第88話:【竜騎士】ツヴァイ=エンシェント
「全騎、対魔獣用包囲戦術……エンシェント流剣技【斬撃包囲刃】――――第十三剣技“乱気流”、準備!!」
「「「――――承知!!」」」
「翼の生えた少年は避けなさい、彼はおそらくギルドの冒険者…………あっ……ラ、ラムダ……どうして……!?」
「――――姉さんッ!! 俺に構わずにワイバーンを!! 俺はこのデカ物を落とすッ!!」
「まったく……ツヴァイ卿、狼狽えない! 貴女の弟は既に一角の“英雄”――――彼を信じなさい!!」
「あっ……わ、分かっています、ツェーネル卿! 全騎、ドラゴンは彼に任せて、我々は群がるワイバーン・ゾンビを殲滅する!!」
俺の姿を認識した瞬間に動揺を見せたツヴァイ姉さん――――だが、副官と思しき女性騎士に叱咤され姉さんはすぐに冷静さを取り戻す。
流石は王立騎士団の第二師団を統べる長、部下の優秀さも冒険者パーティーとは比較にならない。
これが王立ダモクレス騎士団――――俺の憧れの騎士たち。
「生きた飛竜ならまだしも、ゾンビ化した魔物なんて我々の敵では無い!! 斬り刻めッ!!」
「包囲網から一匹も出すな!! 全騎、ツヴァイ団長に合わせて動きなさい!!」
「了解ッ!!」
ツヴァイ姉さんの掛け声と共に球体のような陣形を組んで四方八方から陣の中のワイバーンを斬り裂いていく第二師団の騎士たち。
球状の包囲網から内部の敵を連続攻撃で翻弄しつつ斬り裂く連携攻撃――――【斬撃包囲刃】第十三剣技“乱気流”。
周囲を竜騎士たちに囲まれ右往左往するワイバーン・ゾンビたちは背後から、上から、下から――――逃げることも躱すことも許されずに次々と斬り落とされていく。
これがグランティアーゼ王国の“空の守護者”――――俺を囲んでいた無数のワイバーンの屍たちはみるみる内に殲滅されつつある。
「チッ、【ベルヴェルク】に【竜の牙】なんて同時に相手に出来るかっての!! こうなりゃ、適当な奴を人質に……!!」
「そうはいかないわ! さぁ、私と一緒に踊りましょう……キーラ=バンデッド?」
「リリエット=ルージュ……!!」
「いくら“角”を折られて弱体化したとは言え、私も魔王軍最高幹部の端くれ――――その恐ろしさ、その臭い死体に刻み込んであげるわ!!」
「上等だ!! てめぇを八つ裂きにして、あたしを殺したディアスの野郎に死体を送り付けてやるぜ!!」
「出来るかしら♡ 私は“元”魔王軍最高幹部【大罪】がひとり、【復讐】のリリエット=ルージュ――――さぁ、貴女の身体に極上の快楽を刻んで逝かせてあげるわッ!!」
そして、地上のキーラの相手はリリィにバトンタッチ。なら、予定通り俺はドラゴン・ゾンビを叩くだけだ。
幸いになことに巨躯を誇るドラゴン・ゾンビも姉さん達の連携に翻弄されて動きが鈍っている――――今なら、隙の大きいアーティファクトも十分に行使できそうだ。
「久々に使うか――――来い、アーティファクト【太陽熱集束砲】!!」
「な、なに……? ラムダの側に大きな大砲……??」
「姉さん、大技を使う……! 俺の合図と共に竜騎士のみんなを射線からなるべく遠くへ退けて!!」
「分かった! 全騎、聴こえたな!? ラムダの合図と共に大きく散開しなさいッ!!」
「ドラグーン2、了解しました!」
手にしたのは『ノアの方舟』の主砲――――【太陽熱集束砲】。太陽の高熱を再現する圧倒的火力を誇る必殺のアーティファクトで、目の前の竜の骸を消し飛ばす。
「放熱防御用冷却領域、展開! 第十一永久機関、最大出力! 擬似太陽炉臨界駆動――――擬似太陽、再現精製! 発射準備…………完了!!」
「す、凄い……尋常じゃ無いほどの魔力が集束している……!? ほ、本当に……あれが、ラムダなの……!?」
「――――今だ、姉さんッ!!」
「――――ッ、全騎、射線より全速退避!! 防御魔法陣を展開して衝撃に備えよッ!!」
激しく駆動する主砲、姉さんの合図と共に素早く散開して距離を取る竜騎士たち――――準備は整った。
さぁ、死したる竜よ、在るべき場所へと還るがいい。
「太陽熱集束砲――――発射ッ!!」
「――――Gyaaaaa……!?」
「きゃあ!? す、凄い熱風……! まるでアインス兄様の聖剣の光……!!」
放つは灼熱の白光――――摂氏数万度にも及ぶ熱線がゾンビと化した竜の骸を塵一つ残さずに消滅させる。
発動に時間が掛かり消費魔力が多いのと、攻撃範囲が広すぎて味方がいると使えないのが難点だが、【太陽熱集束砲】の威力は絶大――――発射さえ出来れば【破邪の聖剣】の一撃さえ凌駕出来る弩級のアーティファクト。
「まさか、一撃で……!? これがツヴァイ卿の弟……噂に聴くアーティファクトの騎士……!!」
「ラムダ……いつの間にそんなに強く……」
その威力に呆然とする第二師団の竜騎士たち。姉さんたちが周囲のワイバーンを倒してくれたお陰で何とか発射の隙を作ることが出来たのだ、ありがとう姉さん。
上空の驚異は排除した――――後は町に群がる屍人の軍団とキーラを倒すだけだ。
「オラッ、吹き飛べやこの淫乱淫魔!!」
「――――きゃあ!?」
「リリィ!!」
だが、地上の様子は芳しくない――――ドラゴンを屠り一息ついた俺が見たのは、キーラの腹部を蹴られて地面に伏されたリリィの姿。
「ぐ……ッ!! ま、まさか……“角”を折られて、レイズの骸骨爺の傀儡すら満足に倒せないぐらいに弱体化しているなんて……!!」
「チッ、手こずらせやがって……! だが……ざまぁねぇな、裏切り者……!! 折角だ、残った翼と“角”もあたしが腐り斬ってやるよ……!!」
「ひっ……!? いや、やめて……! 残りの“角”も御主人様に折ってもらうの……!」
「知らねぇよおめぇの性癖はッ!? ええい、いちいち癪に障る淫魔だなッ!!」
“角”が折られ弱体化した影響でリリィに錆びた大剣を振りかざしながら近づくキーラ。このままでは、リリィが危ない。
「リリィ、今いく――――」
「待ちなさい、ラムダ卿! 既にツヴァイ団長が迎撃に向かっています……!」
「――――えっ?」
「次は……貴方の姉上が魅せる番ですよ」
そう思ってリリィの元へ向かおうとした矢先、第二師団の副官に呼び止められた俺――――地上で起きたリリィの危機を俺よりも早く察知して動いた人物いる。
「【死将軍】キーラ=バンデッド――――そのローブの女性から離れなさいッ!! 聴き覚えのある声で嫌な予感がするけど、その女性から離れなさいッ!!」
「なっ……飛竜に乗った竜騎士が地面すれすれを猛スピードで突進してくるだと!? あれは……ツヴァイ=エンシェントか……!!」
ツヴァイ姉さんだ――――姉さんは【レウニオン】の正面ゲートを潜り、街道に沿った大通りを相棒である飛竜と共に滑走する。
飛竜の鞍の上に立ち、腰に掲げた鞘に収まった剣に手を添える姉さん――――間違いない、『アレ』をするつもりだ。
巻き上がる土埃、風圧で割れる窓ガラス――――グランティアーゼ王国が誇る【王の剣】が、キーラに向けて全速力で突っ込んで行く。
「斬り抜けるつもりか……? 上等ッ!! 返り討ちにしてやるぜ――――【竜騎士】ツヴァイ=エンシェントォオオオッ!!」
「――――今だ、ワサビくん! 急停止!!」
姉さんの指示と共に両脚を地に擦り着けて急停止する飛竜。そして、『慣性の法則』に則って前方へと投げ出される竜騎士――――眼前で迎撃の為に剣を振りかぶるキーラ、宙を舞うツヴァイ姉さん。
「勝負ありだ……!」
その構図になった瞬間――――姉さんの勝利は確定した。
「うははははは!! 自分から飛び込んで来るなんて間抜けだな!! 剣の錆にしてやる、死ね……ツヴァイ――――」
「固有スキル発動――――」
「――――エンシェン…………アレ……?」
「――――【抜刀術:一閃】……!!」
キーラが宙に舞う姉さんに向けて大剣を振りかざそうとした瞬間――――抜刀した姉さんはキーラの後ろへと瞬間移動する。
「いつの間に……あたしの後ろに……??」
「あんた……もう斬られてるよ、キーラ……!」
「うそ……だ――――ッ!? あ゛ッ……マジ……かよ……!?」
ツヴァイ=エンシェントが女神アーカーシャより授けられた固有スキル【抜刀術:一閃】――――光速の抜刀術、その実態は『抜刀から斬撃終了までの“過程”を省略し、斬撃の“結果”だけを発生させる』スキル。
つまり、ツヴァイ姉さんに抜刀を許した時点で、相手は斬られた事になる。
抜刀のみに特化した一撃必殺のスキル――――“閃光”が如きその『抜刀』をもってツヴァイ=エンシェントはこう謳われる……“閃刀騎”と。
「あたしの身体……いつの間に、真っ二つにぃ……!?」
「悪く思わないで……これも、私の努めですから!」
胴体を真横に切断され、真っ二つになって地面へと崩れ落ちるキーラ――――決着は付いた。宿場町【レウニオン】を占拠した魔王軍は、俺たち【ベルヴェルク】と王立騎士団第二師団【竜の牙】、そして勇敢な冒険者たちの手で打ち倒された。
これが、ツヴァイ姉さんとの再会――――俺を溺愛した竜騎士と再び見えた瞬間であった。
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