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第92話:“時紡ぎの巫女”アウラ=アウリオン


「ふんふんふ~ん♪ 時よか巻け、時よ止まれ、時よ進め〜♪ 我は時紡ぐ祈り子、この身に昨日は無く、今日は無く、明日は無い〜♪ 刹那の永遠、永久とわの一瞬、我が身がたとえ朽ちるとも〜その魂は永久不滅の“くさび”とならん〜♪」



 巫女アウラは歌う、自らの使命を、自らの役割を、自らの運命を――――楽しげに、母の手を握る子どものように。


 くるくると彼女に回される杖は円を描き、先端に施された白い魔石は軌跡を描いて行く。



「何をしてるんだ、あの子は……?」

『【時間魔法】……“時紡ぎの巫女”にのみ扱う事を許された高等魔法……!!』

「知っているのか、【シャルルマーニュ】!?」

『えぇ……とても……!!』

「くそ……!! 夜明けになって肉体の欠損も巻き戻ったのか……!!」

「さぁさぁ、時計の針を進めましょ〜、時計の針を戻しましょ〜♪ 此処ここは時の綻び、其処そこは時の狭間ハザマ――――揺蕩たゆたう私は“時紡ぎ”、彷徨さまよう貴方は“時の砂”、今ここに……私は時の針を担いましょー♪」



 アウラが杖で描くは時計盤とけいばん――――『Ⅰ〜ⅩⅡ』までの数字を模したと思われる奇妙な紋章が円状に描かれた魔法陣を自身の周囲に展開して、“時紡ぎの巫女”は『結界』を開く。



「ぬっふっふ……固有ユニークスキル発動……【時紡ぎの楔(テンプルム・テンプス)】――――発☆動!!」



 鼻歌まじりのアウラが小気味よく杖で地面を突いた瞬間、戦場一帯に広がる魔力の力場りきば


 心地よい“森林”の中で朗らかな日差しに照らされるような安らぎ、永遠にその場で微睡まどろんでいたいと思うような多幸感たこうかん、小さな少女の腕の中で眠りに落ちるような幸福感を感じさせる、巫女たる少女が描く理想郷ユートピア



「……あっ、ゾンビ化の進行が引いていく!? それに溶解液で溶かされた鎧と焼けた皮膚も修復されていく……!?」

「これぞあたしの操る時間大結界――――【永久少女・(エターナル・)時間矛盾領域(タイムパラドックス)】!! この結界の中ではあたしが“時間の支配者”……さぁ、空飛ぶお兄ちゃん、さっさと悪者を倒すのだ!!」

「――――分かった! ありがとう、巫女アウラ様!」

「あたしの魔法で全員の状態異常を()()()()()()()()()! ただし、この結界の解除とともに元に戻るから……くれぐれも無理はするななのだ!!」

「おのれ……! 巫女アウリオンめ……すぐさま人間に組みしたな――――アラクネ、あの巫女を今すぐに八つ裂きになさい!!」



 アウラが展開したのは【永久少女・(エターナル・)時間矛盾領域(タイムパラドックス)】と呼ばれる時間を操る大結界――――ツヴァイ姉さんたちのゾンビ化や傷が癒えた事から、結界の効果は恐らく『時間の巻き戻し』。


 怪我を負う前まで身体の時間を巻き戻した……そう考えれば合点がいく。そして、アウラの警告は『結界を解除すれば負った負債ダメージが元に戻る』と言う意味。


 即ち、致死的なダメージを負えば、たとえ時間を巻き戻して生き延びたとしても結界の解除とともにダメージが身体に戻り死に至ると言う意味だろう。


 なら、早期の決着を。



駆動斬撃刃セイバービット――――野営地に居るノアを護ってくれ!」

「キヒヒヒ、マズ竜騎士喰ウ……体液啜ッテ、絞リカスハ捨テ――――ッ!?」

「お前の様な醜い怪物に私の血を吸わせるか……! そう、どうせ吸われるなら……私は銀髪イケメンの王子様のような男性に吸われたい///」

「姉さんの性癖はいまどうでもいいよ!?」



 顔を赤らめて自身の性癖を暴露しながらアラクネの右腕を斬り飛ばす姉さん……銀髪イケメンの王子様が好みなのか……。


 腕を斬り落とされて悶絶するアラクネ――――アシュリーの指示を無視して姉さんに固執したが故の失態。キーラの思考が失われ、低級な知能しか持ち得れ無かったのが間違いだったようだ。



「くっ……! こうなったらわたしが巫女アウリオンを!!」

「アシュリー!! よくもオリビアや姉さんに無粋な真似をしてくれたな――――覚悟しろ!!」

「アーティファクトの騎士!? 霊魂よ、我が鎧となれ――――【幽世の霊衣(ゴースト・ヴェール)】!!」

「【ストームブリンガー】……刀身開放!!」



 駆動斬撃刃セイバービットをノアの救援に回して俺はアシュリーへと向かう――――無数の幽霊ゴーストを鎧のように纏い防御を固めるハーピィ。


 だが、そんな小細工はアーティファクトの前には通用しない。手にした【ストームブリンガー】の刀身を碧く輝かせてアシュリーの首を狙う。



「斬り裂け――――“天風(あまつかぜ)”!!」

「これは、障壁破壊!? しまっ――――きゃあああッ!?」



 アーティファクト【ストームブリンガー】の実体と光量子フォトンの両性質を併せ持つ“障壁破壊”による一刀両断――――と言いたい所だったが相手も幹部級だけはある。俺の剣の横薙ぎの異常性を察知したアシュリーは咄嗟の回避を行い、【ストームブリンガー】が斬り裂けたのはアシュリーの左腕だけだった。


 だが、腕は一本もいだ……逃しはしない。



「ぐァ……!? わ、わたしの自慢の翼がぁ……!! この……幽霊ゴースト、わたしを守――――」

光量子展開アイン射出式超電磁左腕部シュタイナー――――射出!」

「なっ、左腕が飛んで――――あぐッ!?」



 すぐさま後方に飛び退き、斬り裂かれた幽霊ゴーストの代わりを呼んで身を守ろうとするアシュリー。保身を図った彼女だったが、俺の左腕アインシュタイナーの射出の方が僅かに疾く――――分離して飛んだ左手の爪先つまさきがアシュリーの胸に深々と食い込む。



「あぁ……いや、いや……わたしの美貌びぼうが……う、失われてしまう……!」

「さよなら――――光量子輻射砲フォトン・ウェイブ!!」

「あっ、きゃぁあああああああ!?」



 左腕アインシュタイナーによる零距離からの接射砲せっしゃほう、断末魔と共に霧散して消え去るアシュリー……本当は見逃してあげたかったけど、キーラのように死体を再利用されたら厄介だ――――悪く思わないでくれ。



「キヒ……ツヴァイ=エンシェント……喰エナイ……!?」

固有ユニークスキル発動――――【抜刀術:一閃ストリクト・ルーチェス】!!」

「キヒ――――ッ!?」

「キーラ=バンデッド――――あなたの亡骸、在るべき場所へとお返しします!」



 そして、魔力を放出してアラクネの糸を無理やりちぎったツヴァイ姉さんも十八番おはこの抜刀術でアラクネを“たて”に両断して、蜘蛛の怪物クリーチャーを完全に沈黙させる事に成功していた。


 これでレイズの幹部は全員倒した。後は残った雑魚を蹴散らすのみだ。



「ア、アシュリー様が倒された……!? ふ、伏兵を叩き起こせ、相手は手負いだ――――数の暴力で捻じ伏せろ!!」

「愚か者ー! 怪我もあたしの時間魔法で巻き戻しているのだ! 今のお姉ちゃんたちは万全の状態なのだーっ!!」

「その通り――――よくも僕たちをゾンビにしようとしたな、覚悟しろ! 全員仲良くお墓に埋め直してやる!!」

「ラムダ! 私がノアちゃんを助けに行く――――あなたは巫女アウラ様を!」

「姉さん……お願い、ノアを助けて! ノアがいないと……俺は……」

「分かっています! あなたの“騎士の矜持”――――必ずや護り抜きます!! ワサビくん、全速全開!!」



 群がる屍人に反撃を開始するミリアリアたちと竜騎士たち、ノアの救援に駆けたツヴァイ姉さん――――そして俺は、戦場を大きく飛び越えてアウラの前へと降り立つ。



「翼の生えたお兄ちゃん! 格好いいのだー!!」

「巫女を奪え!! アーティファクトの騎士の手に渡すな!! 手籠めにされて、ハーレムに加えられてしまうぞッ!!」

「なんだ? “はーれむ”……?? お兄ちゃん、はーれむって何のことなのだ??」

「なっ……失礼なこと言うなッ!? アウラ様……どうか気にしないでいただきたいのだ」

「動揺してあたしの語尾が移っているのだ!?」



 俺がアウラを確保したのを見るやいなや、勢力を割いてこちらに標的を向けた屍人たち――――数は多いが、平坦な地形、焦って曝け出した伏兵たち、一気に薙ぎ払える。



「【第十一永久機関(λドライヴ)】出力100%……!! アーティファクト【ストームブリンガー】……刀身最大開放――――“クェイサー・ソードビーム”!!」

「うぉーーっ!! 剣がめちゃくちゃ伸びたのだーーっ!?」



 アーティファクト【ストームブリンガー】の真骨頂――――刀身を出力が許す限り伸ばす事が出来る機構を利用した、長射程斬撃“クェイサー・ソードビーム”。


 この戦場を覆うほどの長射程斬撃で戦場に群がる屍人をまとめて斬り裂く。



「ツェーネル卿、アリアたちを飛竜ワイバーンで回収して下さい!!」

「了解!! 全騎、【ベルヴェルク】の皆さんを急ぎ回収するんだ!! そのまま空中にいる幽霊ゴーストを撃破せよ!!」



 ツェーネルの迅速な対応で即座に回収されて避難するミリアリア達――――これなら、巻き添えを食らうことは無い。



「アウラ様、少し伏せていて下さい!」

「うぉおお!! か、カッコイイのだーーッ///」

「行くぞ――――クェイサー・ソードビィーーーームッ!!」



 右から左へと振り払われる碧き剣、戦場を横一閃に横断する碧き光――――その光に斬り裂かれて纏めて消滅していく屍人の軍勢。


 閃光は瞬きより疾く、彷徨える死者たちを光へと還す。



「あわわ……凄いですわ……! 流石はラムダ卿、わたくしの将来の夫……!!」

「おっと……夫ッ!!? レティシア様、今なんと!?」

御主人様ダーリン、最初からソレすれば良いんじゃ無かったのー!?」

「わ、悪い……これしたらしばらく動きが悪くなるんだ……!!」

「ムッ……キスチャンス……!! ラムダ様ー、すぐにわたしが回復魔法ヒールして差し上げますねー♡」

幽霊ゴーストたちが慌てて逃げていくですー!」

「第二師団、レティシア様たちを降ろした後、逃げた幽霊ゴーストの追撃と残存兵が居ないかを二手で探るぞ!!」



 静まり返った戦場、朝日が登り暖かくなっていく気温、戦場を包んでいた甘い匂いは消えてなくなり――――光に照らされた白亜の神殿が、俺たちの勝利を称える。


 疲れて腰を下ろした俺の頭を撫でるは小さなエルフの巫女。



「凄いのだ、お兄ちゃん……なんて名前なのだ?」

「ラムダ……ラムダ=エンシェントだよ」

「ラムダお兄ちゃん……うん、()()()()()()! あたしの名前はアウラ=アウリオン……この逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】の巫女なのだ!!」

「よろしく……アウラ様……!」



 一旦の戦いの決着、しかし事態は水面下で悪化の一途を辿る。


 ツヴァイ姉さんやオリビアたちを侵す“ゾンビ化”の呪い、伏兵に襲われたノアの安否、姿を見せなかった魔王軍最高幹部・レイズの行方、そして、アウラを見て動揺した【破邪の聖剣(シャルルマーニュ)】の真意――――逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】と“時紡ぎの巫女”アウラ=アウリオンを巡る戦いは、ここから始まる。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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