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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第902話:デア・ウテルス大聖堂


「さぁ、着きましたよ……ここがデア・ウテルス大聖堂。アーカーシャ教団の総本山……霊峰を切り拓いて造られた聖域です」


「デア・ウテルス大聖堂……」



 ――――聖都デオ・ヴォレンテを抜けて、俺たちはアーカーシャ教団総本山であるデア・ウテルス大聖堂へと到着した。俺たちの前に聳えるのは、全長一〇〇〇メートルにも及ぶ巨大な神殿だった。

 そこはサンタ・マリア島の北部に位置する霊峰の一部を切り拓いて建造された超巨大な建造物。数万人にも及ぶ信徒や聖堂騎士たちが暮らす場所になっている。



「デア・ウテルス大聖堂の中央部には全高七〇〇メートルの巨大な女神アーカーシャの石像が祀られ、その石像を中心に各階層が設計されています……」


「すごい規模だな……」


「ええ、それだけ権威ある場所ですからね。さて……教皇ヴェーダは第十一階層に在る円卓の間に居ます。少々歩きますがご容赦ください……さぁ、行きましょうか」



 俺たちはアートマンに案内されて大聖堂の中を歩き出し、中心に位置する超巨大な女神アーカーシャ像を眺めながら巨大螺旋階段を登りだした。

 周囲では聖堂騎士や審問官たちが厳戒態勢で警備をし、信徒や聖女聖人たちが不安そうな表情で俺たちを見つめていた。まるで罪人を見ているような怯えた視線だ。



「ラストアーク騎士団と言えば、今や世界最大の反アーカーシャ勢力だ。警戒されるのは当然でしょう……クッククク! こうして大聖堂内を大手を振って歩けるのは、ひとえにアートマン様の御威光があるからですよぉ!」


「ふん……恩着せがましい奴じゃのう……」


「いけませんよ、リヒター=ヘキサグラムさん……無闇に不安を煽るような事を言っては。それと、ご安心ください、ルクスリア=グラトニスさん……聖堂騎士団や審問官にはラストアーク騎士団への手出しは禁止させています……信じて頂けますか?」


其方そなたの言うことを信じよと?」


「あら……ここは大人しくアートマン様の言うことを信用するべきじゃないかしら、魔王グラトニス? 約束を反故にすれば信徒たちの信頼を失うのはアタシたち……けれど、あなたたちが妙な動きをすればアタシたちに“大義名分”が立つわよぉ……あなたたちを粛清するって名目がね♡」


「やましいのじゃ……胡散臭い山羊やぎが……」


「ギヒヒ……暴れてくれた方がおれたちには都合良いけどなァ! そうしたら遠慮なく血祭り血みどろ謝肉祭カーニバルに出来んのになァ! ギヒヒ……さっさと暴れろよ、ラストアーク騎士団ンンン!!」


「はしたないですよ、アクエリアスさん……」


「アートマン様の言う通りですよ……アクエリアス(ワン)。ラストアーク騎士団は()()()()“客人”です……わたしたちの任務はあくまでも警備です。粛清ではありませんよ……」


「ケッ、うるせぇよ……ヴァルゴⅤⅢ(エイト)ォ」



 大聖堂に足を踏み込んだ時点で、俺たちは完全に包囲された。今はアートマンが掛けた『ラストアーク騎士団への手出し厳禁』の制約ギアスによって身の安全が守られているが、それを反故にした瞬間に俺たちは聖堂騎士団から袋叩きに遭うだろう。

 そうならない為にも、今は大人しくアートマンに従う他はないだろう。列の背後に居る光導騎士たちは戦いたくてウズウズしているようだが。



「アートマンさん……あなたは随分とアーカーシャ教団に対して発言権を持っていますね。それは何故でしょうか? 私が抜ける前、私はあなたの名前すら聞いたことはありませんでしたが……」


「リブラ……」


「リブラさんの疑問もご尤もですね……では、その疑問にお答えしましょう。そもそも、わたしが生まれたのはほんの五日間前の話で、その存在はアーカーシャ教団内でも“最重要機密事項トップ・シークレット”でした……あなたが知らないのも道理です」


「な……生後五日じゃと!?」


「生まれてすぐ、わたしはラストアーク騎士団との話し合いを提案しました。そして、わたしは【転移の加護】を用いてグランティアーゼ王国にあなたたちをお迎えに上がったのですよ……」



 螺旋階段を登っている途中、リブラⅠⅩ(ナイン)がアートマンの権限の強さを問うた。そして、帰ってきたのはアートマン自身がまだ生まれて五日しか経っていないという事実だった。

 これまでの情報から察するに、アートマンは最初からアーカーシャ教団を、ひいては『世界』を女神アーカーシャに代わって統治する為に生み出された存在なのだろう。



「それですでに教団の頂点トップですか……」


「当然です、リブラ……そもそもアートマン様は女神アーカーシャ様が地上に遣わしてくださった『新たな神』なのですから。生まれた瞬間に教団を統べる存在になるのは道理。御無礼をお赦しください、アートマン様……不躾な愚妹があなた様の品位を傷付けるの軽薄な発言をしてしまいました」


「お、お姉様……私はただ……」


「黙りなさい、魔王ラムダに媚びを売った恥知らずな淫売が。わたしたち姉妹は女神アーカーシャ様の慈悲で貧困から脱し、こうして光導騎士として『世界』に仕える名誉を得たと言うのに……」


「そ、それは……私は淫売などでは……」


「ヴァルゴさん……私はともかく、リブラを侮辱するのはやめて頂けますか? 彼女にラストアーク騎士団を裁定して貰うように頼んだのは私です。今すぐにリブラを侮辱した事を撤回してください……」


「イレヴンさん……」


「ふふっ……如何なる理由があろうとも、女神アーカーシャ様に対する敵対行動を取ったのなら、それは即ちわたしの“敵”です。リブラ……あなたには失望しました。魔王ラムダに屈するだけでなく、彼に庇護される軟弱者に成り果てるとは……」


「お姉様……そんな、酷い……」


「ヴァルゴさん……リブラさんを責めてはいけません。彼女は彼女なりの“正義”に殉じたのです……道を違えたのは残念ですが、彼女の征く道をどうか祝福して差し上げなさい」


「ああ、アートマン様……なんと慈悲深い……」



 光導騎士であるヴァルゴⅤⅢ(エイト)はアートマンに心酔していた。実の妹であるリブラⅠⅩ(ナイン)を切り捨てても心が痛まない程度には。

 姉が自分よりもアートマンを取った事に愕然としたのか、リブラⅠⅩ(ナイン)は意気消沈したように黙ってしまった。アートマンがヴァルゴⅤⅢ(エイト)を窘めたが、それでもヴァルゴⅤⅢ(エイト)のリブラⅠⅩ(ナイン)に対する感情は変わらなさそうだった。



「クッククク……おやおや、美しき姉妹愛にヒビですか? 同じ貧困を切り抜けた姉妹とは思えない別離ですねぇ、クッククク……!!」


「茶化しは止すんだよ、ヘキサグラム……」


「トネリコの言う通りだな……あたしとママを見捨てたクズ野郎が他人よその家庭を笑ってんじゃねぇよ……胸糞悪ぃ。テメェみたいなクズはさっさと死ねよ……」


「クッククク、おやおや酷い言われようだ……」


「あら……リヒター、あなた子どもなんて居たの? 誰との子よ……そんな相手、このデア・ウテルス大聖堂に居たかしら? アクエリアス、あなたは知っていて?」


「ア? おれが知る訳ねーじゃん」


「クッククク……こんな粗暴な小娘の戯言なんて信じては駄目ですよぉ、カプリコーンさん。私は忠実な神の下僕しもべ……それ以上でもそれ以下でもございませんのでねぇ! クッククク……」



 そんなリブラⅠⅩ(ナイン)たちのやり取りを審問官ヘキサグラムが茶化したように嗤い、それに対してルチアが怒りを露わにしていた。ルチアからすれば審問官ヘキサグラムは自分と母親を捨てた相手だ、憤る気持ちも仕方がないだろう。



「話が少し逸れてしまいましたね……わたしは我が母である女神アーカーシャから、アーカーシャ教団の指揮を仰せつかっています。これは教皇ヴェーダも了承済み……じきにわたしがアーカーシャ教団を統べる新たな教皇に任命されるでしょう」


「それは……女神アーカーシャは直接統治から退くと言う意味ですか、アートマンさん?」


「そう考えて貰って結構ですよ、ノア=ラストアークさん。女神アーカーシャは現世界の管理に限界を感じています。そこで、わたしが人類を()()()()()()()()()()()、より効率的な統治を行ない……そして『人類の恒久的な繁栄』を実現するのです」



 真後ろで発生した家族や姉妹のいざこざには関心を見せず、アートマンは淡々と自分が新たなアーカーシャ教団の教皇になる事を、そして『世界』の新たな管理者になる事を告げた。


 同時に女神アーカーシャが管理者から降りる事も。


 その事実を告げられたノアは何かを考え込むように黙ってしまった。女神アーカーシャを危険視し、解体しようとしていたノアにとってアートマンの目指すものは想定の範囲外だったのだろう。



「アートマン様の目指す『世界』はわたくしにとっても天啓です……必ずや実現するべきでしょう。ですがその前に……まずは『世界』に根付いた“膿”は取り除かねばなりません……」


「――――ッ! ヴェーダ=シャーンティ……!」


「お久しぶりですね、ラムダ=エンシェントさん……王都以来ですね。こうして再会できて嬉しく思います……ようこそ、デア・ウテルス大聖堂へ」



 そんなノアの沈黙の中で、俺たちは目的の場所に到着した。そして、アートマンが巨大な扉を開くと同時に、大部屋に設置された円卓に座る女性は声を掛けてきた。

 純白の包囲に身を包み、頭部を球状のヘルメットで覆い隠した美しき女性。アーカーシャ教団の教皇ヴェーダ=シャーンティ、女神アーカーシャが地上に顕現する為の“器”たる大聖女だ。



「お待たせしました、教皇ヴェーダ……ラストアーク騎士団を連れて来ましたよ。さぁ、これより話し合いを始めましょうか……」


「はい、仰せのままに……アートマン様」


「さぁ、ラストアーク騎士団の皆さん……どうか席にお座りください。始めましょう、語り合いましょう……新たな『世界』の在り方を」



 教皇ヴェーダとアートマンに促されて、俺たちは円卓の間へと足を踏み入れた。そして、間もなく始まろうとしていたのだった……新しい『世界』の行く末を決める重大な話し合いが。

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