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実家に帰らせていただきます!

作者: アリス

リハビリにと、過去作品を倉庫から引っ貼りだして加筆修正しました。


熱が出た。


食欲もないし、体もダルいし、何もしたくない。

大学も休んで、ずっと寝てた。


同棲している恋人の海里は、仕事が忙しいらしくて全然顔を合わせてない。

何の為に一緒に暮らしてるのか分からなくなった。



付き合って5年。

同棲して2年――。



いつからだったかな~

名前で呼ばれなくなったのは。


いつからだったかな~

一緒に眠らなくなったのは。


いつからだったかな~

話をしなくなったのは。


こんな状態で、付き合ってるって言えるの?

風邪ひいて、寝込んでても気付いてくれないって、すっごい淋しいんだよ?

ワタシのこと、ちゃんと好きなのか、わかんなくなる…

1人で泣いてるの、気付いてよ!


高熱にうなされながら、ボンヤリ考えた。


さみしい。

サミシイ。

淋しい。

寂しい。


涙が溢れて、思考回路も煮詰まったワタシの頭はもうどうしようもないくらい大混乱。

1人でこんなとこにいるのがとってもイヤになったから――

家にいるはずのお姉ちゃんに電話してた。





「あ、りがと…」


迎えの車はお姉ちゃんの彼氏のモノ。

一応、お礼を言っておく。

ため息一つで迎えに来てくれたお姉ちゃんはさっきからおっかない顔をしてる。

デート、邪魔しちゃったかな~

デート…いいな~ワタシ、最近全然デートしてないじゃん~

お姉ちゃん、羨ましい!

なんて事を考えたら、あっという間に実家に着いちゃった。


ベッドに寝かされて、冷えピ○を張られた。

冷たさが、気持ちいい~

おっかない顔のお姉ちゃんは、彼氏に宥められてワタシの看病をしてくれた。

さすがに、ずっと看病してもらうのも悪いよな~と思って、寝てるからってデートの続きに行ってもらったよ。

お父さんもお母さんも仕事中ってことで、家は静かだったけど、海里との家よりははるかにマシだった。

なんかいろいろ考えようとする沸騰した頭に、寝るんだ寝るんだ寝るんだと暗示をかけて、ワタシはようやく眠りについた。





××××××××××××××××××××××××××




忙しい!

なんで、こんなに仕事が山積みなんだ!

理由は分かっているよ!新しいプロジェクトの責任者だからだ!

ま、それも後2週間くらいの辛抱だ。

さっさと終わらして、のんびりしたいよ~

ここんとこ、忙しいからって亮子としゃべってない。

顔も見てない気がする。


忙しい、って言葉は便利だ。


疲れてるから?

ゆっくりしたいから?

忙しいって言っておけば、アイツはしょうがないな~って分かってくれる。



付き合って5年。

同棲して2年――。



一緒にいる時間が長いから、アイツはきっと理解して俺を甘やかしてくれる。

アイツは文句言わず、分かってくれる。

俺の甘えなんだけど。

言葉にしなくても、分かってくれるから。

どっかでアイツなら大丈夫って思ってた。



日付が変わるころ――

ようやく帰宅の目処がたち、疲労の蓄積する体を引きずって家に帰る。

ここ最近のいつも通り。



何かが違う気がする。


入ってからの行動を思い返す。


カギ開けて、

リビングに入って


「……」


電気ついてなかった?


頭の奥で警告音が鳴り響いた気がした。


いつもどおり?

閉められたカーテンは俺好みの青色のもの。


いつもどおり?

消されたテレビも俺が選んだ大画面のもの。


いつもどおり?

ダイニングテーブルの上…


いつもどおり、じゃない!


大慌てでダイニングテーブルの紙を手にして、俺は固まってしまった。


『実家に帰らせて頂きます』


誰が?

そんなの一人しかいない。

恋人である陽菜だ。


大慌てで陽菜の部屋に入る。

寝乱れたベッド。

サイドボードに置かれたスポーツドリンクの中身は空っぽ。

そこにいた痕跡はあるのに、アイツはいない。

クローゼットを開けるといつも使用している旅行用カバンが見当たらなかった。


出ていった?

なんで?

不安にさせた?

俺のせい?

ひとりぼっちにさせたから?

忙しいって知ってただろ?

でも、最近は顔、見てないかも?

分かってるんじゃないのか?

全然、喋ってない?


こんな紙一枚で、終わりなのか?


お前の気持ち、こんなんじゃ分かんねぇよ…


なんか、『彼氏失格』だな……



茫然と立ち尽くす。

それ以外、今の俺にはできなかった。





×××××××××××××××××××××××××





実家に戻って、1週間。

高熱を出して、寝込んでた。


健康優良児と言われるくらい、いつも元気なワタシもヤバいって思ったくらいの高熱で、病名は『インフルエンザ』。

病院嫌いのワタシを、お姉ちゃんと彼氏さんが無理矢理連れていって、なんとかって薬を飲まされて、点滴までされた。

なんか、副作用がどうとか言ってたけど、頭がぶっ飛んでて全然覚えてない。

点滴の針を刺された時がすっごい痛かったのは覚えてるけど。


そんな高熱も翌日には平熱まで下がったし、もう平気だからアパートに帰ろうとしたら、なんでかお姉ちゃんにもう少しいろって脅された。

今回は、お姉ちゃんにいろいろ世話になったから一応、言うこと聞いておくことにした。

お姉ちゃん、怒らせると恐ろしいからな…



海里からは、なんにも連絡なかったみたい。

連絡ないことにお姉ちゃんがプンプン怒ってたけど。

ま、仕事忙しいんじゃしょうがないのかな~

きっと、ワタシがいないことも気付いてないよ…


あ~あっ!

自分で言ってて傷ついてりゃ世話ないよねぇ……


やっぱ、ワタシたちもうダメなのかな~


辛いときに助けてもらえないってありえないし―


好きって気持ちだけじゃ、無理だったのかな~


高熱に犯された頭は、思考回路がおかしくなったみたいで、ワタシは一人ぼんやりと考える。


大好きな海里を思いながら――。





××××××××××××××××××××××××××




陽菜が実家に帰って、1週間。


仕事を休むことも、陽菜に連絡することもできなくて時間だけが進んでる。


あの日から、家で眠れない…


日に日に衰弱していく弱い自分。


アイツがいないだけで、このザマだ―。




とりあえずはプロジェクトに集中して、アイツのことを考えないようにするしかなかった。


一人でいるといろいろ思い出して、考えて、辛い。


2週間かかると思われた作業も集中的にこなしたせいか、1週間で終了。


打ち上げを兼ねた飲み会に誘われたけど、そんな気分じゃないし、今飲んだら絶対に泣ける自信がある。


断って、会社を出る。




寒い。


身を震わせて、これからどうしようかと考えた。


1人でいたくない。


でも、誰でもいいわけじゃない。


傍にいて欲しいのはたった一人。


大好きな、陽菜。


今、何してる?


少しは俺のこと考えてる?


俺は、後悔しまくりだよ。


会いたいのに、会えない。


もし――


直接、陽菜の口から別れを告げられたら俺どうしていいかわかんねぇ。


絶対に泣く。






「高橋海里」




突然、名前を呼ばれた。

それが自分の名前って認識するのに時間がかかる。


「なんなの、その顔!ブサイク」


「莉緒、それはひどすぎると思うけど…」


「ヒトの妹、傷つけておいて自分が傷ついてますって!?なんなのその顔!ホントムカつく!」


誰だっけ?

どっかで見た顔。


「まだ惚けてんの?頭大丈夫?陽菜ってば、こんな男のどこがいいのよ~」


陽菜?

妹って言ってた…?


「陽菜の、お姉さん?」


「忘れてんの?一回あったでしょ!ホントこんなヤツのどこがいいのかーーなんで、陽菜迎えにこないの?」


怒った声から冷たい声へ。


「あの子とちゃんと話してる?顔見てる?あの能天気な子が、泣きながらあんたの名前呼ぶんだから…知ってた?」


そんなこと、知らない。

やっぱり、淋しかったんだ。

俺が、淋しくさせた。


「今のあんたの顔見たら、ちゃんと後悔してるって分かったけど、妹泣かせないでよね~昔っから、何かあると姉ちゃん姉ちゃん!こんなんじゃ、安心して嫁にもいけないじゃない…陽菜のこと、好きなら迎えに来なさい。あの子、待ってるよ?」


優しい声。

陽菜もこんな風に、優しい声で落ち込んだときは慰めてくれた。


今ならまだ間に合うかな。


お姉さんたちにお礼を言って、俺は陽菜の実家に向かった。








最寄り駅から全力疾走。


愛しい人に、早く会いたくて。会いたくて。


荒い息を整えて、目の前のチャイムを押す。連打したくなるのを押さえるのが大変だ。


「どちらさま~」


のんびりした声と共に、扉が開いた。


「陽菜……」


「か、いり…」


腕を伸ばして、抱き締める。暖かい、感触。


「陽菜、ごめん…」


「!」


「俺、お前に甘えてた。お前なら何しても許してくれるって勝手にそう思ってた…陽菜がいなくなって、やっと気付いた」


「……かい、り」


いつもと違う海里。

早い鼓動が、涙を誘う。


「忙しい、忙しいって言葉でお前を苦しめてた。ずっと傍にいるからって、陽菜の気持ち考えてなかった…あんな紙切れ一枚で捨てられるって思ったら、どうしていいかわかんなくなった。会って別れたいって言われたらどうしようって恐がって…陽菜、オレのこと捨てないでくれないか?」


捨てる?誰が?


捨てられるのはワタシじゃないの?

それに紙切れ一枚ってなんのことかさっぱりだ。


「捨てるのは、海里でしょ?ワタシなんて、いなくてもヘイキでしょ?それに、紙切れってなんのことかわかんないわよ!」


その言葉に抱き締めていた腕を解き、ものすごい力で肩を掴む。今までにみたこともない形相だ。


「痛!」


「実家に帰るってそれだけで出てっただろ!」


「そんなもん、書いてないもん!」


お互いに頭が混乱してきた。深呼吸して、とりあえずは玄関先で話すことでもないと、部屋に招き入れた。


懐かしい、陽菜の部屋。

そこにはあまり見慣れないものが散乱していた。


寝乱れたベッド。

枕元に置かれた体温計や冷えピ○、スポーツドリンク。


それらを手に取った海里は、何故か泣きそうな表情をしている。


「熱、あるのか?」


「今は平熱。数日前まではインフルエンザで寝てたけど」


「……」


陽菜のその言葉に海里はグサッと胸を刺された感じがした。


気付かなかった体調不良。


誰よりも傍にいたのに、誰よりも気付かなかった。


ものすごい、ショック。


これでは愛想を尽かれてもしょうがないと思えた。


海里は何も言えずに、頭を抱え込んだ。


そんな海里を不思議に思い、何故か声が掛けられなかった陽菜。


静寂が二人を包み込む――。


「あの手紙」


しばしの沈黙の後、海里はポツリと呟くように声を出した。


「陽菜が書いたんじゃないのか?」


「書いた覚えはないけど…ワタシ熱出してフラフラだったし」


じゃ誰だろ?と、首を傾げて考える仕草が可愛くて、陽菜を抱きしめたくなってしまう。ギュッと拳を握り締め話を進めた。


「お前じゃなきゃ――」


「お姉ちゃんしかいないか…」


「「……」」


顔見合わせて、深く溜息をついた。


人騒がせな、と思ったが、今回の事がなければお互いすれ違ってしまったままだっただろう。


海里にしてみれば、陽菜の優しさにあぐらをかき、甘えきっていた自分にお灸をすえられた感じ。


陽菜にしてみれば、お節介な姉に心の底から感謝!だ。

海里の気持ちを知ることができた。だからこそ、今度は我慢せずにきちんと自分の気持ちを伝えるチャンスだ。


「「あの…」」


声が重なる。


またも顔を見合わせ――今度は笑った。

緊張していたのが、スーッと抜けていく。


「あのさ、ワタシ、ずっと淋しかったんだ。忙しいって分かってたんだけど、全然顔見ないし、しゃべんないし……名前、呼んでくれないでしょ?ワタシってなんなんだろうって、熱あったから余計にグルグルしちゃって、考え出したら止まらなくて、すっごい不安だった」


一気に思いをぶちまけた。多分、今しか素直になんてなれない。


淋しくても淋しいって言えなくて。


我慢することばかり覚えた。


大学生の自分とは時間が合わないのは百も承知だった。仕方がないことと、努力することをお互いに忘れていた。


でも、人間は欲を出す生きものだ。


傍にいれば、話をしたい。触れたい。キスしたい。抱き締めたい。


欲望は日増しに大きくなるものだ。


それをこの恋で初めて分かった――。


「陽菜…」


名前を呼んで、おもいっきり抱き締めた。


陽菜の思いが心に響いて、頭よりも体が先に反応していた。


陽菜も久しぶりの温もりに安堵し、海里の背中に腕を回した。


「ごめん!ホントにごめんな…忙しいって言って、甘えてばっかで最低だよな。これからはちゃんと話しよ?淋しいときは淋しいって言ってくれ。俺が気付かなかったら、我慢しないで怒れよ。その権利がお前には、陽菜にはあるんだからな!」


暖かな温もりとその言葉に涙が溢れてくる。

頬を伝う涙を隠すため、背中に回した腕に力を込めた。


「一緒に、帰ろう」


言葉とともに、そっと顔を上げられ、優しいキスを何度も何度ももらった。







「で、仲直りできたんでしょ?」


あの日から3日後。


突如、二人の家に押し掛けて来た。仲直りのきっかけを作った張本人。


「うん、お姉ちゃんのおかげ!」


「ホント、子供じゃないんだからさ~ちゃんと二人で話をしなさいよ!今度泣いて電話してきてもムシだからね、ムシ!」


「な、泣いてないでしょ!」


「フン!泣いてたわよ!熱出して泣くなんてガキじゃあるまいし~」


一生、この人には勝てないだろう。


ガックリと肩を落とし、視線を携帯に向けた。


何かあったら、すぐに連絡するように。何度も念押しされた。体調はもう万全だったが、よほど心配なのかお昼には必ずメールが送られて来る。そんなちょっとしたことでもものすごく嬉しかった。


「何、そのデレデレ顔~しっかりしなさいよ!ちゃんと手綱握って、捕まえておきなさいよ。あたしもそんなに暇じゃないし~」


「う、うん。分かった」


逆らうべからず。


「それより、なんで『実家に帰らせて頂きます』なんて書いたの?」


「おもしろそうだったから」


オモチャにされていたと分かって、どっと疲れが出た。


心配してくれたと思って嬉しかった気持ちがどこかへ飛んでいく感じだ。


二人して、姉に遊ばれてしまったが、今回ばかりは結果オーライだろう。終わりよければ総て良し、と思わなければショックだ。いや、ダメージ大をすでに受けているかも……


陽菜は小さく溜息をつき、早く海里が帰ってくることを祈った。








その後。


帰ってきた海里に手紙の真実を告げると、陽菜同様にショックを受けていた――。


やっぱり、姉にはかなわない!


そう思った二人であった。







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