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第874話:VS.【眠れる羊】アリエスⅢ① / 〜Sleepy Sheep 〜


「ラムダ=エンシェント……第六階層に居た聖堂騎士たちをどうしたのですか? まさかとは思いますが……」


「皆殺しにした……そう言えば満足か、アリエス(スリー)?」



 ――――“深淵迷宮”インフェリス第七階層、試練の間。地下迷宮にも関わらず月光が降り注ぐ彼岸花の花園。かつて俺がいにしえの勇者クラヴィス=ユーステフィアと戦い、聖剣シャルルマーニュを受け取った場所だ。そんな思い出の場所に俺はもう一度、足を踏み込んでいる。

 大量の瓦礫と聖堂騎士の亡骸が積もった屍山しざんの上にたち、血河けつがのように流れる鮮血の雨を浴びながら、俺は第七階層を護ろる聖堂騎士たちを見下ろすように睨む。敵は三〇〇人ほどの中隊規模。その聖堂騎士たちを束ねるのは側頭部から羊の角を生やした亜人種の女性アリエス(スリー)、『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の一角を担う騎士だ。



「前に魔界マカイで遭遇した時は……そもそも、アズラエルさんから聞いた話では、貴方は虫も殺さぬ人物だと思っていましたが……」


「今の俺は“個人”ではない……ノア=ラストアークを生涯の“王”として忠誠を尽くす騎士だ。我が王の意志は何よりも優先される。私は我が王の理想を実行する為の“つるぎ”だ」


「なるほど……そう言う理由でしたか……」


「アリエス(スリー)、そして聖堂騎士どもよ……一度だけ言う、大人しく降伏せよ。そうすれば命は奪わず、捕虜として丁重に扱うことを約束しよう。これは我が王の慈悲であり、そして私の“本意”である」



 アリエス(スリー)、聖堂騎士たちは敵意と憎悪に満ちた表情で俺を敵視している。それは地上や迷宮ダンジョン内で斬り捨てた聖堂騎士たちと同じ、女神アーカーシャの敵であるラストアーク騎士団の壊滅の為に一丸となって戦おうとするだろう。

 だが、俺はルールに則ってアリエス(スリー)たちに降伏を勧告する。殺したくないのはノアも俺も同じだ。できれば話し合いで、穏便に事が済めばそれに越したことはない。しかし、()()()()()()()()()()()



「降伏ですか……ふふふっ、笑止千万ですね。我等は女神アーカーシャ様の理想を護る為の守護者なれば、女神アーカーシャ様の理想に仇なす無神論者などに屈する理由は無し。徹底抗戦を貫くまで……」


「……だろうな。知っていたさ……」


「そして、貴方たちの降伏は認めません。世界の“法”を、世界の“秩序”を、世界の“ことわり”を……そのことごとくを破った貴方たちラストアーク騎士団はもはや『世界の敵』に他ならず。わたしたち聖堂騎士団は貴方がた反逆者を必ず滅します」



 アリエス(スリー)には降伏の意志はなく、彼女に賛同するように聖堂騎士たちは武器や盾を構えて戦闘態勢に入った。もはや交渉の余地も、和解への道も存在せず、どちらかがどちらかを滅ぼすまで戦わねばならない。



「ラムダ=エンシェント、女神アーカーシャ様に逆らう“傲慢の魔王”よ! 貴方は此処で我々が殺します……世界の“平和”を護る為に! アメン中隊、抜刀っ!! 女神アーカーシャ様の敵を討つのです!!」


「交渉は決裂しました。我が王よ……裁定を」


《致し方ありません……我が騎士よ、殲滅を許可します。ノア=ラストアークの名において命じます……アリエス(スリー)を討ち、この“迷宮都市”エルロルを解放しなさい!》


「――――イエス、ユア・マジェスティ!!」


「聖堂騎士団、攻撃開始っ!! “傲慢の魔王”を討ち、この『美しい世界』を護り抜くのです! 殺しなさい、屠りなさい、滅しなさい! 穢らわしき異物を……この世界から排除するのです!!」



 そして、聖堂騎士団は降伏勧告を跳ねのけて、アリエス(スリー)の号令と共に一斉に俺に向けて進撃を開始し始めた。

 これ以上は言葉を交わす事は不可能だ。そう悟った俺もノアのめいを受けて交戦を開始、死体と瓦礫の山から彼岸花の花園に飛び降りて迫りくる聖堂騎士たちを迎え撃つ。



「貴様に倒された同志の仇、今ここで――」

「魔剣駆動、穿て――――“喰牙くうが”!」

「――っ!? つ、あぁ……おの……れぇ!!」



 一番槍を務めた聖堂騎士の騎槍ランスによる攻撃を躱し、すれ違いざまに心臓部分に魔剣を突き立てる。甲冑ごと胸を貫かれた聖堂騎士の叫びには耳も貸さず、即座に魔力エナジーを纏った右腕の手刀で首を刎ねて息の根を止める。

 魔王権能ネガ・ギフトによる副作用で殺した男性騎士の記憶が脳内に流入する。彼は聖都に妻子を持つ敬虔な信者で、いつまでも争いの続く世界を少しでも良くしたいと聖堂騎士団に志願した……そんな事は俺にはどうでもいい事だ。



「アリエス(スリー)……お前を殺す」

「それはわたしの台詞です……ラムダ=エンシェント」



 大量の聖堂騎士たちの背後で俺の動きをつぶさに観察するアリエス(スリー)をジッと見据える。彼女は猪突猛進だったレオⅤⅡ(セブン)とは違うらしい。聖堂騎士たちを相手取る俺を観察して、そこから策を練るつもりなのだろう。

 アリエス(スリー)の側頭部に生えた漆黒の“角”が魔力を帯びているのか淡く発光している。彼女が何らかの術式スキルを行使しようとしているのだろう。



『彼女は他人の“精神”に干渉する固有術式ユニーク・スキルを女神アーカーシャから授かっている』



 かつての光導騎士であるウィル言うには、アリエス(スリー)()()()()()()()()()()()()を有している。角の発光は間違いなく術式スキルが行使されている証明だ。



(まずはアリエス(スリー)を潰すべきか……)



 レオⅤⅡ(セブン)のような『純粋な力比べ』でない『精神干渉という搦め手』である以上、対処を誤れば決定打を与えられる可能性もある。

 まずはアリエス(スリー)を討ち取り、そこから聖堂騎士たちを相手取るべきだろうと俺は考えた。そして、その作戦を実行に移すべく俺は瞬間移動ワープの為の空間座標の計算を脳内で実行する。



(空間座標……計算完了。転移準備……)

「空間転移による奇襲……後方へと跳躍して回避」



 目の前に群がる聖堂騎士たちを全員躱し、空間転移による奇襲でアリエス(スリー)を倒す。そう作戦を立てた俺は彼女の目の前の座標を算出し、虚数空間へと潜り込んでいく。



 だが、転移と同時に魔剣を振り抜いた俺が目撃したのは――――


()()()()()()()……その攻撃」

「――――っ! 躱した……いいや、読まれて……」


 ――――あからじめ後方へと跳躍して、()()()()()()()()()()()アリエス(スリー)の姿だった。



 アリエス(スリー)は魔剣の刃先が届かないギリギリの位置まで退いて斬撃を回避していた。魔剣はくうを虚しく薙ぎ、それを目の当たりにしたアリエス(スリー)は静かに微笑む。



「これは……」

「うふふ……」



 空間転移による奇襲攻撃を()()()()()()()()()()()()()()、アリエス(スリー)は俺が転移する瞬間にはすでに後方への回避を実行に移していた。

 そんな未来予知じみた行動が取れるのは高度な“予知術式”を持つか、或いは()()()()()()()()()()()()()()()だろう。



「躱したのなら、これで……!!」

「刺突による斬撃波の射出……」

「――――シッ!! 躱した……」



 浮かんだ疑問に答えを出すべく、俺は魔剣でくうを突き、アリエス(スリー)に向かって“突き”による衝撃波を飛ばした。

 結果はすぐに出た。俺が突きを繰り出した瞬間には、アリエス(スリー)はすでに真横へと飛び退いて攻撃を回避していた。撃ち出された衝撃波は虚しくくうを割いて進み、遥か後方にそびえていた下層へと続く“門”に衝突して消える。



「その術式スキル、やはり……」

「うふふ……流石に気が付きましたか?」



 攻撃を再度躱したアリエス(スリー)は妖艶な笑みを浮かべる。彼女は()()()()()()()()()()()()を完璧に理解しており、その疑問に対する返答とばかりにほくそ笑んでいた。



「わたしが女神アーカーシャ様より授かりしは……()()()()()()()()()()術式。名を【夢魔羊裘ソンニアチオ・オーヴェス】……わたしという“羊”が見せる『悪夢』の名前です」


「相手の心を読み、そして干渉する術式か……」


「その通り、ただ心を読むだけではありません。わたしは相手の心に干渉し、その深層意識に深く潜り込む事ができる。まるで枕元で跳ねる羊のように……」



 アリエス(スリー)が女神アーカーシャより与えられた固有ユニークスキルの名は【夢魔羊裘ソンニアチオ・オーヴェス】――――相手の精神を読み取る読心術にして、相手の精神に干渉を仕掛ける精神干渉系の術式スキル

サートゥスから“千里眼”を行使したシャルロットを迎撃したのもその術式で間違いないだろう。アリエス(スリー)は“深淵迷宮”インフェリスまで()()()()()()()シャルロットに干渉を仕掛けていたのだ。



「うふふ……さぁ、わたしに見せてみなさい、ラムダ=エンシェント……あなたの心の“闇”を。そして、わたしが落として差し上げます……二度とは覚めぬ永遠の眠りへと!」


「ふん、やってみろ……!!」


「電気羊はアンドロイドの夢を観る……さぁ、わたしという“羊”が、意志無き“人形アンドロイド”と化したあなたを暴きます!!」



 そして、魔力を蓄えたアリエス(スリー)の“角”が輝いた瞬間、俺の意識は途切れて、深い深い眠りへと誘われていくのだった。

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