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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十五章:ラムダ=エンシェントの復讐

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幕間:神の観る夢


「やれやれ、トネリコのせいでひどい目に遭った」

「おい、ボクのせいじゃないだろ、タウロス……!」



 ――――帝都ゲヘナ郊外の荒野にて。夜風が吹き荒ぶ荒野をトネリコ=アルカンシェル、タウロスⅠⅤ(フォー)、そして黒い祭服キャソックを着たもう一人の男がトボトボと歩いていた。

 ラストアーク騎士団によるスペルビア討伐が達成された時点でトネリコとタウロスⅠⅤ(フォー)は身を隠し、戦艦ラストアークが帝都ゲヘナから去ったタイミングで帝都ゲヘナから立ち去っていた。



「さっさとアーティファクトだけ拝借して帝国軍から離脱すれば良かったんだ。それをノア=ラストアーク憎しで居残り続けるから……」


「あのねぇ……元はと言えば君の独断専行のせいなんだけど、タウロス。大人しくスペルビアの指示に従っているフリさえしとけば、ボクたちが無駄な手間を負う必要は無かったのに……」


「僕は君の為を思ってだな……」


「まぁまぁ、過ぎた事で言い争いしても無駄ですよぉ、トネリコさんにタウロスさん。問題はこれからどうするかではありませんかね? クッククク……」


「お前の意見は聞いてないぞ、ヘキサグラム」



 トネリコとタウロスⅠⅤ(フォー)の喧嘩を後方で眺め、審問官リヒター=ヘキサグラムは意地悪そうな笑みを浮かべながら二人をたしなめた。しかしトネリコたちは知っている。リヒター=ヘキサグラムという男は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に邪険に扱っていた。



「そもそも君、なにをしに帝都に来てたんだい?」


「それは勿論……スペルビアが“禁忌”を持ち出し、“海洋自由都市バル・リベルタス”で使用した理由を訊くためですよ。他ならぬ教皇ヴェーダ様のご命令でね……」


「君が派遣された理由はそれだけかい?」


「ええ、誠に遺憾な事ですがね……。教皇ヴェーダ様は……ひいては女神アーカーシャ様すら、スペルビアの“恐怖”に怯える民衆には関心を向けませんでした。気にしていたのは大量破壊兵器の存在のみ……」


「そうかい。それは困った事だね……」


「おい、ヘキサグラム、トネリコ……そのもの言いは教皇ヴェーダへの、アーカーシャ様への“反抗”のつもりか? それ以上の発言はアーカーシャ教団への反逆の意志と見なさなければならないぞ」


「タウロス……」


「おおっと、これは失礼しましたぁ! 私とした事が少々お喋りが過ぎたようですねぇ。いえいえ、もちろんアーカーシャ教団のご意向を疑うつもりはありませんとも……それが()()()()()だと言うのなら、私はただ従うのみですとも……」



 今回のスペルビアの一件にて、アーカーシャ教団は静観を貫いていた。唯一の行動は審問官ヘキサグラムをスペルビアの元に派遣したのみ。それもただスペルビアに核兵器使用の意図を問い質すもの。

 このあまりにも消極的な行動が災いし、第一皇女ディクシアはアーカーシャ教団の支配体制に異を唱える事になった。トネリコたちが秘密裏に帝都ゲヘナから去ったのもこれが理由だ。



「しかし、“現実”は直視した方が賢明ですよぉ、タウロスさん。今やラストアーク騎士団はアーカーシャ教団の“脅威”足りうる組織へと変貌した。グランティアーゼ王国の王族、アロガンティア帝国の皇族、天空大陸の四大貴族、“幻想郷マホロバ”の征異大将軍、獣国の狼王、“暴食の魔王”グラトニス……大国のトップたちがラストアーク騎士団を支持している」


「だからなんだ?」


「最も問題なのは……アーカーシャ教団の守護者である筈の『光導十二聖座アカシック・ナイツ』からもラストアーク騎士団への協力者が現れたこと。リブラⅠⅩ(ナイン)、サジタリウスⅩⅠ(イレブン)……お二人の離反はアーカーシャ教団の権威を揺るがす事態だ」


「それは……そうだな。いずれ二人は……」


「ずいぶんとラストアーク騎士団を持ち上げるじゃないか、ヘキサグラム? その言い分だと、反体制派であるラストアーク騎士団にも一定の正統性があるようにボクには聞こえるけど?」


「いえいえ、とんでもない……クッククク……!」


「ラストアーク騎士団は所詮、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。女神アーカーシャが組んだ“社会構想システム”に順応出来なかった負け犬どもが吠えているだけ、連中の戯れ言にいちいち付き合っていたら『世界』は無茶苦茶になってしまう」


「おやおや、冷たいですねぇ、トネリコさん」


「世界とは『最大多数の最大幸福』を実現しなければならない……つまりは“多数派マジョリティ”の為の世界だ。ラストアーク騎士団のような“少数派マイノリティ”の為に在る世界じゃないのさ」


「その“少数派マイノリティ”には……貴女も含まれているんじゃないですか、トネリコ=アルカンシェルさん?」


「そうだよ……ボクの望む『世界』は此処には無い。けど、今さらボクが声をあげても失われたものは帰ってこない。だから……ボク()()()()『この世界』に順応しようとしているのさ……」



 アーカーシャ教団の“切り捨て”とも思える対応にアロガンティア帝国は教団からの離反を決定した。世界一の軍事大国の離反は波紋を呼び、帝国が支持するラストアーク騎士団の正統性が各国に普及していくだろう。それを審問官ヘキサグラムは懸念していた。

 しかし、トネリコは審問官ヘキサグラムの意見を一蹴した。ラストアーク騎士団は“少数派”の集まりであって、アーカーシャ教団が管理する“多数派”の『世界』に許容される存在ではないのだと。



 そして、そんなトネリコを支持するように――――


「わたしもその意見に賛同します。トネリコ=アルカンシェルさん、貴女の持つ思想は素晴らしいですね」


 ――――とある人物が声を掛けてきた。



 背後から、それまで歩いてきた筈の道から聞こえたのはハープを奏でたような美しい少女の声。それを聞いて振り向いたトネリコたちが振り返った先に居たのは、風の魔法で浮遊する白い座具に座った少女だった。

 白い法衣を纏い、目元を仮面バイザーで隠し、美しい白髪を夜風にたなびかせ、穏和な笑みを浮かべてトネリコたちを見つめていたのはアーカーシャ教団に属する騎士。彼女の姿を見た瞬間、審問官ヘキサグラムとタウロスⅠⅤ(フォー)は驚いた表情を見せた。



「まさか……貴女が大聖堂から出てくるとは思いませんでした。どういう風の吹き回しですか……ヴァルゴⅤⅢ(エイト)さん?」


「ヴァルゴⅤⅢ(エイト)……『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の……」


「お久しぶりですね、リヒター=ヘキサグラムさん、そしてタウロスさん。しばらく大聖堂に帰ってこないものですから心配していましたよ、ふふふっ……」



 少女の名はヴァルゴⅤⅢ(エイト)――――アーカーシャ教団の守護騎士『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の一角を担う存在。

 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)は社交辞令のような挨拶をして、乙女のような柔らかな笑みをただ浮かべている。



「それでヴァルゴさん、なんの用でしょうか?」


「はい、単刀直入にお話ししますね。リヒター=ヘキサグラム、タウロスⅠⅤ(フォー)、トネリコ=アルカンシェル……教皇ヴェーダ様よりデア・ウテルス大聖堂への帰還命令が下されました」


「僕たちに大聖堂に戻れと……!?」


「はい。それが女神アーカーシャ様のご意向です。反証の余地は無く、それが最善の選択です。教皇ヴェーダ様は皆様のこれまでの活躍の詳細を知りたがっています」



 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)が審問官ヘキサグラムたちに伝えたのはアーカーシャ教団の総本山であるデア・ウテルス大聖堂への帰投命令だった。

 発令された命令を“女神アーカーシャの意向”だと言い切り、ヴァルゴⅤⅢ(エイト)はそれ以上の事語らない。タウロスⅠⅤ(フォー)たちが従うのは()()()()()だと認識している。



「それで……本題はそれだけではないでしょう?」


「はい……流石はリヒター=ヘキサグラムさん、鋭いですね。実は、教皇ヴェーダ様に……女神アーカーシャ様から“神託”が下されました。よって現在、旧グランティアーゼ領の防衛にあたっているアリエス(スリー)、レオⅤⅡ(セブン)を除く全ての『光導十二聖座アカシック・ナイツ』を招集しています」


「では……貴女を含めた“三強”も?」


「はい、もちろんです。アクエリアス(ワン)、カプリコーンⅩⅡ(トゥエルブ)も今回の“降臨”に加わります。あなたにもぜひ参加して欲しいと、教皇ヴェーダ様は希望されていますよ……トネリコ=アルカンシェルさん」



 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)が明かしたのは“降臨”と呼ばれる謎の儀式がデア・ウテルス大聖堂で行われようとしている事実だった。故にヴァルゴⅤⅢ(エイト)はタウロスⅠⅤ(フォー)たちに帰投を命じ、トネリコに大聖堂へ来るように促したのだった。



「妹のことは良いのかい、ヴァルゴ?」


「妹……ああ、リブラのことですか? ふふっ……()()()()()()ですよ、教団を裏切った反逆者の事なんて。女神アーカーシャ様の慈悲に従わないのなら、リブラに構う価値なんてありません」


「おやおや……爽やかな笑顔で恐ろしい事を言いますね」


「ええ……だって、もうすぐ我々は救われますもの。もうじき……この『醜い世界』に“光”がもたらされる。我等アーカーシャ教団が……女神アーカーシャ様が思い描いた“理想”が遂に結実するのですから。()()()()()()()()()()()()()()


「だから教団はアロガンティア帝国には不干渉を貫いたのですか、ヴァルゴさん?」


「ええ、その通り……“降臨”さえ果たされればスペルビアの支配なんて“些事”ですので。優先すべきは“神”の降臨のみ。それが成されれば人類は救済されるのですから……」


「なにをするつもりなんだい……君たちは?」



 妹であるリブラⅠⅩ(ナイン)には関心は示さず、肉親をほがらかな笑みで無情に切り捨てて、ヴァルゴⅤⅢ(エイト)は嬉々として()()()()()()()()()()に胸を躍らせていた。

 両腕を目一杯に広げ、まるで何かを受け入れるような姿勢をとってヴァルゴⅤⅢ(エイト)は歓喜の声を上げる。一見すれば美しき“乙女”の微笑ましい光景だ。だが、ヴァルゴⅤⅢ(エイト)の深層心理が僅かに孕んだ“狂気”に、トネリコは眉をひそめていた。



「もうじき……もうじき、女神アーカーシャ様が()()()()()を地上に遣わしてくださる。女神アーカーシャ様の“器”たる教皇でも、世界のいしずえになった『四大』たちでもない……女神アーカーシャ様が産んだ真の後継者が……!」


「まさか……その名は……!」


「完全なる生命として設計され、完璧な存在として生まれ、不完全な我等を導いてくださる……人間ヒトの完成形にして至高の神、“現人神あらひとがみ”。その名はアートマン! 女神アーカーシャ様が生み出した次代の“神”が……いよいよ『世界』に降臨される日が来たのです」



 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)から語られたのは、女神アーカーシャの子どもたる新たな“神”の顕現だった。それはスペルビアとなった『ラムダ=エンシェント』に耐え難い敗北を与えた“神”の名前だった。



「もうじきやって来るのです……全ての人間が“平等”に昇華する日が! そして旧き時代は終わりを告げ、新たなる“神”の名の下に……新たなる“秩序”

が産声をあげる。そう、間もなく訪れるのです……一片の不完全も存在しない『新世界』が!」



 ラストアーク騎士団の発足を以って“希望”を再起させ、“海洋自由都市”バル・リベルタスでの出逢いを以って“責任”を背負い、“幻想郷”マホロバでの戦いを経て“意志”を知り、“天空大陸”ルイナ・テグミーネでの離別を経て意志の“継承”を知り、“冥底幻界魔境”マルム・カイルムでの継承戦を経て“悪”を知り、“悪性機神帝国”アロガンティアでの戦いでの自己超克を以って“完成”へと至った。


 そんなラムダを待ち受けるのは世界の“不条理”。アーカーシャという“AI(人工知能)”の女神システムが観る『夢』が、ラムダ=エンシェントの前に立ち塞がろうとしていたのだった。


 それは新時代の夜明けか、それとも世界の破滅か。



――第三部:方舟大戦編『最後の希望(ラストアーク)』〜了。


 最終第四部:贖罪と再起の物語『機械から生まれた神デウス・エクス・マキナ』へと続く――

これにて第三部完結です!

お付き合いいただき、本当にありがとうございました!



次回からは第四部――ではなく、その前に!


物語が膨大になってきたため、各章を簡単に振り返る“リコレクションシリーズ”をお届けします。

登場人物の軌跡や、気になる伏線の整理など、『忘れじのデウス・エクス・マキナ』をより楽しんでいただける読み返し企画です。


ぜひ第四部への期待を込めてお読みいただければ嬉しいです。



面白かったシーン、気になる伏線、キャラクターの心情など、「これが刺さった!」「あの展開は意外だった!」「この伏線が気になる!」などなど皆さんの感想もぜひ気軽にお寄せください。


それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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