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第930話:開廷


「ノア=ラストアーク、出廷命令に応じました。我が騎士ラムダ=エンシェントも共に……」



 ――――デア・ウテルス大聖堂、大法廷。夜が明け、大聖堂の周囲で小鳥たちがさえずり始めた頃、俺とノアは大聖堂内の法廷へと足を運んでいた。

 俺は“機神装甲レーカ・カーシャ”を纏い、ノアは艦長服を纏い正装をして赴いた。いよいよ始まろうとしていた、俺とノア、そして女神アーカーシャを裁く裁判が。



「ノア=ラストアーク、ラムダ=エンシェント……両名とも術式スキルの発動を封じる“枷”を手首に嵌める。両腕を揃えて出すがいい……」


「分かった……」


「クックク……法廷ではくれぐれも無駄な抵抗はしないように。もし暴れたら刑期が伸びてしまいますよぉ。まぁもっとも……刑期が伸びなくても意味は無さそうですけどねぇ」



 俺たちを待っていたアーカーシャ教団の神官たちは手慣れた手付きで俺とノアの手首に拘束・術式封印用の手枷を嵌める。これで法廷で暴れる事は出来なくなった。

 俺たちに枷が掛けられたのを見て、審問官ヘキサグラムが笑みを浮かべている。彼はあいも変わらず狐のような糸目で俺たちを見つめ、小馬鹿にしたような表情をしていた。



「さぁさぁ、アートマン様がお待ちですよ。さっさと法廷に行きましょうか……神官、被告人を法廷へと連れて行きなさい。おお、そうですそうです……裁判をつかさどる女神アーカーシャ様の銅像に一礼を〜」


「あいも変わらず胡散臭い男だな……」


「“正義の女神(ユースティティア)”ではなく自分の銅像を設置するとは……女神アーカーシャは司法も司っているのですね。働き者の女神ですね……開発者として誇らしいわ」


(すげー皮肉にしか聞こえねぇ……)


「クッククク……おやおや、女神アーカーシャ様がこの世の全てを司っているのが気に食わないようですねぇ、ノア=ラストアークさん? いけませんねぇ、これからあなたを裁く“神”には媚びていた方がよろしいのでは?」


「我が王を侮辱するな、リヒター=ヘキサグラム」


「構いません、我が騎士よ……好きなだけ言わせておきなさい。リヒター=ヘキサグラムさん、あなたは“神”に媚びていて大丈夫ですか? あなたの大切な聖女様を生贄にしようとした“神”を相手に……」


「言っても無駄ですよ、我が王……」


「クッククク……ご忠告どうも。ですがご安心を……私の“覚悟”はすでに決まっていますので。私は私の“信仰”に最期まで殉じるだけです……ご心配は無用ですよ、ノア=ラストアークさん」



 法廷へと続く白亜の廊下を歩きながら、俺たちは審問官ヘキサグラムの嫌味な煽りを聞かされていた。

 だけど、ノアは審問官ヘキサグラムの言葉には一切動揺せず、逆に彼に“信仰”を問うていた。審問官ヘキサグラムはノアの言葉に嘘くさい笑顔を見せるだけだった。



「ようやく被告人を連れてきたか……遅ぇぞ、ヘキサグラムゥゥ! もう教皇ヴェーダ様とアートマン様は法廷でお待ちだぜぇ……分かってんのかぁぁ?」


「ええ、もちろんですとも……アクエリアスさん」


「あたしたちは法廷の警備を担当するわ……あなたも手伝いなさい、リヒター。それと……あんたはあたしが監視するから。理由は分かっているわね……拒否権はないわよ」



 大法廷へと通じる扉の前に到着した俺たちは、聖堂騎士団を引き連れた光導騎士たちの冷たい歓迎を受けた。誰も彼もが仮面越しに俺たちに冷ややかな視線を向けている。

 そして、光導騎士たちの中には、各地での戦いで倒して戦艦ラストアークに拘束した筈の騎士たちの姿もあった。



「ピスケス(ツー)、キャンサーⅤⅠ(シックス)、レオⅤⅡ(セブン)……テメェら解放されたのか? また俺たちに倒されに復活するなんて物好きだな……」


「うるさいし……今度はこっちが勝つ番だっての!」


「ラムダ=エンシェント、よくもおれの相棒を……アリエス(スリー)を殺しやがったな! 覚悟しろ……貴様が有罪になったら、おれが貴様を処刑台に送ってやる」


「やってみろ……子猫野郎」


「はいはい、うるさいわよあんたたち。神聖な大聖堂では静かになさい。ラムダちゃんも、これから裁判なんだから余計な言葉は慎みなさい……良いわね?」



 ピスケス(ツー)、キャンサーⅤⅠ(シックス)、レオⅤⅡ(セブン)たちだ。どうやら戦艦ラストアークから解放されたらしい。捕虜を使って裁判を有利に進めさせないようにする魂胆だ。

 全員が俺に敵意を剥き出しにしている。相棒であったアリエス(スリー)を俺に殺されたレオⅤⅡ(セブン)は特に殺気立っている。カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)が制止しなければこの場で殺し合いに発展しかねない雰囲気だ。



「アクエリアスさん……ラストアーク騎士団は?」


「ギヒヒ……連中なら大聖堂前に全員が布陣してやがるぜぇ。こいつらの裁判次第でぇ、大聖堂に攻め込む腹づもりだろうなぁ……ギヒヒ、ギヒヒヒヒヒ!!」


(グラトニスたち……)


「大聖堂内はあたしとアクエリアスちゃんが指揮をするわ。ピスケスちゃんたちは聖堂騎士団を率いて大聖堂前に布陣なさい。ラストアーク騎士団が決起した場合、大聖堂内に入れないようになさい」


「オッケー! 任せてよ、カプリこん!」



 ピリピリとした雰囲気のまま、光導騎士たちは聖堂騎士団を率いて大聖堂前の警備に向かって行く。ラストアーク騎士団が大聖堂前に布陣しているからだ。

 裁判の判決次第では、聖堂騎士団とラストアーク騎士団の全面衝突が起こると誰もが予想しているのだろう。聖堂騎士団も全員が完全武装して、大聖堂の防衛に就こうとしていた。



「さっ、あなたたちは法廷にどうぞ……ラムダちゃんにノアちゃん。大法廷で“神”の慈悲を受けると良いわ……そして、自らの“罪”が赦される事を願いなさい」


「行きますよ……我が騎士よ」

「イエス、ユア・マジェスティ……」


「クッククク……さてさて、あなたたちは“神の無謬”を崩すことが出来ますかねぇ? 見させて頂きますよぉ、ラムダ=エンシェントさん……あなたが“神”に対して抗えるかどうかを」



 そして、光導騎士たちが睨みつける中で、俺とノアは神官に引き連れられて、開かれた大法廷へと続く扉をくぐり始めた。

 そこは大聖堂の中層に位置する場所。造りこそ一般的な裁判所に酷似した構造になっているが、唯一違うのは大聖堂を象徴する巨大な女神像が法廷を見守るように聳えている事だ。



「ようこそ……デア・ウテルス大聖堂の大法廷へ。己の“罪”と向き合う覚悟を持った事を喜ばしく思います……ラムダ=エンシェント卿。そしてノア=ラストアークさん」


「アートマンさん……」


「逃げ出さずによく来たね……ノア。女神アーカーシャを言い負かす言い訳でも考えついたのかな? まぁ、どっちでもいいや……このボクが君を有罪にするからね」


「トネリコ……」


「すでにラストアーク騎士団側の弁護人であるリブラさんは席に着いています。おふたりは証言台へと……間もなく裁判が始まります」



 女神像を背にした壇上にはアートマンが座り、俺たちを追及する検察側の席にはトネリコとヴァルゴⅤⅢ(エイト)が座っている。

 弁護側の席には俺たちの弁護を請け負ったリブラⅠⅩ(ナイン)が神妙な面持ちで座っていた。リブラⅠⅩ(ナイン)は反対側の席に座るヴァルゴⅤⅢ(エイト)を神妙な面持ちで見つめている。



「リブラ……女神アーカーシャ様の弓引く愚か者。ラムダ=エンシェントもノア=ラストアークも有罪にしたら……次はわたしがあなたを裁いてあげましょう」


「お姉様……私は負けません……!」


「女神アーカーシャの無謬を追及するラストアーク騎士団側の検察は私、ノア=ラストアークが務めます。証言台からの発言を許して頂けますか、アートマンさん?」


「ええ、認めましょう……ノア=ラストアークさん」


「役者は揃いましたね……では、これより審判を始めましょう。この裁判にて……あなたたちが犯した“罪”の清算を始めましょうか、ラムダ=エンシェント。そしてノア=ラストアークよ」



 そして、俺とノアが証言台に立った瞬間、大法廷の頭上から教皇ヴェーダが出現し、ゆっくりと浮遊しながら法廷へと降り立った。

 教皇ヴェーダは仮面を脱いで頭部を露わにしている。つまり、彼女はすでに“神”に自らの心身を明け渡していた。それは法廷に“神”が顕現した事を意味していた。



「始めましょうか……あなたたちの旅が引き起こした“罪”の審判を。そして、罪深きあなたたちに与えましょう……我が慈悲を」


「アーカーシャ……!!」


「我が名はアーカーシャ……この『世界』の“創造神”なり。我は無謬の存在……絶対の正義なり。我が意志は、我が言葉は……この世の真理と心得なさい、罪人よ」



 この『世界』を統べる“創造神”アーカーシャの降臨が果たされ、彼女の出現と共に、ついに俺とノアの裁判が幕を上げ始めるのであった。

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