OP
「――というわけで、各国の選抜代表は死力を尽くして戦ってくれ! ――また、ジュニアの部は怪我しないように気をつけなさい」
対抗戦が始まった。だが、俺たちがすぐに戦うわけではない。
ジュニア部門である小等部の学生たちがトーナメントを競う。
また、普段観ることができない高位冒険者同士の戦いや、特別に捕獲された高位魔獣との対戦も用意されている。
本当にお祭りみたいな雰囲気だ。
「よっしゃー! 俺は帝国に全財産かけたぜ!」
「あん? 自由都市には勇者がいるんだぜ? ほら、トトカルチョのオッズ見ろよ。本命だろ」
「自由都市も共和国も悪くねえけどな。今回は帝国じゃないか。グレーゾーンを狙って大人をぶちこんでるんだからな」
「今回の王国はだめだな。資料がねえからいまいち実力がわからねえ。っていうか、いじめられっ子だったんだろ?」
「まあまあ、選抜になったって事はそれ相応に強いはずだろ」
「だがな……、運営委員が腐ってるからな……、裏金問題もあったし……」
会場は熱気に包まれていた。
王都の外れにあるバトルスタジアムにてオープニングセレモニーが始まった。
学園長の挨拶が終わり、王都で有名な歌手が歌いだす――
俺たち対抗戦選手はバトルスタジアムの中央、武闘場で整列をしていた。
周りには魔力カメラが宙に浮かんでおり、全国で放映されている。
王国、帝国、自由都市、超大国。
たった四組だけの対抗戦。
一日一試合、一回だけの真剣勝負。過去の試合では数十時間に及ぶときもあれば、一瞬で終わってしまう時もある。
経済効果を見込んで、対抗戦本選前に前座と余興をすることによって時間を埋めている。
国同士の盛大なお祭りであった。
本選は真剣勝負だからこそ、一度しか勝負ができない。トーナメントではないので、勝っても負けても、全部の国と戦う。
総合的に一番勝ち星が多い国が優勝だ。
同率一位の時は、リーダー同士が一対一の真剣勝負を行って勝者を決める。
整列しているカケルの様子が少しおかしかった。
俺はピピンに理由を尋ねてみた。
「ピピン、カケルはどうした? 少しボケっとしているが……」
「にゃにゃ……、昨日特訓が終わってから祭りに行ったにゃ。そこで……不良冒険者に絡まれている女の子を助けようとしたら……、その子が忘れられないって……」
――嘘だろ? カケルが?
カケルはブツブツと呟く。
「――可憐であった……、俺はどうしたんだ? 胸が苦しい……、あの子の右ストレートが頭から離れない……、俺はあの子と……戦いたいのか?」
「ピピン……、ひ、一目惚れなのか? 少し様子が……」
「カケルが助ける前に女の子が冒険者をボコボコにしたにゃ。カケルはナンパと間違えられて殴られたにゃ――」
俺はそれ以上突っ込まない事にした。
俺たち王国選抜メンバーの隣は超大国の選抜メンバーであった。
ツバサとはさっき挨拶を交わした。ツバサの両隣にはすごくキレイな女の子たちがいた。ツバサと腕を組んで離さない。
ツバサの後ろにいる女の子たちもツバサに熱視線を送っている。
――これがハーレムというやつか……、恐ろるべしツバサ……。
自由都市のメンバーは俺たちを挟んでツバサを睨みつけている。
……悪意がある視線ではない。負けたくないという思いが伝わってくる。
そして――、一番奥には……帝国の選抜メンバーがいた。
似合わない学生服を着て優等生ぶっているサトシ、全国で指名手配されて帝国に亡命した女神教の最高司祭、サイオンジさんに見せてもらったお嫁さんそっくりな現魔王。
……魔神なのか? 動画では姿を確認できなかったが、冷たい眼をした大柄な少女が腕を組んでいた。魔神の気配は感じられない。
そして――、堂々と姿を現した元学園長。
俺が視線を送ると、魔眼のいたずらをしてきた。
『魔眼って、頑張っても習得できるものじゃないのよ。あれは天性のものなんだ』
アカネの声が優しく聞こえてきた。
俺の眼がオレンジ色の光を放つ。
魔眼を魔眼で跳ね返した――
元学園長は少し驚いた顔をして、再び前を向いた。
俺は必死で自分を抑えていた。
今ここで全員をぶちのめしたい――
だが、俺は王国の代表で選抜メンバーだ。
勝負は対抗戦でつける――
「セイヤ君……、大丈夫、私も隣で戦うよ。……一緒に取り戻そう」
「――ああ、リオを信じている」
俺たちは手を繋いだ。
それだけで力が湧き上がってくるようであった。
だから、大丈夫、きっとみんなを――




