交わる陰キャ
「はひ……、先生……、た、体力無いから死んじゃうよ……」
「ふんっ、お前はもう先生じゃないだろ? まだまだ動けそうだな! 一人で【絶望の塔】の最上階まで行ってボスを倒してこい!!」
絶望の表情で鉄馬車に押し込まれるスミレ先生。
学園を首になって中卒の烙印を押されて、お見合い酒場でいい感じになった冒険者に振られた可哀想なスミレ先生。
なかなかいい感じの絶望を身にまとっている。
スミレ先生が去っていったのを見計らってサイオンジさんが口を開いた。
「いいか、スミレは天才魔法使いだ。卓越した補助魔法と飽くなき魔導への探究心。戦闘が嫌いなだけで冷静で冷酷で非常に有能な人材だ。だが、自分に甘い。そこをあの魔女につけこまれた」
俺たちはグラウンドの隅っこで選抜メンバー全員集まった。
個別で修練をしているが、全員で集まるのは珍しい。
「最上級補助魔法、最上級風魔法、王国随一の魔力量保持者、それに殺しても死なない耐久力。ナンバーファイブは伊達じゃない。普通に戦えば強いが、さっきもいったとおり戦闘が苦手だ。……これは全員に言えることだが、精神的な問題を抱えている。スミレは単純に暴力が怖いんだ。……学生の頃も、先生になってからもいじめられていたからな。――それを克服したくて魔力を研究しているんだ」
存外スミレ先生の評価が高い。
確かにスミレ先生の魔力量は異常であった。
……スミレ先生も俺たちと一緒だったのか。
サイオンジさんがリオの方を向いた。
「リオは……、研究所にいたんだな? あの時の子供か……」
「は、はい、サイオンジさんが研究所を壊さなかったら、私……」
「元気そうで良かった。良い友だちもできたようだな」
リオは満面の笑顔でサイオンジさんに返事をした。
「はいっ! 友達たくさんできました。……セ、セイヤ君が初めての友達です」
リオが俺の手を取った。ドキリと胸が跳ね上がる。
――その笑顔は反則ではないか……。
「……本当に、よかった……。――よし、リオの力は研究所で植え付けられたものだな?」
「……炎を使う竜の因子を――」
「暗黒大陸にいる炎の竜神か……、また強烈な……、よく身体が壊れなかったな。――もし、リオが暴走したら……命を失うだろう。それはわかっているな?」
死ぬと聞いて焦る俺たちを尻目にリオは冷静に頷く。
「はい」
「だが、リオはその力を不完全ながらもコントロールできた。……炎以外の魔法は使えないが、炎系で使えない魔法はない。しかも身体が竜化すると身体能力も飛躍的に向上する。……全身が炎で焼かれてしまうから、全力を出すのは切り札だな。これを完全に使いこなしたら、リオは国別ランキングを駆け上がれるまでの存在だ」
確かに、赤い目をしたリオは凄まじい力であった。あのサトシを一蹴するほどである。
「そ、そんなに? ……うん、わたし、頑張る!」
カケルも興味深そうに頷いていた。
「ふむ、リオさんは素晴らしい力を振るっていた。セイヤ君を絶対守る、という気概を感じられた。そもそも、普段もセイヤ君の事ばかり見てて――」
「カケル君? ちょっと黙ってて?」
「ぜ、善処しよう……」
サイオンジさんがコホンと咳払いをして、話を続けた。
「……獣人ピピン。王国で獣人は珍しいな……。そもそも、あの場所にいた実験体だ。普通の獣人ではない。……その文様、覚えているか?」
「ほにゃ?」
ピピンの首筋には小さな赤い模様があった。
特に気にしてなかったけど――
「わからんのか……、記憶が無いのが一番厄介だ。……国際問題にならなければいいが。――ピピン、その文様は遥か南にある獣人国家の……王家の血筋の証だ。……成長すると、魔物のスキルを覚えると言われている」
「にゃにゃ!? ピピンお姫様なの?」
「いや、姫かどうか知らん。王族に属していることだけは確かだ」
「うーにゃ、正直どうでもいいにゃ。心がそう言ってるにゃ。多分未練はないの。……私の家族はセイヤとリオと、マシマと姫だにゃ!」
「それなら別に構わんが……、ピピンはこの中では一番戦闘力が低い。実践経験が無いから仕方ない。――だが、一番才能が溢れている。伸びしろが無限大だ。猫魔獣のスキルをたやすく扱える時点で異常な才能だ。本来のあのスキルは、ほんの少し早く走れる程度と、爪で引っ掻く程度の力だ。空間を切り取って、対象を吸い寄せるスキルではない」
ピピンの【首刈】は俺の首刈と少し違った。
ピピンが放つと、対象が勝手に吸い寄せられて知らぬ間に首が落ちる。
俊足はまるで時間を止められたような感覚に陥る。
「にゃー、強くなるならなんでもいいにゃ! 次はセイヤの力になるにゃ!」
甘えてくるピピンを撫でていると、サイオンジさんがカケルの方を向いた。
「お前は依代だったんだな。神を受け入れる清い心と頑強な身体。無駄な魔力が無い分、身体を乗っ取りやすい。……しかし、その身体つきは……リハビリ明けとは思えん」
カケルは病院から退院すると、すぐさま筋トレを始めた。
初めは本を持つのも苦労していたのに、少し休むとすぐに筋トレを再開する。段々と重たいもので筋トレをする。
その馬鹿げた繰り返しを一日中していたら、すぐに元の力に戻ったらしい……。
こいつも大概化け物である。
「うむ、やっとバルクが戻ってきた。後は実践の勘を取り戻すだけだ。……俺も絶望の塔へ行きたいのだが……」
「ま、まて、お前は物理にはめっぽう強いが、魔法への対処を覚える必要がある。魔眼レベルだと――」
「む? ああ、それなら学園長殿にお願いして、耐えられるようにした。苦痛はなれているからな」
サイオンジさんが呆れた顔をしていた。
「……属性攻撃もできるようにしろ。お前のストイックさは戦士として多大な武器だ。攻撃の威力は高いが、バリエーションを増やせ。……あとで組み手してやる」
「うむ、遊んでくれると嬉しいのだ」
サイオンジさんが時計を見ていた。
「そろそろか……、セイヤ、俺はお前に戦いを教える事はない。すでに俺のすべてを教えたはずだ」
「え……? 俺は、まだ弱――」
「違う、お前は知らずに力をセーブしている。強い敵との戦い方を知らなくて、心が弱いだけだ。……お前に最良の特訓相手を呼んでいる。――来たか」
何もない空間からいきなり人が現れた。
空間転移――
人では扱えないはずの強大な力――
俺と同い年くらいの男の子と、小さな女の子が現れた。
「あら、レオン、嫁と離れて寂しそうなね! ふふ、浮気してるって言ってやろ! ――あっ、い、痛い、や、やめて!?」
「レオンさん、この人たちと修練するんですか? というか、俺たち王国に来ても良かったんですか?」
小さな女の子の頭をアイアンクローしているサイオンジさんが男の子に言った。
「構わん、どうせ対抗戦は茶番だ。……このウジウジした男をぶちのめせ」
キレイな顔をしている男の子が俺に向き合う。
「……超大国の魔法学園所属、ツバサだ。年は……あれ? ループしたから年上になるのか? まあいい。死なない程度に特訓してやる」
その男と向き合った瞬間、俺の全身の毛穴から汗が流れた――
というか、ループってなんだ……?
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