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第95話:冒涜のレイズ


「ほぅ……第二師団の竜騎士と……“アーティファクトの騎士”か……」

「骸骨の……老父……!! 女じゃ無いよな……?」

『クラヴィスの姐さんのこと根に持ってる……』

「お久しぶりね、【冒涜】のレイズ!」

「【復讐】のリリエット=ルージュ……久しいな……復讐に燃える悪鬼あっきよ……!」



 白亜の神殿を降り続けた先、終点と思しき巨大な鋼鉄の門の前に到達した俺たちを待ち構えていたのはひとりのむくろ


 綺羅びやかな装飾のなされた血のように赤いガウンに身を包み頭部に絢爛けんらん華美(かび)な王冠を載せた白骨の人物――――魔王軍最高幹部【大罪】がひとり、【冒涜】のレイズ。



「お前がレイズか……!」

「如何にも……“アーティファクトの騎士”……ラムダ=エンシェントよ……!」

「私たちに掛けた“ゾンビ化”の呪い――――即刻解除して貰うぞ! さもなくば……斬るッ!!」

「生きたメス……うるさい……」

「あの声……あの少女がノアを襲った奴か……!!」

「我が愛しのネクロよ……そなたの身体に傷を付けた騎士は……余がむくろにして進ぜよう……」



 そしてレイズの肩に座るように腰掛けるはネクロと呼ばれた青い肌の少女。


 白い死装束を黒い血で汚し、衣服に刻まれた跡があることから、あの少女が野営地に居たノアを襲った事は容易に想像できた。


 つまり、あの少女もレイズの手先――――あどけない見た目とは裏腹に、ノアすら手にかけたレイズの手先だ。



「あなた達は何が目的で【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】を占領したのかしら? よもや……アーティファクトを狙っているのではないでしょうね……?」

「だとしたらどうする……グランティアーゼ王国の第二王女よ……」

「無論――――即刻、魔王グラトニスの元へと叩き返して差し上げますわ!」

「くく……愉快……! 固有ユニークスキル発動――――【死者冒涜レスシタティオ・ブラスフェミア】」



 既に交渉の余地は無く、戦闘は必然――――それを承知してか、レイズは白骨化した右手を地面へとかざしてスキルを発動する。



「な、なんだ……神殿の床から屍人しびとが湧いて出てくる……!?」

「あれがレイズの固有ユニークスキル――――【死者冒涜レスシタティオ・ブラスフェミア】。死者を無理やりアンデッドにして使役するスキルよ、御主人様ダーリン……!」



 現れたのは青い肌の死者たち――――人間、魔人、ドワーフ、エルフ……様々な種族の屍人たちが苦しみの声をあげながら俺たちの前に現れていく。


 本来は眠っていなければならない死者たちを無理やり蘇らせた“死の冒涜者”。



「ネクロよ、少し離れていなさい……これより此処は死地と化す……」

「レイズ……また……お友達……増やしてね……キーラも……アシュリーも……居なくなって……寂しいの……」

「よかろう……余がそなたに……新しい友を……与えようぞ……」



 肩からネクロを降ろして遠くへと避難させるレイズ――――それだけを見れば、小さな娘をあやす父親のような光景。


 だが、キーラとアシュリーを見るに、あのネクロという少女ももちろん“生きる屍(アンデッド)”なのだろう……なら、あれはレイズが死者を使って『お人形遊び』をしているに過ぎない。



「そんな幼気いたいけな少女の亡骸を掘り起こしてまで『お人形遊び』か……随分と悪趣味だな、レイズ!」

「アーティファクトの騎士……人の趣味嗜好しゅみしこうを『女遊び』が過ぎる貴殿が咎めるのか……?」

「――――すみません、もう言いませんので許して下さい!」

御主人様ダーリン……自覚あるんだ……」

「はぁ……愛くるしい顔の弟がまさか色狂いの性豪だったなんて……色狂いのお父様と“魔性天使”と騎士団で噂されてたらしいシータさんのそれぞれの悪い部分が濃縮されているわ……」

「まぁ、ラムダ卿……既に“側室”をご所望なんて……グランティアーゼ王国の将来は安泰ですわね♪」

「むぅ……精力に溢れておるな……余は“生”にたぎった者は嫌いだ……即刻、死ぬが良い……!」

「くそ……レイズの悪癖を咎めた筈だったのに……返り討ちにされた……ええい、そっちがその気ならこっちもやり返させて貰うぞ!!」



 死者を愚弄ぐろうする冒涜者は生きとし生けるものを引きずり込まんと屍人を差し向ける。なら、俺たちも戦わないといけない。


 右手に【閃光剣ライトニング・セイバー】を握り、俺はレイズへと視線を合わせる。



「あはは♡ 屍人なら遠慮なくすり潰せるわ! レイズ……あなたのお人形――――この私が丁寧に壊してあげる♡」

「笑みが邪悪ですわよ、リリィ! 【七天の王冠(イリス・コロナム)】――――いでよ、光の大剣!!」

「雑魚に混じって手練れがいるわね……レティシア様、リリエット=ルージュ……気を抜かないで!」



 姉さん、リリィ、レティシアも各々戦闘態勢に入り迫りくる屍人の群れと相対する。


 敵はいつかの日に戦ったリリィ……【吸血淫魔ヴァンパイア・サキュバス】リリエット=ルージュと同格の相手……油断は出来ない。



固有ユニークスキル発動――――【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】!!」

「あわわ……ラムダ卿の周りに蒼い剣が大量に……!?」

「道を開けてもらうぞ――――絶剣、“蒼穹百連そうきゅうひゃくれん”……射出!!」

「むっ……“魂”を具現化した剣か……厄介だな……!! 希望に満ちて輝ける“魂”なぞ……死したる亡者にはこの上なく効く……!!」



 俺の周りに展開した百の“魂剣”を弾幕のようにレイズに向けて撃ち出す。


 巻き添えを受けて倒れて霧散する屍人たち、魔法陣を盾のように展開して攻撃を防ぐレイズ――――どうやら、死者に強い効力のある“聖属性”の魔法以外に、この【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】の“魂”の具現化した剣にも強い“屍人特効”の性質が備わっているらしい。


 なら、レイズにとって俺は“天敵”という事になる。



「す、凄い……レイズが召喚した屍人をあっという間に片付けた……!? ラムダ……あなた、この一ヶ月で何があったの……!?」

「余のコレクションを羽虫のように蹴散らすか……カカカッ、面白い……!!」

「気を付けて、御主人様ダーリン!! 第二陣が来るわ!!」

「その前にレイズを斬る――――覚悟ッ!!」



 それ故か、俺を“脅威”と断じたレイズは倒された屍人に目もくれずに展開した魔法陣から新たな屍人を召喚し始める。


 だが、屍人たちが魔法陣から這い出てくるまで猶予がある――――そう判断し、俺は一気に跳躍してレイズへと飛び掛かかった。


 相手は丸腰――――仕掛けられる前に倒す。



「ほう……威勢がいいな、“アーティファクトの騎士”よ……【死者冒涜レスシタティオ・ブラスフェミア】……来たれ、死したる巨人のかいなよ……!」

「――――なッ!?」



 しかし、流石は魔王軍最高幹部――――そうやすやすとは倒されてくれそうにも無い。レイズは静かにスキルを発動させて俺の迎撃に入る。


 俺の左側に出現した巨大な魔法陣、即座に俺の周囲を真っ赤に染める【行動予測】の警告アラート、そして魔法陣から放たれるは――――屍人ゾンビ化して青く変色した巨人の腕による鉄拳。



「咄嗟に黒腕こくわんのアーティファクトで防いだか……流石だな……」

「あれは……巨人の腕……!? 御主人様ダーリン!!」

「その通り……これは亡きメメントが『部屋に置いたらすんごく臭かったのであげまーす♡』のふみと共に余に献上した巨人の亡骸の腕だ……」

「不要品を押し付けられていますわ……」

「ラムダ!! 大丈夫、返事をして!!」

「この……! 俺を舐めるな……レイズ……!! あとメメント……余計なことばかりしやがって……殺してやる……!!」

「落ち着いて、御主人様ダーリン! もうメメントは殺してるよ!!」



 咄嗟に左腕アインシュタイナーで防いだが、それでも勢いを止めきれずに俺は神殿の壁に打ち付けられてしまう。


 参ったな……巨人族、人間では測り知りえない程の腕力を有していると聞いていたが、まさかここまでとは。



「このまま……消し飛ばしてやる! 光量子輻射砲フォトン・ウェイブ――――」

「おおっと……大事な余のコレクションに粗相そそうはいかんな、“アーティファクトの騎士”よ……格納……!!」

「――――ッ! 消えた……!」



 しかし、怯むわけにもいかない――――そう思い左腕アインシュタイナーによる反撃を試みたが、俺の動きを察知したレイズは白骨化した指を“パチリッ”と鳴らして巨人の腕を瞬時に格納する。


 一瞬にして消えた巨大なかいな――――どうやらこの死者の身体を即時召喚して相手を強襲する戦法がレイズの戦い方らしい。


 なるほど、上質な死体を有すれば有するほどに厄介度が上がっていくのか……のが身ひとつで戦っていたリリィが可愛く思えてくる。



「ふふふ……直情的だな……! それとも、搦手からめては苦手か……?」

「いいや、得意中の得意さ――――貫け、我が“魂剣”よ!!」

「――――ぬぅ……!?」

「レイズ……わたしの……レイズ……! おのれ……アーティファクトの……騎士……!!」



 だが、強襲が得手なのはこちらも同じ――――消えた巨人の腕に唖然としている()()をしている俺を嘲笑あざわらうレイズを背後から貫く蒼き剣。


 我が母の遺した固有ユニークスキル【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】をレイズの背後に出現させての強襲攻撃。



「生憎と……泥臭い戦い方は得手でね……我が魂剣、骨身に染みるだろ、レイズ?」

「小癪な……! ぐぅ……余は、ネクロの為にも……死ねん……!!」

「なら早々に退け! 死にたくないのなら、俺は命は取らない!」

「ふはは……上から目線、随分と【傲慢ごうまん】だな……その気質、“魔王”に通ずるぞ……ラムダ=エンシェントよ……! 故に、余は貴殿を殺さねばならん……!!」

「傲慢の……魔王…………いけない、御主人様ダーリン――――レイズが仕掛けるわ、急いで離れて!」



 身体を貫かれてもなお諦めないレイズ。少し離れた位置で心配そうに見つめるネクロを庇うように再び闘志を燃やした死したるむくろは両手を伸ばして魔力をほとばせらせる。


 さらに湧き出る屍人たち、狂気に顔を歪めて俺や姉さんたちに向かう死者の群れ――――意地になったレイズの暴走が戦いを泥沼化させていく。



「ぐっ、御主人様ダーリンに攻撃されて意地になったわね……ええい、雑魚が……邪魔しないで!」

「急いでラムダ卿の元へ!」

「この……こうなったら纏めて――――ッ!? 何……なにかが……すごい勢いでこっちに向かって来る……!? レティシア様、リリエット=ルージュ、今すぐ後方に退きなさいッ!!」



 屍人の軍勢を斬り分けて進む姉さんたち――――しかし、不意にツヴァイ姉さんはレティシアとリリィに『後方へ避難』するように叫ぶ。


 ツヴァイ=エンシェントは耳が良い――――おそらく、何かが来る。



「――――複数の生体反応を検知。荷電粒子砲かでんりゅうしほう【ソドム】【ゴモラ】――――起動開始……放て」



 姉さんと共に後方へと飛び退いたレティシアとリリィ――――その瞬間に3人がいた場所に降り注いだのは、激しく発光する白い光。


 着弾と同時にその場に群れていた無数の屍人たちを一気に消し去ったその光はそのまま神殿の通路を破壊しながら照射され続け、周囲一体を激しい衝撃波でかき乱す。



「うわ……!? なんだ、この攻撃!?」

「余の屍人が……分解されて消えた……?」

「ラムダ、上を!!」



 白い光が消え、その場にいたレイズの屍人たちが塵一つ残さずに消えたのを呆然と見つめるしか無かった俺に聴こえた姉さんの声。


 そしてその声に導かれて見上げた先に居たのは――――ひとりの【天使】。


 水色とピンク色の鮮やかなツートンカラーが印象的なボブカットの髪、純白のボディースーツ、腕と脚に装着された白銀の重装甲アーマー、両手に握った大型の銃器、プレート状に形成された白い光量子フォトンの翼、そして目元を覆った白銀のバイザーから覗かせるは朱い“一つ目(モノ・アイ)”。



「なに……あれは……?」

「ひっ……て、天使……!! いや……いや……!!」

「レティシア様……なぜ、そんなに怯えて……!?」

「ツヴァイ……まずいわ、急いで撤退の準備を……!!」



 間違い無い――――あれはアーティファクト【天使エンジェル】。以前、【享楽の都(アモーレム)】で見たのと同じ……人型の戦闘兵器。



「あれは……よもや……!」

「天使……!」

「起動、起動、起動――――弊機わたしの名は【ジブリール】。地球連邦軍旗艦『アマテラス』を守護する人型戦闘兵器――――これより、侵入者を撃破します……!」



 その名をジブリール――――ノア曰く、古代文明で崇拝された『四大天使』の名を刻んだアーティファクト【大天使(アークエンジェル)】の一機。


 この【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】に隠された『秘密』を守る天使の御姿をした兵器。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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