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第89話:再会は涙と共に


「て、撤退ーーッ!! キーラ様……の上半身だけで良いや……とにかく、キーラ様を連れて急ぎ【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】の本陣まで後退せよーーッ!!」

「くそ……くそ、くそくそくっそーッ!! 覚えていろよ……アーティファクトの騎士とツヴァイ=エンシェント……!! この借りは必ず返してやるぅ……!! ってかあたしの下半身も回収しろやバカーーッ!!」

「この下半身、燃やしちゃいまーす♡ えいっ♡」

「ギャーーッ!? あたしの下半身が燃やされたぁーーッ!? あの雌犬めすいぬ神官――――てめぇも覚えてろよぉーーーーッ!!」

「オリビア様……なんと鬼畜な……コレット、ドン引きですぅ……」

「ねぇ、レティシアさん……オリビアさんって以外と腹黒いよね?」

「いいえ、アリア……あれは『以外』では無く『確実』に腹黒いと言うのよ」



 ツヴァイ姉さんに上半身と下半身を両断され、挙げ句オリビアに下半身を聖なる炎で燃やされたキーラは配下のゾンビに担がれながら、渾身の捨て台詞を吐いて【レウニオン】から去って行った。


 残されたのは戦闘の跡、倒されて転がった屍人ゾンビたちの残骸、勝利に沸く住民と冒険者たち、そして――――剣を携えたまま残心を続ける第二師団の騎士たちの姿だった。



「ツヴァイ卿、我々で【レウニオン】の側に魔王軍が残っていないか上空から哨戒しょうかいします!」

「任せます……私は、目の前の淫魔サキュバスに用があるので……」



 仮面バイザーを外さず、剣を抜いたまま立ち尽くすツヴァイ姉さん――――彼女の意識が向かう先は、すぐ側で尻もちをついて倒れていたローブ姿の女性……リリィ。



「半年前の『エピファネイア事変』以来だな……何故、貴様が此処に居る――――リリエット=ルージュ!!」

「…………ひ、久し振りね……ツヴァイ=エンシェント……!」

「答えなさい、なぜ此処に……ラムダの側に居るのッ!? 言いなさい……さもなくば……!!」



 以前、オトゥールで対峙した際に、リリィはツヴァイ姉さんの事を“宿敵”と称していた――――因縁の相手、命を懸けた死闘を演じた相手。


 姉さんが怒りを露わにするのは当然だった。



「貴女には大勢の人が殺されたわ……私の同胞も……!! 殺された人々の恨み……今ここで……!!」

「待って、待って姉さん!! 殺さないで、リリィ……リリエット=ルージュを殺さないで!!」

「退きなさい、ラムダ!! コイツの【魅了チャーム】に掛けられているの!? 待ってて、すぐにお姉ちゃんが助けて――――」

「リリィは俺の仲間なんだ! お願いします……彼女を、殺さないで……!!」



 なら、姉さんを止めるのは俺の『義務』だ――――リリエット=ルージュを自身の判断で助命したのは、他ならぬ俺自身なのだから。


 俺は、ルージュを助けた自身の身勝手さの『責任』を負わなくてはならない。



「ツ、ツヴァイさん……わたしからもお願いします!! リリィさんは自身の行いを反省して人間と魔族の共存の道をわたしたちと探しているんです! どうか……見逃してあげて下さい……お願いします、お願いします!!」

「オリビアさん……貴女まで……」

御主人様ダーリン……オリビア……」

「ツヴァイ卿、武器を納めてあげて。リリエット=ルージュから【魅了チャーム】の気配は感じないわ……ラムダ卿とそちらのお嬢さんの言い分、聞き届けてあげたら?」

「ツェーネル卿……ふぅ、分かりました、詳しい話は聞かせてもらうわ……良いわね、リリエット=ルージュ?」



 俺とオリビア、副官であるツェーネルの説得でようやく武器を納めたツヴァイ姉さん――――良かった、聞き届けてくれたみたいだ。



「少し……疲れました。ツェーネル卿、後片付けは任せてもよろしいですか?」

「ふふっ、承知しました……ツヴァイ卿。もう肩の力を抜いても大丈夫ですよ」

「ふぅ…………うぅ……ぐすっ……うぅうう……!」



 ツェーネルに『肩の力を抜いても良い』と言われて、深呼吸と共にリラックスするツヴァイ姉さん――――そして、その瞬間、目元を覆った仮面バイザーの下から流れてくる雫……あぁ、そういうことなんだね。



「わたしも町の様子を見て来ます……ラムダ卿、()()()()()()()()()()()()()、ツヴァイ卿のこと……お任せしますね?」



 俺ににこやかに笑い、町の様子を見に行くツェーネル――――そして、彼女がその場から去ったのを確認した姉さんはゆっくりと仮面バイザーを外して素顔を晒す。



「うぅ……ラムダ……ラムダぁ……!!」

「姉さん……トリニティ卿から…………聴いたんだね……」



 ボロボロと涙を流しながら俺の名前を呼ぶツヴァイ姉さん――――分かっている、姉さんが泣いている訳なんて。



「うぅうう……ラムダ…………ゼクスが、ゼクスがぁああああああ!! あぁああああん!!」

「姉さん……」



 俺を抱きしめて、涙を流しながら、亡くなったゼクス兄さんの事を叫ぶ姉さん――――あの日、兄さんの“死”を看取った俺が出来るのは、姉さんに聴かせることぐらいだろう……ゼクス兄さんの事を。



 それから、俺は姉さんに全てを語り聴かせた――――エンシェント邸で別れた後のこと、俺の身体のこと、迷宮都市でのこと、【死の商人】との戦いのこと、ゼクス兄さんのこと、そして……シータ=カミングのこと。


 どれぐらい話しただろうか――――既に太陽は真上に登り、町の片付けも始まりつつある中、ようやく姉さんの様子も落ち着きを見せ始めてきた。



「うぅ、ごめんなさい……私があの時、ラムダの剣を斬らなかったら、こんな大怪我を負わずに済んだのにぃ……!」

「それは……ぶっちゃけ剣の破損具合は全く関係なかったから……」

「うぅうう……シータさんがラムダの本当のお母さんなのも……知っていましたぁ……!!」

「やっぱり……だから、『あの夜』の時……あんなに怒ってたんだ……」

「うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………私、ラムダに迷惑いっぱい掛けちゃった……」

「迷惑なんてこれっぽっちも掛けてないよ……それに、ゼクス兄さんの事も……姉さんの責任じゃないから……ね?」

「ぐすっ……ぐすっ……」



 かれこれ数時間は泣き続けているツヴァイ姉さん――――目は真っ赤になって、涙の跡が頬に赤く残る程になって、それでもうわ言のように懺悔を続ける。


 後になって副官であるツェーネルから聴いたのだが、【享楽の都(アモーレム)】での出来事をトリニティから聞かされて、姉さんはずっと塞ぎ込んで食事も禄に摂らなかったらしい。


 ゼクス兄さんを喪った悲しみ、俺の身体がアーティファクトに侵蝕されたこと――――愛する弟たちの悲劇を止めれなかった事をずっと後悔していたらしい。


 そして、見かねたツェーネルに頬を引っ叩かれて、ようやく感情を抑え込めるまで回復した……それが真相。


 ツヴァイ姉さんは……有り体で言えば『泣き虫』だ。それを仮面で隠している……優しくて、不器用で、繊細な女性。


 それが、ツヴァイ=エンシェント――――俺の自慢の姉さん。



「姉さん……もう落ち着いた?」

「…………うん」

「あの……ラムダさん…………私、いま来たんですけど……どう言う状況でしょうか……?」

「いま起きたんですか、ノアさん?」

「いや……違うの、私の中の『人形マキナ』が勝手に……!」

「あー……いつぞやの気絶時に出てくる人格の事ですね?」



 俺が姉さんの背中を擦っている時に申し訳無さそうな表情かおで現れるノア――――どうやら、人形マキナは役目を終えて再び眠ったらしい。


 オリビアたちに手を合わせて謝りながら、ノアは終始言い訳に努める。



「あなた……誰?」

「あっ、私……ノアって言います! ラムダさんの――――『人生のパートナー』です♪」

「――――は?」

「あっ……やばい……!!」



 ノアの迂闊な自己紹介を聴いた瞬間、泣き腫らした顔から急激にキレ気味の顔に変わるツヴァイ姉さん――――忘れてた、姉さんがコレットに課していた『約束』を。



「――――コレット?」

「…………はぃ、ツヴァイ様ぁ……!」

「どうしたの、コレット? 顔が真っ青になっていますわよ?」

「何……この『女』の多さは……??」

「も、申し訳ありません……ツ、ツヴァイ様ぁ…………コレットでは、ラムダ様の天性の『女誑し』を諫めること叶わず……このような事態にぃ……!!」

「わー、コレットさん、額からすごい汗が流れてるね」

「オリビアさんは良いわ……あとの取り巻きは何?」



 目の色を変えて、腰に下げた剣の柄に手を掛けながらコレットに詰め寄るツヴァイ姉さん……怖い。


 コレットがオトゥールで俺を訪ねた時に、姉さんは彼女に『ラムダに悪い女が付かないように』と命じていた。


 その事を俺は完全に失念していた……その結果がこれ。



「天才美少女のノアちゃんでーす♡」

「ラジアータ出身の【勇者】――――ミリアリア=リリーレッドです! よろしくお願いします、ツヴァイさん!」

「わたくしの事は知っていますね、ツヴァイ卿?」

「ゆ、勇者に……レティシア様まで……!? あと変なアホの子……」

「私、アホの子扱いされた!?」



 初対面であるツヴァイ姉さんに挨拶をしていくノアとミリアリア、気まずそうな表情かおで姉さんに愛想笑いをするオリビアとコレット、得意げな表情かおをするレティシア、それを見て顔が青ざめていく姉さん。


 ごめん……いつの間にかこんな事になっていました。



「じ……じゃあ、リリエット=ルージュも……!?」

「はぁ~い♡ うちはラムダ=エンシェント様……もとい、御主人様ダーリンの忠実なる下僕しもべ、リリエット=ルージュ…………よろしくね、ツヴァイ=エンシェント……お義姉様ねえさま♡」

「あ……あわわ、あわわわわわ……!? あぅ――――」

「ぎゃーーッ!? 姉さんが泡を吹いて倒れたーーッ!!?」

「ツヴァイ卿、ただいま戻り……ギャーッ!? ツヴァイ卿ーーーーッ!?」



 そして、宿敵・リリエット=ルージュが俺に頬ずりしながら姉さんを“義理の姉”扱いしたせいで、姉さんは完全に頭がショートして倒れてしまった。



「ありゃー、ラムダさんのお姉さん、リリィちゃんがラムダさんとイチャイチャしてるのを見て完全に脳破壊されちゃってますねー」

「うふふ……ざまぁみなさい、ツヴァイ! 本当は御主人様ダーリンを私に服従させる予定だったけど、宣言通り脳破壊してあげたわ、あっははははは♡」

「ラムダがぁ……ラムダがぁ……」

「あわわ……急いでツヴァイ団長をベットに寝かせないと……第二師団、全騎急げーーッ!!」

「姉さん、しっかりして……姉さん、姉さーーんッ!!」



 第二師団の部下に担がれて運ばれて行く姉さん、それを見てゲラゲラと笑うリリィ――――どうしてこうなった?

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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