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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第910話:アートマン -Ātman-


「此処にアートマンが居るのか……」



 ――――デア・ウテルス大聖堂最上階、リブラⅠⅩ(ナイン)の救出から少し経った夕暮れの頃。俺はアートマンと接触するべく大聖堂上層区画に在る天体観測室を訪れていた。



「あら〜……誰かと思えば、ラムダ=エンシェントちゃんじゃない。どうしたのかしら〜、アートマン様に何か用?」


「あなたは……カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)か……」


「そ、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)。遠慮なく『カプリコん』って呼んで頂戴♡ うふふ、ラストアーク騎士団の“象徴シンボル”である貴方が護衛も付けずにこんな場所をウロウロしてて良いのかしら〜?」


「私に護衛は不要、元より私が我が王の護衛」


「あら〜! それってノア=ラストアークちゃんの事かしら? うふふ、貴方のような忠義者にそう言って貰えるなんて……ノア=ラストアークちゃんは果報者ねぇ♡」



 天体観測室へと続く扉は光導騎士の一人であるカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)によって守られていた。腰に鞭のような武器を携えたカプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は、妖しい笑みを俺に見せている。

 ウィル曰く、彼は『光導十二聖座アカシック・ナイツ』でも古参の一人らしい。同じ光導騎士でも彼の素性を知っている者は皆無なのだとか。



「天体観測室に居るアートマンさんと面会したい……通して貰えますか、カプリコーンさん。アートマンさんには事前に連絡はしていますが……」


「あら残念……てっきりあたしに逢いに来てくれたと思ったのに……。ですが……ええ、貴方は通すようにアートマン様から仰せつかっているわよぉ♡ どうぞ通りなさい……アートマン様、ラストアーク騎士団のラムダ=エンシェント卿がお見えです」


《分かりました……通してください》


「仰せのままに……封印術式、解除。さぁ、ラムダちゃん、奥の天体観測室でアートマン様がお持ちよぉ。あんまりお待たせしちゃ駄目よ♡」



 俺の目的がアートマンとの面会だと知るやいやな、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)は少し残念そうな表情をしつつも、天体観測室へと続く巨大な扉の封印を解除してくれた。

 そして、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)に促され、俺はアートマンの待つ天体観測室に向けて長い通路を歩き始めた。



「よく来てくれました……ラムダ=エンシェント卿」

「アートマン……貴重なお時間を頂き感謝します」



 長い通路を数分掛けて歩き切り、最奥に在った扉を開けて俺はアートマンと対峙した。

 其処は大聖堂の最上階に造られた観測室。ドーム状の大部屋になっており、天井には魔法で投影された夜空が広がっている幻想的な風景が広がっていた。



「瞑想をしているのですか……?」


「ええ……わたしは今、意識を『世界』に溶け込ませ、この世に生きる数多の生命に想いを馳せていました。しばしお持ちください……いま意識を“器”に戻しますので……」



 アートマンは座禅を組んで空中に浮かび、瞳を閉じて深く瞑想していた。曰く、世界に想いを馳せていたのだとか……俺にはよく理解できない事をしているようだ。

 瞑想するアートマンの姿はあいも変わらず神秘的で、どこか不気味だった。男性か女性かも分からない、完成された美の化身が静かに祈りを捧げている。美しくもあり、同時に人間離れした違和感を感じる。



「さて……わざわざ大聖堂の最上階までご足労いただきありがとうございます、ラムダ=エンシェント卿。申し付けてくだされば、わたしからあなたの下に伺いましたのに……」


「個人的な要件です、それには及びません……」


「そうですか……ご要件をお伺いしましょうか。一つは先のヴァルゴⅤⅢ(エイト)さんの行為だと思いますが……相違ありませんか?」



 アートマンに対して僅かな魅力と底知れぬ恐怖を感じている時、アートマンは瞑想を終えてゆっくりと床へと降り立った。

 美しい純白のまなこを静かに見開き、そのままアートマンは俺へと優しく語り掛けてきた。どうやら、俺の目的は()()()()()()()()()らしい。



「はい……ヴァルゴさんが我がラストアーク騎士団の捕虜となっているリブラに私怨からくる暴行を……。事を大きくするつもりはありませんが……我がラストアーク騎士団の騎士の身の安全の為にもあなたの助力を頂きたい」


「そちらに関してはすでに教皇ヴェーダに通達済みです。アーカーシャ教団には、ラストアーク騎士団が明確な破壊活動を行わない限りは手出し無用を徹底するようにと警告を出させました」


「…………は? もう話を付けたと……??」


「ええ、その通りですが? 教皇ヴェーダはラストアーク騎士団に捕縛された捕虜の解放を訴えていますが……そちらは国際法の則った手続きが必要になるとも伝えています。もっとも……その国際法を司るのがアーカーシャ教団なので、ラストアーク騎士団には不利な結果にはなりますが……」



 そして、アートマンはあろう事か俺が伝えようとしていた要望をすでに実行し終えていた。ヴァルゴⅤⅢ(エイト)のような暴走を諌めるべく、アーカーシャ教団にはすでに警告が発令されていた。

 それを知って、俺はアートマンへの恐怖をさらに強くした。俺が来る前からヴァルゴⅤⅢ(エイト)の事を把握していたのなら、アートマンは“千里眼”や“未来視”のような術式スキルを有している事になるからだ。



「なぜ……先んじて行動を?」


「わたしには分かります……あなたの()()()()()()ヴァルゴさんの事を伝える事ではない。あなたはわたしとの対話を求めている……ですので、その為の時間を設けさせて頂きました」


「…………始めからお見通しって事ですか」



 そればかりか、アートマンはすでに俺の『真の目的』まで把握していた。まるで俺の全てを見透かされたような気分だ。

 アートマンは穏やかな笑みを浮かべると、俺が語り始めるのを静かに待ち始めた。身動ぎ一つせず、ただ俺の行動を待っている。



「なら……単刀直入に伺います。アートマン……あなたの“目的”は何でしょうか? あなたは女神アーカーシャ後継となって何を成すつもりですか?」


「わたしの目的……ですか?」


「あなたの行動、その思想は教皇ヴェーダの意図しないものになっている……つまり、あなたはアーカーシャ教団の理念には従っていない。なら、あなたはいったい何を考えて行動している?」



 アートマンに無言で促され、俺はアートマンに対する疑念を問うた。それはアートマン自身の“目的”だ。何を考え、何を企み、何を実行に移そうとしているのか、それを俺は知りたいと思っていた。

 俺の問いに対して、アートマンは自らの思考を数秒だけ逡巡した。自らの考えの善悪ではなく、おそらくは()()()()()予測しているのだろう。そして、考えの纏まったアートマンは静かに自らの目的を語り出した。



「良いでしょう……質問にお答えします。わたしの目的は……この世界の『神』として、あまねく全ての人間を“神化しんか”させて救済する事です」


「…………“神化”?」


「はい……わたしは全ての人間を『アートマン(わたし)』と同等の存在へと昇華させ、全ての人間を“完全な存在”に進化させます。これがわたしの考える理想の救済……この世界からあらゆる“不条理”を抹消する我が計画です」



 その計画を聞いた瞬間、俺は背筋が凍るのを感じた。アートマンが明かしたのは、この世界に生きる全ての人間を『アートマン』へと変化させ、全ての人間を“アートマン”と同等の存在に昇華させようとするだいそれた内容だった。



「人間はひどく“不完全”だ……故に差別が生まれ、そこに憎しみや争いが生まれたしまう。先のヴァルゴさんとリブラさんの確執も……そう言った“不完全”が生み落とした悲劇に相違ありません……」


「…………!」


「わたしは憂いています……この“不完全”さが無くならない限り、人間は真の意味で理解し合えない。故に、わたしは人類を“神化”させます……全ての人間がわたしと同じ至高へと至れば争いは必ずやなくなり、世界は永遠の平和と繁栄を手に入れるでしょう……」



 それを聞いた瞬間、俺はアートマンを『なんとかしないと』と思ってしまった。だけど、俺の手は剣を握れなかった……スペルビアの敗北が脳裏に過ぎったからだ。

 スペルビアが属していたラストアーク騎士団もおそらくはアートマンの計画を知って、止めようとして戦いを挑んで敗北を喫したのだろう。だから俺は既のところで行動を自制していた。



「それは個性を剥ぐ……という事ですか?」


「その考えは傲慢ですよ……ラムダ=エンシェント卿。全ての人間は……あなたのように恵まれた才覚を有している訳ではない。哀しいかな……世の中には確かに()()()()()()()()()()()()()。彼等を救うには……全ての人間を平等にする以外に手立てはない」


「…………っ!」


「全ての人間が『アートマン(わたし)』となれば……この『世界』には“不完全”ゆえの悲劇は起こらなくなる。それは素晴らしい事だとは思いませんか? 皆が“罪”から解き放たれ……誰もが同じ存在なのだという安心感の下に生きていける」


「しかし……それは……」


「憂いる必要はありません……わたしはあなたを救いたいのですよ、ラムダ=エンシェント卿。争いがなくなれば人間は武器を手放せる……格差がなくなれば憎しみは消え去る……わたしたちは分かり合えるのです」



 アートマンは一点の曇りもない表情で、自らの計画の合理性を俺に説いた。確かに、全ての人類がアートマンと同等の存在になれば、世界には平和が訪れて、きっと永遠に種の存続は守られるであろう。


 だけど、何かが俺を拒絶させた。

 それは違うと本能が叫んでいる。


 アートマンの指摘通り、俺が才覚に恵まれた存在だから言える我が儘なのだろうか……それは理解できない。だけど、どうしてかアートマンの理想には心から賛同は出来なかった。



「…………」


「まだ受け入れがたい話のようですね……いいえ、構いませんとも。その葛藤も人間が“不完全”である証左です……やはり、こうしてあなたと語り合えて良かった」



 アートマンは自らの計画を受け入れきれない俺に対して怒りを抱いていない。その葛藤は当然のものだと、むしろ受け入れているようにも見えた。



「どうですか、ラムダ=エンシェント卿……ここは一つ、もう一段階深い位置でわたしと分かり合ってみませんか? そうすれば、きっとわたしの思念をあなたも理解できる筈ですよ……」


「? 何を言って……?」


「どうでしょう……ここは一つ、わたしと手合わせしませんか? 無論、非殺傷を原則として模擬戦です……あなたもラムダ=エンシェント卿の“眼”を通じて『わたし』を知れるでしょう……ノア=ラストアークさん?」


《…………私が覗いている事も把握済みですか……》


「先ずは『わたし』を知ってください……わたしは『あなた』を知りたい。そして理解してください……わたしの理想を、この世界を救うたった一つの“救済”の形を」



 そして、動揺する俺に対して、アートマンはさらなる理解を促してきた。アートマンは俺との模擬戦を希望してきたのだった。

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