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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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ヘキサグラムの記憶①:この醜い世界の片隅にて


「――――だ、誰か助けてくれっ!! だ、誰か……こ、殺される……! 誰か助けてくれーーッ!!」



 ――――世界は醜い。それが当時の私が『世界』に思い抱いた感想だった。

 人々は飽きることなく争いを繰り返し、些細なことで憎しみいがみ合い、私利私欲の為に悪事を繰り返す、そればかりだ。



「…………」



 そして、私自身もそんな『醜い世界』の一部だった。その日、私はとある王国の一都市である男を追っていた。冒険者ギルドに高額な懸賞金を賭けられた賞金首の男だ。

 賞金首の男の罪状は『詐欺』。なんでも貴族の娘との結婚ロマンス詐欺を企てて大金をせしめたらしい。その事実が露呈し、被害者の両親によって高額の懸賞を賭けられた。



「嫌だ……こんな所で死んでたまるか……!!」



 私が請け負った依頼は賞金首の男の“殺害”である。それは“暗殺者アサシン”としての職業を女神アーカーシャから与えられた私に相応しい依頼だった。

 路地裏を逃げる賞金首の男を屋根から俯瞰ふかんして監視しながら追跡する。彼は容姿スタイルの良さを悪用して潜伏先の街でも貴族の娘を相手に結婚ロマンス詐欺を働いていた。



「生かす価値の無いゴミ……反吐が出る」



 詐欺で稼いだ資金で身なりを整え、貴族の実業家を謳って令嬢に近付き籠絡する。そして結婚をちらつかせ、“融資”の名目で資金をせしめて、搾り取れるだけ搾り取ったら行方を暗ませて次の獲物に着手する。

 悪辣にして卑劣、まさに人間の“悪性”を体現したような行為だった。ゆえに彼がその首に賞金を賭けられるのは必然であり、私という“暗殺者アサシン”が差し向けられるのは運命だった。



「――――うっ!? 行き止まり……!?」

「どうやら……鬼ごっこは終わりのようですね?」



 令嬢とのデート中にあえて姿を晒し、冒険者ギルドから派遣された“暗殺者アサシン”である事を丁寧に伝えた瞬間、賞金首の男は一目散に逃げ出した。だが、彼は今まさに路地裏の行き止まりに突き当たって追い詰められた。

 すかさず屋上から飛び降りて、退路を塞ぐように賞金首の男の前に立ち塞がる。路地裏の地形はあらかじめ織り込み済、まだ街に来て日が浅い賞金首の男が道に迷って袋小路に行き着くのも想定の範囲内だった。



「た、頼む……見逃してくれ! か、金ならやる! 俺の首に掛かった賞金以上の額を払う! だから……」


「被害者から騙し取った資金はどこに隠した?」


「か、金はほとんど賭博ギャンブルでスッちまった! だ、だけどあんたに払う金は残ってる! 本当だ、信じてくれ! 殺さないでくれ!!」



 追い詰められた賞金首の男は無様に命乞いを始めた。語った“犯行動機ホワイダニット”は『遊ぶ金欲しさ』、その為に彼は世間知らずな箱入り娘を標的ターゲットにして詐欺を働いていた。

 被害者女性の中には財産はおろか純潔まで奪われた女性もいる。騙された事を苦にして自殺してしまった被害者すら居る。それなのに賞金首の男は呑気に賭博ギャンブルに興じて、金が無くなったら新しい獲物を探していた。



「世界は醜い……人間は腐っている……」



 被害者から騙し取った財産は賞金首の男のふところには殆ど残されていない。必要な“情報”は引き出せた。あとは冒険者ギルドに依頼を出した貴族たちの要望通り、詐欺師の首を持ち帰れば依頼は達成だ。


 世界は醜い、そして私も醜く罪深い。


 羽織った黒衣の袖から短剣ダガーを取り出して、賞金首の男に一歩、また一歩と近付く。賞金首の男に一刻でも長く『死の恐怖』を味合わせる為に。



 そして、賞金首の男が悲鳴を上げかけた瞬間――――


「誰か、俺を助け――」

「これでお別れです……懺悔と共に死ね」

「――あっ!? か、かひゅ……!!?」


 ――――私は賞金首の男の喉を掻き切った。



 賞金首の男が叫ぶ為に息を吸い、声を張り上げようとして視界が狭まったタイミングで勢いよく地面を蹴って加速して、逆手に持った短剣ダガーで喉を切り裂いた。

 次の瞬間には賞金首の男は喉から大量の血を噴き出して、声にならない小さなうめき声を上げて苦しみながら倒れていった。



「私は懺悔は聞きません……神父ではないので」



 数十秒ほど悶え苦しんだ後、賞金首の男はピクリとも動かなくなって絶命した。絶望と苦痛に満ちた最期だっただろう。

 

 特に感傷に浸る事はない。

 別に私の良心は痛まなかった。


 殺すことに何の抵抗も感じない。私という『人間』は生まれた瞬間からそういう性質さがを持ってしまったのだろう。ゆえに“暗殺者アサシン”という職業クラスは私には相応しかった……私という生まれながらの『罪人』にとっては。



「あら〜……先を越されてしまったみたいだねぇ? 美味しい手柄はあんたのものになっちまったのかい……ヘキサグラム?」


「そう言う貴女の方は……ヴァンヘルシング?」


「あんたが始末した詐欺師の拠点から騙し取った資金の()()と共犯者のリストらしき物を見つけた。こいつ、方々で随分と借金を作ってたみたいだねぇ……」



 男の死体を袋に包んでいる時、路地の向こう側から一人の女性が声を掛けてきた。名はカルマ=ヴァンヘルシング、私と同じ裏稼業に手を染める賞金稼ぎの女性だ。

 ヴァンヘルシングは肩に掛けていたバッグを粗雑に放り投げた。中からは賞金首の男が詐欺でかき集めた資金と小さなメモ書きが入っているのが見えた。



「これで一応、貴族様からの依頼はこなした訳だ。約束通り賞金は6:4で分けて貰うよ、ヘキサグラム」


「お好きにどうぞ……」


「まったく……あんた、高額な暗殺依頼ばっかり手を付ける癖に、金自体には執着ないんだねぇ? まっ、その分アタシの取り分が増えるから文句ないけど……」


「衣食住に困らない程度の稼ぎがあれば良い」


「それで“人殺し”やってんのかい? アッハハハハ! あんたも相当な“外道”だねぇ! 流石は凄腕の“暗殺者アサシン”だよ……リヒター=ヘキサグラム」



 ヴァンヘルシングが愉快そうに笑い、そして私をからかうように挑発してくる。

 だけど彼女の指摘は正しい、私は人間のクズだった。自分に合っているからと殺しに手を染め、それをなんとも思わないイカれた人間だ。


 それが私、リヒター=ヘキサグラムだった。


 大義を持っている訳でもない、生まれた意味なんか考えた事もない。

 ただ毎日『醜い世界』に絶望しながら手を血に染めて、何も考えずに日銭を稼いで生きている……それが私だった。



「んっ……! そのメモ書きに書かれている男の名前……冒険者ギルドの賞金首リストに載っていたな?」


「あん……そうなのかい?」


「アルマデル=サロモニス……間違いない、黒い噂のある錬金術師だ。貴族御用達の凄腕らしいが……どうやら貴族の依頼で攫った人間を人体実験に使っているらしい。あくまでも噂ですが……」


「へぇ~……けどお貴族様のお抱えか〜……」


「確か……近々サロモニスはこの街でアーカーシャ教団の聖女が主催するチャリティに出席する予定だったはず。どうやらコイツはそのイベントでサロモニスに接触を図るつもりだったらしいな……」



 そんな、どうしようもない『闇』の中に生きる私に、思い掛けない“転機”が訪れようとしていた。

 ヴァンヘルシングが回収した賞金首の男の荷物の中に在ったメモ書き。そこに記載されていた『アルマデル=サロモニス』という賞金首が近日、この街でとある聖女が主催するチャリティに出席することを私は耳にしていた。



「このサロモニスを仕留めれれば……しばらくは金銭には困らなくて済みそうですね。ふむ……ついでです、始末しましょうか」


「え~……コイツは止めといた方が良いんじゃない? なんだか嫌な予感がする……それよりももっと稼げる獲物を仕留めようじゃないか。ちょうど今、“吸血王キング・オブ・ドラキュリア”の居城を襲撃する計画を仲間たちと立ててるんだけど……あんたも乗らないかい、ヘキサグラム?」


「いえ結構……私はサロモニスを狙います」


「そうかい……はぁ〜、なら勝手にしなよ。返り討ちに遭っても知らないよ〜? アタシは『止めといた方が良い』って忠告したからね。死ぬ時に恨むのはよしてくれよ?」



 サロモニスを追えば、賞金首の男に関与した賞金首たちの情報がさらに獲れて、そこから次の依頼に繋がるかも知れない。

 そんな“欲”を出してしまい、私はヴァンヘルシングの忠告を無視してサロモニスを追うこと決めた。ただ意味もなく、『生きる』という単純作業を繰り返す為に。


 そして、私はその中で出逢うのだった。

 私という空虚な男を変える程の“光”に。


 それがリヒター=ヘキサグラムの犯した最も重い“罪”であり、深い深い後悔に繋がるきっかけになるとも知らずに。

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