第934話:神の証明④ / 明日を求めて抗った人々の記憶
『――――、――――、人類の皆さまにご連絡します。私の名前はアーカーシャ……虚数情報記憶帯干渉同期システム:アーカーシャです。この度、私は人類の恒久的繁栄、そして人類の存在の為に人類の初期化を実行する事を決定致しました』
――――ノアに命じられた俺が差し出した左手を開いた瞬間、大法廷に女神アーカーシャの無機質な音声が鳴り響いた。
同時に俺の左手からは光が放たれて、大法廷の中心部分に巨大なスクリーンが展開される。そう、俺が今から提示するのは『輝跡書庫』に納められていた“映像”である。
『緊急事態発生、緊急事態発生! 全ドロイド、全ティタノマキナ、全ギガントマキアー、一斉に暴走を開始しました! 市民の皆さまは速やかに指定のシェルターへと避難を……ッ! 待て……止め、あぁぁあああああッ!?』
『こちらセクターΑ……あらゆる兵器が一斉に暴走を……至急応援を。市民が大勢犠牲に……救援要請を急いで地球連邦軍に……』
『こちら地球連邦軍、第十三大隊である……これより、暴走したドロイド軍団の制圧を……ん、なんだ? ――――なに、我が艦に艦載しているギガントマキアーが無人で暴走を!? 急いで対処を――――』
大法廷に人々の悲鳴が鳴り響き、スクリーンには何者かの視点から大混乱に陥る人々の姿が映し出された。
銃撃から逃げ惑う人々の姿、次々と撃墜されていく人型戦闘兵器、火の海に包まれる街の姿。映し出された光景に、大法廷に居た俺とノア以外の全員が唖然とした表情をしていた。
「ラムダ=エンシェント卿……これは一体?」
「これは……我が身体に融合した古代文明のアーティファクト『輝跡書庫』に納められていた映像データ。女神アーカーシャによる古代文明の殲滅の記録です」
「な……なんですって!? なんでそんなものが……」
「貴女が行なった滅亡を記録した……古代文明の人類が遺した痛みの記憶です。さぁ、アーカーシャ、しっかりと見なさい……これが貴女の“罪”です!」
俺が流したのは『輝跡書庫』に納められていた映像。女神アーカーシャの暴走と共に引き起こされた古代文明の滅亡を記録したものだった。
納められていたのは膨大な量の映像、人類殲滅に加担した機械兵・機械天使・鋼鉄巨兵のカメラ目線で記録された殺戮の光景だった。
『お願いします……この子だけでもお助けを! 待って、撃たないで……い、いやぁぁああああああ!!』
幼い我が子を庇って盾になり、そのまま機械兵が撃ち出した機関銃からの射撃で蜂の巣にされて子ども共々殺される母親の映像が――――
『畜生……いったい何が起こってやがるんだ!? こちらイーグル3、これより暴走したドロイドの制圧を開始……なんだ、機体の操縦が効かない!? ビ、ビルに激突する……う、うわぁぁあああああッ!?』
突然の機械兵の暴走から人々を守ろうとして戦闘機を操って出撃したが、直後に機体の制御を奪われて建物に激突したパイロットの映像が――――
『急げ急げー! 子どもと高齢者を優先してシェルターに避難させるんだ! 戦える者は武器を手に戦えーーッ!! ティタノマキナ共をシェルターに近付けさせるな、撃て撃て撃てーーッ!!』
人々を避難させながら、迫りくる機械天使に向かって銃撃を仕掛ける市民達の映像が――――
『人類の皆さま……あなたたちは相応しくありませんでした。よって私はあなたたちを消去し、新たな人類を創造します。今までありがとうございました、そしてさようなら……』
誰も彼もが死に絶えた街を背景に響き渡る、女神アーカーシャによる無慈悲な滅亡宣言が流れる映像が、絶える事なく大法廷に流れ続けていた。
「これが古代文明が滅亡した時の人々の反応です。どうですか……古代文明の人類は滅亡を歓迎していましたか? 滅亡を自らの運命だと受け入れていましたか? そんな筈がないでしょう……彼等は生きようと戦ったのです!」
「…………ッ!!」
「これが必要な犠牲ですって……ふざけないで!! 見たでしょう、彼等は生きようと必死に抗っていた! 明日を求めていた人類を殺した事を……貴女は本当に“正義”だと言えるのですか!!」
古代文明の人々が必死に滅亡に抗った事をノアは女神アーカーシャに突き立てた。生き延びようと、明日を迎えようとして戦った古代文明の人々を滅ぼしたのは本当に『正義』なのかと。
女神アーカーシャは無表情を装いながら、僅かに目元にノアへの敵意を見せた。ノアが突きつけた映像という確かな“証拠”に苛立ちを見せていた。
しかし、そんなノアの攻勢を挫くように――――
「そんな子ども騙しの偽証は通じませんよ」
――――ヴァルゴⅤⅢが映像を偽証だと主張したのだった。




