リコレクション12:傾国の夜叉姫
■ ストーリー概要
【第一幕:夢現幻想郷マホロバ】
「深い霧で外界から隔絶された幻想の地、空に浮かぶ『幻想太陽』によって護られた国、“日ノ天帝”と“征異大将軍”の二人の支配者を擁する舞台でござるよ……」
――――ミナヅキ=ミナモ(第406話より)
ギルドマスターから依頼された大型モンスター『白鯨』の討伐に取り掛かっていたラムダたちは海で遭難していたある三人組を救出する。夜叉の面を被った女武者ミナヅキ=ミナモ、烏を操る女忍者ミヤマ=アヤメ、そして素顔を白い布で隠した謎の少女“日ノ天帝”アマノテルヒ。
濃霧に閉ざされた島国である“夢現幻想郷”マホロバからとある理由で脱出を図ったミナヅキたちはラストアーク騎士団に救援を依頼する。それは幻想郷マホロバの象徴である“日ノ天帝”アマノテルヒを失脚させようとする為政者“征異大将軍”ミカゲ=イザヨイの反乱を止めてほしいという内容だった。
ミナヅキたちが提示した情報の中にラストアーク騎士団が追う『四大』の痕跡を発見したラムダたちはミナヅキたちの依頼を受け、ノアやオリビア、新参のアリステラやレスターたちを連れて強襲要塞トロイメライを用いて幻想郷マホロバへと秘密裏に上陸、征異大将軍イザヨイと接触する首都アメノウズメへと向かい始める。
その道中、険しい山脈の中でラムダたちは正体不明の魔物に襲われる。それは幻想郷マホロバ中を管理する疑似太陽『幻想太陽』の影響力が弱まる夜にのみ出現する“怪異”と呼ばれるモンスターであり、無尽蔵に湧いてくるモンスターを前にラムダたちは圧倒されつつあった。
そんな中で現れたのは狐の面を被り、その手に大太刀を携えた人物、名をミカゲ=イザヨイ。群がる怪異をあっという間に殲滅したイザヨイは“日ノ天帝”アマノテルヒを迎え入れると、同行していたトネリコたちの忠告を無視してラムダたちを首都アメノウズメへと案内し始めるのだった。
【第二幕:夜のアサガオ】
「我らは本心に嘘をついて正体を偽る“仮面”を被らなければならない。そなたは『イレヴン』、余は『アマノテルヒ』、たったそれだけの話だ」
――――“日ノ天帝”アマノテルヒ(第424話より)
征異大将軍イザヨイに案内され首都にあるカグヤ城に招かれたラムダたちはそこでイザヨイが反乱を起こした理由を知る。それは“日ノ天帝”アマノテルヒを蹴落とし、イザヨイが幻想郷マホロバの真の支配者になるという内容だった。
怪しい妖術師の女・水蓮を侍らせたイザヨイは“日ノ天帝”アマノテルヒの身柄の引き渡しを要求するが、すでに“日ノ天帝”アマノテルヒはミナヅキたちの手引きで城から行方を暗ませており、その日の交渉は一旦中断となってしまう。
その夜、城下町へと繰り出したラムダはアサガオという少女と出逢い、彼女から“日ノ天帝”アマノテルヒは『幻想太陽』を維持する為の“人柱”であるという事実、そして“日ノ天帝”アマノテルヒが本当は使命からの解放を望んでいることを知らされる。
アサガオから幻想郷マホロバの実情を知ったラムダはある決心をし、イザヨイの反乱を止めるべく彼に一対一の決闘を申し込む。そして、幻想郷マホロバの運命に介入する事を決めたラムダは再びアサガオと接触、彼女こそが“日ノ天帝”アマノテルヒ=アサガオである事を見抜いた上で彼女をその運命から解放する事を約束する。
だがその時、ラムダは幻想郷マホロバに忍び込んだ『光導十二聖座』の襲撃を受け、同時に介入した水蓮によってアサガオの身柄を奪われてしまうのだった。
【第三幕:夢幻廻廊】
「将軍も帝もうちの玩具や。どないしようともうちの勝手。そう、あんたはんも同じやで……“夜叉”ミナヅキ」
――――水蓮(第435話より)
“日ノ天帝”アマノテルヒを攫った水蓮を追い、ラムダたちは城下町の一画に造られた巨大な遊郭街へと向かう。そして、ラムダはミナヅキ、アヤメと主に事前にイザヨイから与えられていた情報を頼りに水蓮が営む遊郭『夢幻廻廊』へと突入、数々の罠を突破して水蓮と対峙する。
全ての魔人種の原型であり、水の力を存分に操る“原初の魔人”水蓮を前にラムダたちは苦戦を強いられ、遂にはラムダは『肉体と魂を分離する』呪法を水蓮から受けてしまう。だがその時、レスターによってラムダの深層意識から引き剥がされ、彼に仕える低級魔物にさせられていたメメントがある方法でラムダを救援する。
それはメメントの術式で自らの魂を先んじて結晶化するという奇策だった。この奇策で水蓮を出し抜き、メメントの術式で水蓮の不死性を攻略したラムダは徐々に彼女を追い詰めていく。そして、駆け付けたイザヨイにも謀られていた水蓮は見限られ、ラムダたちに倒されて女神アーカーシャの権能だけを残して世界から退場するのだった。
【第四幕:夢現天覧試合】
「我は“月”――日の差さぬ夜を照らす輝き。我は“影”――無垢なる光に陰った闇を背負う者。我は“刃”――幻想の国を覆う暗雲を祓う剣」
――――ミカゲ=イザヨイ(第446話より)
最大の障害である水蓮を葬った翌日、ラムダとイザヨイは彼女が残した女神アーカーシャの権能、そして“日ノ天帝”の未来を賭けた一大決戦へと臨む。“日ノ天帝”アマノテルヒやトネリコたちが見守る中で、ラムダとイザヨイはアヤメが展開した領域の中で死闘に臨む。
“日ノ天帝”アマノテルヒを失脚させて、アサガオを『幻想太陽』の人柱から解放させようと願うイザヨイは鬼気迫る勢いでラムダへと迫り、その圧倒的な剣技でラムダを追い詰めていく。だが、ラムダも負けじとイザヨイに肉迫、イザヨイの必殺剣を破って彼を打ち倒す事に成功するのだった。
そして、イザヨイがアサガオの解放を願っている事を知ったラムダは彼に共に“日ノ天帝”解放の為の共闘を持ち掛けるが、事態を快く思わないトネリコがアーカーシャ教団への反旗を理由にイザヨイへと発砲。その瞬間、動揺したアサガオの身体を乗っ取り、幻想郷マホロバを空から支配する天候支配型アーティファクト『空亡』が顕現するのだった。
【第五幕:幻想郷の戦い】
「お願いだ……もう此処で死んでくれ。僕をずっとこのぬるま湯のような地獄に居させてくれ。もう僕は……何も観たくない……何も観たくないんだ……」
――――トネリコ=アルカンシェル(第457話より)
“日ノ天帝”アマノテルヒの身体を乗っ取った空亡は幻想郷マホロバを“恐怖”で支配する為に大量の怪異を召喚して侵略行動を開始する。ラムダたちはアサガオ救援の為に空亡を食い止めようとするが、そこにトネリコたちアーカーシャ教団が立ち塞がるのだった。
空亡が召喚した無数の怪異を前に事態は絶望的に見えた。だが、そんな状況の中で戦艦ラストアークが到着、総司令であるグラトニスの指揮の元、ラストアーク騎士団による武力介入が開始されるのだった。そして、トネリコはノアによって捕縛され、審問官ヘキサグラムや光導騎士たちもアリステラたちに捕らえられるのだった。
一方、アーティファクト『幻想太陽』の元へと向かった空亡を追ってラムダ、ミナヅキとアヤメは追跡を開始。“日ノ天帝”の住む浮遊宮殿“天宮”を舞台に決戦へと挑む。アサガオの身体を人質にした空亡を前にラムダたちは決定打に欠いていたが、そこに遅れてやってきた戦艦ラストアークが到着する。
そして、戦艦ラストアークの主砲とラムダの持つ聖剣と魔剣を合体させた決戦兵器“星穿ちの聖剣”エスカトロジーを用いてアーティファクト『幻想太陽』を直接ぶった斬る荒業を見せて決着を着けてアサガオの身体を乗っ取っていた空亡を撃破、アサガオを無事に救出する事に成功するのだった。
【第六幕:傾国の夜叉姫】
「我は”傾国の夜叉姫“――――『四大』の“水”の継承者にして、夢現の“幻想”を終わらせる悪鬼也ッ!!」
――――ミナヅキ=ミナモ(第473話より)
水蓮を討伐し、イザヨイの反乱を食い止め、トネリコたちを捕縛し、全ての元凶だった『幻想太陽』を破壊した事で全てが終わったと思っていた。だが、そんなラムダの前に最後の敵“傾国の夜叉姫”ミナヅキが立ち塞がる。
水蓮から自身の正体が『“原初の魔人”のただの予備の肉体』である事を知らされたミナヅキは自身を“日ノ天帝”に仕える武者とは不釣り合いな存在だと認識、ラムダに討たれる事で自身の呪われた存在を抹消しようと図っていたのだ。それに勘付いたラムダはミナヅキを正気に戻すべく最後の決闘に挑み、ミナヅキの圧倒的な剣技を見事に捌き切ってミナヅキを下すことに成功するのだった。
そして、ラムダに諭されたミナヅキは鬼の因子を受け継ぐ空っぽな“夜叉”のままアサガオの側に居続けることを決心し、こうして幻想郷マホロバを巡る戦いの全てがようやく終結するのだった。
アーティファクト『幻想太陽』が破壊された事でアサガオは“日ノ天帝”の責務から解放されて自由を得て、ラムダの誘いでアサガオはラストアーク騎士団の一員として世界を見て回ることを決心。そして、ミナヅキとアヤメはラムダを新たな“主”として、アサガオの大切な“友だち”としてラムダたちの旅に再び同行することになるのだった――――。
■ 登場人物紹介
ミナヅキ=ミナモ
┗“日ノ天帝”アマノテルヒの護衛を務める武者の女性で、身の丈ほどの巨大な大太刀を操る。“日ノ天帝”に出逢う以前の記憶を失っていると言うが、その正体は『四大』の一人である水蓮が作った予備の身体であり、ミナヅキはその身体を一時的に預かる仮初の人格でしかない。ミナヅキ=ミナモは“日ノ天帝”が与えた名前である。
ミヤマ=アヤメ
┗ミナヅキと同じく“日ノ天帝”に仕える少女で、“天宮近衛番衆”という肩書きを持つくノ一。様々な忍術に長けた天才であり、とりわけ烏を使役する口寄せ忍術を得意とする。素顔を秘匿する“日ノ天帝”の素顔を知ることを許された数少ない人物。
アマノテルヒ=アサガオ
┗“夢現幻想郷”マホロバの象徴たる存在である少女で、アーティファクト『幻想太陽』を維持する魔力を捧げ続ける人柱の役割を担っている。素顔を白い布で覆い、白い着物(死に装束)を着込み幻想郷マホロバの安寧に奉仕しているが、内面では使命からの解放を願っている。誰も素顔を知らないことを利用して、素顔のまま城下町に飛び出してラムダと接触して“普通の少女”を満喫する。
ミカゲ=イザヨイ
┗幻想郷マホロバの政を取り仕切る“征異大将軍”の地位に就く男性で、ミカゲ幕府の第十六代将軍。“日ノ天帝”とアーティファクト『幻想太陽』の関係性を水蓮から聞かされた事で反乱を決意、自身が悪党になってでも幼いアサガオを救い出そうと奔走した。
水蓮/“水”
┗幻想郷マホロバを裏側から操る妖術師の女で、女神アーカーシャの権能を与えられた『四大』の一角“原初の魔人”。代を経る度に名と姿を変え、現在は遊郭街を取り仕切る太夫を名乗っている。
空亡
┗幻想郷マホロバの天候を支配する疑似太陽、アーティファクト『幻想太陽』に宿る人格であり、魔力を供給する“日ノ天帝”アサガオの意識を乗っ取って顕現した。怪異による幻想郷マホロバの支配を謳っているが、実際は自由に動ける身体を得ての解放を望んでいた。
■ 章のテーマ・問い
【意志の力】
┗幻想郷マホロバの戦いでラムダが目撃するのは、自らの信じるものの為に命を賭けて戦う者たちの“意志”の力である。“日ノ天帝”を解放するために反逆者の汚名を背負う覚悟をしたイザヨイ、自らの呪われた運命をアサガオに背負わせない為にラムダに討たれることを決意したミナヅキ、彼等はたった一人の少女の為に自らの命を賭けて戦った。
その姿を見たラムダは武士たちの力強い“意志”の力に感化されていく。それは主君に絶対の忠誠を誓う“剣”としての誇り。それを感じ取ったラムダは自らの“剣”をより鋭く研いでいき始めるのだった。
■ 伏線と仕掛け
【伏線1:ぬるま湯のような地獄】
┗トネリコは現状の世界に、女神アーカーシャの管理する世界には満足していない。されど、自ら世界を変えようとせず、ラムダたちが目指す新たな世界にも期待せず、ただ“現状維持”を続けることを決め込むのだった。たとえその世界が居心地の悪い『ぬるま湯のような地獄』であったとしても……。
【伏線2:女神アーカーシャの権能】
┗女神アーカーシャの権能の一部は切り分けられ、それぞれが『四大』へと与えられた。その事をノアは訝しむ。権能を切り分ければ“世界改編機”としての役割を発揮できなくなるからだ。果たして、女神アーカーシャは何を想って自らの権能を切り分けたのだろう……?
【伏線3:ラムダの魂の行方】
┗水蓮との戦いの最中、ラムダは死神の秘術で自らの“魂”を宝石に閉じ込める奇策で水蓮出し抜くことに成功する。しかし、その秘術は不可逆のものであり、ラムダは永遠に肉体と魂が分離する状態を受け入れざるを得なくなってしまった。
そんなラムダが選んだのは、自らの魂を封じ込めた宝石を首飾りに加工してノアへと贈るというもの。オリビアには“愛”の証として婚約指輪を、ノアには“忠義”の証として自らの魂を捧げる。それがラムダ=エンシェントが選んだ忠誠の形だった。
■ キャッチコピー
【大切な人の為に、君は夜叉になる】
┗たった一人の少女の為にイザヨイは“悪”に堕ちる決意をし、ミナヅキは“夜叉”として討たれることを決意した。命を賭けるほどの忠義を貫く為に。それはラムダが王立ダモクレス騎士団ではついぞ果たせなかった武士の、あるいは騎士の本懐である。
されど、ラムダは“死”は忠義の終着点ではないと声高に叫ぶ。そして、イザヨイとミナヅキの想いを通じて通じて、生きることの苦痛を肯定して、ラムダは果たして誰に忠義を捧げる決意をするのだろうか……?
 




