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祭り

「なんかすごく濃い人たちだったね」


「ああ、今度は俺たちが超大国へ遊びに行ってみよう」


 対抗戦も近づき、ツバサは正式な入国手続きを取るため、一度国へ帰った。

 もう再入国をして対抗戦用のホテルで仲間たちとゆっくり過ごしているだろう。

 ツバサとは水晶通信の魔力メッセージアプリの連絡先を交換した。

 これでいつでも連絡できる。


 サイオンジさんは元々王国の人間で、仮住まいが王都にある。

 学園長と一緒にカケルとピピンの特訓の総仕上げを行っていた。


 俺たちは絶望の塔へ行っていたスミレ先生の事はすっかり忘れていた。

 高位冒険者パーティーでも生存率が低いと言われているのに、スミレ先生は一人ぼっちで最上階のボスを倒して、そのまま強制的に裏ダンジョンに放り込まれて、裏ボスと戦ってきたらしい。

 本人曰く、三十回は死んだらしい。


 命かけで戻ってきたスミレ先生に、サウナに行って、東方料理を食べた事を伝えたら、仲間はずれにされたと思ったらしくひどく落ち込んでしまった。

 だから、スミレ先生のために定期的にサウナと東方料理店へ行くことにした。



 ……大人なのに泣き虫先生だな。

 本来は生徒想いの良い人柄であった。洗脳によってマッドな先生になっていたが――

 年上だけど本当の後輩みたい感じられた。


 俺とリオはサイオンジさんに、対抗戦前の心を落ち着けるために二人で王都を探索しろ、と言われた。


 王都には多種多様な人種が溢れていた。

 まるでお祭りのような騒ぎ――


 お祭り……、姫に無理やり連れて行かれたお祭りを思い出してしまった。

 あの時の姫は普段よりも少しだけ優しくて、二人でりんご飴を食べた記憶がある。



「また心の奥にいる仲間たちの話を聞いているの? セイヤって不思議だよね。初めて会った時は、クラスで一人ぼっちの私に話しかけてきて――」


 ほんのちょっと前の事なのに、随分昔の事のように思える。

 俺とリオは屋台を冷やかしながら王都を二人で歩く。


「そ、そうか? ……多分、昔の自分を見ているような気持ちになったのかもな。……キャッチボール楽しかった」


「あ、あれはキャッチボールじゃないからね? ふふ、あの時の私は荒んでいたな……」


「今は大丈夫だろ? も、もし再び思いつめるような事があったら、俺が何度でも止める――」


 ケロベロス像の前で現れた炎の竜。リオの力が暴走したものであった。

 俺はあの時の感覚を忘れていない。

 だが、あの時放った【砲撃】は特別なもののように思えた。

 守りたい――、心の底からそう思えた。


 やっぱりリオの顔を見るのが恥ずかしい。散々ツバサとカケルにからかわれたからだ……。


「ありがと――、あっ!?」


 人混みの中、子供を避けようとしたリオがバランスを崩した。

 俺はとっさにリオの肩を優しく掴んで、手を握りしめた。


「あ、危ない、対抗戦前に怪我をしたら大変だ。大丈夫か?」


「え、あ、う、うん……、は、恥ずかしい、かな?」


 俺はリオを抱きしめる形になっていた。顔が熱くなる。

 きっと顔が真っ赤になってる。


「す、すまない。い、今離れる」


 肩を掴んでいる手を離して――、握っているリオの手を離そうとする。

 ……なんでだ? 名残惜しいと感じてしまうんだ?


 俺は深呼吸をして心を落ち着かせて手を離そうとした。


「――ひ、人が多いから、握ってくれる、と、嬉しいかも……」


 リオは離れた俺の手を再び握りしめた。

 温かい感触が俺の手のひらに伝わる。


 お互い言葉はいらなかった。

 俺たちは少しうつむきながら王都の街を二人で歩いた――







 王都の観光名所であるケロベロス像の前は大勢の人で賑わっていた。

 正直、王都の三大がっかり観光名所と言われている。見どころなんてない。


 ここにも大勢の屋台が商売をしていた。

 見慣れた店の名前が多かった。ただの屋台ではなく、王都で店を構えている飲食店が屋台を出していた。

 リーズナブルな価格で、普通の屋台では味わえない料理のラインアップだ。

 あの東方料理店も出店しているのか――


「リオ、せっかくだから何か食べていくか?」

「うん! 私、たまにはパスタとか――」


 俺たちは共和国名物であるパスタとリゾットを提供してる屋台に向かった。

 非常に良い匂いが漂ってきた――


「すみません、海鮮パスタの大盛りを二人前ください」

「はいっ! ただい……ま……!?」


 忙しそうにしている店員さんが――、まて? どこかで見たことがある……。

 メイド服を着た店員さんが俺を見て固まってしまった。


 徐々に俺の思い出が蘇る。

 俺の前に立っているメイド服の店員さんは――俺の元姉であるモエであった。


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