第10話:虚数情報記憶帯干渉同期システム
「まさか……あれから十万年も経っていたなんて……。全く……アーカーシャ、なんて事をしてくれたの……! もうすぐ楽しみにしていたアニメの最終回だったのに……!」
「まさか、女神アーカーシャの正体が人工知能だったなんて……って、全然関係なさそうなこと気にしてる!?」
『神授の儀』による職業【ゴミ漁り】とスキル【ゴミ拾い】の授与、騎士の名家・エンシェント辺境伯家からの追放、上級魔物・ガルムとの死闘、古代文明の遺産・アーティファクトの獲得と自身の身体の強化改造、そして古代文明の生き残りの少女・ノアとの出会い。
激動過ぎる一日を越えた次の日の早朝、俺とノアはオトゥールの街を歩いていた。
「煉瓦造りの建築物、街の共用井戸、布素材の素朴な洋服、剣と魔法! くぅ~、資料でみたファンタジーの世界観にピッタリです〜♪ あ〜、でもラムダさんがやってた『二次元の閲覧者』のウィンドウ表示は寧ろハイテクノロジー感ありますね。アーカーシャの趣味かしら?」
「こら、あんまり周りをキョロキョロと観察しない! 街の人が不審がってるじゃないか!」
興味津々とばかりに眼をキラキラと輝かせてオトゥールの街を舐め回す様に観察するノアを窘めながら、俺はここまでの出来事を振り返る。
ノアの眠っていた『方舟』なる小型の飛空艇はどうやら浮遊機構(?)に損傷があったらしく、ノアは躊躇うこと無く放棄を決定。艦内に残っていた幾つかのアーティファクトを俺の右手首に装着したブレスレット状の量子変換装置に格納し、俺たちは舟を後にすることになった。
ノア曰く、あの地下空間は“戦争”から逃げ延びた(と言うより墜落したらしい)ノアの乗る舟を隠すために造られた急造の格納庫だったらしい。ノアの冷凍睡眠と同時に施設を封印、元より出入り口の存在しない場所だったようだ。
その為、俺とノアは古代文明のアーティファクトの一つである浮遊昇降装置を使って、あの時にガルムの攻撃で空いた孔から難なく脱出に成功。
道中、ガルムに喰い殺された騎士の亡骸をふたりで丁寧に埋葬してから、ロクウルスの森を出ることとなった。
そして現在、ノアは方舟から持ち出した『百万年保存できる』と評判らしい保存食、何とも旨そうには見えない粘土みたいな色のスナックを俺の隣で頬張っていた。
「――――で、ノアの時代に創られた人工知能……アーカーシャが突然暴走を始めて、人類に攻撃を仕掛けて来たって訳か」
「その通りです……もぐもぐ。元々は虚空情報記憶帯に干渉を行い、そこに記された様々な未来を読み取り、干渉し、現実へと同期させるための装置としての“神”。それが、私……達の文明が創った管理AI――――正式名称、虚数情報記憶帯干渉同期システム:アーカーシャなのです」
「虚数情報記憶帯、干渉同期システム……造られた“神”ねぇ……」
「――――で、そのアーカーシャがどう言う訳か暴走を始めた結果、私たちの文明は滅びてしまったのです。もぐもぐ……この保存食まずい!」
「…………」
文句を言いながら保存食を無理やり飲み込んだノアを尻目に、俺は語られた情報を整理する。
今から十万年前――――機械が発達し、繁栄を謳歌していた古代文明は自らが作った“神”であるアーカーシャの反乱によって呆気ない滅亡を迎えた。
そして、古代文明を滅ぼした人工知能は“現実を自在に書き換える”機能を駆使して世界を改変。剣と魔法が文明を彩り、15歳になった者へ職業とスキルを与える『神授の儀』を行う至高の女神として自身が存在する今の世界を創った事になる。
「ラムダさんも保存食いりますか? とーっても不味くて、ダイエットにうってつけですよ?」
「いらね」
しかし、アーカーシャが『剣と魔法のファンタジー(ノア曰く)』の様な世界を創った事には疑念が残る。
「はぁ〜、こうなっては仕方ありません! ノアはこの剣と魔法の世界で強く生きます! なんとかなります。多分、恐らく、自信はありません……」
「覚悟が揺らぎまくっている……」
が、ノアは暢気にこの世界で生きると(若干、自信なさげに)宣言。彼女を見ていると、今はアーカーシャの事は一旦無視しても大丈夫だろうと考えてしまう。
見た目は最高に美少女なのに、中身が微妙にポンコツなのは一体どう言うことなんだろうか。
喜怒哀楽がコロコロと移り変わるノアを見て、俺はそう感じずにはいられなかった。
「ところで〜私〜、旧文明で使っていたお金しか持ってないんですけど〜、ラムダさんは〜お金〜持ってますか♡」
「持ってないです♡ ……はぁ、言ったろ? 俺もこの【ゴミ拾い】のスキルのせいで家を追い出されたから、碌な路銀も持ってないの」
「じゃあ、私たち文無し極貧生活ですか? うぅ……もうジュース一本も買えない……ジュースごくごく」
「おい、ノア! いつの間にジュース買ったんだ!?」
勝手に人の財布から金を抜き取ったノアの頬をつねりつつ、俺はこれからの方針を考える。
「はぁ……なら、やっぱり冒険者ギルドに入るしかないか……」
「痛いれふ〜……っと、冒険者ギルド……ですか? なんですかそれ? 新手の賞金稼ぎの組合ですか?」
「駄目だこの娘……現代の知識が無いから、何か急に馬鹿になったみたいになってる……」
「失礼ですね、こう見えても私ぃ高IQになるように設計された正真正銘の天才少女なんですよ。えっへん!」
「あー、そうですか……。と、兎も角、今からギルドのある場所に行こう!」
色々と紆余曲折あり、ノアと言う同行者も(勝手に)増えたが、サートゥスを出る際に予定していた『冒険者ギルドへの加入』をやはり目指すべきという結論に俺は行き着いた。
「ところで、その『ギルド』には……私のような『科学者』に出来る仕事はありますか……?」
「ないと思う」
「…………(泣)」
オトゥールにあるギルドの支部までは歩いてあと5分ほど。俺は『私はインドア派なので肉体労働は出来ません〜』と泣き喚くノアをあやしながら歩く羽目になった。
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