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車椅子万能術士の迷宮攻略法  作者: wani
侯爵令嬢と迷宮攻略
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第二階層【墓守の寝所】 — プロローグ —

「きぃいいいいいやぁああああああああッッ!」


 絹を数百枚丁寧に重ねてから竜の爪で思い切り引き裂いたような、ふざけた大音量の叫び声が辺りに響き渡った。

 響き渡って、岩肌に反響して、幾重にも繰り返し部屋を包み込む。

 その音が消え失せないうちに、


「ヲッ!」


 褐色のゴーレムが、飛びかかってきたスケルトンを強烈なアッパーで殴り飛ばした。

 骨だけで動く肉なしの肉体は殴られた先から砕けて、マナを失った白いカルシウムの破片として周囲に飛び散っていく。


「ヲ」


 それからゴーレムは、先ほどの金切り声の主――金色の長髪をした少女を庇うようにすっと手を伸ばす。


『…………あのさあ。悲鳴上げるにしても、もうちょっと音量調節してくんない? こっちまで頭がキンキンすんだけど』


 ゴーレムと少女の背後。中空に浮かぶ幾何学模様の球体金属から、男の声が雑音混じりで聞こえてくる。


「そっ、そんなこと言われましても! 驚いたら叫ぶのは、人として当然のことではありませんことッ!?」

『魔物が襲ってきただけだろ。こんなことでいちいちビビってると、ダンジョンじゃあ寿命がいくらあっても足りないぞ』

「わっ、分かってますわッ! このこのこのくらららいぜぜんぜんぜんぜん平キッちゅ」


 噛み噛みの少女は何やら未知の言語にも似た噛み噛み台詞を口走り、とにかく姿の見えない男に大丈夫だと訴えているらしい。

 しかし声だけ男はそんな少女の頑張りを放置して、


『一号、改式[魔物/攻撃専念]』


 奇妙に堅苦しい口調の言葉を発した。

 すると褐色のゴーレムは、そのドーム型の頭にある一つ眼――ドームに横一文字に空いた溝を移動する、うっすらとした青い光――を明滅させる。

 合わせてゴーレムは地響きを鳴らしながら歩き出し、幾重にも並んでいたスケルトンを横薙ぎに一振り、二振り、次々と砕き始める。


「ちょ、ちょっとッ! あなたが行ってしまったら誰がわたくしを守りますの!? ゴーさん!? もしもしゴーレムのゴーさん!?」

『やかましい。お前は適当に逃げ回っとけ』

「そっ、そんなぁ……きゃっ、な、何ですの!? 何ですの!? 今何かが飛んできましたわよ!?」

『あー? 人食い蝙蝠(コウモリ)か何かだろ。助かりたけりゃ倒せばいい』

「ひ、人食いって……、冗談きついですわよぉ!」


 頭を抱えて「ひいいーっ」と声を上げながら、金髪の少女は部屋の端から端まで走り回る。その頭上には、人と大差ないサイズの巨大な蝙蝠が飛んでいた。

 そこに獅子の頭と蝙蝠の翼、サソリの尻尾をしたキマイラが飛びかかる。


「ピイイイイッ!」


 地面に墜とされた巨大蝙蝠が叫び声を上げる。対するキマイラは蝙蝠の上に乗ったまま、その身体を弄ぶかのごとく何度となく爪で引き裂いていく。


「た、助かりましたわぁ……」


 ふわぁ~と長い息を吐きながら、へなへなと金髪の少女はその場にへたり込む。

 ――と。その足元に、ヒビが。


「へ? あ、わわっ、あわわあわわわわわっ!?」


 慌てつつも動けないでいるうちに、少女の身体はみるみる持ち上げられていく。

 そのままついに転げ落ちると、ごろん、ばたん、くるくるり。楽しげに地面と踊ってから、砂埃まみれになった顔を持ち上げた。


 そして少女が目にしたのは、足元から現れた、これまた巨大な骨だけモンスター。少女の三倍はある褐色ゴーレムの、そのまた倍はあろうかという図体をした、超巨大スケルトンだった。


『あ。これやべーわ』

「えっ!? ちょ、ちょっと!? 今何ておっしゃいましたの!? やべーって言いましたわよね!? 今やべーって言いましたわよねぇッ!」

『一号、改式[アンジェラ/防護]。二号、改式二重[アンジェラ/回収+逃走]。はいはい、ここは一旦撤退するぞー、てったいてったーい。戦略的てったーい』

「えっ、ひゃ――ひゃいひぃっ!?」


 男の声が響くと、キマイラの鼻先が少女を小突いて膝カックン。かましてから、翼で器用に少女の身体を巻き上げ、背に乗せる。

 仰向けになった少女の股の間に首を入れ、頭はサソリの尻尾で絡めとり、見事に少女を攫う格好となったキマイラは躍動感あふれる動きで走り出した。


「ひぃっ!? あぱびゃッ!? たばしゃけてエスゃんにゃああああああッ!?」


 奇声を上げながら拉致されていく少女と、攫っていったキマイラ。その見事な脱兎ぶりを、ゴーレムが九十度に曲げた腕でガッションガッション、地響きを鳴らしながら走って追いかけていく。

 それをまた巨大なスケルトンが追いかけて、部屋にはぽつん、浮かぶ幾何学模様の球体だけが残された。


 そしてその球体から、また一つ声がする。


『やれやれ。まったく一体全体、何でこんなことになったのやら』


 一人もいない独り言が部屋に小さく広がったところで、球体もまた、走り去った諸々を追って、こちらは音も無くすうと飛んでいった。

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