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第913話:美しさの証明


「――――と言うわけで、普通に負けました……」

「報告しなくても知ってますよ、ラムダさん……」



 ――――デア・ウテルス大聖堂第一階層、巡礼者宿泊部屋にて。アートマンとの模擬戦を終えた俺はその夜、天体観測室で起こった出来事をノアへと報告していた。

 テーブルについたノアは機械天使ティタノマキナの“一つ目(モノ・アイ)”バイザーを装着して、俺とアートマンとの戦いの映像を確認しながら夜食のパンを齧っている。



「マスターが手も足もでずに完敗ですか……」


「ああ……かすり傷どころか、塵一つ付けれなかった。泣きの一回って頼み込んで十戦ぐらいしたけど結果は一緒だった。アートマンから『これ以上の模擬戦はご遠慮をお願いします』って言わせるまで粘ったんだけど……完敗だったよ」


「『泣きの一回』を辞書で調べてください、マスター」


「とりあえず……アートマンの能力についてのデータはできる限り収集したつもりだ。どうだノア、アートマンを君はどう評価する?」



 俺はアートマンと十回ほど模擬戦を行なったが、結果は全て惨敗だった。アートマンの保有する無数の【加護】の前に俺は手も足も出なかった。


 だが、収穫が無い訳ではない。


 俺はアートマンとの戦いを全て“眼”に納めてノアへと献上した。そして、ノアは現在その映像を確認してアートマンの分析を行なっていた。



「結論から言えば……現状、アートマンさんを突破する手段は皆無に等しいでしょう。ラストアーク騎士団を総動員、戦艦ラストアークを持ち出してもアートマンには敵いません……」


「やっぱり……スペルビアが負ける訳だ」


「映像を確認するだけでも……アートマンさんは100以上の【加護】を使用しています。しかも各々が一個人の“固有術式ユニーク・スキル”に相当……いいえ、それ以上の性能を誇っています。それに、本人の証言が正しいなら……アートマンさんが保有する【加護】の総数は五桁以上に及ぶでしょう」


「それでは……そのアートマンという人物は……」


「ええ、ジブリール……あなたの予測通り、アートマンさんは事実上の“無敵”と考えて良いでしょう。データを改造しまくって作られた『チートキャラ』と表現するのが正しいでしょうね……」



 ノアはアートマンを『無敵』だとハッキリと断言してしまった。曰く、ラストアーク騎士団を総動員しても、戦艦ラストアークを持ち込んでもアートマンには絶対に勝てないらしい。

 ノアはアートマンを『チートキャラ』だと古代文明で用いられていたスラングを交えて表現した。アーティファクトで無双していた俺も大概だと自覚しているが、アートマンはそれ以上の逸材らしい。



「唯一の救いは……アートマンさんの【加護】には“攻撃”に関する術式スキルが含まれていない事ですね。さすがは“救済者セイヴァー”を自称するだけはあります……アートマンさんのちからは大半が防御や守護に特化しています」


「それは俺たちの勝ちに繋がるか?」


「いいえ……あくまでもアートマンさんが決定打を持ち合わせていない、と言うだけの話です。私たちの攻撃は当然のようにアートマンさんには通じないので、戦えばジリ貧になって私たちの敗北に繋がります」


「暴力の化身であるマスターとは真逆ですね」

「ジブリール、お前の暴力の化身だろうが……」


「アートマンさんはアーカーシャの『神授の儀』による術式付与のシステムを最大限に活用して造られていますね……奇しくも、古代文明の賢人たちの細胞を配合して造られた私と同じ存在と言えるでしょう」


「それで……攻略法はあるか、ノア?」


「う〜ん……ここまで性能が盛られているのは想定していませんでした。ラムダさんたち『人間』とは骨子フレームの部分からして構造が違う……そもそもとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「正攻法では勝てないと……?」


「正直に言えば……そうなりますね。一応、私なりに勝てる可能性は模索しますが……あまり期待はできないと思ってください。それよりも、アートマンさんを説得して鎮静化させる方が得策かと……」



 古代文明の叡智を結集して造られた天才であるノアもアートマンにはお手上げだった。一応、ノアなりの“秘策”はあるらしいが、素直にアートマンを説得した方が良いと言っている。


 しかし、アートマンの説得も困難を極める。


 アートマンは自身が推し進める『人類神化計画』に絶対の自信を持っている。全人類を『アートマンと同じ存在に昇華させる』ことをアートマンは絶対の“救済”だと確信しているからだ。



「全人類をアートマンさんと同等の存在に進化させ、数々の【加護】を備えさせる……ですか。まぁ、人類を一人残らず滅ぼすぞ〜って計画よりかはマシですが……」


「ノア様的はどう評価なされますか?」


「アートマンの宣言通り……計画が実行されれば世界から争いは無くなるでしょう。私も完全な存在に……念願だった『うんちしないヒロイン』になります」


「どんだけうんちしたくねぇんだよ、お前……」


「全人類が不老不死かつ絶対無敵……不慮の事故に遭っても蘇生するでしょう。そうなれば他者を傷付ける行為自体が不毛になります。必然的に人類は他者を害する事がなくなります……意味がないですからね」


「だけどそれは……」


「ええ、ラムダさんの懸念通り……アートマンさんの計画が実現すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()。右を見てもアートマン、左を見てもアートマン、そして自分自身もアートマン……おぉ怖っ」


「アートマンがゲシュタルト崩壊を起していますね」


「それを魅力敵に思う人も少なからず存在するとは思います……救われる人も居るでしょう、それは否定しません。ですが……私は反対ですね。この究極ヒロインであるノアちゃんがアートマンさんになっては物語が台無しです……」


「自画自賛が限界突破してる……」


「できればその『人類神化計画』を否定して、アートマンさんを説得したいのですが……それには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私個人のビューティフルさを証明するのは容易いですが……それを世界規模、全人類単位で証明するのは困難ですね」



 アートマンの絶対の自負を砕くには、アートマンに『世界の美しさ』を証明しなければならない。アートマンに『世界は今のままで良い』と思ってもらわないとならないのだ。

 流石のノアにも良いアイデアは浮かんでいらしい。ジブリールに渡されたおかわりのパンを齧りながら、ノアは天井を仰いで延々と唸っていた。かくいう俺もアートマンを説き伏せる妙案は思い付かない。



「駄目ですね……私では『世界の美しさ』を証明できません。そもそも……私自身がアートマンさんと同じ『世界の変革』を担う立場で設計されたので、どうしても私には『世界の醜さ』だけが見えてしまう……」


「ノア……」


「私は引き続き来たる裁判の備えと、加えてアートマンさんの【加護】を突破する方法を模索します。アートマンさんの説得はラムダさんに一任します……適材適所ってやつですね」


「俺が……アートマンを説得するのか?」


「ラムダさんなら出来ると私は確信しています……私を信じてくれますか、我が騎士よ。貴方が旅を通じて知った『世界』をアートマンに語ってあげてください」


「旅を通じて知った『世界』か……」


「私たちは二人で一つです……二人ならきっとアートマンさんにも負けません。産まれてくる()()()の為にも……この『世界の美しさ』を証明しましょう、ラムダさん」



 ノアはアートマンの説得を俺に委ねた。子どもの居るお腹を優しく擦りながら、ノアは俺に全幅の信頼を置いてくれたのだ。

 ノアが俺を信頼してくれている、それならば俺はその期待に応えなければならない……”ノアの騎士“として。産まれてくる子どもの未来を護るためにも。



「イエス、ユア・マジェスティ……それが我が王の御命令なら、私は全力でアートマンに説得にあたります!」


「頼みます、我が騎士よ……」



 こうして、激動の一日は終わり、俺はアートマンの説得の為の道を模索する使命を新たに負った。

 俺とノアの審判の日まで、残された期限はあと二日。

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