第900話:女神の護る聖域
「ここが聖都デオ・ヴォレンテですか……」
「ああ、アーカーシャ教団が唯一直接管理する場所……それがこの聖都、そしてその奥に聳えるデア・ウテルス大聖堂だ……」
――――戦艦ラストアークから降り、昇降スロープを降る俺たちの眼前に広がったのは荘厳な光景だった。さらさらの雪に覆われた白亜の街、一切の穢れなき美しい建物が建ち並ぶ美しい街並み。
聖都デオ・ヴォレンテ――――サンタ・マリア島に二つしか存在しない都市の片方、アーカーシャ教団が唯一直接管理する聖地だ。そこに俺たちラストアーク騎士団は足を踏み込んだ。
「ようこそようこそ、聖地デオ・ヴォレンテへ! 歓迎しますよぉ、ラストアーク騎士団の皆さま……クックククククッ!」
「リヒター=ヘキサグラム……!!」
「これはこれは……ラムダ=エンシェントさんじゃありませんかぁ! 帝都以来ですねぇ……生きていてなにより。てっきりスペルビアさんに殺されたと思ってましたよぉ……クッククク!」
「トネリコ……貴女も此処に居たのね……」
「意外だったかな……それは残念だったね。僕は君の敵だ、ノア。その僕が此処に居るのはなんら不思議な事ではないと思うけど?」
ラストアーク騎士団を迎え撃つように待っていたのは無数の聖堂騎士団だった。その総数は数万人にも及び、聖都のメインストリートを埋め尽くすように配置されていた。
その軍勢を率いるのは三人の仮面を装着した『光導十二聖座』の騎士たち、そして審問官リヒター=ヘキサグラムとトネリコ=アルカンシェルだ。
「あら……あの金髪のボーイがラムダ=エンシェント? あたしが想像してたよりもずっと童顔ね。もっと厳つい悪魔みたいな風貌をイメージしていたわ……うふふ、これはあたし好みのボーイね♡」
「アクエリアスⅠ、カプリコーンⅩⅡ……」
「ギヒヒ……久しぶりだなァ、サジタリウスゥ! 裏切り者のテメェがよくこのこのこ聖地の土を踏み締めやがったなァ! 今すぐに血祭りにあげてぇ気分だぜ……ギヒヒ!!」
オネェ口調で喋るのは鍛え抜かれた肉体を持つ、ピンク髪の男性騎士カプリコーンⅩⅡ。厳つい口調で喋るのは大斧を携えた、小柄な水色の髪の少女騎士アクエリアスⅠ。
「ヴァルゴ……お姉様……」
「リブラ……今さらなんの用かしら?」
リブラⅠⅩに対して冷めた態度を取るのは、浮遊する座椅子に座った白髪の少女騎士ヴァルゴⅤⅢ。情報に聞いていた光導騎士の三強たちだ。
仮面で目元は確認できないが、聖堂騎士たちの全員が相当に殺気を放っている。彼女たちと面識のあるリブラⅠⅩやウィルは少しだけたじろいでいるのが見えた。
「盛大な出迎え、誠に感謝する……アーカーシャ教団の栄えある騎士たちよ。しかし……露骨に殺気を放つのは感心しないな。ラストアーク騎士団はわたしが招いた“客人”である……それを承知してくれないかな?」
「アートマン……!」
そんな臨戦態勢状態の聖堂騎士団を諌めるように、戦艦ラストアークの昇降スロープを降りてきたのはアートマンだった。穏和な口調で聖堂騎士団に俺たちを“客人”だと紹介し、アートマンはゆっくりと降りてくる。
「これはこれは……ご帰還をお待ちしておりました。アートマン様……我らが“神”よ。あなた様がそう仰るのなら、我々は剣を今すぐに納めますとも……総員、戦闘態勢を解除しなさい」
「うむ、迅速な対応感謝する……審問官」
「いえいえ、あなたの御言葉は“勅”ならば……それに従うは我々の道理。あなた様の招いた御客人に御無礼を働いたこと、平にご容赦ください……なにぶん、ラストアーク騎士団とは目下抗争中でしてね」
聖堂騎士団はそんなアートマンに対して跪いて忠誠を誓い、アートマンの命令通りに即座に戦闘態勢を解除した。その瞬間、周囲を覆っていたピリピリとした殺気は消え去った。
「アートマン様、教皇ヴェーダ様がデア・ウテルス大聖堂にてお待ちです。ラストアーク騎士団は我々が案内しますので、あなた様はお先に……」
「いや……ラストアーク騎士団はわたしが案内しましょう、ヴァルゴさん。わたしが招いた客人だ、最後までわたしが責任を持ちましょう……」
「それがあなた様のご意思なら異存は無く……」
「ありがとう、ヴァルゴさん。さぁ、ラストアーク騎士団の皆さん……わたしがデア・ウテルス大聖堂までご案内致します。どうぞ付いてきてください……」
そして、剣と殺気を納めた聖堂騎士団は静かに大聖堂への道を開け、アートマンは爽やかな微笑を俺たちに向けると聖堂騎士団が開けた道をゆっくりと歩き始めた。
「我が王よ……いかが致しましょうか?」
「う~ん……罠の可能性もありますが、ここで立ち往生をしても仕方ないでしょう。行きますよ、我が騎士よ……念の為に艦橋に居るホープにラストアークをいつでも発艦できるようにさせておきます」
「イエス、ユア・マジェスティ……」
聖堂騎士団や光導騎士たちが並び、聖都の空を白き竜が埋め尽くす厳戒態勢だ。一見敵意が無いように見えるアートマンの行動にも細心の注意を払わねばならない。
けれど、このまま立ち往生をしても、聖堂騎士団に敵意ありと見なされてしまうだろう。俺は小さく固唾を飲むと、主君であるノアの盾になって、アートマンに続くように歩き出したのだった。
朝から頭痛が……(´;ω;`)




