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乗り越える壁


 数日間行われたジュニアの対抗戦は超大国の勝利で終わった。

 この数日間、帝国が王国を襲う気配はなかった。

 サイオンジさんの仲間たちと王国調査部隊が王都を監視している。

 異変があったら通信魔法で一斉送信される手はずになっていた。


 ジュニアの対抗戦は大盛りあがりであった。

 えらく強い魔族の女の子が大活躍をした。

 特殊な猫魔獣を召喚し、強大な魔法を繰り出すその姿はとても小等部の力とは思えなかった。


 ピピンは猫魔獣が気になるのか、試合が終わった女の子に突撃して喋り倒していた。

 すごいコミィ力だ。俺やカケルでは到底不可能な行動だ。


 カケルはカケルで開会式以来、絶望の顔をしていた。


「……あの子が……魔神の依代だと……、俺と同じ奴隷の実験体……、俺は、どうすれば――」


 どうやら助けようとした女の子は魔神であった。 

 魔神は常に顕現できるわけではない状態みたいだ。

 依代である女の子奴隷の身体を共有している状態で通常生活に魔神が出てくる事はない。


 オープニングセレモニーが終わって、カケルが戸惑いながらも勇気を出して女の子に声をかけて判明した事実だ。カケルは女の子に冷たい言葉をかけられてしまった。


『――裏切りものは消えろ。私はサトシ様の元で幸せになる。……魔神の力を使いこなすのは私だ。なのに、サトシ様はお前の話しばかりして……、ふん、だ』


 カケルはしょぼんとしてしまった。


 女の子の内側にいたから魔神の気配を感じなかったんだ。

 俺たちはカケルをそっとしておいたが、ピピンだけがカケルのほっぺたをひっぱたいた。


「ウジウジするにゃ! 魔神だけぶっせばいいにゃ! 女の子だってきっと洗脳されてるだけにゃ!」


 空間を刈り取る首刈でカケルは瀕死の一撃を食らったけど、命に別状はなかった……。

 なんだろう? ピピンは随分とプンプンしている。なんだか嫉妬してるみたいで――



 と、その時、運営委員の人から声をかけられた。

 ここは選手控室である。


「すみません、そろそろ対抗戦の第一試合が始まります……、武闘場へ移動をお願いします」


 俺たちの第一試合が始まる。

 初戦は――あの超大国であった。






 控室を抜けた俺はゆっくりと武闘場へと向かう――

 高位土木結界師が作った結界を通り抜ける。


 俺が会場に姿をあらわすと観客たちの歓声とざわめきが聞こえてきた。


「王国の選手の登場だぜ! あいつは確かセイヤっていうやつだな」

「ふむ、魔法と身体強化が得意なのか……、ん? なんかおかしくねえ?」


 俺の視線の先にはツバサがいる。

 その周りには明らかに強者の気配がする女の子たち。


 俺は一歩一歩大地を踏みしめるように歩く。

 帝国との対抗戦は二番目だ。

 この戦いが終わったら、数日間各国のランカーの試合が行われて、その後に対抗戦2回戦目を行う。それを考えるだけで鼓動が早くなる。


「おいおい、あいつなんで一人なんだよ!?」

「ちょ、超大国相手にフルメンバーにしねえのかよ!!」

「……王国終わったな。誰だよ、アイツラ選抜にしたやつらはよ!!」


 俺は一人で武闘場へ向かっていた。

 後ろを振り向くと、俺の仲間たちが微笑んでくれた。

 それだけで力をもらえる。


 会場を見渡すと、怪訝な顔をしてる観客が大勢いた。

 だが、関係者席を見ると――


 モエ姉さんが俺の事を心配そうな顔をしながら見守っていた。


「セ、セイヤ――、頑張って!! お、応援しかできないけど――セイヤ、頑張って!!」


 姉さんの声が俺にだけ通る。

 俺が今まで経験して、成長した姿を見ててくれ。

 応援してくれるだけで俺の力になる――


 ――ツバサたちを一人で倒せない程度の強さなら元学園長ミスティに負けてしまう。


 だから――


 俺は武闘場まで俊足を使い、一瞬で移動した――


「お、おい、なんだ、あのスキル? レ、レアスキルか?」

「いくら強くてもあの勇者だぞ!? 神殺しで女神教キラーだろ、あのツバサってやつ」

「今回の超大国はやべーって!? いいから仲間を連れてこいよ!! 勇者は魔神を倒したことあんだろ!?」


 俺はツバサたちと向かいあった。

 言葉なんていらない。魔力の高まりでお互いの感情をぶつけ合う。


『あ、あわわ!? じ、実況のハムミがお届けします! な、なんと王国は力を温存するためか、セイヤ選手一人しか現れません! 超強豪である超大国相手に無謀かつ、無策過ぎます!? ――いかかですか、解説のサイオンジさん?』


『あー、こほん、王国元勇者のサイオンジだ。……強敵とはフルメンバーで戦わず力を温存する、という戦法は昔からある。強豪超大国相手に悪い戦法ではない。だが――』


『だが?』


『あいつの顔を見ろ。負ける男の顔ではないだろ? 試合が始まるまでわからん。――ほら、始まるぞ』


『は、はひ、し、試合開始です!!!!!!』



 試合開始のゴングが鳴り響いた。

 ツバサと仲間たちはフォーメーションを取る。

 隙のない動きだ。流石エンシェントドラゴンキラー女子を名乗るだけある。


 これが、俺の最後の修行の場だ。


 俺は――アカネのスキルを全力で開放した――




「――――【想像空間魔法】」




 会場が俺の透明な魔力に包まれる。

 武闘場が――俺の心象風景である、ケロベロス像前へと変化する。

 吹き荒れる俺の魔力が会場を包み込んだ――


 ナンバーズが使った偽物の想像空間ではない。

 賢者であるアカネの本物の想像空間だ。

 ツバサ以外の仲間は魔力の重圧によって一歩も動けなくなってしまった。


 俺は実力を隠さずに全力でツバサに立ち向かった。

 ツバサは笑顔で俺を射抜く。


 透明な膜に包まれた武闘場に聞こえてくる観客の声。

 ツバサが笑いながら俺に襲いかかってきて――

 俺とツバサが死闘を繰り広げる――


「な!? あ、あれは伝説の魔法じゃねえか!?」

「す、すげえ、どこまで魔力が上がるんだ!? あの剣は……魔剣だ!? おいおい、反則だろ……」

「王国に賭けたやついるか!! 大穴が化けやがった!! ちきしょうーー!!!」

「速いっていう次元じゃねえだろ!? 空間転移に武器召喚、ありゃ賢者の魔法を使ってる。やべえ、やべえよ、超やべえよ! 興奮してきた!! セイヤーー! 殺っちまえ!! 超大国をぶっ倒せ!!!」

「氷の槍がずっと降り注いでる……、かすっただけで腕が凍りついた……」

「大砲みたいなの放ったよ! あれって王都で見たことある光景じゃん! ニュースでやってたじゃんか! やば、超かっこいい!!」

「……あの武器のおもちゃを売り出すか……、男の子が喜びそうだ」

「セイヤー君!! 王国の意地を見せてーー!!!」

「ちょ、勇者もやべえよ……、ここ最近で一番の名勝負じゃねえか!!! いけーーっ!! セイヤ!!」


「セ、セイヤ、頑張ってーー!!!」



 俺はモエ姉さんの声援に答えるべく――、レンの最上級スキルを開放した――



「――【魔法剣イレブン】」



 十一本の魔剣が宙に浮き、意思をもつ獣のようにツバサに迫った――


 そして――


 仲間を守るように俺の剣を食らったツバサがポツリと言い放った――


「――まいったな……、これ以上は無理だ。降参だ」


 会場が揺れるような歓声が鳴り響いた――



間違って投稿したので今日の二話目です!

読んで下さってありがとうございます。

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