サウナ
「ぐっ!?」
思わず声を出してしまうほどの苛烈な攻撃であった。
ツバサは俺の足を恐ろしい力で掴んで何度も何度も地面に叩きつける。
魔力を感じないその攻撃はカケルと似ているが、根本的に違う。
別の力を使っている――
スキルを使う暇さえ与えてくれない。
「――【秩序の盾】!!」
「――【崩壊】」
無理やりツバサから逃げ出した俺は追撃の拳を防御する。
しかし、盾を貫いて俺の腹に拳が埋まった。
グラウンドの端まで吹き飛ばされた俺はすぐさま遠距離武器を構えて放出しようとした。
一瞬で間合いを詰められた――
「すごいな。盾で崩壊を相殺するなんて――」
スキルを瞬時に切り替えて魔法剣を一閃する。
「【魔法剣ファースト】!」
近距離のそれは不可避の攻撃なはずであった――
「【反転】」
背筋が凍りつくような嫌な予感がして、俺はとっさにその場を俊足で逃げ出した。
俺がいた場所が魔法剣ファーストによってえぐらていた。
――なんだ、こいつの力は? 勇者の噂を聞いたことがあるが……化け物だ。
畏怖を覚える反面、俺はツバサを見て――、なんだか楽しくなってきた。
ここまで実力が離れている同学年は見たことがなかった。
どこまで通用するか試してみたい。
俺は胸に手を当てて、大切な仲間を想う。
――全力でツバサを倒す。
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「セ、セイヤ君がピンチだ! た、助けに行かなくては!」
駆け出そうとする俺をサイオンジさんが止める。
力を加えていないのに、抜け出せない技であった。
「安心しろ。よく見ろ、セイヤの顔を――、すごく楽しそうだろ? あいつは格上と戦うのが苦手なんだ。端から負けると思って挑んでいる。あいつは今あがいている。ちゃんと見守ってあげろ」
セイヤ君は俺にとって初めての友達だ。
セイヤ君との東方料理を食べる約束があったから俺はあの魔神から意識を保てたんだ。
確かにセイヤ君は楽しそうな顔をしている。
……俺の身体もウズウズしてきた。
「メガミ、お前はリオを見てくれ。――俺はカケルと戦う」
「はーい、後でクレープ奢ってね! 神の力は安くないわよ! ていうか、この子……マジで竜の因子持ってるじゃん! 超レアね! 私の駒として――」
「ツバサに言いつけるぞ? 早くしろ」
「ひ!? う、うん、わかったよ!」
女の子とリオがグラウンドの中央を陣取り、魔力の綱引きを始めた。
リオの眼が紅くなる。
……あれ、かっこいいな。俺も眼を光らせたい。
「さて、俺も本気出すか……、カケル、俺は基本的に何でもできる。お前を育てた……サトシに近いと思っていいだろう。かつては勇者と言われた存在だ。面倒だから逃げたが、学園長が色々頑張ってくれたおかげでこうして再び王国にも足を運べる。――【装着】」
サイオンジさんが言霊を放つと、鎧と剣を身にまとった。
絵本で見たことがある装備であった。
「正直、魔力以外のステータスはお前に負けている。……だがな、技があれば戦いは――」
俺は話を聞いていなかった。
サイオンジさんの鎧に夢中だ。
――これは……、すごく、かっこいい。俺も真似したい……。
俺はそんな事を思いながら、俺に説明をしているサイオンジさんに思いっきり殴りかかった。
不意を突かれたサイオンジさんの顔面が消し飛ぶ――
む? 感触がおかしい? これは――
「――全く、話を聞け。――これが最上級隠蔽魔法だ。お前に魔法剣士との戦い方を身体に染み込ませてやる」
炎をまとった剣が俺に襲いかかった――
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「…………」
「…………暑い」
「サウナだからな」
「これは何かの罰ゲームなのか?」
訓練を終えた俺たちは汗を流すためにサウナへと向かった。
戦っている時はあまり感じなかったが、どうやらツバサは人見知りをする性格のようだ。
純粋なカケルがツバサにぐいぐいと喋りかけていた。
筋肉の話から始まり、ツバサに質問攻めをしている。
ツバサは気まずさを紛らわすように自分の身の上を語ってくれた。
「――なるほど、話を聞く限りツバサ君は恋愛の達人なのか? ツバサ君の事が好きな女子しか友達がいないではないか?」
「な――、俺は……そんな事ない――、みんな大切な仲間だ」
灼熱魔法によって温度が調節されたサウナは気持ちのいいものであった。
すでに一回水風呂を浴びて、不思議な感覚に陥った。
身体の調子が整った感覚である。
俺はふとサイオンジさんに質問をしてみた。
「結婚していたんですね。メガミさんが言ってましたね」
「……け、結婚してない……まだ。……い、一緒に住んでいるだけだ。あ、あいつが勝手に――」
「セイヤ、レオンさんはツンデレだ。マリさんのこと大好きなのに素直になれない人なんだ」
「バカ!? お、俺は……、マリが……」
「ふむ、恋愛というものがわからないが、サイオンジさんの顔を見るととても素晴らしいものだと感じられる。……ところでセイヤ君はリオさんの事が好きなのか?」
「なっ!?」
俺に話が振られるとは思わなかった。
妙な汗が流れてきた。
胸の奥からぎゃーぎゃーと声が聞こえてくる。
「ち、違う、リオは初めての友達で……、笑顔が素敵で手を握られるとドキッとするが……」
あの日の教室で陽の光に照らされたリオの顔を思い出す。
すごく――キレイだった。
タオルを頭に巻いたツバサが俺に言った。
「……セイヤの顔を見れば一目瞭然だ。カケル、そっとしておいてやれ」
その後、俺たちは数回水風呂とサウナを繰り返して、メガミとリオと合流した。
この後は東方料理を食べに行くことになっている。
何故かメガミが意地悪い顔をしていて、リオの顔が真っ赤で俺と視線をあわせてくれなかった。
俺もなんだか恥ずかしくてリオの顔が見れなかった……。




