リコレクション06:刻の幻影
■ ストーリー概要
【第一幕:エルフたちの棲む森】
「始めまして、Mr.ラムダ=エンシェント、Ms.アウラ=アウリオン。私の名前はアスハ……エルフ族の摩天の地【カル・テンポリス】より来ました……ただのしがない【司書】に御座います……」
――――謎の少女アスハ(第147話より)
グランティアーゼ王国軍と魔王軍の全面衝突『アーティファクト戦争』が幕を上げ魔王軍と王立ダモクレス騎士団の対決が激化する中、ラムダ率いる第十一師団ベルヴェルグは特別任務を言い渡される。それはグランティアーゼ王国の北方に位置するエルフ族の領域にて発見されたアーティファクトを回収する事だった。
ラムダたち第十一師団は、“朱の魔女”ルチア=ヘキサグラム率いる第六師団、“死神”テレシア=デスサイズ率いる第十師団と合同で任務に就き、エルフ族の聖地であるサン・シルヴァーエ大森林へと赴く。
しかし、王立ダモクレス騎士団の動向は魔王軍にも把握されており、ラムダたちは魔王軍最高幹部【大罪】の二人、“冒涜”レイズ=ネクロヅマと“凌辱”エイダ=ストルマリアの襲撃を受けてしまう。
魔王軍の襲撃を受けたラムダたちを救ったのはハーフエルフの少女アスハ。エルフたちの住む街の図書館で働くアスハは迷宮のような大森林を抜け、ラムダたちを想像を絶する技術力で作られたサイバーパンク摩天楼、“幻影未来都市”カル・テンポリスへと案内するのだった。
【第二幕:“幻影未来都市”カル・テンポリス】
「もうひとり、討って欲しい敵がいます。かつて、静かに暮らして居たエルフ達を、“嫉妬の魔王”インヴィディア降臨の為に虐殺した堕ちた聖女――――トトリ=トリニティを……!!」
――――ディアナ=インヴィーズ(第147話より)
“幻影未来都市”カル・テンポリスへと到着したラムダたちは街の総督であるディアナ=インヴィーズと面会する。ルチアの祖母であるインヴィーズは王立ダモクレス騎士団の滞在及びアーティファクトの回収を承諾し、ある依頼をラムダたちにする。
それは三〇〇年前、大勢のエルフたちに魂と引き換えに顕現を目論み、今なお暗躍する“嫉妬の魔王”インヴィディアの完全討伐、そして“嫉妬の魔王”の為に大勢のエルフを虐殺した裏切り者、現王立ダモクレス騎士団第三師団長である“虐殺聖女”トトリ=トリニティの抹殺であった。
“幻影未来都市”カル・テンポリスの各エリアでエルフたちを襲撃している“嫉妬の魔王”インヴィディア捜索するべくラムダたちはアスハに案内されて街へと繰り出したが、市街地で彼等は再度魔王軍のネクロヅマとストルマリアの襲撃に遭う。
そんな折、“幻影未来都市”カル・テンポリスの結界を破り、今回の作戦には参加を命じられていない筈のトトリ=トリニティが現れる。かつて盃を交わしあったエルフ三姉妹であるトリニティとストルマリアは激突、同時に“嫉妬の魔王”インヴィディアも現れて市街地は損害を受け、多数の死傷者を出す大惨事を引き起こすのだった。
【第三幕:嫉妬の魔王】
「うふふっ……魔王としての完全覚醒――――あなたにはその生贄になってもらうわ、聖女オリビア……あの裏切り者のティオのように……!!」
――――“嫉妬の魔王”インヴィディア(第159話より)
トリニティ、ストルマリア、そしてディアナ=インヴィーズ三姉妹の因縁。それを知ったラムダはディアナ=インヴィーズが“嫉妬の魔王”インヴィディアではないかと勘繰ったが、彼女にはアリバイがあり、捜査は暗礁に乗り上げてしまった。
そんな中、先の戦いで足手まといの醜態を演じてしまったミリアリアはラムダへと縋りつく。本来の自分と“勇者”としての自分に折り合いをつけるために。そして、ミリアリアはかつての勇者であるエイダ=ストルマリアから『自分の聖剣を見つけなさい』という忠告を受け自らの使命、“勇者”と向き合う決心を固めていく。
その一方、ノアに対する強烈な嫉妬心に目を付けられたオリビアは“嫉妬の魔王”インヴィディアの襲撃を受けて瀕死の重傷を負ってしまい、ラムダは感情の赴くままに“嫉妬の魔王”インヴィディアへの報復を開始する。
そして、“嫉妬の魔王”インヴィディアを撃破したラムダはトドメを刺そうとしたが、行方を暗ましていたトリニティが現れてラムダを制止した。ラムダが倒したのは操られたルチア=ヘキサグラムであり、トリニティは彼女が“嫉妬の魔王”インヴィディアの身代わりにされようとしていた事を伝えたのだった。
【第四幕:彼岸の勇者ミリアリア】
「“再世の聖剣”【リーヴスラシル】――――抜刀ッ!!」
――――ミリアリア=リリーレッド(第167話より)
“幻影未来都市”カル・テンポリスの地下に埋もれた本来のエルフ族の里アマレの跡地にて、トリニティが語ったのは三〇〇年前の真相だった。
トリニティ、ストルマリア、インヴィーズ三姉妹はそれぞれ“聖女”“勇者”“時紡ぎの巫女”としての未来を約束されていた。しかし、前任の巫女アウラが存命であった為にインヴィーズだけは巫女になれず、姉妹に置いていかれた“嫉妬”から彼女は“嫉妬の魔王”インヴィディアへと変貌しようとしていた。
それを予期し、なおかつ当時の勇者ストルマリアでは“嫉妬の魔王”インヴィディアを倒せないと判断した女神アーカーシャは問題を先送りにする為に、聖女トリニティに“嫉妬の魔王”インヴィディアの生贄に選定されたエルフたちの虐殺を命じたのだった。そして、トリニティは同胞を虐殺した後、妹であるインヴィーズまで手に掛けて“嫉妬の魔王”インヴィディアの復活を未然に防いだのだった。
しかし、死んだ筈のインヴィーズは生きており、全焼した里は高層ビルが建ち並ぶ摩天楼に変貌している。その事実をトリニティから聞かされたラムダたちはインヴィーズが黒幕だと判断し、彼女を捕らえるべく行動を開始する。
その道中、アスハを迎えに行ったラムダはネクロヅマの襲撃に遭い、ミリアリアの前にはストルマリアが立ちはだかる。そして、ハイウェイでの高速チェイスの果てにラムダはネクロヅマを討ち取り、ミリアリアは“再世の聖剣”リーヴスラシルを手にストルマリアを撃破するのだった。
【第五幕:刻の幻影】
「もし、あなたが私との再会を望むのなら……あなたが歩む人生の先に……私は居ます……!」
――――アスハ=アウリオン(第177話より)
魔王軍最高幹部を倒したラムダたちは事件の黒幕であるディアナ=インヴィーズを追い詰め、事件の真相を解き明かす。それはアーティファクト『時の歯車“来”』を所有するインヴィーズが千年後の未来に存在するエルフたちの摩天楼“幻影未来都市”カル・テンポリスを召喚し、そこに住むエルフたちを生贄に“嫉妬の魔王”として復活を目論んでいるという事実だった。
機械の身体に憑依して嫉妬の焔をばら撒くインヴィーズだったが、ラムダへの“愛”から覚醒を果たし復活したオリビア、召喚された“幻影未来都市”カル・テンポリスの住人であるアスハの連携に阻まれ、ラムダによって機械の身体を壊されてしまう。
しかし、亡霊であるインヴィーズの暴走は止まらず、“幻影未来都市”カル・テンポリスの中央に立つ世界樹を丸ごと乗っ取ってラムダたちを、嫉妬の対象であるトリニティとストルマリアを完全に殺そうと暴走を開始する。
そして、嫉妬に灼かれて狂った妹を止めるべくトリニティとストルマリアは共闘し、身を呈して“嫉妬の魔王”インヴィディアの隙を作り出し、ラムダの必殺の一撃によって“嫉妬の魔王”インヴィディアは完全に倒されたのだった。トリニティとストルマリアともども。
こうして“嫉妬の魔王”インヴィディアは倒され、ラムダたちはアーティファクト『時の歯車“来”』の回収に成功したのだったが、それは同時にアスハというアーティファクトが召喚した“刻の幻影”との別れを意味していた。
“幻影未来都市”カル・テンポリスと共に消えゆくアスハはラムダに真実を伝える。それはアスハが遠い未来で生まれるラムダとアウラの娘であるという事実。そして、いつかの再会を約束し、アスハ=アウリオンはいつか父になるラムダの前から姿を消したのだった――――。
■ 登場人物紹介
トトリ=トリニティ
┗王立ダモクレス騎士団第三師団を率いるエルフ族の女性で、“虐殺聖女”の異名を持つ。元々はアーカーシャ教団に属する聖女だったが、三〇〇年前に同胞の虐殺を女神アーカーシャに命じられら事で女神の意向に疑問を抱いて離反した。身の丈ほどの大太刀“焔華”を操る騎士団でも随一の武闘派。
ルチア=ヘキサグラム
┗王立ダモクレス騎士団第六師団を率いるハーフエルフの少女で、“朱の魔女”の異名を持つ。才覚はあるが素行には問題があり、冒険者時代には数々の問題行動を起こしている。とある理由から愛着障害を患っており、父性を求めて様々な男性と性的な関係を持っている。今回の事件を契機にラムダへと惚れ込んでしまった。
テレシア=デスサイズ
┗王立ダモクレス騎士団第十師団を率いる喪服の女性で、“死神”の異名を持つ。“死の商人”メメント=デスサイズの愛娘であり、母が犯した罪の罪悪感からグランティアーゼ王国の騎士になり、母が苦しめたラムダの身を案じている。普段は陰気臭い性格を装っているが、本性は割りとサバサバしている。
エイダ=ストルマリア
┗魔王軍最高幹部【大罪】の一角を担うダークエルフの女性で、トリニティとは盃を分かち合った姉妹。かつては勇者であったが三〇〇年前の惨劇を止められなかった事で挫折、その時のショックから純エルフからダークエルフに失墜してしまった。その後、世俗から離れて隠れていたが、当時の魔王グラトニスに勧誘されて彼女の配下に下った。“因果断ちの聖槍”クー・フーリンを所持している。普段は妖艶な女性を演じているが、妹であるトリニティの前ではかつての凛とした姉の性格が浮き彫りになる。
ディアナ=インヴィーズ
┗“幻影未来都市”カル・テンポリスを管理するエルフ族の女性で、ルチア=ヘキサグラムの祖母。トリニティ、ストルマリアの妹であり、“嫉妬の魔王”インヴィディア。元々は“時紡ぎの巫女”としての未来を約束されていたが前任アウラ=アウリオンが使命を全うしていた為に役に就けず、その結果聖女になったトリニティや勇者になったストルマリアに嫉妬の念(劣等感)を抱くようになった。
アスハ=アウリオン
┗“幻影未来都市”カル・テンポリスの一画に建てられた『アウラ=アウリオン記念図書館』の司書を務めるハーフエルフの少女で、ラムダ=エンシェントとアウラ=アウリオンの“未来の娘”。母アウラから“嫉妬の魔王”インヴィディアの事件を聞かされており、事件解決の為に素性を隠して若き日の父や母に接触した。母譲りの時間魔法を得手とし、機械仕掛けの梟ミネルヴァを使役する。
■ 章のテーマ・問い
【嫉妬】
┗第六章ではディアナ=インヴィーズとオリビア=パルフェグラッセの“嫉妬”について描かれる。ディアナは自分だけが望んだ“理想”に手が届かなった事から二人の姉への嫉妬に狂い、オリビアは『ラムダの最愛』を奪ったノアへの嫉妬から彼女への殺意を増幅させていく。
子どもを産んでもなお姉妹への“嫉妬”はディアナの精神を蝕み、オリビアはノアに対する“我慢”という重圧で精神を圧迫されていく。そして、自身の感情に飲まれたディアナは“嫉妬の魔王”という破滅の存在へと堕落してしまい悲劇を起こしてしまった。
対するオリビアは自身の嫉妬心と向き合い、たとえラムダがノアに剣を捧げたとしても彼を支える事を決意し、その揺らがぬ“愛”を以って聖女としての片鱗を開花させ始めた。だが、オリビアは“嫉妬”を克服した訳ではなく、以前ノアへの憎悪は抱いたまま。それでもラムダの幸福を祈り、オリビアは未来の夫への献身に身を捧げるのだった。
ディアナとオリビアの嫉妬に共通するのは深い“愛”ゆえの昇華と堕落であり、愛情と憎悪という相反する二つの感情を結ぶ激情に対する『選択』が二人の運命を分岐させたのだった。
■ 伏線と仕掛け
【伏線1:不確定な未来】
┗アスハがラムダとアウラの娘だと判明した後、ノアはラムダにある警告をする。それはアスハの存在はラムダの未来を決定しない、彼女の存在はあくまでも『ラムダとアウラの間に娘が生まれる可能性がある』という示唆にかならないと。
未来を作るのは常に現在を生きる者の“決定”に委ねられる。ラムダがアスハとの再会を望み行動しない限り、アスハが生まれる可能性もまた存在しないのだと。
【伏線2:ティオ=ヘキサグラム】
┗ディアナ=インヴィーズの娘にして、ルチア=ヘキサグラムの母、それがティオ=ヘキサグラムである。三〇〇年前の惨劇を生き延びたティオはアーカーシャ教団によって保護され、後に聖女となった。その後、辺境の地で孤児院を営み、人間の男性との間にルチアを授かったが後にある事件に巻き込まれて死亡した。
母を失い、父の顔を知らないルチアは愛情に飢えて男性との乱れた関係に堕落していき、そして彼女は愛の渇望をラムダにも求めていくようになるのだった。父方の姓である『ヘキサグラム』をルチアは毛嫌いしている。
【伏線3:彼岸花の少女】
┗勇者としての責務に重圧を感じるミリアリアは時折、夢の中である少女を垣間見る。彼岸花に囲まれた朱い髪と朱い瞳の少女。彼女はいったい何者なのだろうか……?
■ キャッチコピー
【愛とはなにか?】
┗ラムダがアスハに感じる無自覚な“家族愛”、オリビアがラムダへと捧げる“無償の愛”、ディアナを狂わせた“姉妹愛”、ミリアリアがラムダに求めた“癒しの愛”、第六章では様々な『愛』が描かれる。
それは幸福を生み、同時に不幸すら生み出す複雑怪奇な感情。様々な『愛』を通じて、ラムダは誰かを愛する事の意味を識っていくのだった。




