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第865話:VS.【咆哮する獅子】レオⅤⅡ / -Wild Fang-


「――――オォッ!!」

「――――ハァァッ!」



 ――――俺の振り抜いた魔剣とレオⅤⅡ(セブン)が振り下ろした“爪”が激突して激しい閃光と火花を散らす。周囲にいたラストアーク騎士団の仲間たちや聖堂騎士たちが衝撃波で仰け反って弾かれる。



(こいつの爪……俺の魔剣を防げるぐらい硬い……!)



 まず驚いたのがレオⅤⅡ(セブン)の“爪”が異常な硬度を誇っていたこと。魔力を込めて伸ばされた彼の“爪”は業物の刃物並みの斬れ味と強度を手に入れていた。それこそ、俺の“神殺しの魔剣(ラグナロク)”を真正面から受け止めれるぐらいには。

 魔力による身体強化は戦闘技術の一種として広く認知されているが、鋭利なやいばと化したレオⅤⅡ(セブン)の“爪”はそれとは別物。おそらくは彼自身の保有する固有術式ユニーク・スキルに由来するものだろう。



「どうした、その程度か!? “獅子神風脚レオ・プロチェッラ”!!」

「――――ッ! ふん、俺を見くびるな……!」



 レオⅤⅡ(セブン)は魔剣を受け止めながら笑みを浮かべ、得意気に挑発しながら右脚を蹴り上げて俺の顔目掛けて蹴り技を繰り出してきた。その蹴りを俺は上体を逸らして躱し、そのまま右脚を蹴り出して反撃を繰り出す。



「おっと……!」



 俺が蹴りを繰り出したのを認識したレオⅤⅡ(セブン)は後方へと飛び退いて数メートル距離を取った。どうやら、今の一連の激突は彼からすれば『軽い挨拶』だったらしい。

 距離を取ったレオⅤⅡ(セブン)は俺の全身、表情、手にした武器を観察している。まるで獲物を見定める獅子のような振る舞いだ。



「流石だ……おれの“爪”を防ぐとはな。アズラエルが貴様に執着するのも頷ける……」


「……そりゃどうも」


「前に魔界マカイで遭った時はスルーして悪かったな。あの時は聖女暗殺犯であるテオドールを追っていたんだ。それと……奴を討ってもらった事は感謝している。セシリア様も安らかに眠れるだろう……」


「それで……言いたい事はそれだけか?」


「ああ、挨拶はこれで終いだ。なにせ、魔界マカイで貴様を見た時から……ずっと貴様と闘いたくてウズウズしていたのだからなァ!!」



 レオⅤⅡ(セブン)――――アーカーシャ教団が誇る最高位の騎士『光導十二星座アカシック・ナイツ』の一角。同僚であるリブラⅠⅩ(ナイン)やウィル曰く、光導騎士の中でもっとも好戦的なのが彼だ。

 獅子系亜人種としての“血”がそうさせているのだろう。レオⅤⅡ(セブン)は邪教徒たちの壊滅に対する礼を少しだけ呟くと、全身から魔力を放出して一気に戦闘態勢へと切り替え始めていく。



「ここからは“狩り”の時間だ……悪いが最初から全力で臨ませてもらうぞ、ラムダ=エンシェント。獅子とて狩りには全力を尽くす……それがこれから喰らう相手への礼儀だからな!!」


「いい心掛けだな……喰われる側なのに立派だよ」


「ふふっ、ははは! おれを喰らうと言うか、ラムダ=エンシェント! 良いだろう、やれるものならやってみせな! さぁ、うなれ……我が心臓『獅子炉心レオ・ドライヴ』! 女神アーカーシャ様の理想郷を護るちからを我に授けよ……!!」



 レオⅤⅡ(セブン)やリブラⅠⅩ(ナイン)たち『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の心臓には、教皇ヴェーダから与えられた特殊な“炉心ドライヴ”が埋め込まれている。その炉心から得られる過剰なまでの魔力で彼等は身体能力や術式スキルを“超人”の域まで覚醒させているのだという。


 だが、女神アーカーシャの威光を示す絶対的なちからと引き換えに、光導騎士たちは“人間性”を全て剥奪された。


 名前を奪われ、自我を制限され、肉体の成長と老化を抑制され、仮面バイザーで顔を隠され、両親から授かった“自分”を全て女神に捧げさせられた。それがいま俺が対峙しているレオⅤⅡ(セブン)という『コードネーム』を与えられた人物だ。



「さぁ、行くぞ――――【獅子咆哮オーバードライヴ】!!」

「なら、俺も遠慮は無しだ――――【オーバードライヴ】!!」



 大地が震える程の魔力を放出しながら、大きく抉れる程の勢いで地面を蹴ってレオⅤⅡ(セブン)が俺に向かって突撃を開始する。それはさながら獲物へと飛び掛かろうとする獅子のように。

 対する俺も戦闘術式【オーバードライヴ】で炉心ドライヴからの魔力エナジー生成を臨界させ、身体能力を強化させてレオⅤⅡ(セブン)を迎え撃つ。



「全ての獲物を引き裂け、鋼鉄の爪牙そうがよ! 固有ユニークスキル【王者絶爪牙レオ・ベナッチオ】――――発動ッ!!」



 お互いの距離が一メートルを切った瞬間、レオⅤⅡ(セブン)固有術式ユニーク・スキルを発動。同時に彼の振りかざしていた“爪”が魔力を帯びて金色きんいろに発光し、凄まじい熱を放出し始めた。



「大地ごと引き裂け――――“大地裂斬テラ・ルプトゥーラ”!!」

「受け止めろ、“神殺しの魔剣(ラグナロク)”!!」



 レオⅤⅡ(セブン)が振り下ろした“爪”を魔剣で防いだ瞬間、甲高い金属音が鳴り響き、同時に俺の身体に大きな切り傷ができた。爪から生じた斬撃が俺を斬り裂いたのだろう。

 そのまま放たれた斬撃は大地を切り裂きながら後方へと伸びていき、後方に在るサートゥスの街の一部すら破壊していく。



「これは……爪を硬化させる術式か……!」


「そうだ、おれの固有ユニークスキル【王者絶爪牙レオ・ベナッチオ】は我が武器たる“爪”を強化する術式だ! その強度はこの世のあらゆる物資を凌駕する……外宇宙からもたらされた神秘の鉱石『星屑の因子(プラネタリウム)』にすら引けは取らん!!」


「なるほど……どうりで硬いわけだ……!」


「この“爪”で切り裂けないものは無い! 肉体も、鋼鉄も、魔力すら我が“爪”を前にはただの獲物に過ぎん! ただの獅子と侮るな……おれはあらゆる獲物を喰らう“百獣の王”だ!!」


「女神アーカーシャの駒が“王”を気取るか……!」



 レオⅤⅡ(セブン)固有ユニークスキル【獅子絶爪牙レオ・ベナッチオ】――――自身の“爪”に魔力を注ぎ込んで強化・硬化させる術式。強化された“爪”はあらゆる物資よりも強化され、その硬度は外宇宙からもたらされた『星屑の因子(プラネタリウム)』にも匹敵する。

 それが本当なら、レオⅤⅡ(セブン)の“爪”は()()()()()()()()()()()事になる。『星屑の因子(プラネタリウム)』で形成された“神殺しの魔剣”ラグナロクでなければ彼の攻撃は防げなかっただろう。それでも放たれた斬撃波は俺の身体を斬り裂いた。



「だけど残念……お前の“爪”じゃ俺は喰えないぞ」

「ああ、だろうな……だから次は“牙”を突き立てるのさ!」



 そして、俺の身体を斬り裂いたレオⅤⅡ(セブン)はさらなる攻勢に打って出る。彼が口部を大きく開けた瞬間、上下に生えた犬歯が魔力を帯びて輝き始める。どうやらレオⅤⅡ(セブン)の固有術式は“牙”も強化できるらしい。



 そのまま、レオⅤⅡ(セブン)は勢いよく俺の左肩を目掛けて飛び掛かり――――


「喰らえ――――“弱肉強食(フェルス・レギューレ)”!!」

「まさか、俺の身体を喰う気で――――ッ!!」


 ――――俺の左肩に喰らいつき、鋭く伸びた“牙”を俺の身体へと突き立てるのだった。



 身体へと喰らいついた次の瞬間、レオⅤⅡ(セブン)は唸り声を上げながら大きく身体を反らす。それと同時に、レオⅤⅡ(セブン)は強靭な顎のちからで俺の左腕は引き千切られるように食いちぎられた。



「これは……!?」

「フハハハ! もろいもろい……脆いぞ人間!」



 “神殺しの魔剣(ラグナロク)”を握ったまま左腕は引き千切られ、レオⅤⅡ(セブン)にぶん投げられて草原に乱雑に投げ捨てられられる。本人の宣言通り、まさに“百獣の王”に相応しい狩りの様子だった。

 “爪”による一撃で距離を詰め、“牙”による一撃で身体を食いちぎる。荒々しくも獰猛な獅子の狩りそのものだ。なるほど、レオⅤⅡ(セブン)が光導騎士でもっとも好戦的なのも頷ける。



「これで丸腰だ! さぁ、今度は逃がしはしない……このままおれの“爪”と“牙”で貴様を細切れ肉にして……」


「…………ッ!!」


「……ッ!? 待て、なんだ貴様……!? なぜ……なぜ欠損した左腕が再生し始めているんだ……!?」



 だが、レオⅤⅡ(セブン)()()()()()をしていた。それは彼が敵対している『ラムダ=エンシェント』が“人間”であると思い込んでいた事だった。故に彼は、再生を始めている俺の左腕をみて驚愕していた。



「生憎と……俺はもう“人間”じゃなくてね。身体の欠損なんて数秒あれば治せる。いまの俺は全身をナノマシンで構築した“機人マシナリー”。言っただろ……喰われるのは貴様の方だと」


「まさか……いつの間にそんな変貌を……!?」


「お前たちアーカーシャ教団に、女神アーカーシャに“牙”を届かせる為に……俺は“人間性”を全て捨てた。お前の“覚悟”では、この俺の“覚悟”は超えられないぞ……レオⅤⅡ(セブン)!!」



 俺の左腕が再生しつつある事を知ったレオⅤⅡ(セブン)は後方へと跳躍して距離を取ろうとした。亜人種としての【野生の勘(ワイルド・センス)】が距離を取るように警告しているのだろう。

 だが、レオⅤⅡ(セブン)が逃げるよりも疾く、俺は再生しつつある左腕からナノマシンで構築された金色こんじきの“鎖”を複数本撃ち出してレオⅤⅡ(セブン)を拘束した。



「なんだこれは……!? ア、アズラエルから聞いていた情報とは一致しない!? どうなって……」


「右腕、量子装甲装着――――“巨人の腕(セファール)”!」


「…………なッ!? なんだその腕は……!? 馬鹿な、そんな馬鹿な……この短期間に何があった!? 魔界マカイで見た時とは別人ではないか!?」



 そして、レオⅤⅡ(セブン)を拘束した俺は、右腕にナノマシンで形成した追加装甲を纏わせていく。装甲に覆われた右腕は巨人族の腕の如く巨大化していく。もはや、俺の身体よりも右腕の方が大きい状態だ。

 それを見たレオⅤⅡ(セブン)は必死に逃れようと暴れているが、左腕から伸びた“鎖”によって拘束された彼は動けない。必死に“鎖”に噛みつくが、彼の“牙”と同等の硬度を持つ『星屑の因子(プラネタリウム)』でできた“鎖”には通じない。



「これが今のラムダ=エンシェントか……! お、覚えたぞ、()()()()()、貴様の今の実力を!! この先、そのちからが通じると思うなよ!!」


「なら……俺はもっと強くなるだけだ!!」


「ラムダ=エンシェント……女神アーカーシャ様の理想を阻む“悪性腫瘍キャンサー”が!! 貴様のせいで世界は無茶苦茶だ!! 恥を知れ、悔い改めろ……女神アーカーシャ様に敷いていただいた“人生レール”すら歩けない不適合者がァァ!!」



 レオⅤⅡ(セブン)は声を荒げて俺を非難している。彼の言っている事は社会的に見れば正しいことなのかも知れない。だけど、そんなこと百も承知で、それでも俺は女神アーカーシャを倒して、ノアに新しい世界を見せたいと願っている。



 だから、俺は全力で右腕を撃ち出して――――


「終わりだ、レオⅤⅡ(セブン)――――“至天の鉄槌(ヘヴンズ・ナックル)”!!」

「アズラエル、記録は届けたぞ――――グアッ!!?」


 ――――レオⅤⅡ(セブン)の顔面を全力で殴り飛ばして、彼を打ち破ることに成功するのだった。

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