第87話:竜の牙
「固有スキル発動――――【腐蝕錆】!!」
「気を付けて、御主人様! キーラの固有スキルは『触れたものを腐蝕させる猛毒の魔力を纏う』ものよ……絶対に触れちゃだめ!」
「リリエット=ルージュぅ!! この裏切り者がぁ、あたしの固有スキルをバラしてんじゃねぇよ!!」
「残念、これも『身から出た錆』だと思え……! アーティファクト【ストームブリンガー】……魔力充填、起動開始!!」
「私、いま『錆』扱いされた!?」
「ラムダさん、雑魚の相手は僕たちに任せて!!」
「ありがとう、アリア! 俺の【駆動斬撃刃】もそっちの援護に回す――――頼んだぞ!」
小さな宿場町のあちらこちらで鳴り響く戦闘音。解放された【ベルヴェルク】やギルドの冒険者たちが町を埋め尽くす屍人と死霊の軍団に怯む事なく立ち向かう。
そして、町の中央で対峙するは魔王軍の将・キーラと、この俺――――互いに大剣を振り抜いて決戦に臨む。
「きひひひ……!! 噂通りの凛々しい顔付きだな、アーティファクトの騎士! おめぇも屍人にならねぇか? 死なない身体って気分が良いぜ!」
「死なないんじゃなくて、死んだのを誤魔化しているだけだろ――――悪いが、俺はちゃんと生きていたいんだ……!!」
「あぁ、そうかい……なら、無理やりにでも屍人にしてやんよッ!! 腐って墜ちな――――“錆液”!!」
「【行動予測】――――光量子輻射砲!!」
開幕の一撃はキーラから――――錆びた大剣を縦に振り下ろし、切っ先が地面を抉った瞬間に放たれるのは錆色の斬撃。
触れたものを腐蝕させる斬撃……迂闊に剣や盾で防げばもろとも腐蝕させられて刻まれる防御不能な『初見殺し』の一撃だ。
なら遠距離攻撃での打ち消しを――――左腕から放たれる光量子の衝撃波で迫りくる斬撃を掻き消して、キーラの出鼻をくじく。
「チッ! 普通ならこれで一撃なんだが……魔王軍最高幹部のリリエット=ルージュを引き込んでいるのが痛いな……! こちらの情報が筒抜けになってやがる……!!」
「降参するか? リリィの願いだ――――大人しく引き下がるなら命は取らない」
「抜かせ、あたしに『後退』の二文字はねぇ!! 攻撃、攻撃、攻撃あるのみだ!!」
「分かった――――なら、覚悟しろ!!」
降伏の意思は無く、後退の意思も無い――――なら、どちらかが倒れるまで決闘を。
互いに駆け出し、キーラと俺は剣と剣を克ち合わせて激突する。対峙するは錆びた大剣と碧きアーティファクトの剣。
「むっ……剣が錆びねぇ……! やはり……その剣も『アーティファクト』か!」
「知っているみたいだな……」
「おうさ! なにせ、我らが魔王グラトニス様は――――古代文明の『アーティファクト』をご所望だからな!!」
「なんだと……!?」
「だから、てめぇが目障りなのさ――――唯一の『アーティファクト使い』さんよ!!」
魔王グラトニスはアーティファクトを求めている。恐らくは【死の商人】に吹き込まれたに違いない――――あの死神は早々に潰しておいて正解だったな。
そして、俺が固有スキル【ゴミ拾い】の効果でアーティファクトを使いこなしていることも把握している。
「その綺麗な顔面、ぐっちゃぐちゃにしてやるよ――――腐れ“錆手”!!」
「――――【行動予測】……!! 触るな、キーラ!!」
不意にキーラが俺の顔を目掛けて伸ばした右手を咄嗟に左腕で跳ね除けて、一度後退して距離を取る。
迂闊には近付け無いな、うっかり身体を腐蝕されたら即死だ。
「【光の翼】展開――――飛翔開始! 可変銃転送……!」
「飛んだ……!? クソ、ルージュ兄妹じゃあるまいし、忌々しいな!!」
飛翔して距離を取る――――飛ぶ斬撃こそあれど、キーラの元の職業は恐らくは【騎士】。遠距離からの攻撃には幾分か不利な筈だ。
「空中からの遠距離攻撃だ――――捌き切れるか?」
「――――ハッ! 馬鹿が、翔べば飛竜たちの餌食さぁな!! 喰い殺せ――――死飛竜ども!!」
「伏兵!? 駆動斬撃刃、散開!!」
「あっ! あの剣、当てにしてたのに回収された!?」
だが、流石は魔王軍の精鋭――――俺が空中に上がった瞬間にキーラの号が発令され、町の周囲の地面からゾンビ化した魔物【ワイバーン】が一斉に出現し始める。
「あっはははは! 本来は王立ダモクレス騎士団の第二師団用に仕掛けた罠だが――――効果覿面だな!!」
「御主人様!!」
「来るな、リリィ!! 数が多すぎる――――【光の羽根】発射!!」
呼び出されたワイバーンの数は目算でも50を超える。敵陣営の本命か――――ドロドロに腐敗した死したワイバーンの群れ。
翼から光弾を回転しながら射出して片っ端から撃ち落として行くが、それでもゾンビ化したワイバーンたちは次から次へと地面から現れてくる。
「クソッ! きりが無い……!!」
「まだまだ、これで終わりじゃねぇぜ? 対【閃刀騎】用の取っておき――――起きな、【死竜】!!」
「なに……あれ……? ラムダ様ッ!!」
「ドラゴンの……ゾンビ……!?」
そして、極めつけは竜種の最上位【ドラゴン】のゾンビ――――地面から出現した朽ちた竜の骸が奇声を上げながら飛翔を始める。
ドラゴン――――俺たちの世界に於いては最上位の魔物として畏怖される存在。現役時代の父さんもドラゴンを倒すのに部下の3分の1を失ったと聞いている。
ゾンビ化の影響で弱体化しているとは言え、これほどの最上級の魔物を場末の宿場町に持ち込むなんて、キーラは何を考えているのだろうか。
「あはははは!! さぁ、アーティファクトの騎士を喰い殺せ、死した竜よッ!! あたしはその間に地上の雑魚を蹴散らしてやる……!!」
「こいつを相手にしたらキーラが野放しになる……!!」
《聴こえますか、我が所有者? 北西の空から高速で接近する反応が7つ――――生体反応は合わせて14》
「新手か……!?」
更に畳み掛ける用に人形から送られた通信――――こちらに向かう謎の高速飛行する集団。
混沌を極めた【レウニオン】の戦場に現れるは敵か、味方か。
「あれはまさか――――第二師団【竜の牙】……!? わたくし達の援軍ですわ、ラムダ卿!!」
「第二師団――――まさか!?」
その正体は、レティシアによって明かされる。
俺の視線の先に微かに映るは、緑色や赤色の鱗が特徴的な飛竜に跨り、目元を風除けの仮面で覆った7人の【竜騎士】たち。
そして、騎士たちの先頭には飛竜への負荷を極限まで軽減した最低限の装飾に留められら純白の甲冑を纏い、長く結われたピンク色のツインテールを風に靡かせる女騎士がひとり。
「まさか……もう来やがったのか――――第二師団の竜騎士ッ!!」
「あれは……まさか……!!」
「その通りよ、オリビア……! あれこそは王立ダモクレス騎士団唯一の空戦部隊、たったの7人で構成された空の覇者、率いるは十人の【王の剣】の一振り、“閃刀騎”の二つ名を持つ若き天才……!!」
「私の宿敵――――【竜騎士】ツヴァイ=エンシェント!!」
その名をツヴァイ=エンシェント――――女神アーカーシャより【竜騎士】の職業を授けられしエンシェント家の第二子……我が麗しき姉さん。
ツヴァイ姉さん率いる第二師団は脇目も振らずに戦場化した【レウニオン】へと突っ込んで来る。
その姿はさながら古代文明の兵器『戦闘機』そのもの――――猛る飛竜を巧みに操り、馳せ参じるは7人の騎士。
「――――第二師団の竜騎士たちよ! これより、我ら第二師団【竜の牙】は宿場町【レウニオン】の魔王軍を掃討する!! 全騎、抜刀ッ!!」
「ドラグーン2、抜刀ッ!」
「ドラグーン3、抜刀ッ!」
「ドラグーン4、抜刀ッ!」
「ドラグーン5、抜刀ッ!」
「ドラグーン6、抜刀ッ!」
「ドラグーン7、抜刀ッ!」
「斬撃包囲刃、戦闘準備――――全騎、散開!!」
ツヴァイ姉さんの号令の元、散開する竜騎士たち――――飛竜による華麗な編隊飛行、その極地。
王立ダモクレス騎士団の精鋭たちが、群がる死霊たちへと竜の牙を剥く。
「あぁ、鬱陶しい……! ワイバーン・ゾンビ、あの蚊蜻蛉どもを撃ち落とせッ!!」
「我が名はツヴァイ=エンシェント!! グランティアーゼ王国の“空”を護る騎士なり――――いざ尋常に、推して参るッ!!」
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