リコレクション07:獣国の公現祭《エピファネイア》
■ ストーリー概要
【第一幕:獣国ベスティア】
「さて……これでアタシたち『友達』だな♪」
――――ルリ=ヴァナルガンド(第182話より)
任務を終えサン・シルヴァーエ大森林から王都シェルス・ポエナへと帰還したラムダを待っていたのは、戦場で戦っている姉ツヴァイが魔王軍に捕縛され人質として獣国ベスティアへと送られたという報せだった。
事態を重くみた王立ダモクレス騎士団はラムダ率いる第十一師団を筆頭にした交渉部隊を獣国ベスティアへと派遣することを決定。王都へと補給に戻ってきていたウィンター=セブンスコード率いる第七師団、ノナ=メインクーン率いる第九師団と共にラムダたちは獣国ベスティアへと出立した。
獣国ベスティアとの国境沿いで迎えの使者を待つ最中、単独行動に出たラムダはある少女と出逢う。狼系亜人種の少女ルリ=ヴァナルガンド、人見知りしないルリはラムダとすぐに打ち解けあい友人関係になっていく。
そして、ラムダの人柄と実力を垣間見たルリはラムダにある依頼をするのだった。それは獣国ベスティアを脅かす脅威、“憤怒の魔王”イラを討伐して欲しいという内容だった。だが、その依頼をラムダが請け負った直後、ルリの正体が判明して二人の友情は呆気なく終わってしまう。
ルリ=ヴァナルガンドの正体、それは魔王グラトニスに絶対の忠誠を誓う魔王軍最高幹部【大罪】の一角であるということだった――――。
【第二幕:最悪のエンカウント】
「はじめまして、ラムダ=エンシェント。こうして直に逢う日を愉しみにしておったぞ……!」
――――ルクスリア=グラトニス(第189話より)
獣国ベスティアへと入国したラムダたちは国家元首である狼系獣人族の男、“狼王”ルル=フェンリルと謁見、ツヴァイの返還を交渉する。だが、狼王フェンリルはツヴァイ返還の見返りとして“アーティファクトの騎士”ラムダ=エンシェントの獣国ベスティアへの隷属を要求してきたのだった。
ラムダが人質交換の対象にされた事で交渉は暗礁に乗り上げ、王立ダモクレス騎士団はツヴァイ救出の案を模索する事になった。そんな中、友人を案じたルリと密会をしていたラムダはある人物と接触する事になる。それは魔王軍の総大将、“暴食の魔王”ルクスリア=グラトニスだった。
魔王グラトニスの圧倒的な実力の前に完封されたラムダは捕らえられてしまう。そして、魔王グラトニスはラムダに王立ダモクレス騎士団、国王ヴィンセントへの不信感を説いてラムダを魔王軍へと勧誘しようと画策したのだった。
魔王グラトニスの甘言と“魅了”の術式を前にラムダは屈しかけるが、その間際にノアが現れてラムダ救出に望む。そして、魔王グラトニスが自身の身柄を欲していることを悟ったノアは自分の身を盾に魔王グラトニスの動揺を誘い、彼女に猛毒の仕込まれた銃弾を見舞い撃退に成功するのだった。
【第三幕:獣狩りの夜】
「“暴食の魔王”グラトニス様の覇道に……栄光あれェェーーーーッ!!」
――――ガンドルフ=ヴォルクワーゲン(第199話より)
狼王フェンリルの家臣であるガル=ライラプスの提案で、王立ダモクレス騎士団は獣国ベスティアを脅かすモンスター“亡獣”の駆逐をする事を決めた。その見返りとしてツヴァイを奪還するためだ。
そして、“亡獣”討伐の為に小さな村へと赴いたラムダたちだったが魔王軍が強襲、王立ダモクレス騎士団は突然の戦闘に巻き込まれてしまった。
ラムダは友情と使命の狭間で苦しむルリと対峙、レティシアはガンドルフと対峙して辛くも勝利をもぎ取り、ラムダは残る最高幹部の一人である“竜人”の戦士ネビュラ=リンドヴルムを追い詰める。
だが、追い詰められたリンドヴルムはあろう事か手負いのガンドルフをラムダの攻撃から身を守る盾にして逃走、自身の死を悟ったガンドルフは捨て身の自爆を敢行し、至近距離で攻撃を受けたラムダは瀕死の重傷を負ってしまうのだった。
そして、ラムダが倒れた事を引き金にコレットは“憤怒”を発露させて暴走、周囲の“亡獣”を取り込んで自身が忘れ去っていた真の姿、“憤怒の魔王”イラとしての本性を顕わにするのだった――――。
【第四幕:獣国の公現祭】
「我が“魂”に刻まれた怒りの記憶……それがある限り妾は決して『獣』の在り方からは逃れられん……!! 故に、妾を『コレット』として連れ帰りたくば、妾の息の根を止めて亡骸だけを連れ帰るが良い!!」
――――“憤怒の魔王”イラ(第215話より)
忘れ去っていた“憤怒の魔王”としての本性を思い出し、コレットは『コレット=エピファネイア』としての“仮初めの仮面”を失ってしまう。そして、“憤怒の魔王”イラとして覚醒したコレットは狼王フェンリルたちを率い、獣国ベスティアに隠された秘宝、アーティファクト『黙示録の獣』の起動準備である大儀式『獣国の公現祭』へと臨み始める。
“憤怒の魔王”イラによって排除されながらも一命を取り留めたツヴァイの衝撃で獣国ベスティアの目的を知ったラムダたちは『黙示録の獣』の起動阻止、コレット奪還の為に狼王フェンリルたちとの対決に臨むのだった。
獣国ベスティアへと加勢したリンドヴルムは解放されたツヴァイの前に敗北、狼王フェンリルも兄の暴走を止めようとするルリとラムダのタッグの前に敗北するが、その隙を突いて“憤怒の魔王”イラは『黙示録の獣』との融合を果たしてしまう。
ラムダはコレット奪還の為に戦い、ルリの身を挺した犠牲と引き換えに“憤怒の魔王”イラを『黙示録の獣』から引き剥がす事に成功する。だが、その代償は重く、コレットは“憤怒の魔王”イラとして命を落としてしまうのだった。
【第五幕:“神殺しの剣”ラグナロク】
「我が命に従い目覚めよ! “神殺しの剣”【ラグナロク】!!」
――――ラムダ=エンシェント(第219話より)
コレットを失い慟哭するラムダを前に、瀕死の傷を負ってもなお暗躍するリンドヴルムは搭乗者の居なくなった『黙示録の獣』を乗っ取り“龍”へと昇華、魔王グラトニスへの下剋上を果たす為に暴走を開始し始めた。
その一方、生と死の狭間で彷徨っていたコレットは亡きシータやゼクスの亡霊との対話を果たし、ラムダに仕える為に『“憤怒の魔王”イラ』として“素顔”を『コレット=エピファネイア』という“仮面”を被って生きる事を決意、ラムダを害する者への純粋な“憤怒”を以って復活を果たすのだった。
そして、コレットが振るう“憤怒の焔”を用いてラムダは自身の魔剣“神殺しの剣”ラグナロクを精錬、その圧倒的火力で『黙示録の獣』ごとネビュラ=リンドヴルムを両断して撃破するのだった。
こうして、友人であるルリを失いながらもラムダはツヴァイとコレットの奪還に成功するのだったが、獣国ベスティアとの対立を恐れらたグランティアーゼ王国が失踪したルリを事件を仕組んだ黒幕だとして処理した事に言い知れぬ嫌悪感を抱くことになるのだった。
その裏で、暗躍していた魔王グラトニスは獣国ベスティアのもう一つの秘宝であるアーティファクト『“獣の心臓”ゼータドライヴ』を回収、魔王軍の切り札であるアーティファクト『メサイア』の起動に着手し始めるのだった――――。
■ 登場人物紹介
ルリ=ヴァナルガンド
┗魔王軍最高幹部【大罪】の一角である狼系亜人種の少女で、“狼王”ルル=フェンリルの異母妹にあたる人物。図らずもラムダと友人関係となってしまい、友人と魔王軍最高幹部としての使命の間で揺れ動く事になる。
ネビュラ=リンドヴルム
┗魔王軍最高幹部【大罪】の一角を担う“竜人”の男。狡猾な性格をしており、仲間を平然と盾にする非情さを持つ。魔王グラトニスには心酔しておらず、絶えず下剋上の機会を窺っている。
ガンドルフ=ヴォルクワーゲン
┗魔王軍の一大隊を率いる将軍を務める獅子系獣人族の男性。以前、ラムダと敵対した事でラムダの実力を把握しており、ラムダに対して戦士としての敬意を抱いている。同じ魔王軍にルドルフという名の息子がいる。
ルル=フェンリル
┗獣国ベスティアを統治する狼系獣人の青年で、ルリ=ヴァナルガンドの異母兄にあたる人物。実力で王が選出され、フェンリル自身も貧しい環境の生まれからか帝王学を学んでおらず素行は極めて悪い。基本的には孤高の一匹狼を自称するが、妹であるルリにはやや甘い。アーティファクト『黙示録の獣』の覚醒を目論んでいる。
ウィンター=セブンスコード
┗王立ダモクレス騎士団第七師団を率いる青年で、“銀の錬金術師”の異名を持つ。ツヴァイ=エンシェントに好意を抱いており、ツヴァイ非公式のファンクラブを設立している。
ノナ=メインクーン
┗王立ダモクレス騎士団第九師団を率いる猫系亜人種の女性で、“夜の帳”の異名を持つ。元は獣国ベスティアで盗賊をしていたが狼王フェンリルの腹心であるエスカフローネ=テウメッサに敗北して国を追われ、グランティアーゼ王国へとたどり着いた。
“憤怒の魔王”イラ
┗コレット=エピファネイアの正体であり、弱肉強食の掟が是とされる獣国ベスティアに生まれ落ちた“生まれながらの王”。獣国ベスティアに眠るアーティファクト『黙示録の獣』を目覚めさせ、自らの憤怒を以って女神アーカーシャの築いた世界を燃やし尽くそうと画策している。
■ 章のテーマ・問い
【憤怒】
┗七つの大罪に数えられる怒りの感情“憤怒”。第七章でラムダたちは様々な理不尽に対して怒りを発露させていく。仲間を犠牲にして保身を図ったリンドヴルムに対して、自身の野望の為に他者を利用する狼王フェンリルに対して、渦巻く政治に対して無力な自分自身に対して。
だが、誰かを想うからこそ湧いてくる“憤怒”は強い行動力にも繋がり、その他者を想う怒りこそがラムダを強くして、コレットを死の淵から蘇らせた。怒ること事態は“悪”ではない、肝心なのはその怒りをどう操るかである。怒りに自我を呑まれた時、その者は善も悪も判別できなくなってしまうだろう。
■ 伏線と仕掛け
【伏線1:ルリの行方】
┗最後の戦いで負傷したルリは失踪扱いとされた。だが実際にはグランティアーゼ王国の第一王女レイチェル、護衛ウィル=サジタリウス、レディ・キルマリアたちによって救出されていた。
そして、ルリを救出した一行の前に『ホープ』を名乗る謎の人物が現れ、第一王女レイチェルたちをある組織へと勧誘するのだった。
【伏線2:神殺しの魔剣ラグナロク】
┗獣国ベスティアでの戦いでラムダが新たに手にした魔剣ラグナロク。しかし、魔王グラトニスの副官である機械天使ルシファーは何故か事前に魔剣ラグナロクを『女神アーカーシャ解体に必要なアーティファクト』だと認識していた。この矛盾が示す事実とはいったい……?
【伏線3:ラムダに生えた“角”】
┗ガンドルフの自爆で重傷を負い、ラムダの胸元や左目付近には酷い戦傷の痕が残った。そして、魔剣ラグナロクの覚醒後、ラムダの左眉の上には極小の黒い“角”が自生し始めた。これはラムダが変質し始めている兆候だろうか……?
■ キャッチコピー
【その仮面もまた“君”である】
┗コレットは『コレット』という“理性”と『魔王イラ』としての“本能”の間で揺れ動く事になる。そして、ラムダと共に在りたいと願った彼女は最終的に『コレット』という理性を選び、“仮面”で本性を隠して生きる事を決定した。
それは本人が望むのであれば、後天的に作られた“人格の仮面”もまた『自己』である事を意味している。偽りの仮面は受け入れられるのなら、それもまた自分自身のもう一つのあり方になるだろう。