった?」



 衝撃波が発生した時に反対側に飛ばされたからか、タウロスⅠⅤ(フォー)の姿は見えない。同時に、吹き飛ばされた瞬間に分離していた俺の下半身も見当たらなかった。



「左腕以外ナノマシンに換装したからって馬鹿みたいな芸を考えるんじゃなかった。俺の下半身は何処だ……?」



 めり込んだ壁から離れ、空中を浮遊しながら俺は息を整えて体勢を整える。魔剣は左手に握られている、下半身も消し炭にされた気配はない。

 なら、タウロスⅠⅤ(フォー)が再び攻めてくる前に下半身を元に戻して体勢を整えるべきだろう、と俺は考えていた。



「――――っ!? これは……微弱な放電……?」



 だが、そんな悠長な暇は許されないらしい。体勢を立て直そうとした俺が目撃したのは、目の前に出撃した微弱な電流だった。

 肉眼では目視できない、アーティファクトの“眼”があって始めて捉える事ができる極小の電撃だ。



 それを認識した俺は無意識に魔剣を構えた――――


「“電送転移”……僕からは逃げられないぞ……!!」

「タウロス……!? そうか……今の電流は……!!」



 ――――次の瞬間、タウロスⅠⅤ(フォー)が目の前に現れていた。



 瞬きと同時に激しい放電が発生し、目蓋を開けた瞬間にはタウロスⅠⅤ(フォー)が両手の雷剣を振り下ろしていた。

 間一髪、魔剣でタウロスⅠⅤ(フォー)が繰り出した斬撃は受け止めた。そして、今の襲撃でタウロスⅠⅤ(フォー)転移ワープした秘密も分かった。



「そうか……“前駆放電ステップトリーダー”で光速転移を……!」

「そう言う事さ……よく見抜いたね、忌々しい」



 落雷には一種の“予兆”がある。それが『前駆放電ステップトリーダー』と呼ばれる電流だ。この前駆放電が空気の中に電気の通り道を作り、出来上がった道をいかずちが通り抜けて落雷するというメカニズムだ。

 タウロスⅠⅤ(フォー)はそれを自身の魔力で意図的に発生させ、自らの身体をいかずちそのものにして光速で移動したのだろう。



「くっ……まずは下半身を探さなきゃ……!!」



 俺の予想が正しければ、タウロスⅠⅤ(フォー)は広域を()()()()()()()()()()()()事になる。

 魔剣から衝撃波を発生させてタウロスⅠⅤ(フォー)を僅かに吹き飛ばし、自分で突き破った穴から俺は慌てて屋内から脱出した。



「え~っと、下半身は…………あった! 戻ってこい」



 そのまま地面スレスレを浮遊しながら、俺は大通りに置き去りにされていた自分の下半身をくっつけて体勢を整えた。両脚で大地をしっかりと踏み締めて、タウロスⅠⅤ(フォー)の次の襲撃に備える。



(俺の眼なら“前駆放電ステップトリーダー”を目視できる……つまり、タウロスⅠⅤ(フォー)の転移を予測できる!)



 タウロスⅠⅤ(フォー)の転移は強力だが、俺の持つアーティファクトなら“前駆放電ステップトリーダー”を目視できる。タウロスⅠⅤ(フォー)の接近を察知できるのだ。

 そして、そんな俺の予想通り、目の前に微弱な電流が走る。次の瞬時にはタウロスⅠⅤ(フォー)は攻撃を仕掛けているだろう。



「視えているぞ、タウロスッ!!」

「“電送転移”……だろうねッ!!」



 俺の目の前にタウロスⅠⅤ(フォー)が現れて雷剣を振り下ろして斬撃を繰り出し、同時に俺は魔剣を振り上げてタウロスⅠⅤ(フォー)の雷剣を迎え撃つ。

 魔剣と雷剣が接触した瞬間、周囲に電撃を伴う衝撃波が発生する。そして、その衝撃波を耐えた俺とタウロスⅠⅤ(フォー)はその場で何度も剣を交えあう。



「“量子転移クォンタム・パルサー”……!!」

「逃がすか、“電送転移”!!」



 幾度か斬撃の応酬を繰り返し、タウロスⅠⅤ(フォー)が放電を繰り出そうとしたタイミングで身体を量子化してその場から離脱する。

 俺が転移したと同時にタウロスⅠⅤ(フォー)は頭部に装着した“角”から“前駆放電ステップトリーダー”を幾つも繰り出していく。



「僕から逃げれると思うな!!」

「なら、せいぜい俺に追い付いて来いよ!」



 転移先は小さな集合住宅の屋上。そこで俺とタウロスⅠⅤ(フォー)は斬り結び、数手斬りあった直後に再び転移する。

 タウロスⅠⅤ(フォー)は“角”から幾つもの放電を繰り出して、その放電先の内の一箇所を選んで移動している。



「ハァァ!!」

「――――オォッ!!」



 次の転移先は大通りのど真ん中、俺たちは渾身のちからで斬り合い、斬撃の音が鳴り響くと同時に空から降り注いだ稲妻が近くに着弾する。

 それと同時に再転移をして別の集合住宅の壁面で斬り合い、次に空中に転移して斬り合い、さらに大聖堂の城壁の上で斬り合い転移する。



「うわわ……疾すぎてあたしじゃ視えないのだ〜!」

「下手に動くなよ、アウラ! 巻き込まれるぞ!」


「アケディアスは視えるのかなのだ?」


「あれはおれでも目視では追えん。魔力を感知して動きを予測しろ。現にラムダとタウロスとか言う騎士は目視では戦っていない……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「じゃあ、お兄ちゃんは……」


「ああ、読み違えた奴が死ぬ戦いをしている。いやぁ、口惜しいな……あんな血肉湧き踊る死闘、おれの方がしたかったぞ。ラムダめ……羨ましい奴め」


「ディアスにぃはこっちに集中して!」



 俺とタウロスⅠⅤ(フォー)は大聖堂と聖都の間を何度も行き来しながら、出現する毎に斬撃の応酬を繰り返していた。

 周囲の人間には、俺たちはほんの一瞬出現して斬り合い、再び転移して消えているように視えるのだろう。



(少しでも動きを間違えば致命傷を負う……)



 お互いに転移先で出現すると同時に斬り合う、少しでも読み違えば致命傷を負いかねない。転移に意識を割きつつも、斬撃に全力を注ぐ一進一退の攻防が続いていた。



「なぜそこまでトネリコに忠義を果たす、タウロス?」

「君がノア=ラストアークに固執するのと同じ理由さ」



 そして、転移と斬撃を繰り返しながらも、俺とタウロスⅠⅤ(フォー)は言葉を交わして思想でも殴り合いをしていた。

 お互いに知りたかったのだろう、相手の“忠義”を。なにを以って剣を振るうのかの“動機”を。



「トネリコは頭は良いのに馬鹿だ……世の中はクソだ、どうあっても世界は変わらないと達観している癖に、諦めて不貞腐れるような真似はしない。自分なりに最善は尽くそうと藻掻いている……」


「だからトネリコに忠義を誓うと……?」


「そうだ……あんな馬鹿な女、放っておいたらその内に頑張りすぎて自滅する。そして、僕が必要だったのは……僕を導いてくれる、そんな馬鹿な女だったのさ!」


「…………」


「生憎と……僕も馬鹿でね。戦う事でしか“信仰”は示せない。だけどトネリコなら、そんな僕に知恵を与えてくれる……そして、僕ならトネリコに足りないちからを貸してあげれる!」


「そうか……馬鹿同士お似合いだな……!」


「僕たちはお互いの足りないものを補い合う……それはお前たちも同じだろう! トネリコがいれば僕はより高みに……ノア=ラストアークがいれば君はより高みに行けるだろう!」


「そうだな、それは同感だよ!」


「そして、僕は君を超えて証明する……トネリコが選んだ騎士こそが“最強”であると!! その為の覚悟が僕にはある……お前にはあるか、ラムダ=エンシェント!!」



 タウロスⅠⅤ(フォー)とトネリコはお互いの足りない部分を補い合い、そして信頼関係を構築した。奇しくもそれは、俺がノアに惹かれたのと同じ理由だった。


 俺とタウロスⅠⅤ(フォー)は鏡合わせの存在だ。

 ただ、忠誠を誓い剣を捧げた相手が違うだけだ。


 何度も転移と斬撃を繰り返しながら、俺とタウロスⅠⅤ(フォー)はお互いの信念を剥き出しにする。きっと、俺たちはお互いに馬鹿で、だから似たような女性に惹かれていったのだろう。



「覚悟ならしているさ……俺もな。そして、俺の覚悟の方がテメェよりもずっと強く、深い! テメェこそ俺について来れるか、タウロス……?」


「ハッ……負け惜しみだね! 勝つのは僕だ!」


「なら……もっと命を賭けようか! お互いの命を燃やして証明しようじゃないか……どちらの“王”がより高みに行くのかをな!!」



 大通りに転移して、俺とタウロスⅠⅤ(フォー)は全身に意識を張り巡らせる。心臓の鼓動を速め、全身のリミッターを外していく。



「「いくぞ――――【オーバードライヴ】!!」」



 全身から魔力を放出して、限界を超えた一撃で斬り合う。お互いの信念を刃に乗せて、相手の信念を斬り伏せる為に。

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