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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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天秤の記憶:この美しい世界に祝福を


「おねーちゃん、おねーちゃん!」

「はいはい、聞こえていますよ……」



 ――――世界は美しい。それが当時の、まだ幼かった事の私が『世界』に抱いていた感想だった。

 今でも憶えている、私はどこにでも居るような平凡な家庭に生まれた。そして、戦争に赴いた父は戦死し、病弱だった母は父の後を追うように病死し、私と姉様は『家族』も『家』も失った。



「今日の朝ごはんは何?」

「今日はパンを買って来ていますよ」



 私と姉様はとある都市のスラム街で身を寄せ合って生活していた。忘れ去られたように建つ集合住宅の一画、戦火に曝されて遺棄された場所で私たち姉妹は隠れ住んでいた。


 私は『戦争』が嫌いだった。

 私は『平和』を愛していた。


 父は私たちを護る為に立派に戦って戦死し、母は帰らぬ父をベットの上で待ち続けた。そして、母が亡くなった後、私の財産は全て意地悪な親戚たちに根こそぎ奪われていった。



「ごめんね……わたしがもっと稼げていたら、もっとあなたに美味しいご飯を食べさせてあげれるのに……。本当にごめんね……」


「おねーちゃんがいたらあたしは幸せだよ」


「そう……そう言ってくれるのね。じゃあ、お姉ちゃん……もう少し頑張るね。あなたをちゃんと養う……だって、お母さんと約束したから」



 まだ幼かった私は姉様の庇護下にあった。姉様が朝から晩まで働いて得たスズメの涙のようなお金で食べさせて貰っていた。服はボロボロ、靴もすり減っていて、部屋には碌な家具も置いて居ない事を姉様はいつも申し訳なさそうに謝っていた。


 けど、私は姉様を誇りに思っていた。

 誰かに自慢したくなるような姉だった。


 仕事中の事故で両脚が不随になった後も、姉様は車椅子に頼りながらも私を懸命に育ててくれた。だから私は幸福だった、姉様の居る『世界』は美しいと思っていた。



「さぁ、ご飯を食べる前にお祈りをしましょう。女神アーカーシャ様……どうか私たち姉妹をお導きください」


「アーカーシャ様……今日も平和をありがとう」


「ふふっ、さぁ食べましょう。ご飯を食べたら私は出稼ぎに行きます。あなたはお家で大人しくしている事……誰かが此処に来ても返事をしては駄目よ」



 私は女神アーカーシャ様を心の底から信奉していた。父も母も亡くしたけど、私の側には私を愛してくれている姉様がいつも居てくれる。こんな幸福な事はない。


 だから私は祈り続けた。

 いつか祈りが女神に届くと信じて。


 私はいつも姉様の幸福を祈っていた。いつの日か姉様の苦労が報われて、姉様に素敵な男性が見つかればとお祈りしていた。



「おねーちゃん、今日もお仕事で遅くなる?」


「え、ええ……遅くなるかもしれないわ。けど、夕暮れまでには帰るからね。美味しい夕飯を買って帰って来るわ……」


「うん、待ってるね、おねーちゃん♪」



 姉様は過酷な仕事をしていた。内容はついぞ教えて貰えなかったが、とても心身を擦り減らすものらしい。いつも姉様は疲弊した状態で家に帰って来るからだ。


 私が寝付いた後、姉様は一人啜り泣いていた。

 けど、姉様は私には常に笑顔を見せていた。


 そんな姉様の姿を私は美しいと思っていた。だから、大きくなって働けるようになったら、今度は私が姉様を助けるのだと思っていた。



(女神アーカーシャ様……早くあたしを大人にしてください。早くあたしはおねーちゃんを助けてあげる立派な女性になりたいです……お願いします)



 姉様が出稼ぎに出た後、私は姉様の宝物である小さな女神像に祈りを捧げ続けた。早く大人になりたい、早く姉様を助ける存在になりたいと。

 それから数年後、私は『神授の儀』を受ける直前に時の聖女ティオ=インヴィーズ様によって発見され、姉様共々アーカーシャ教団に保護された。



「あなたも聖堂騎士団を志願するのですか……?」

「はい、私も姉様のような騎士になりたいのです」



 私は聖堂騎士団に入った姉様の後を追った。姉様のような平和を護る守護者を志した。

 幸運な事に、私には騎士としての才覚があった。女神アーカーシャの御言葉を『世界』に伝える代弁者、如何なる“悪”をも『天秤』によって公平に裁く秩序の護り手になっていた。



「では……教皇ヴェーダの名に於いて、今日より貴女を『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の第九席へと任命します。女神アーカーシャ様の理想を体現するべく『世界』に誠心誠意、奉仕なさい……リブラⅠⅩ(ナイン)よ」


「――――はい!」


「同じ光導騎士として、貴女を歓迎するわ……リブラⅠⅩ(ナイン)。さぁ、共に女神アーカーシャ様の理想を実現しましょう。あらゆる“悪”を駆逐し、この世界を浄化するのです……我が妹よ」


「はい、ヴァルゴお姉様」


「リブラⅠⅩ(ナイン)……貴女の全ては女神アーカーシャ様に捧げられました。かつての名前も、その顔も、美しい思い出も……これは幸福な事です。貴女は選ばれたのです……女神アーカーシャ様の“つるぎ”に」



 そして、私は女神アーカーシャ様に見初められて聖堂騎士団最高位の騎士である『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の一角を襲名した。女神アーカーシャ様の示す啓示を、その絶対の『正義』を体現する騎士。


 リブラⅠⅩ(ナイン)、それが私の新しい“名前”。

 世界の秩序を護る“天秤”の担い手。


 一足早く光導騎士に命じられた姉様、ヴァルゴⅤⅢ(エイト)と共に私は女神アーカーシャ様の理想を護る守護者になった。私の祈りは女神アーカーシャ様に届いた、私はきっと幸福な子どもだったのだろう。



「ヴァルゴお姉様……私はこの『美しい世界』を護ります。姉様が私を護ってくれたように……だから、どうか私を導いてください」


「ええ……期待していますよ、リブラ……」


「ああ、女神アーカーシャ様……私の祈りを聞き届けてくださり、本当にありがとうございます。私は幸福です……こうしてあなた様にお仕えできて光栄です。あなた様が創造なされた『美しい世界』に……永遠の繁栄あれ」



 こうして、貧しい孤児だった私は女神アーカーシャ様に拾われて、『リブラⅠⅩ(ナイン)』という新しい名前を授けられて光導騎士になった。

 そして、数十年後、私はある任務で出逢ったのだった。私の“天秤”を揺るがす程の、私が夢観た『美しい世界』の幻想を打ち壊す存在……“傲慢の魔王”ラムダ=エンシェントに。


 ――――私の“贖罪”は、彼との出逢いから始まるとも知らずに。

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