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第939話:デア・ウテルス大聖堂の戦い -Battle of the Dea_Uterus Cathedral-


「こらー、もうラムダたちの裁判は始まっておるのじゃろー! 儂たちも大聖堂に入れるのじゃーー!!」



 ――――時は少々遡り、デア・ウテルス大聖堂正門前にて。聖堂騎士団が厳重に大聖堂の門を護る真正面にラストアーク騎士団は陣取って、両陣営は睨み合いを続けていた。

 ラストアーク騎士団を率いるのは総司令のルクスリア=グラトニス。かつて女神アーカーシャに反逆を仕掛けた“暴食の魔王”が最前線に出ている事に、聖堂騎士団を率いる光導騎士たちの緊張の糸は張りつめていた。



「駄目だ駄目だ、貴様のような魔族を神聖な大聖堂に入れれる訳ないだろう! 最初の対話で足を踏み入らせてもらえただけありがたいと思え!」


「差別じゃ、魔族に対する差別なのじゃー!」


「ええい、なんなのコイツ……さっきから子どもみたいな駄々の捏ね方して! そんなに大聖堂を見学して行きたいのなら入場券を買いなさい! 入場券お一人様1000ティアよ!」


「カネ取んの!? それでも宗教団体か!?」


「あたしたちアーカーシャ教団は信者の皆さまからのお布施……寄付で運営しております。ちなみに……教皇ヴェーダ様との握手券付きプレミアム入場券はお一人様10000ティアで販売中よ」


「高っか!? 買う訳なかろう、このたわけ!」


「おい、ピスケス! 下らない営業トークをするな! 相手はラストアーク騎士団だぞ、大聖堂に足を踏み込ませたら何をしでかすか分かったもんじゃない」


「けどキャンサー……このチビうるさいし……」


「はっ……儂をわっぱと軽んじられても困るのう。儂は“暴食の魔王”グラトニスなるぞ。儂は純粋にデア・ウテルス大聖堂を見学したいだけじゃ……いずれは儂の別荘にする予定じゃからのう」


「貴様……神聖な大聖堂を軽んじるか……!」


「ついでに……大聖堂内に設置されている女神アーカーシャ像に片っ端からおしっこを引っ掛けてやるのじゃ! クハハハハ、なんという極悪な行為なのじゃろうか……はよう入場券やらを買わせるのじゃ」


「汚たねぇ!? 誰が入れるかお前なんぞ!」


「おいキャンサー、相手のペースに嵌っているぞ。もっと冷静になれ……ラストアーク騎士団はわざとおれたちの前で漫才をして緊張感を緩めようとしているんだ」


「しかしレオ……こうも大聖堂を軽んじられては」



 グラトニスの教団の権威を軽視する発言に聖堂騎士団は苛立ちを覚えていた。唯一、レオⅤⅡ(セブン)はグラトニスの発言を相手の作戦だと考えて平静さを保っていたが、ピスケス(ツー)とキャンサーⅤⅠ(シックス)は完全にペースを乱されていた。



「女神アーカーシャ様を祀った銅像に小便ぶっかけるとか不敬甚だしいし! 魔王城にあるグラトニス像に同じことされたらあんたキレんでしょ?」


「無論じゃ、それをした阿呆は折檻したのじゃ」


「ふっ……馬鹿だな聖堂騎士団よ。自分がされて嫌だから相手にするのだろう。嫌がらせとはそう言うみみっちい行為をさすのだぞ。ルクスリアは自分の銅像に小便されて怒っていたからな」


「儂はお主の悪行の話をしているのじゃ、アケディアスよ。寝ぼけて儂の銅像をトイレにしたお主のなぁ」


「ハハハっ、寝てたから記憶にございません」


「まぁディアスったら……そんなはしたない事を。そう言うマニアックなプレイは私にしなさい、ちゃんと付き合ってあげるから」


「お止めください〜、ツヴァイ様〜! アケディアスの愚行に付き合ってエンシェント家の名に傷を付けるのはお止めください〜(泣)」


「この……あたし等の前で下ネタで盛り上がんな!」


「やれやれ、構っていたらキリがない……聖堂騎士団、いつでも戦闘できるように武器を構えておけ。何か嫌な予感がする……グラトニスの言動が明らかに下品……いや不自然だ。ラストアーク騎士団は何か企んでいるぞ」


「承知しました、レオⅤⅡ(セブン)様」


「しかしコイツら……おれたちを前に下らない会話を続けるとはどういう神経をしているんだ? くそ……こんな緊張感の無い連中にアリエスは殺されたのか」



 聖堂騎士団の目の前で“道化”を演じるグラトニスに対してレオⅤⅡ(セブン)は警戒心を強め、正門を守る聖堂騎士団たちに臨戦態勢をとるように命じていた。

 優れた野生の勘を持つ獅子系亜人種であるレオⅤⅡ(セブン)だけが感付いていたのだ。ラストアーク騎士団が何かを待っている事に。



 そして、そんなレオⅤⅡ(セブン)の読み通り――――


「いい加減黙り……何!? 大聖堂から爆発……!?」

「きよったか……ラムダからの合図じゃ……!」


 ――――大聖堂内部から爆発音が響き渡った。



 爆発はごく小規模なもの、窓ガラスが吹き飛ぶ程度のものだった。裁判が始まる直前、ラムダ=エンシェントとノア=ラストアークが寝泊まりしていた宿泊部屋に仕掛けた爆薬が原因だった。

 爆薬が発生した瞬間、聖堂騎士団は動揺し始めた。反面、爆発がラムダからの合図である事を知っていたラストアーク騎士団は即座に冷静になり、素早く武装を開始していく。



「聖堂騎士団よ、残念なお知らせじゃ……たった今、()()()()()()()()()()()()()()。よって睨み合いはこれで終いじゃ……ラストアーク騎士団、戦闘準備じゃ!!」


「まさか……大聖堂内で何かが……!?」


「お主たちのお仲間がラムダ=エンシェントとノア=ラストアークに攻撃を仕掛けたのじゃ、このたわけめ! ラストアーク騎士団、聖堂騎士団を蹴散らして大聖堂に突入せよ! ラムダたちを救援し、教皇ヴェーダを捕らえるのじゃーー!!」



 そして、聖堂騎士団が大聖堂内で起こった出来事を把握するよりも早く、ラストアーク騎士団はグラトニスの号令で進撃を開始し始めた。

 臨戦態勢を整えていたと言え、不意打ちを仕掛けられた聖堂騎士団の第一陣はあっという間に蹴散らされ、光導騎士たちもかろうじて攻撃を躱して後方へと跳躍せざるを得なかった。



「貴様等……最初から奇襲を目論んで……!」


「クハハハハ! 裁判が終わった後、儂らを始末する気マンマンじゃったお主たちに言われようないわ! ルドルフよ、この獅子の相手はお主に譲るのじゃ……存分に手柄を立てい!!」


「仰せのままに……グラトニス様!!」


「――――ぐっ!? 貴様……魔王軍で名を馳せた“若獅子”か!? まさか……このおれと死合うつもりか!」


「ガルル、付き合ってもらうぞ……!!」


「貴殿の相手はそれがしがするでござる、キャンサーⅤⅠ(シックス)殿。以前、幻想郷にて帝様を襲った狼藉に対する礼をせねばと思っていたのでな!」


「幻想郷の“夜叉”か……しつこい奴だ」


「君の相手はぼくが務めるよ、ピスケス(ツー)……いいや、ローレライ。また氷漬けにしてあげよう……そのまま棺に納められたくなかったら、命乞いでも考えておくんだね」


「またお前か……“葬儀屋アンダーテイカー”……!!」


「残った者は儂に続いて大聖堂に突撃するのじゃー! ホープよ、聖獣共の相手は任せるのじゃ! 戦艦ラストアークの火力で蹴散らして制空権を奪取せよ!」


《分かってんよ! 戦艦ラストアーク……発進!》


「アーティファクト『黙示録の獣(マスターテリオン)』――――出撃です! シリカさん、コレットたちは聖都を守る聖獣を蹴散らすですよー!」


「言われなくても分かってる……変身開始!」


「ラストアーク騎士団を蹴散らせ! 女神アーカーシャ様の愛した平和を乱す反逆者共を粛清

せよ! 聖堂騎士団、戦闘開始……“神”の敵を一人残らずに排除せよ!!」



 聖都付近に停泊していた戦艦ラストアークが浮上すると同時に大聖堂を護る聖獣たちが一斉に攻撃を開始、聖都周辺の空域に一気に爆発の光がほとばしった。

 同時に、デア・ウテルス大聖堂の正門前ではラストアーク騎士団と聖堂騎士団の前面衝突が開始、ここに『デア・ウテルス大聖堂の戦い』が幕を上げたのだった。



「さぁ、行くのじゃ、我が精鋭共よ! 大聖堂に突撃して……女神アーカーシャ像に片っ端からおしっこを引っ掛けてマーキングをするのじゃーーッ!!」


「「目的が違います、グラトニス司令!」」

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