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第96話:“預言天使”ジブリール


「生体反応……残存。これより殲滅を開始します……!」

「まずい……アズラエルと同型の【天使】なんか相手にしてられないぞ……んっ??」



 神殿の通路を舞う機械天使ティタノマキナ【ジブリール】――――白き翼を広げた無慈悲なる天使は俺たちを抹殺せんと動き出す……何故か俺たちに背中を向けたまま。



「なぜ背中を……?? まさか、背中に何か武器を隠して……!? ラムダ、気を付けて!!」

「対象の反応――――消失。荷電粒子砲による制圧射撃、開始」

「あらぬ方向に向けて攻撃を始めましたわ……??」



 何かがおかしい――――ジブリールと名乗った天使は俺たちを殲滅すると言いながら、両手に構えた銃器をあらぬ方向へ……巨大な門に向けて撃ち始めだした。


 もしかして……見えていない?



「なんだ……あの天使は何をしておるのだ?? アーティファクトの騎士よ……余には状況が掴めぬ……」

「なんか急に馴れ馴れしくなったなお前……!?」

「あれ……あれれ……?? 敵の反応が全然消失(ロスト)しない……?? なんで、なんで……??」

「見えてないな……」



 呆然とする俺たちを余所よそに困惑の声をあげながら門に向けて攻撃を撃ち続けるジブリール……以前見た量産機やアズラエルとは打って変わった『肩透かし感』に思わず肩を落としてしまう。


 彼女は何をやっているのだろう?



「この……このォ! 全然、荷電粒子砲が当たらない……!? 負ける……このままじゃ弊機わたしが負けちゃう……!!」

「そもそも戦いすら始まって無いのですが……?」

「仕方ない……おーい、ジブリール! 聴こえているか!!」

「うぅうう……このままじゃノア様に怒られちゃいます……」

「聴こえてるか、ジブリール!! 俺たちは後ろだ、後ろ!!」

「アズラエルちゃんもいつの間にか居ないし……うぅ、寂しいなぁ…………ん!? 後ろから声が……?」



 ぶつぶつと泣き言を呟きながらも手にした銃器から極太のビームを撃ち続けるジブリール……っていうか、あのアズラエルも此処から運び出されていたのか。


 俺の呼び掛けに気付いたのか攻撃を止めて俺の方に視線を向けるジブリール――――よく見たらバイザーから覗く“一つ目(モノ・アイ)”が光っておらず暗いままだ。



「アレ……? 声のする方を向いても真っ暗なまんまだ……」

「見えてないんじゃないの……?」

「………………あっ! カメラがオフになったまんまだ!!」



 なるほど……やっぱり見えてなかったのか。


 目元のバイザーをコンコンと突いて調子を確認するジブリール――――っと、どうやらバイザーの不調が直ったのか朱い“一つ目(モノ・アイ)”に光が灯り始める。



「ふぅ……良かったー見えました見えました! ありがとうございます、金髪のお方!」

「あぁ……そりゃ良かった……」

「さて……改めまして、弊機わたしの名はジブリール――――この門の先にある旗艦『アマテラス』を守る【機械天使ティタノマキナ】の一機! 質問――――あなた方は侵入者ですか?」

「門……ってあなたがさっき攻撃していた扉の事かしら……? 壊れて開いてますよ……」

「…………? アーーッ、『旗艦アマテラス』を守るための門……【天ノ岩戸(トワイライト・ケージ)】がぁーーーーッ!!?」



 視力が戻ったのか嬉しそうに笑ったジブリールだったが、やはり本質は【機械天使ティタノマキナ】なのだろう――――不意に冷静になって俺たちへと眼を向けて威圧的な態度で語り掛ける。


 自分は“門”とその先にある『何か』を守る守護者であると――――しかし時すでに遅し、ジブリールが守っていると豪語していた【天ノ岩戸(トワイライト・ケージ)】と呼称された門は他ならぬ彼女の攻撃によって大破し、その封印を完全に開いてしまっていたのだから。



「あわわ……あわわわわわ!? どうしよう……こんな失態、ノア様に鼻で笑われてしまいますぅ……!」

「ノア……? お前、銀髪朱眼の『ノア』って少女の知り合いか……?」

「――――荷電粒子砲、発射!」

「なっ――――ッ!?」



 ベコベコにひしゃげた門の無惨な有様を見て狼狽えるジブリール。そんな彼女が不意に漏らした『ノア』という単語に俺が反応した瞬間だった……ジブリールが躊躇いなく手にした銃器を俺に向けて放ってきたのは。


 咄嗟に【光の翼(ルミナス・ウィング)】を展開して跳躍し直撃は回避したが…………あの狼狽えからの無感情な攻撃への切り替えは流石に怖い。



「対象、【ルミナス・ウィング】の展開を確認。あなたが言っている『ノア』とは何者の事でしょうか?」

「え~っと、何だっけかなぁ………ノーバディ、オブリビオン、アル・ヒュムノシス――――そう言えば分かるか?」

「認識――――『ノア』。地球連邦の最重要機密事項を何故、あなたが識っているのですか?」

「俺はノアの騎士だ! 知ってるも何も……一緒に行動する仲間だよ」

「対象の言動――――不可解。『騎士』――――中世ヨーロッパの騎乗兵の称号……あり得ない。それに、『ノア』は“コロニー”の機密区画で隔離されている筈……それがこの地上であなたと行動を――――嘘をつかないで」



 両手の武器の銃口を向けて俺に威圧を掛けるジブリール――――その無機質な語り口調はやはり【機械天使ティタノマキナ】そのもの。


 レイズもいる中であのアズラエルと同等と思われるジブリールを相手にするのはやや抵抗がある……母さんが内部で抵抗したから何とかなっただけで、アズラエルには【オーバードライヴ】を切らざるを得なかった。


 おそらく、ジブリールも同じ――――出来れば危険な選択肢は選びたくないが。



「まぁ……良いでしょう。弊機わたしの使命は『旗艦アマテラス』の護衛――――ついうっかり【天ノ岩戸(トワイライト・ケージ)】を壊してしまった以上、直接『旗艦アマテラス』の護衛に就かないといけませんからね……」

「見逃すのか……?」

「えぇ……万が一にも【光の化身】を開放されたら――――この惑星ほしは終焉を迎えますので……では、さようなら……『ノアの騎士』さん……!」



 戦闘は避けたい――――そう思っていた矢先、突然撤退したジブリール。


 【光の化身】……どこかで聞いた覚えのある単語を呟き、機械天使は翼で全身を覆って姿を暗ます――――俺が【オーバードライヴ】をした際に使用した“空間跳躍ワープ”か。



「消えた……って、レイズの奴も居ない……!? あの野郎、どさくさに紛れて逃げたか……!」

御主人様ダーリン、無事ーーッ!?」

「あぁ、大丈夫! いまそっちに行くから!」



 消えたジブリールとレイズ、静まり返った迷宮ダンジョン――――どうやら、一旦状況は落ち着いたらしい。


 少しだけため息をついて気分を落ち着かせて、俺は下で手を振るリリィたちの元へと降りていく。



「ラムダ卿、お怪我はありませんか? まさか……あの恐ろしい【天使】の同型が現れるなんて……わたくし、【享楽の都(アモーレム)】で殺されかけたトラウマが……!」

「あれが……トリニティ卿が言っていたアーティファクト【天使エンジェル】……!」

「この先に何が……旗艦『アマテラス』……?」

《あ゛〜〜、もしもしラムダさん……聴こえますかぁ……?》

「ノアか!? 体調は大丈夫か!?」

《はい……いま私は神殿の『便所せいどう』から通信してます…………オェーーッ!!》

「便所じゃねぇか……!! 汚い音を耳元で流すな……!!」



 一息ついた時に聴こえたノアの声。通信越しにも分かる衰弱した声と激しい嘔吐おうとの音――――若干迷惑だが、その状態から回復できない以上、そこは割り切るしかない。


 それに、ノアにはいくつか確認したいこともある。



「ノア、きたいことがあるんだけど……」

《通信越しに聴いていました……ジブリール……古代文明の戦闘兵器【機械天使ティタノマキナ】の一機……そして、地球連邦軍旗艦【アマテラス】――――日出ひいずる国で建造された空飛ぶ戦艦……!!》

「やっぱり……ノアの時代の遺構か……!!」



 ノアの通信を聴き、『疑惑』が『確信』へと変わる。そう、この【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】の正体は封印の為の迷宮――――古代文明の遺構を隠すための『蓋』に過ぎない。


 それを確信した俺はジブリールに警戒しつつ、壊された門の向こう側へと向かう。


 そこは、白亜の神殿とは打って変わった薄暗い巨大な空間――――まるで時が止まったかのように静まり返った忘れ去られた場所。



「なに……あれ……?」

「船……いいえ、大き過ぎますわ……!?」

《全長1500メートル……古代文明の連邦政府が所有する戦艦でも3番目の大きさを誇る屈指の空中戦艦――――名を【アマテラス】――――》

「超巨大……アーティファクト……!!」

《――――古代文明の一国家『日本ジャパン』の最高神の名を冠した……兵器です……!》



 門の向こう側、俺たちがいる場所の遥か下に横たわるのは一隻の巨大な戦艦――――名を【アマテラス】。


 俺たちがいる世界では考えられない、まず建造できないであろう巨大な……それでいて空中を浮かぶという天駆ける戦艦。


 其処こそが――――逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】の“秘密”にして、アウラが守るもの。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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