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第91話:逆光時間神殿開放戦


「――――聴け、魔王軍【冒涜】のレイズ、そしてその配下たちよ! 我が名はツヴァイ=エンシェント――――王立ダモクレス騎士団が第二師団【竜の牙】を収める騎士である!!」

「我が名はラムダ=エンシェント――――勇者パーティー【ベルヴェルク】のリーダーだ!」

「我ら第二師団の騎士7名、【ベルヴェルク】の冒険者()()――――総勢13名、夜明けと共に貴殿らと刃を交わす! 無駄な争いを避けたくば速やかに【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】より撤退せよ……これは最後通牒さいごつうちょうである!」

「俺の台詞すくねぇ……自己紹介しただけじゃん……」



 逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】上空、時刻は夜明けの直前。既に地平線から日の光が見え始め、太陽の明かりで星の煌めきが薄れつつある時間。


 飛竜ワイバーンに跨ったツヴァイ姉さんと【光の翼(ルミナス・ウィング)】で飛翔した俺は、上空から神殿を占領した魔王軍に向けて開戦の宣言を行っていた。


 眼下に群がる屍人しびとの群れ、宙を揺蕩う幽霊ゴーストの大群、神殿全域を包み込む()()()()――――五感の全てを刺激する死臭が、これから始まる戦いを俺に予見させる。



「うふふ……ようこそ、“閃刀騎”ツヴァイ=エンシェントに“アーティファクトの騎士”ラムダ=エンシェントよ――――我が名はアシュリー=シュレイル……魔王軍最高幹部【大罪】がひとり、【冒涜】のレイズ様の名代にてございます……」

「ゾンビ化したハーピィ……」



 宙に浮かぶふたりの騎士――――それに相対するはひとりの屍人ゾンビと化したハーピィ。神殿の前よりいでて翼をはためかせ“甘い匂い”を撒き散らしながら現れたのは敵の副官と思しき女性。



《アシュリー=シュレイル……レイズの骸骨爺の側近…………【死の翼】の異名を持つ毒婦どくふ……!》



 名をアシュリー=シュレイル――――レイズの側近を務める屍人ゾンビと化したハーピィ。通信越しに聞こえるリリィの“毒婦”という言葉に、その性根の悪さが詰まったような女の『悪い部分』だけを煮詰めたような魔性。



「その声はかわいいリリエットちゃんねぇ……♡ お久しぶり……アーティファクトの騎士様の“愛玩奴隷”にはもう慣れたかしら……くすくす……♡」

《相変わらず品の無い死体ゾンビね……! あと、私の御主人様ダーリンはすっごい紳士だから……あっ、でもオリビアと濃厚なキスはしてた!》

「余計なこと言わなくて良いから///」

「お喋りはそこまでだ! アシュリー=シュレイル殿……魔王軍を退く気は無いのだな? あとラムダ、今の話……後で詳しく聴きます……」

「ええ、あなたたちエンシェント姉弟の死体をレイズ様に献上しないといけないのでね……おふたりが素直に死んでくれましたら、神殿から撤退致しますわ♡」

《はぁーーッ!? ふざけないでください、この腐った鳥肉! わたしのラムダ様になんてこと言うんですか!? 犬の餌にしますよッ!?》

《まずいですーオリビア様がキレましたー、通信切りますー!》

「腐った……鳥肉……犬の……餌……!? あぁ……めっちゃショック……!」

「すげぇショック受けてる……」



 こちらの撤退勧告は意味を成さず、交渉は決裂――――後は夜明けと共に刃を交えるだけだ。


 そして、交戦の意志を見せたアシュリーは俺とツヴァイ姉さんを舌舐めずりしながら見つめると大きく距離を取っていく……開戦が近い。



「うっふふふ……♡ そんなにもあの神殿にいる【巫女】が大事なのですか、グランティアーゼ王国は?」

「そうだ! 神殿で祈りを捧げ続ける“時紡ぎの巫女”……即刻解放してもらうぞ!」

「くすくす……バカね、その巫女……人質にされたらどうするの?」

()()()()()()()()()()()……!」

「へぇ……流石に分かっているのね」

『“時紡ぎの巫女”……まさか……』

「……? どうした、【シャルルマーニュ】……?」

『いえ……なんでも……』



 神殿にいると思われる祈り子……【巫女】。『夜明け』が意味するもの、我が聖剣【シャルルマーニュ】の僅かな動揺、俺には分からない何かが水面下でうごめく気配がする。


 それでも、やることは変わらない――――姉さんの為にも精一杯戦って、生き残る……ただ、それだけだ。



「さぁ、楽しい楽しい『殺し合い』の始まりよ! 死んで、わたしたちの仲間になる気はあるかしら♡」

「ねぇよ……ひとりで腐ってろ、鳥肉!」

「また……鳥肉呼び……!! いいわ、全軍――――ひとりも生かすな!! 全員、腐った挽肉ミンチにしてあげなさい!!」

「王立ダモクレス騎士団の騎士たちよ、全騎抜刀ッ!!」

「【ベルヴェルク】――――戦闘準備ッ!!」



 雄叫びをあげる屍人たち、勇ましく声を張り上げる竜騎士たち、武器を手に戦場へと駆け始める勇者たち――――そして、時は来たれり、地平線の彼方から太陽が顔を覗かせた瞬間……時は逆巻き、戦いは巻き起こる。



「「「――――戦闘開始ッ!!」」」



 攻め入るは王立ダモクレス騎士団【竜の牙】の竜騎士7名と【ベルヴェルク】の冒険者7名。迎え撃つは魔王軍最高幹部率いる屍人の軍勢約1000体。


 質はこちらがまさるが数は向こうが有利――――そして、こちらがひとりでも落ちれば、レイズの魔術によって屍人ゾンビ化して奪われる。


 つまり、ひとりも死ぬことは許されない。



「うふふ……まずはお手並み拝見♡」

《我が所有者マスター――――眼下に敵の大群、数100……突撃部隊と推測されます》

「一気に蹴散らす!! アーティファクト【可変銃ヴァリアブル・トリガー】【駆動斬撃刃セイバービット】……固有ユニークスキル【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】……【光の羽根(ルミナス・フェザー)】――――対象ターゲット……同時補足マルチ・ロック!!」

《みんな、ラムダさんが仕掛ける! 速度を落として、衝撃に備えて!》

「第二師団! ラムダ卿が仕掛ける、全騎射線から離れなさい!!」



 両手には銃のアーティファクト【可変銃ヴァリアブル・トリガー】、広げた翼には無数の光量子フォトンの光弾、後光のように展開した駆動斬撃刃セイバービットから放つのは飛ぶ斬撃、そして俺の周囲には百を超える蒼き魂剣――――アーティファクトとスキルを動員した広範囲を一気に薙ぎ払う一斉掃射フルバースト攻撃。



「全弾持ってけ――――“アストラル・フルバースト”!!」

「なっ……!? なに、あの攻撃……!? レイズ様の屍人兵が一瞬で溶けていく……!?」



 降り注ぐは無数の光弾と蒼き剣――――白き光と蒼き光は流星群のように地上へと落ち、そこに居た無数の死者たちを瞬く間に葬っていく。


 光の翼、可変銃からの高出力砲、ビットからの斬撃、蒼き魂剣の三つの武器による広範囲殲滅攻撃――――“アストラル・フルバースト”……昨日、ノアとふたりで考えた俺の必殺技。



「――――くそ、一気に数を持って行かれた……!! アーティファクトの騎士め……!! 怯むな、薄くなった部分を埋めなさい!」

「予測通りに陣を薄めたな……ドラグーン2、始めます!」

「了解、ドラグーン1! 全騎、【ベルヴェルク】の為の道を拓きます――――突撃陣形アサルト・フォーメーション……“竜の爪(ドラゴン・ネイル)”開始ッ!!」

「さぁ、お前の相手は俺だ――――アシュリー=シュレイル!! 固有ユニークスキル【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】発動!!」

「――――ッ、ゴーストども! わたしの盾となりなさい! アラクネ……出番ですよ♡」



 開戦の狼煙のろし――――俺の攻撃は上手く機能した。後はアシュリーの相手をしつつ敵の戦力をじわじわと削っていく。



 ただ、問題があるとすれば――――


《戦場に漂う()()()()……あまり良いものでは無さそうですね》

「やっぱりそう思う、ノア?」

肯定イエス――――微弱ながら“毒”の成分が検出されています……ですが、私の知識には無い毒分ですね……》


 ――――戦場を包む甘い匂い、人形マキナですら検出できない毒の存在だ。



《我が所有者マスター……貴方様にはアーティファクトによる状態異常への耐性がありますが、他の方々はそうではありません――――早期の決着を……》

「言われなくてもそのつもりだ!」



 うかうかすれば姉さんやオリビアたちに毒が回る――――そうなる前にアシュリーは落とす。



固有ユニークスキル【玖色焔狐・煉獄焔尾エストゥス・イラ・ヴルペス】……魂を輝かす“蒼”のほむら――――“狐火・蒼カエルレウム・イグニス”!!」

「おわ……!? 身体が……!?」

身体能力ステータスを底上げする焔ですー! これでわたくしたちも王立騎士団に遅れは取らないですよー!」

「気が利きますわね、コレット! 固有ユニークスキル発動……【七つの王冠(イリス・コロナム)】――――いでよ、氷双剣ひょうそうけん!!」

「朝にすすったオリビアの血、まだ残っているかしら……【吸血搾精ヴァンピーレ・オスクルム】……血死(ちし)散弾(さんだん)――――“亂牡丹みだれぼたん”!!」

「聖なる光、輝くしるべと成りて、悪しき邪悪を断て――――“裁きの断光(ジャッジメント・レイ)”!!」

固有ユニークスキル【強化充装填レヴィタス・インプレオ】発動! 瞬間強化レベルアップ・ブースト――――充填チャージ開始……!」

「第二師団、【ベルヴェルク】の勇者たちが敵に囲まれないようにしなさいッ!! 我らの機動力で敵の撹乱かくらんを!」



 俺が掃討した場所をひた走るミリアリアたち、彼女たちの前を飛び向かってくる屍人の軍勢を斬り抜けて行く竜騎士たち。


 戦局はまだどちらにも傾いていない――――だが、()()()()()がある以上、必ず何処かでこちら側にほころびが出る。



「ひぃ……ふぅ……みぃ………()()()()()()()……! 情報では【ベルヴェルク】の構成メンバーは7名の筈……何処かに隠れている……? ネクロちゃん、何処かに子猫ちゃんが隠れているわ……あなたの出番よ♡」

「まずい……ラムダ!! 敵があの子の存在に気付……ガハッ!?」

「姉さん!?」

「う゛ぅ……なに……これ…………!?」



 そして、その綻びはすぐに姿を現した――――俺へと叫んだ瞬間、口から大量の血を吐き出した姉さん。



「あう……どうしちゃったの、僕の身体……!?」

「あぁ……うそ、わたしの手が……青く変色してる……?」

「まさか……これ、“ゾンビ化”……!?」



 足を止めて苦しみにあえぐミリアリアたち――――その手足は青く変色し始めている。


 リリィの口から漏れたのは“ゾンビ化”という現象……それが、“甘い匂い”の正体。



「うっふふふ♡ その通り……これぞレイズ様よりたまわった固有ユニークスキル【死せる鱗粉モルトゥース・ポリニス】――――取り込んだ生命体を内部から“ゾンビ”へと変えていく鱗粉りんぷんを散布するスキル……!! さぁ、じわじわとゾンビになっていく恐怖を味わいながら死に絶えなさい!!」

「ぐぅ……!! さ、させるか……抜刀……!!」

「キヒヒヒヒッ!! 固有ユニークスキル展開テンカイ……【死の蜘蛛糸アラネア・ファリーナム】!!」

「なんだ……!? 蜘蛛の糸……!?」



 吐血するミリアリアたちと竜騎士たち――――更に追い打ちを掛けるように仕掛けられたのは粘着性の高い蜘蛛の糸のようなもの。地上も空中もお構い無しに張り巡らされた蜘蛛の巣が俺たちやミリアリアたちを拘束していく。


 そして、姉さんの近くに張られた巣に現れたのは明朝に倒したレイズの配下であるキーラ……のような蜘蛛の怪物。



「キーラ=バンデッド!! 貴様、まだ懲りて……」

チガウ、キーラジャ無イ……アノ負ケ犬死ンダ――――我ガ名ハ【アラクネ】!!」

「か、下半身の蜘蛛に……意識を乗っ取られているの……!?」

「ピンポ~ン♡ 大正解……キーラちゃんならもう死んだわぁ♡ その子はアラクネ……キーラちゃんの上半身を再利用した新しいレイズ様の眷属よぉ♡」

「チッ! 死者を弄びやがって!!」

「キヒヒヒ……!! ツヴァイ=エンシェント……旨ソウ!!」

「い、いや……私を喰う気なの……!? あぁ……よ、鎧が溶かされてる……!? 痛い、皮膚が……あぁ、あぁあああ!!」



 アラクネ――――キーラを乗っ取って現れた怪物が口から溶解液を垂らしながら姉さんに近付いていく。溶解液に当たって溶かされる姉さんの鎧とインナー……恐らくは獲物の硬い外皮を溶かして内部を啜る為の腐食液。このままだと姉さんが危ない。



《聴こえますか、我が所有者マスター――――今の話で毒が“ゾンビ化”の成分だと分かりました……急いで解毒薬を作製――――》

《見つけた……子猫ちゃん……騎士団の野営地……隠れてた……レイズ様……捧げ物……》

《――――ッ!? あなたは……きゃあ!?》

「ノア……? ノア……ノア!!」



 そして、さらに事態は悪化する――――戦場から遠く離れた第二師団の野営地で戦局の解析アナライズを行っていた人形マキナを襲った謎の刺客の声。


 まずい……姉さんが開戦の宣誓をした際に人数を誤魔化した筈なのに、敵はノアの素性を掴んでいたのか。



「ラムダ卿……!! ツヴァイ団長はわたしが救います……あなたは、ミリアリア様たちを……!!」

「野営地のノアが……」

「いまここでミリアリア様たちが敵の手中に墜ちれば我々は負ける……!! あの子の事は見捨てなさい……!!」

「だめだ……俺にはノアがいないと……!!」



 分かっている……ツェーネルの判断は正しい。戦場にいる以上、ノアの死も想定しなければならない。その上で、ミリアリアたちを救わなければならない――――それが、この戦場で最も“合理的”な判断だ。


 けれど、ノアを失った瞬間に――――俺の“騎士”としての矜持は失われる。それは……すなわち俺の“死”だ。



「さぁ、どうするの……アーティファクトの騎士? あなたが動けば誰かは救えるわよ……うふふ、あはははは!!」

「ラムダ……私に構わないで! 騎士だもの……死ぬ覚悟はあるわ!!」

「くそ……俺は……!!」

「――――なんだ、喧嘩か? ()()()()()()いきなり喧嘩とは……あたしもついてないのだ……!!」

「――――この声!?」



 姉さんか、ミリアリアたちか、ノアか――――そんな瀬戸際にいた俺に掛けられたのは少女の声。


 神殿から聴こえた猫のような声――――その声の方向に眼を向けた俺の視界に写ったのは小さなエルフの少女の姿。


 風になびく膝下まで伸ばされた髪は翡翠エメラルドが如き鮮やかさ、つぶらな瞳は煌めく黄金、大きく尖ったエルフ特有の長耳、純白の装束に身を包み時計を模した装飾をあしらった杖を携えて現れたのは――――小さな小さなエルフの少女。



『まさか……そんな……!』

「うははははー! 聴け、野蛮な者どもよー! あたしの名はアウラ=アウリオン――――この“逆光時間神殿”【ヴェニ・クラス】での神聖な儀式『時紡ぎ』を女神アーカーシャ様より与えられし【巫女】なのだーっ!!」



 彼女の名はアウラ=アウリオン――――【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】で『時紡ぎ』なる儀式に従事する巫女の少女。



「さてさて~、うん……屍人ども、お前たちが悪者だなー! このあたしが成敗してくれるのだーーっ!!」



 アウラの登場は戦局を変える――――これが彼女との“最初”の出会い。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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