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第878話:Good Luck 〜Knight of N.O.A.H. Rising〜


「くそっ、フラヴンアースがやられた……!」

「姿勢制御を……スラスター噴射開始!」



 ――――フレイムヘイズによる奇襲攻撃で『ベルヴェルグ』が乗り込んでいた強襲要塞トロイメライは轟沈し、俺とノアの乗り込む飛空艇フラヴンアースも片翼を斬り落とされた。

 バランスを失った飛空艇フラヴンアースは錐揉み回転をしながら、フレイムヘイズ率いる聖堂騎士団の軍勢に向かって落下していく。



「我が騎士よ、操縦桿を強く傾けて!」

「イエス、ユア・マジェスティ! オォォッ!!」



 後部座席に座るノアの細やかな調整で飛空艇フラヴンアースは錐揉み回転こそ止める事はできた。だが、翼を折られた以上墜落は確実だ。あとは『どう墜落し、その後どう行動するか』だ。



「我が王よ……トロイメライのみんなは……」

「分かりません。生きているのかも死んでいるのかも……」



 墜落まで残り時間は少ない。その間に俺たちは次の一手を考えなければならない。強襲要塞トロイメライに乗り込んでいたオリビアたちの元に向かうか、墜落と同時に聖堂騎士団を相手取るか。

 正直な気持ちを言えば、今すぐにでも強襲要塞トロイメライの元に向かいみんなを救出したい。あのふねにはオリビアも、長く苦楽を共にした仲間たちも乗っている。生きているのなら助けたい。



「我が王……私に御命令を……」



 それでも、俺は“ノアの騎士”としてノアの意志に従わなければならない。それが俺が選んだ“道”だ、今さら引き返す選択肢など無い。



「私たちはトロイメライを…………いいえ、このままレイ=フレイムヘイズをこの戦場から引き離します。彼女の火力はあまりにも強大で危険です」


「…………」


「信じましょう、みんなを……きっと生きています。大丈夫、ベルヴェルグのみんなは私たちが選んだ強い人たちばかりです。だから、我々は我々にしかできぬ戦いをするのです、我が騎士よ」


「それが……我が王の意志ならば!」


「フラヴンアース墜落後、我々はレイ=フレイムヘイズを“享楽の都(アモーレム)”方面へと引き込みます! 聖堂騎士団の相手はベルヴェルグのみんなに賭けましょう!」



 ノアは一瞬だけ強襲要塞トロイメライへと行こうとして、少しだけ躊躇ってからフレイムヘイズを戦場から引き離す事を決定した。

 このままオリビアたちを助けに行っても、フレイムヘイズによる高火力攻撃を絶え間なく受ける事になると判断したからだ。情と合理性が融合したノアらしい判断だ、反論の余地は無い。



「ノア=ラストアークの名において命じます……我が騎士よ、レイ=フレイムヘイズを討ちなさい! そして、グランティアーゼ王国をその手に取り戻すのです!」


「――――イエス、ユア・マジェスティ!!」


「フラヴンアース、最後の仕事です! 主砲荷電粒子砲、展開! 聖堂騎士団を少しでも多く撃破するのです! 放てッ!!」



 ノアからの命令を受けて俺はフレイムヘイズを討つことに決めた。強襲要塞トロイメライの仲間たちの生存を信じて、俺にしか成せない使命を果たす為に。

 飛空艇フラヴンアースは機首に備え付けられた荷電粒子砲を聖堂騎士団に向けて発射しつつ、地上に向かって墜落していく。放たれた荷電粒子砲が地上に直撃し、隊列を成していた聖堂騎士たちが大地の爆発巻き込まれて吹き飛ばされていく。



《フフフッ……特攻を仕掛ける気か?》



 その様子を聖堂騎士団の後方で白馬に跨がったフレイムヘイズが見ている。どうやら俺たちが最後の悪足掻きをしているように見えたのだろう。



「フラヴンアース……スレイプニル射出シーケンス開始。僚機ビットフギン、ムニンを展開せよ」


《YES, My Lord》


「我が王よ、このままチェイス戦に持ち込んでフレイムヘイズを引き離します。しっかりと掴まっていてください……少し荒っぽい運転になります」



 だけど違う、飛空艇フラヴンアースが墜落した瞬間が()()()()()()()()

 俺の命令に従って飛空艇フラヴンアースが次の準備を進めていく。両脇に在った操縦桿は格納され、目の前には大型二輪のハンドルが現れる。座席シートが外され、後部座席にいたノアが俺の身体に抱きついてくる。機体の下部で巨大なタイヤが回転する音が聞こえる。



「フラヴンアース……今まで助けてくれてありがとう。俺たちは行くよ……未来に向かって!」



 墜落まであと数秒、俺はハンドルを握りしめ、飛空艇フラヴンアースに別れの挨拶をする。天空大陸での戦いから俺を支えてくれた機体だ、思い入れはある。それでも別れの時は訪れて、俺は何かを手放して“未来”に向かわねばならない。

 飛空艇フラヴンアースは文句は言わない。ただの機械として、あるじの命に忠実なアーティファクトとして、最後まで忠実な“道具”としての使命を全うした。



《My Master……Good Luck》



 最後に俺の目の前のモニターに別れのメッセージを表示して。そして、最後の荷電粒子砲で大地に道を切り開いて、そのまま飛空艇フラヴンアースは地面へと落ちていった。



 そして、飛空艇フラヴンアースが墜落して大破、激しい爆発を巻き起こすと同時に――――


「大型二輪スレイプニル――――出撃ッ!!」


 ――――真っ赤な焔と舞い上がる黒煙の中から大型二輪スレイプニルに跨がった俺とノアは出撃、聖堂騎士団の隊列をかいくぐってフレイムヘイズへと突撃を開始しだした。



 飛空艇フラヴンアースには独自機構として大型二輪スレイプニルを内蔵していた。万が一の際には大型二輪スレイプニルを分離して射出する為にだ。その機能を使い、俺は地上を高速で駆け抜ける。

 背後で飛空艇フラヴンアースが大爆発を起こす。機密保持の為の自爆装置が発動したからだ。そんな爆発を背後にしながら、飛空艇フラヴンアースから分離した二基の僚機ビットを大型二輪スレイプニルの両脇に備えて走り出す。



「ほう……素直に墜落したと思ったら、そういう訳だったのか。フフフッ、相変わらず面白い男だな、ラムダ卿……私とチェイス戦をお望みか?」


「レイ=フレイムヘイズ、覚悟!!」


「良いだろう……相手をしてやろう! 聖堂騎士団、お前たちは陸上戦艦に乗っていたラストアーク騎士団を粛清し、そのまま“迷宮都市エルロル”に侵攻せよ! ラムダ=エンシェントとノア=ラストアークは私が直々に狩る!!」


「仰せのままに……“アグニ”様」


「さぁ、追ってこい“ゴミ漁り”! この私、レイ=フレイムヘイズが……女神アーカーシャお母様の子である『四大しだい』の“アグニ”が相手をしてやろう!!」



 大型二輪スレイプニルで突っ込んでくる俺を見てフレイムヘイズは不敵な笑みを浮かべ、そして白馬に跨がって走り始める。向かう先は後方に広がる渓谷、“享楽の都”アモーレムへと続く険しい道だ。



「グランティアーゼ王国は……返して貰う!!」

「断わる……この国は私の所有物だからな!!」



 聖堂騎士団の軍勢を切り抜けて、俺とノアは白馬を駆るフレイムヘイズを追う。こうして、グランティアーゼ王国奪還の為の一大決戦が幕を明けたのだった――――夜明けの輝きと共に。

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