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第886話:VS.【原初の亜人】レイ=フレイムヘイズ⑧ / 死を恐れぬ覚悟


「では……私から行かせてもらうぞッ!!」

「――――ッ! 踵から炎を噴射して……疾い!」



 ――――逃げ場の無い焔の竜巻の中で、フレイムヘイズとの決闘は苛烈さを増していく。

 フレイムヘイズは右脚を踏み込むと同時に踵から炎をスラスターが如く噴射、凄まじい速度で俺に向かって迫ってきた。



「ハアァッッ!!」

「――――ッ!!」



 勢いそのままにフレイムヘイズは振りかぶった“紅剣ヒノカグツチ”を振り下ろし、その攻撃を俺は魔剣と聖剣を交差させた防御姿勢で受け止める。

 “紅剣ヒノカグツチ”を受け止めた瞬間に激しい閃光が発生し、今までに感じたことの無い超高温が襲いかかる。



「――――ッ!! くっ……ぉぉおおおッ!!」

「ハハハッ、そのまま焼けて死ねェ!!」



 あまりの温度に纏っていた“機神装甲レーカ・カーシャ”が赤熱し、露出していた頭部が灰化し、装甲の下の皮膚が焼け爛れる。“機人マシナリー”としての耐久性や治癒力がなければ即死だっただろう。

 顔の皮膚が灼けて、剥き出しになった筋繊維が溶けて、一瞬だけ露出した頭蓋骨まで燃える。その次の瞬間にはナノマシンによる再生が始まる。



おぞましい姿だな……どうだ、痛いだろう?」

「この程度……挫折した時の()()()()に比べればどうってことない」



 フレイムヘイズや“紅剣ヒノカグツチ”から放たれる熱量は地上で放出していいものではない。気軽に放てば周囲が一気に焼け野原になる。

 まるでフレイムヘイズ自身が“太陽”になったように錯覚してしまう。再生を続けなければあっという間に消し炭になっているだろう。



「俺を殺したければ“心”を折ってみろ!!」

「その必要はない……圧倒的火力で押し切ってやろう!」



 それでも退くわけにはいかない。絶えず灼かれては再生を繰り返す身体を奮わせてフレイムヘイズへの反撃に臨む。

 魔力エナジーを聖剣と魔剣に流し込み、刀身から衝撃波を放ってフレイムヘイズを僅かに吹き飛ばし、同時にフレイムヘイズのふところへと駆け寄る。



「唸れ、“破邪の聖剣(シャルルマーニュ)”!!」

「――ッ、遅いッ!! “火焔烈脚刃ジャカウィトズ”!!」



 フレイムヘイズの腹部に向かって右手の聖剣を突き出そうとした瞬間、フレイムヘイズは焔の刃で武装した左脚を素早く蹴り上げて俺の右腕を溶断して斬り落とした。

 超高温で装甲アーマーごと蹴り落とされた右腕が宙を舞い、あっという間に焔に包まれて焼失、焼け残った聖剣が半ば溶岩と化した大地に落ちて突き刺さった。



「右腕を貰った! これで――」

「超速再生、追加武装――――“巨人の腕(セファール)”!!」

「――ッ!? な、なんだと!?」



 片腕をもいだとフレイムヘイズは笑みを浮かべたが、そのコンマ数秒後にはその表情は驚愕へと変化していた。

 右腕を斬り落とされた瞬間、俺は体内のナノマシンを総動員して右腕を即再生、さらに再生した右腕に過剰な装甲を纏わせて腕を巨大化していたからだ。



「お返しだ! 喰らえ――――“至天の鉄鎚ヘブンズ・ナックル”!!」

「避けれ……ガアッ!!?」



 左脚を振り上げて無防備だったフレイムヘイズに追撃を防ぐ暇は無かった。繰り出した拳はフレイムヘイズの胸部に直撃、彼女は苦痛に表情かおを歪ませた。



「そのまま吹っ飛ばすと思うなよ……ウォォッ!!」

「待て、やめろ! 地面に叩き付ける気か!?」



 そのままフレイムヘイズが吹き飛ぶ速度よりも疾く移動して彼女を右手にはりつけにしたまま、俺は地面に向かってフレイムヘイズごと右腕を繰り出す。



「歯ぁ食いしばれ――――“爆撃気流ダウンバースト”!!」

「やめろ、やめ――――ぐっ、あぁぁッ!!?」



 勢いよく右腕を地面に叩き付けた瞬間、拳に集束していた魔力エナジーが弾けて衝撃波を発生させる。

 鉄拳、叩き付け、衝撃波の三連撃を喰らったフレイムヘイズは吐血し、苦痛から苦悶の表情を浮かべていた。



「このまま顔を潰してやる! 魔剣駆動……!!」

「――――ッ!? やめろ、やめろォォ!!」



 右腕の下敷きになったフレイムヘイズの頭部に向けて左手の魔剣の切っ先を向けた瞬間、フレイムヘイズは血相を変えて抵抗を見せる。

 全身から焔を勢いよく放出して俺を吹き飛ばしたのだ。そして、俺が数メートル後方に弾かれた隙を突いてフレイムヘイズも飛び起きて、数メートル後方へと後退して距離を取った。



「ぐっ……痛い、痛い痛い! ラムダ=エンシェント……ふざけた真似をぉぉ! ぐっ、ゲホッ……くそ、臓器が潰れてる……」


「やけに距離を取ったな……怖気付いたのか?」


「貴様ァ……なんだその再生能力は! ダモクレス騎士団に居た頃はそんなインチキじみた再生能力は有してなかった筈だ! なにが起こって……!?」



 フレイムヘイズは口から血を吐き、胸元に手を当てて苦しんでいる。どうやらさっきの一撃で臓器の一部が潰されたらしい。

 それよりも気になるのは、フレイムヘイズが追撃を恐れて()()()()()()()()()()()



(俺なら……いいや、王立騎士ならさっきの状況なら反撃に徹するはず。なのにフレイムヘイズは距離を取って“逃げ”を優先した……)



 さっきの追撃を構えた状況、フレイムヘイズの技量なら反撃は可能だった筈だ。眼から光線ビームを出すなり、手にした“紅剣ヒノカグツチ”で斬り掛かるなり、選択肢は幾つもあった。

 なのにフレイムヘイズは『自己保存』を最優先にした。俺にダメージを与える機会を棒に振ってまで、迫りくる窮地から逃れようとしたのだ。



(騎士道を理解しないフレイムヘイズには……おのれの身命を賭してまで相手に喰らいつこうとする“意志”が無い。もっとも優先されるのは『自分を守ること』か……)



 それは明らかにフレイムヘイズの深層心理に深く根ざした行動だった。仕えるべき“王”を持たない彼女には()()()()()()()()()()()が無かった。



「我が肉体はアーカーシャお母様が設計した至高の美! 私は“原初の亜人”である“アグニ”だぞ! 貴様如き下等生物が傷付けて良いものじゃない! それを、それを……よくもォォ!!」


(フレイムヘイズの高慢な性格を逆手に取れば……)


「あっ……ゲボッ、ゲボッ!? くっ、くそが……もっと魔力を治癒に注がねば。なんだこれは……なぜラムダ=エンシェントはこの灼熱地獄の中で生きている! 私の想定とは違う……こんな筈では……」



 全ての生物には『生存本能』が備わっている。フレイムヘイズも例外ではないのだろう。迫りくる“死”に対して恐怖し、生き残る為に本能的に行動すること。

 俺にももちろん備わっている特性だが、フレイムヘイズは特に顕著に現れている。そして、フレイムヘイズに決定打を与えるには、その特性を利用できるだろうと俺は考えついた。



「そんなに死ぬのが怖いのか……腰抜け?」

「なっ……なんだと貴様!? 私を侮辱して……」


「そうだろう……お前は死ぬが怖くて俺から距離を取った。それがお前の本質だ、フレイムヘイズ。常に安全圏から遊戯に耽っているのも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを『腰抜け』と言わず何と言う?」


「私を侮辱するか……ラムダ=エンシェントォ!」

「王立騎士に腰抜けは要らねぇぞ、フレイムヘイズ」



 冷静さを欠いたフレイムヘイズを罵って挑発する。腰抜けだと言われた事に立腹したのだろう、フレイムヘイズは額に血管を浮き上がらせて怒りを滲ませている。

 怒りに震えるフレイムヘイズの左手には“太陽”を思わせるような紅い光球が生成され始めているのが見えた。



「私は腰抜けではない……私は“原初の亜人”、そしてダモクレス騎士団の総司令だ! 数多の偉業を打ち立てた私を侮辱するのは許さんぞ、このゴミ漁りがッ!!」


「なら証明してみせな……!!」


「い、良いだろう……ならば貴様にも拝ませてやる! お前が従うグラトニスすらひれ伏させた我が威光を! さぁ、灼き尽くせ――――“火焔大光(スヴァローグ)”!!」



 俺の挑発に乗ったフレイムヘイズは左腕を天高く掲げた瞬間、彼女のてのひらに在った小さな光球が一気に巨大化して灼熱の“太陽”へと変貌した。

 その瞬間、決闘場の気温はさらに上昇し、大地が一斉に炎上を開始した。俺の身体も外皮も臓器もドロドロに溶け始めている。



「このまま此の戦場ごと貴様を消し飛ばす! ハハハハハハハハッ……さぁ、命が惜しくば私に命乞いをしろ、ラムダ=エンシェント!!」


「我が命は……ノア=ラストアーク様の為に……」


「馬鹿が……ならば下らぬ忠誠心に殉じて死ぬが良い! さぁ、紅き太陽よ、我が敵を灼き尽くせ!」



 フレイムヘイズが掲げた紅き太陽がどんどん肥大化していく。もはや直視できぬ、直に見れば眼球が灼ける程の輝きだった。

 そんな光球を投げつけようとフレイムヘイズは左腕を振りかぶり、同時に俺は両手で魔剣を握り締めてフレイムヘイズを睨みつける。心の奥底から微かに湧き上がる“恐怖”を抑えつけながら。



 そして、フレイムヘイズが勢いよく左腕を振り下ろして紅く太陽を投げつけた瞬間――――


「墜ちろ、紅き太陽――――“天照アマテラス”!!」

「いくぞ、太陽を喰らえ――――“日蝕牙狼エクリプス・スコール”!!」


 ――――俺は“死”を恐れず、魔剣の切っ先を突き出して、ゆっくりと迫りくる紅き太陽に向かって走り始めるのだった。


 

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