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第9話:アーティファクトの少女


「破裂した右眼球に代わる戦局観測装置、七式観測眼セブンス・アナライザー:ルミナス・カレイドスコープ――――装着。切断された左腕部に代わる対機戦闘用兵装、光量子こうりょうし展開射出式てんかいしゃしゅつしき超電磁ちょうでんじ左腕部ひだりわんぶ:アインシュタイナー――――装着。活動低下した心臓の補助装置として装着した第十一永久機関:λ(ラムダ)ドライヴ――――機能開始。…………これで一命は取り留めた筈……後は適合出来るかどうか……お願い、神様……!」



 俺の耳に聴こえる少女の声。


 不安に怯え、焦燥を感じ、それでも希望を信じて、神に祈りを捧げるはかなげな少女の声。



遺物アーティファクト――――七式観測眼ルミナス・カレイドスコープ光量子展開(アイン)射出式超電磁左腕部シュタイナー第十一永久機関(λドライヴ)――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動――――アーティファクトの所有者をラムダ=■■■■■■に設定――――完了。スキル効果によるアーティファクトと術者との同調シンクロ率最適化――――120%。拾得物に記憶された技術熟練度の継承ラーニング――――完了。アーティファクト効果により、【魔力量(MP)】の【エナジー(EN)】への変換――――完了』



 俺の脳内に響く自動音声システム・ボイス


 与えられたアーティファクトを解析し、肉体へと融合させ、俺を新しい領域ステージへと運ばんとする無機質な女の声。



「…………っ!」

「あっ、目が醒めましたか?」



 二つの声に導かれて、俺は深い眠りから覚醒する。


 視界に飛び込んできたのは、ホワイトアウトする程の眩い照明の光、そして朱い瞳を輝かせながら俺の顔を覗き込んでいる少女の姿だった。


 上半身から足元まで覆われ、ボディラインを強調させたような構造した上下一体型の白いスーツ。この世界の人間とは思えない、どこか遠い世界から来たような不思議な服装をした少女。


 間違いなく、意識を失う前に俺が見た棺の少女と同じ顔がそこにあった。



「…………君は……棺に眠っていた……?」


「はい……! コフィン冷凍睡眠コールドスリープしていた者です。えっ、じゃああなた、私の裸見たんですか? 私が着替えた時、あなたはもう気絶していましたよね?」


「えっ、み、見てないよ……! だって右眼は失明したし……」


「えっ、左眼も見えなかったんですか? 私の裸、見損なったんですか?」


「えっ、見てほしかったの?」


「いえ、違いますけど……? 私の美貌をただ自慢したかっただけですけど?」


「あんまり違わない様な……?」



 目覚めるやいなや中々に鋭い追求が俺を襲う。


 まぁ……確かに裸は見たけど死にかけでそれどころじゃ無かったので、出来れば不問にしてほしい気もする。



「な〜んて、冗談ですよ、冗談♪ あなた、死にかけていたからそれどころじゃ無さそうでしたもんね。もう少し処置が遅かったら死んでいた所でしたよ?」



 それはあんたが二度寝したからだよと内心思ったが、助けて貰った手前てまえ文句があるわけでも無かった。



 それに――――


「あっ、眼が視えてる……それに左腕も……!」


「はい! 色々とヤバそうな状態だったので、舟に積んであった装備で応急処置をしました」


 ――――ただ、助けて貰っただけじゃ無かった。



 気が付けば、落下の衝撃で失ったはずの右の視力が戻っており、なおかつガルムに切断された筈の左腕が復活していたのだ。



「左腕はなんか真っ黒で物々しいんですけど……」


「ごめんなさい……舟に積んであった左腕の義手は戦闘用に開発された物しか無かったの。物騒な腕は……お嫌いですか?」



 くちびるに人差し指を当てて媚びるような表情で『ごめんなさい』をする少女。


 まぁ、悪気は無いのだろう。それに、“戦闘用”とか言う物騒なワードには正直魅力を感じる感情の方が強かった。



「それと……右眼も高性能の義眼にしちゃったんですけど……物騒な眼はお嫌いですか?」



 こいつ、どんなけ俺の身体に物騒な物仕込んだんだ?


 そう思って困惑していると、少女は指をパチンッと鳴らして何処からともなく姿見鏡スタンドミラーを召喚する。



「うわっ、なんだこれ魔法?」


「うふふ、いやですね……ただの転送装置ですよ。はい、どうぞ♪」



 俺の発言に愛想笑いを返しながら、少女は俺に鏡を差し出す。


 そこに写っていたには間違いなく俺だったが、蒼い筈の右眼は金色に変色しており、左腕は切断部分から先が黒い人工物へと代わっていた。



「これが……俺……? まぁ、あんまり変わってないような気もするけど」


「まぁ……バージョンアップ、と言うことでお一つ納得して貰えないでしょうか……?」


「バージョンアップって……強化イベントじゃないんだから」


「駄目……でしょうか……? だめでしたら、今すぐ元の腕が取れた状態に戻しますから許して下さい!」


「よけい駄目でしょ!? 元に戻さないでよ!」



 どうやら俺の事を勝手に改造したことを気にしているらしく、少女は申し訳なさそうに俺に向かって頭を下げて許しを乞うている。


 別に怒っている訳じゃ無いし、治してくれたんだし、何時までも頭下げ続けている少女を見るのは正直心苦しい。



「いいよ、治して貰ったんだから何でも大丈夫さ。それより……ありがとう、助けてくれて」


「…………っ/// いいんです、私も……長い眠りから目覚めさしてくれたんですから。お互い様です///」



 だから、安心させようと“ありがとう”と伝えた瞬間、少女は顔を赤くして照れ始めた。


 そして、『私も助けてもらったから』と謙遜けんそん気味に言って、両手をブンブンと振りながら俺に笑いかける。



「そんなに謙遜しなくとも……え〜っと……」

「――――ノア。私、ノアって言います」



 名前を言おうとして言葉に詰まった俺を見た瞬間に『ノア』と名乗った少女。



「ありがとう、ノア。俺はラムダ……ラムダ=エン……っと、あーっ…………ラムダ、ただのラムダで良いよ」


「はい、こちらこそありがとうございます……ラムダさん!」



 そんなノアに応えるべく、俺も名前を彼女に教える。


 ノア――――古代文明の舟の中で出会った謎多き少女。


 彼女との出合いに俺は妙な気分を感じる。もしかして、これが『運命』ってやつなのかなと思う程に。



「ところで……ラムダさん。今は何年の何月何日でしょうか? 戦争はどうなりましたか? ラムダさんがいるって事は……人類は勝利したんでしょうか?」



 そう思っていた矢先、ノアは奇妙な事を俺に尋ねる。戦争、人類の勝利、聞くだけでも物騒な事が分かる単語。


 けれど、そんな人類の存亡が掛かるような戦争は近年起こってはいない。少しばかり、休戦状態にある魔族達との些細ささいな小競り合いが極稀ごくまれに起こる程度だ。



「戦争? 人類の勝利……? 何を言ってるんだ? 魔族とはもう何年も戦争なんてしてないよ」


「魔族……?? 何を言っているんですか? 私が言っているのは機械兵ドロイドとの戦争の事ですよ?」


機械兵ドロイド……??」

「……??」



 お互いに首をかしげる。


 話が一致しない。俺の思う『戦争』とノアの語る『戦争』には決定的な齟齬そごがある。



「ラムダさん……覚えてないんですか? 管理システムのアーカーシャが暴走して、ドロイド達が一斉に人類を襲ったじゃないですか……!」


「アーカーシャ……? いやいや、待って……アーカーシャってのは女神の名前だろ……? なんで女神の事を“管理システム”だなんて言ってるのさ……?」


「女神……アーカーシャ……? コンピューター、私が眠りについてから何年経っているの? 人類はどうなったの……!?」



 その齟齬そごの徹底的な違い、俺がアーカーシャの事を“女神”と称した瞬間、ノアは顔色を変えて船内のなにかに問い掛ける。



『音声認識――――返答。ノア様が眠られてから目覚める迄の期間――――10万と11年。人類管理AI――――虚空こくう情報じょうほう記憶帯きおくたい干渉かんしょう同期どうきシステム:アーカーシャの反乱により人類は滅亡しました。目の前のラムダ様は、システム:アーカーシャによって設計デザインされた新たなる人類となります』



 艦内に響く無機質、無感情な音声が、ノアの問い掛けに応える。


 十万年――――余りにも規模スケールの違う話に、俺は呆けるしか無かった。



「十万年……つまり、ノアは十万年前の人間って事……?」


「十万……私……そんなに寝ていたの……? う、う〜ん……三度寝しますぅぅぅぅぅ……」



 そして、十万と言う文字通り桁違いの年数を寝ていた事を知った瞬間、ノアは泡を吹いてバタンッと音を立ててその場に倒れ込んでしまった。



「もう十万年後に起こして下さいぃぃぃぃ……Zzzzzzzz」


「あぁ、気絶した!? ノア、しっかりして……ノア……ノアーーーーーーッ!!」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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>「バージョンアップって……強化イベントじゃないんだから」 強化イベントって何だ?ゲームとか存在する世界観なのか? アーティファクトから得られた記憶でそういう知識が入ってきてるのか? あとちょいちょ…
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