リコレクション03:来たれ、汝甘き死の時よ
■ ストーリー概要
【序幕:ある騎士の死、ある騎士の目覚め】
「シータの想いに……その死に意味を持たすなら――――やるべき事は分かっているんだろ? あいつの“死”に報えるのは、その“死”を看取ったお前にしかできねぇ事なんだよ――――分かってんのか、ラムダ!」
――――ゼクス=エンシェント(ラムダの記憶⑤より)
幼少期、まだ11歳だったラムダには大切な人がいた。エンシェント家の屋敷でラムダの世話係をしていたメイドの女性シータ=カミング、剣術をラムダに教え、当初アハトと禁じられた情愛に溺れていた女性。
シータはラムダに誠心誠意尽くし、勢力拡大を狙う騎士の名家エンシェントと商家パルフェグラッセによって仕組まれたラムダとオリビアの婚姻にも尽力していた。そんな慌ただしくも穏やかな日々の中で、ラムダはある事件に巻き込まれる事になる。
ある冬の日、オリビアとシータと共にオトゥールで行なわれた式典に出席していたラムダは盗賊団の襲撃に遭う。盗賊団を壊滅の追い込んだ当主アハトへの報復の為、幼いラムダを誘拐しようとしたのだ。シータはラムダとオリビアを護る為に、自らの元王立ダモクレス騎士団の”騎士“だった過去を明かし、ラムダの盾となったのだった。
騎士然としたシータの姿にラムダは強い憧れを抱く。だが、ラムダを護るためにシータは致命傷を負ってしまい、最期にラムダに『立派な騎士になって』と自らが諦めてしまった”夢“を託して命を落としてしまうのだった。
まだ幼く無力だったラムダはただシータが息を引き取るのを看取る事しか出来なかった。これが幼き日のラムダが味わった最初の挫折であり、この経験から”喪失“に深い恐怖を覚えた彼は愛着を抱いたノアたちに執着を抱くようになるのだった。
【第一幕:来たれ、汝甘き死の時よ】
「…………忌々しい……その澄ました顔、その生意気な物言い、その古くせぇ正義感…………何もかも、シータ=カミングに瓜二つだ……! 今すぐ死ね、ラムダ=エンシェント!!」
――――グレイヴ=サーベラス(第60話より)
”迷宮都市“エルロルを離れたラムダたちが次に訪れたのはグランティアーゼ王国最大の歓楽街”享楽の都“アモーレム。そこでラムダたちは王国の第二王女レティシア=エトワール=グランティアーゼが王国を荒らす傭兵団に囚われたという衝撃の事態に遭遇するのだった。
第二王女レティシアが自らの身と引き換えに解放した女性たちの依頼を受けてラムダたちは第二王女救出を決意、傭兵団が根城にする”享楽の都“アモーレム郊外に建つ古城へと乗り込んだ。
そこでラムダを待ち受けていたのは、かつて王立ダモクレス騎士団に所属し、同士だったアハト=エンシェントに一生癒えぬ傷を負わせた裏切りの騎士グレイヴ=サーベラスだった。
王立騎士団の元騎士団長にして、荒くれの傭兵団を束ねるグレイヴの実力は圧倒的だった。しかし、ラムダは怯むことなくグレイヴの術式を見切って彼を撃破する事に成功した。しかし、古城にはすでに第二王女レティシアはおらず、敗北したグレイヴは雇い主である【死の商人】によって抹殺されてしまい、ラムダの救出作戦は暗礁に乗り上げるのだった。
【第二幕:世よ、汝の喜びはわが重荷なり】
「それでも……それでもラムダ様が全てを背負うなら……わたしも一緒に背負います……! だから……そんな哀しい眼をしないで……!」
――――オリビア=パルフェグラッセ(第66話より)
第二王女レティシアは“享楽の都”アモーレムの何処かに隠された闇市場“快楽園”メル・モル、その支配者である【死の商人】によって囚われている。ラムダたちが得られた情報はそれだけだった。
そこでラムダたちが考えついたのは“快楽園”メル・モルの市場から“享楽の都”アモーレムに卸されたとみられる奴隷を保護し、その人物から“快楽園”メル・モルの所在を聞き出そうというものだった。そして、とある娼館でラムダたちは思わぬ再会を果たす。彼等が目撃したのは、以前ラムダが撃破した魔王軍最高幹部リリエット=ルージュが娼婦として売られている光景だった。
両親を殺害した人間への憎悪からリリエットは【死の商人】との“契約”を以って強くなり、魔王軍最高幹部【大罪】の七人の内の一人へと登りつめた。しかし、ラムダに敗北したリリエットは“契約”に基づいて【死の商人】に身柄を抑えられ、奴隷へと身を窶していたのだった。
それを知ったラムダはリリエットに身柄の解放と引き換えに協力を打診、リリエットはラムダへの忠誠を約束して【死の商人】打倒の為に共闘を約束するのだった。そして、傭兵団壊滅時に救出した伯爵令嬢シャルロット=エシャロットの協力の元、ラムダたちは”快楽園“メル・モルへの潜入を試みるのだった。
【第三幕:わが望み、其は】
「おやおや……貴女が私に“命”を語るのですか? 人に造られた、ヒトならざるもの――――“人形”であるあなたが!」
――――“死の商人”メメント(第68話より)
グランティアーゼ王国最大の闇市場“快楽園”メル・モル。その所在は“享楽の都”アモーレムの裏側『鏡面世界』に築かれた場所だった。シャルロットの協力で“快楽園”メル・モルへと潜入したラムダたちを待ち構えていたのは【死の商人】を名乗る女メメント、そして彼女の護衛を務める黒騎士ゼクス=エンシェントだった。
第二王女レティシアの解放を要求するラムダたちに対しメメントは金銭を要求せず、あろう事かノアの身柄を要求し始める。アーティファクトの蒐集に没頭するメメントは“生きたアーティファクト”であるノアに狙いを定めていたのだ。そんなメメントの口から明かされたのは、ノアが『人間』ではない、人工的に造られた存在だと言う衝撃の事実だった。
【第四幕:すでにすべて終わりぬ】
「よく……見とけや……ラムダ……! “騎士”なんざ……こんな……もん…………だ……どこかで……無様に……死ぬ…………! その覚悟が……テメェに…………あるか……!?」
――――ゼクス=エンシェント(第74話より)
第二王女レティシアかノアか、“国家への忠誠”か“ノアという個人への忠誠”の選択をラムダは迫られた。だが、決断に迷う彼の態度に痺れを切らしたゼクスがメメントの制止を振り切ってラムダを強襲、“快楽園”メル・モルの闘技場でラムダとゼクスによる因縁の兄弟対決が始まってしまうのだった。
メメントが用意した人型兵器『機械天使』との連携、アーティファクトを用いた攻撃でラムダを追い詰めるゼクスだったが、アーティファクト使用による反動でゼクスは刻一刻と破滅に向かいつつあった。
そして、機械天使を倒されて追い詰められたゼクスは判断を誤り、自身の操るアーティファクトによる自滅を迎えてしまうのだった。だが、ゼクスの真の目的はラムダの打倒ではなかった。
ゼクスの真の目的は【死の商人】メメントの討伐。その為に彼女の懐に潜り込んだゼクスは機を窺っていたのだった。弟には負けたくないと願って戦ったが敗北したゼクスはラムダの強さを認め、メメント討伐の意志をラムダに託す事を決意する。そして、死に逝く彼はメメントを討伐する為の切り札をラムダへと譲渡、自身を完全に超えたラムダに亡きシータの真の仇であるメメントの打倒を託して息を引き取るのだった。
【第五幕:わが神の望みとあらば】
「紹介致しましょう……彼の名はラムダ=エンシェント!! あなたに……相応しき“死”を与える、記念すべき男の名ですわ!!」
――――シャルロット=エシャロット(第75話より)
メメントは不死の存在、女神アーカーシャによって設計された不滅の“死神”だった。ミリアリアたちの攻撃をものともしないメメントだったが、そんな彼女を追い詰めるある出来事が発生する。それは鏡面世界に隠された“快楽園”メル・モルに王立ダモクレス騎士団が突入するというもの。
現れたのは第三師団を率いるエルフの女騎士トトリ=トリニティ。ゼクス=エンシェントと結託したトリニティは“快楽園”メル・モルを包囲、メメントは拠点を制圧され、ラムダたちと決闘に臨まなくてはならない状態に陥ったのだった。
そして、ラムダはゼクスから託された対死神用の決戦術式【死への戒め】によってメメントを追い詰め、かつて盗賊団をけしかけてシータ=カミングを死に追いやったメメントに致命傷を与える事に成功するのだった。
【第六幕:たとい肉体がこの世にて】
「戦って、戦って、戦い抜いて…………きっと、生き抜いてね…………ラムダ…………わたしの……かわいい――――」
――――シータ=カミング(第81話より)
追い詰められたメメントはある切り札を取り出す。それはある遺跡から発掘した機械天使の一機、“大天使”アズラエル。四年前の事件の際に回収して結晶化した『シータ=カミング』の魂をアズラエルの動力に組み込み、メメントはラムダたちの打倒を画策する。
しかし、アズラエルは命令を聞かず暴走、メメントを始末して自身の本来の役割である『人間の殲滅』を実行に移そうとしていた。アズラエルの暴走を食い止めるべく、取り込まれたシータを救うためラムダは単身アズラエルへと挑み、“快楽園”メル・モル上空で決戦に臨むのだった。
心臓に埋め込んだアーティファクトによる、自身の性能を限界を超えて引き出す決戦術式【オーバードライヴ】を行使し、自壊すら厭わずにアズラエルへと肉迫したラムダはアズラエルの動力炉の破壊に成功する。だが、ラムダへの敗北を恐れたアズラエルは自爆を図り、ラムダを道連れにしようとしていた。
そんな折、結晶化されて封じられていたシータ=カミングの意識が復活し、彼女はアズラエルの制御を奪い取ってラムダを守り抜く。そして、ラムダと自身の本当の関係、血を分けた肉親である事を明かしつつシータ=カミングはアズラエルの自爆に巻き込まれて消えていくのだった。
こうして、グランティアーゼ王国最大の悪党であるメメントを討伐する事に成功したラムダは英雄と称えられ、命を賭けて戦いに貢献したリリエットはミリアリアから故郷ラジアータ村を滅ぼした“罪”を『生きて償え』と諭され、ラムダに仕える形で『ベルヴェルグ』に加入するのだった。
そして、ラムダに騎士の理想を見た第二王女レティシアも半ば強引に『ベルヴェルグ』へと加入し、ラムダたちはメメントがアーティファクトを発掘したダンジョン、“逆光時間神殿”ヴェニ・クラスに向けて出発するのだった。
■ 登場人物紹介
レティシア=エトワール=グランティアーゼ
┗グランティアーゼ王国の第二王女で、女神アーカーシャから“姫騎士”の職業を与えられた少女。正義感が強く、『神授の儀』を終えるなり王都から出奔、各地の悪党を成敗して回っている。ラムダの兄、聖騎士アインスの弟子でもある。
シャルロット=エシャロット
┗傭兵団に囚われていた伯爵令嬢で、ラムダの従兄弟にあたる人物。“快楽園”に新しいメイドを買い付けに来た際に傭兵団に拉致監禁されてしまった。
ゼクス=エンシェント
┗アハト=エンシェント辺境伯の第三子で、ラムダの実の兄。兄アインス、姉ツヴァイに劣る自身の実力にコンプレックスを、急激な成長を見せるラムダに焦燥感を抱いている。シータ=カミングを敬愛しており、盗賊団を差し向けて彼女を死に追いやった【死の商人】に強い復讐心を抱いている。
“死の商人”メメント
┗本名メメント=デスサイズ。グランティアーゼ王国の闇市場を牛耳る人物で、かつて女神アーカーシャによって設計された死者の魂魄を慰める役目を負った死神。人間との恋に落ち、離別を経て狂った哀しき女。
シータ=カミング
┗幼少期のラムダの教育係を務めた女性で、ラムダの真の母親。かつて王立ダモクレス騎士団に所属していたが、グレイヴ=サーベラスの裏切りに遭い拉致され、【死の商人】によって再起不能なまでに精神を破壊されてエンシェント家に売り飛ばされた。その後、当主アハトとの乱れた関係の末にラムダを身籠り、体裁を気にするアハトによって関係性を剥奪され教育係に任じられた。
■ 章のテーマ・問い
【死を想え/メメント・モリ】
┗シータ=カミング、ゼクス=エンシェントの“死”を通してラムダは思い悩む事になり、行き急ぐラムダを現世に引き止めるべくオリビアは彼に愛をささやく。常に“死”と隣り合わせの世界で生きるラムダはオリビアとの口付けを通じて『生きる意味』を知り、シータたちの“死”に意味を持たせるべく戦いへと身を投じていく。
■ 伏線と仕掛け
【伏線1:機械天使ティタノマキナ】
┗古代文明の天才ラストアーク博士が開発した人型戦闘兵器。量産機である“天使”、固有の名前を持つカスタム機“大天使”、最高峰のスペックを誇る唯一機“熾天使”で構成されている。
【伏線2:人間ならざる者】
┗メメントによって明かされたノアの秘密。それは彼女が人工的に設計された人造人間だと言うことだった。母親の子宮ではなく、無機質なシリンダーの中で培養されたデザインベイビー。ノアの他に『ホープ』『トネリコ』『アリア』の三体が設計されたと記録には残されているが、古代文明滅亡時には全員が消息不明となった。
【伏線3:リリエットの復讐】
┗リリエット=ルージュは幼い頃、人間によって両親を殺害され、以来『人間』に対して強い憎悪を抱くようになった。その結果、彼女はラジアータ村の人間を皆殺しにするという鬼畜の所業に走ったのだった。リリエットの両親を殺害した者の名は『ヴァンヘルシング』という。
【伏線4:悪を討伐した対価】
┗メメントを討伐し、シータとゼクスの仇を討ったラムダ。しかし、【死の商人】の影響力はグランティアーゼ王国に深く侵食しており、王国の貴族には多数の顧客が混じっていた。その為、【死の商人】を殺めたラムダは彼女の顧客たちから恨みを買ってしまう事になるのだった。
【伏線5:ラムダの抱く恐怖】
┗ラムダは幼少期のシータの死に酷いトラウマを抱いており、自身の愛する人々の死を極端に恐れるようになってしまった。故にラムダは喪失を恐れてノアたちを常に自身の側に侍らせてしまい、自分の命を粗末に扱ってでも仲間を守ろうと行動してしまうようになるのだった。
【伏線6:自壊する魂】
┗自身の心臓を活性化させて魔力供給量・身体能力の過剰活性を促す戦闘術式『オーバードライヴ』。本来は類稀なる才能、絶え間なき研鑽を経た選ばれし強者のみが体得できる奥義だが、ラムダは心臓に埋め込んだアーティファクトによって、この『オーバードライヴ』を擬似的に発動できる。しかし、その代償は大きく、発動の度に過剰な魔力供給に耐えれずにラムダの肉体は自壊、生命力(魂)の摩耗を起こしている。遠からず、彼は自身の寿命を全て薪に焚べてしまうだろう……。
■ キャッチコピー
【いずれは誰もが死ぬ。その事を忘れるな】
┗命ある以上、如何なる生物も“死”からは逃れられない。故にラムダたちは今を精一杯生きようと決意する。それこそが『死を想え』という戒めの言葉である。




